個性『不義遊戯』でいく! 僕の曇らせアカデミア!   作:波間こうど

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ここまでついてきてくれてありがとう! これが書きたくて今まで書いてきました。
二万字越えの量をぜひ楽しんでください!

ここまで読んでくれた読者の皆様へ!

U R MY SPECIAL!


★全天曇下

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

曇らせの花が咲く。

 

その日を求めて、僕は今まで生きてきた。

 

今までも、これからも。そのために生きていく。

 

たくさんの種を蒔いて、たくさんの時間をかけて、たくさんの水をやって、たまに処理して、多くの月日の中で見たそれらを超える快感を手に入れるのだ。

 

あの、ビルの、病院の屋上で。

 

僕はそう、そう決めたから。

 

全部、全部曇らせる。

 

全ての(そら)は曇の下。

 

それが、僕の生きた証になるから。

 

だから───。

 

 

  × × × × ×

 

 

「い〜い天気だよなぁ」

 

全天曇り空の下に姿を晒して、僕は体を伸ばしながらそう言った。う〜ん、曇らせ日和だね〜。僕のための天気すぎて笑えてくるわ。日頃の行いがいいからね、仕方ないね。いや、日頃の行いはゴミカスなんですが。ゴミカス通り過ぎてなんかこう、腐った何かとかなんだけども。いや、腐男子ではなく。

 

ゆっくりと身体を動かす。揺らすみたいにして歩いて、目的の場所まで歩いた。

 

監視されてない、人に見られてない。そんな感覚は久しぶりだ。最近のアジトではほとんど必ず誰かが僕のそばにいたし、なんなら僕がいなきゃ始まらないとこすらあったからね。今の方が健全だと思う。僕、基本一人行動の方が好きだし。集団行動が嫌いと言い換えてもいい。というか人間を信用してない。ゴミしかいないからね。この世界はまぁ、少しはマシだけど。扱いやすいのしかいなくて助かるわ。

 

ゆったりまったりと歩くこと数十分。僕は目的のシーンぴったりにその場に間に合うことに成功した。日頃の行いってやつがいいから神様が気を利かせてくれたのかな? いない存在に感謝しとくかぁ〜。祈るわけないだろゴミカス。死に晒せ下等生物。

 

勝手に飛び出した出久くんがみんなに止められてる、そのシーンに。

 

お、目の前で拘束されてるのはまさか役立たずのゴミカスダツゴクさんカナ!? 僕がぶちのめしてあげるから覚悟しててよね! 使えないカスを躾けるのも人事の仕事だし! 誰がシゴデキ人事やね〜ん! やべ、テンションぶち上がってるや! おじさん構文もなにも僕おじさんになる前に死んでたはずなんだけどね!

 

まぁ、いいタイミングだよね。そろそろ足が欲しいと思ってたんだ!!

 

「ダツゴク……拘束されてるってことは、役に立たなかったカスだな? はぁ〜、せっかく先生がお情けで解放してくれたんだ。仕事ぐらいこなしてみせろよ穀潰しが」

「ヒッ」

「舞妓……?」

 

エンデヴァーが驚いた顔をする。あぁ、そっか。本来の僕は寝てるはずだもんね。ふふ、トゥワイスさんが死んでるから、可能性を排除してたでしょ? 脳無もないから、全部壊したから可能性を排除してたでしょ? あの僕はフェイクさ。

 

まず脳無が作れるのに人間こねくり回して仮死状態のマネキン作れないと思ってる貴方達の気の緩みはなんなんだろうね? 僕らのこと舐めてるの?

 

見通しが甘い。というか、少年漫画にあるまじき行為だからやらなかったんだろうけど。僕ならその人に似た脳無を作って現代社会に紛れ込ませて、全部ぐちゃぐちゃのパーティーとかやってたよ。誰が本物で、誰が偽物かわからない、そんな地獄を生み出して、世界丸ごと滅ぼしてやったのに。ま、今言ってもしょうがないことだけど。

 

「エンデヴァー……流石にNo.1は邪魔だなぁ……」

「どうした、何故お前がここにいる……?」

「んあ? あ〜……はいはい、なんででしょうね?」

「質問に答えろ……! 何故お前がここにいる……! お前はまだ眠っているはずだ! お前が目を覚ますと、俺たちに連絡が来るようにしてある!!」

「え、そんなことまでしてんの? 過干渉こわ〜い! そんなんだから息子に嫌がられるんだ。荼毘くん含めてさ。関わり方考えろ……って、全部遅いか?」

「答えろ! お前は誰だ……!」

「俺は俺だけど……ま、いいや。じゃ、ちょっと邪魔なんで消えてもらってもいいですか?」

「何を……!」

 

パンと手を叩く。すると彼が消えてこの場に一本の木が生えた。ま、根っこは繋がってないけどね。ただのハリボテ。一応四国に飛ばしたのでここに来れたとしても全部終わってるだろ。というか、僕が終わらせてるよ。その頃にはね。

 

「さぁ、ダツゴク。役目も果たせないグズのお前には罰を与える」

「ヒッ……! ヒィ〜……!」

「如何にもなモブ声を出すな。つまんねぇ顔だよ端役。安心しな? 俺は優しいからな。足だけで勘弁してやるよ喜べ」

 

パンパンと二度手を叩く。両足を失っているという概念を、彼と入れ替えた。おぉ、生足はやっぱり軽いなぁ〜!! 義足の良くないところは重いところだよね。正直義足ない方が強いんだよなぁ〜、僕。

 

生身の僕を誰も、今は誰も止められないくらいに。

 

「止血、急がないと死ぬぞ? ほら、頑張れ頑張れ。ヒーローに保護してもらえ」

 

一生懸命這いずる芋虫をせせら笑っていると視界の端に、綺麗な水色が突き立った。

 

「お、デケェ氷壁」

 

クソデカい氷壁が形成されるのを見てクスリと笑ってしまう。物語は、僕の物語は確実にクライマックスへと向かっているみたいだった。

 

「……じゃあ、行こうか、楽園へ」

 

僕は足から血を流し、地面を這いずるゴミムシを生足で踏みつけ、潰してから氷壁の方へ向かう。人生のご褒美が、そこにはあるのだから。

 

 

  × × × ×

 

 

出久くんが、独りで戦うことから解放された。

 

僕もこのシーンは大好きなんだよね。かっちゃんに抱き止められるようにして、出久くんが折れる。そのシーンはまさにこの漫画における象徴的な仲直りと解放のシーン。ここからのかっちゃんの成長は凄まじいし、出久くんたちもめっちゃカッコよくなっていく。

 

そんなシーン。

 

大好きな、大好きなシーンだ。

 

クソッタレな現実との乖離を見せつけられた気分で。

 

「………………はぁ?」

 

僕の声でみんなが振り返った。何人かの顔がパァッと明るくなる。その顔が今すぐに落ちていくと思うとたまらなく愛しいぜ……もしかしてこれが恋ってやつなのかな……動悸と眩暈と……ってコレ普通に性欲とかでは……? 興奮しちゃうじゃないか……ズキューン! ってね。まぁ、僕のは『薄っぺらな嘘』じゃなくて『とびきりの愛』だけどね。どこのアイドルだよ。

 

今日何食べた? 好きなものは? 遊びに行くなら曇らせがいい! これだけは嘘じゃない、愛してる♡ ってね。

 

「おいおいおいおいおいおいおい」

 

足を踏み出す。

 

「舞妓! 起きたのかお前!」

「今、緑谷連れ戻したところなんだ!」

「帰ったらパーティーだな〜!!」

 

やけに明るく振る舞うみんなの前を過ぎ去る。何抱きつこうとしてんだ近づくなよ。ついキスしたらどうするんだ。男も女も関係なくお嫁さんにするぞ。僕が旦那な。家で味噌汁でも作ってろ。

 

「え? はぁ? 黙れよ。それでハッピーエンドぉ? ハァ? 冗談もほどほどにしてくんないかなぁ……お涙頂戴の友情ごっこ見たいがためにここまで来たわけじゃね〜んだけど? もっと醜くやり合えよ……なぁ、ヒーロー?」

 

僕の言葉にA組のみんなが騒つく。それを見ながら少し気怠そうにゆっくりとA組のみんなの間を縫って歩く。その途中で不安そうな、心配そうな顔をして近付いてきた子を手で跳ね除けておくのも忘れない。お、おっぱい当たったわ、ラッキー。

 

 

ここだろ? ここが一番嫌だろ?

 

 

みんなの心が一致団結して、今、目前にまで迫っている悪を、その拒絶を、打倒を、そう考えて、主人公を連れ戻したタイミング。

 

ここが一番嫌だよな? そう思って今の今まで調整してきたんだ。全部わかりきってるぜ? お前たちの熱い友情と、硬い絆に傷をつけることができるのはここだろう?

 

だから、このときのために、たくさんたくさん時間をかけて、労力をかけて、ここまでやってきたんだ。

 

「おい、どうしたんだよ舞妓」

「お前ちょっと様子変だぜ?」

「寝起きで疲れてるんだろ? まだ休めって……」

「あれ……ユズ、足……」

「は? ……あぁ〜、そっかそっか。まだネタバラシしてないもんな。納得だよ。プラン通り進んでるわけだ。みんな仕事できて嬉しいぜ。……どこかのA組とは大違いだなぁ」

 

僕の言葉にまた、みんなの騒めきが伝わる。今、必死になって出久くんを止めたね。それができて偉いよ。その平和な空気ぶち壊すけどね。何度も言ってるだろ?

 

 

緩急をつけた曇らせが一番いいんだよ。

 

 

そう何度も僕は言ってきたハズだぜ? まぁ、聞いたことなんてないだろうけどさぁ。

 

「あ〜、改めて自己紹介しておこうか」

 

みんなの前でヘラヘラとした顔を見せる。歩きながら、みんなから離れ、手を打った。

 

白いコスチュームから黒いものへ、転移して、変化させる。ゆっくりと、時間をかけて、足元から闇堕ちを表すように、漆黒に染めていく。真っ白なヒーローコスチュームすらも伏線さ。初めてコスチュームを着たときから言ってるけど。

 

それはその泥沼から、もう抜けられないことを示して──

 

「雄英高校ヒーロー科1年A組とは仮の姿……その本当の正体は敵連合から送り込まれたスパイにして、無個性から“個性”を与えられた少年! 猿から人になった男!」

 

みんなの顔が曇っていくのがわかる。あぁ、状況が把握できていないメンツはまだポカンとした顔だけど峰田くん辺りはわかって来たみたいだね。障子くんとかもかな? 口田くんもか、なんだかんだ君らくらいが一番周り見えてるもんね。

 

この状況下で無個性から“個性”を与えられたなんて、その答えは一つしかありえないもんなぁ?

 

みんなと俺がオールマイトの像の前で、対立するようにして立つ。そう、決めていた。とても映えるだろう? 体をわざわざくねらせてみんなの方に振り返る。

 

あぁ、この日のために生きてきた。

 

絶望した顔が花畑みたいに咲いてる。あぁ、こんなにいい19本の薔薇の花束。

 

ここまで、ここまで!! 期待していたものがある!! ここまで堪えた価値がある!!

 

待っていたよ!! なぁ! 待ってたんだよ!!

 

この瞬間を!!

 

 

「敵連合、作戦参謀。そして並びに、超常解放戦線、総指揮作戦総括参謀……弔くんに次ぐNo.2。ヴィラン名“舞”。それが、俺、舞妓譲葉って人間の本性だよ」

 

 

僕のためにだけ、開かれたショーが幕を開く。

 

それはこの全ての天が満遍なく分厚い雲で覆われた下で行われる、とびきりのショーだ。

 

「というか今までおかしいと思わなかったのか? 情報が漏れたり、明らかに俺の被害が大きかったり、敵連合の有利なように敵連合が動いたりさぁ……」

 

「俺がNo.8ヒーロー? 運だとしたらできすぎてる。お前たちから離れたところで連絡取り合ったり、ステイン先輩の動きも把握してたりしたんだぜ? 弔くんたちについてもだ」

 

「おかしいと思わなかったか? あそこまで上手くいくと思うか? 俺が誘拐されたときも、俺が足を失ったときもさ。悲劇のヒーローとして出来すぎちゃいないか? 運なんてものは転がってないから。全部掴んでなんぼなんだよ」

 

ツラツラと言葉を紡いであげる。まぁ、ここは正直なくてもいいけどね。本誌時空の人向けの説明タイムだし、ま、じわじわと曇らせを味わえるようになってきてはいるから別にいいけど。

 

「………………………………は?」

「お前笑えない冗談よく言うけど、これはマジで笑えねぇって……!」

「嘘だよ、ねぇ? 嘘だよね? 舞妓!」

 

はぁ〜〜〜〜♡ 僕のために! 僕がこのために熟してきた最高の果実たち! みんな曇っちゃってたまらないね! みんなの顔が! 最高だよ! 本当にたまらない! なんでそんなに曇ってくれるの? 現実を受け止めきれてないよね! 轟くん! 青山くんがヴィランだったことを知った時よりも酷い顔してるよ! 最高だね! そんなにクる顔しないでよ!! 荼毘くんは公私含めてお世話してま〜す♡ いいお兄さんだよ〜♡ 優しくしてあげようね♡ それから上鳴くん! どうしたの? クラスのムードメーカーなんだからもっと笑ってよ! 僕一人がヴィランだってことがわかっただけでそんな顔してたらたまらないよ? この程度の絶望(当社比)くらいでそんな顔してたらどうやってこの先の人生を生きていくのさ! 芦戸ちゃんも可愛いね〜〜♡ 嘘じゃないよ? それに、なんで嘘つく必要があるのさ。嘘つく必要なんてどこにも、カケラも存在しないだろう? だって、僕が嘘をついてメリットがない。こんなに疑われたり、嘘だったとしたら嫌われるわけじゃん。そんな嘘つかないよ! でも、君みたいな明るい顔の子の曇り顔を見るためなら嘘くらい余裕で吐いちゃうかも♡ そのくらいの栄養素あるよ〜! あ、やべ、この状態でよだれなんてとてもじゃないけどたらせないからね……! 慎重にならないとだ……! じゃなきゃ本性がバレちゃうからさぁ!!

 

「……どうして」

「君は立派なヒーローだった! あれも! 俺のことを励ました言葉も! 全て嘘だったというのか!!」

「オイラ信じないぞ!!」

「お前がダークシャドウと俺にかけた言葉は全て偽りか……!?」

 

口田くん! なんだよその顔は! なんでそんな顔するんだよさらに興奮するだろうが!! たまらなくなるだろうが!! 君みたいな無口な子が絶望の中で声を上げるのがたまらなく大好きなんだよね!! 君のその声が僕に届いてたまらなくなっちゃうぜ!! なんでそんな声を上げるかなぁ!! どうしてもこうしてもないぜ! 僕が根っからのカスヴィランだからさ!! それ以上もそれ以下もないんだよ!! 君にできる最高の、絶望の曇り顔ありがとう!! それから飯田くん!! 嘘なんかついてないぜ? 演技してたんだ!! ただ、僕の本性はこっちだったってだけだよ!! たまらないねぇ!! 曇ってるのは眼鏡だけじゃなくて表情もですって!? たまらなさすぎて笑えてくるわ!! ゾクゾク止まらねぇ〜!! インゲニウムが死にかけた時もそんな顔してたのかよ!! マジで、見たかったなぁ!! 体育祭ではしゃぎすぎて見れなかったのまだ気にしてるんだよ? 体育祭ではやらかし多かったからさぁー!! でも君のその顔が見られるならお釣りが来るぜ!! 峰田くんに関しては信じないとかやめてよ!! 僕の言ってることは正しいよ!! 本当に君たちを騙していたのさ!! 泣きそうな面がよく似合うぜドスケベ野郎!! まぁ、この場で一番の変態は君じゃなくて僕だけどなぁ!! それと嘘じゃねぇってさっきから言ってるだろ〜が!! 常闇くんとダークシャドウは好きだったぜ!? だって二人じゃん!! 一人なのに曇らせる顔が二つじゃん!? それって素晴らしいことだと思わない? 一人曇らせるだけで二倍美味しいとか最高にクるわ〜〜!! って気持ちだったんだぜ!? トゥワイスさんとかは増殖したの曇らせても実質一人だけど、お前は一人で二人だもんなぁ!! 一粒で二度おいしくて堪らなかったんだ!! その点トゥワイスさんはカスや!

 

「ねぇ! 嘘やんね? デクくん帰ってくるんよ? 心配してきたんよね? 意地悪あかんよ?」

「そうよ、こんなときに冗談は良くないわ譲葉ちゃん」

「おいおい、ダメだろ……お前そんなことする奴じゃねぇだろ……!」

「なぁ! 今度インテリア買いに行こうぜって言ったろ!」

 

お茶子ちゃん! 君までそんなに曇った顔したらダメだよ! 君の曇り顔は貴重なんだぜ? いつだって笑顔の君の顔を曇らせるなんて、たまらないだろ! 僕がゾクゾクして仕方ないじゃん!! 君の大好きな出久くんは助けたのに、僕は助からないんだよ。それはまるで二面性のあるコインみたいだよね。僕と彼、どちらかしか見えないんだ。どちらかしか救えないんだよ! その顔キュートだねぇ〜♡ そんなに曇った顔をしてくれるなんて思いもしなかったんだよね!! 最高の顔だよ!! 梅雨ちゃんも! そんな顔しないでよ〜! いつも冷静沈着な君のそんな顔見ちゃったら下品だけどさぁ!! ふふ、ねぇ!? それに切島くんも! そんな曇った顔するなよ!! まるでヒーロー科に来る前の! 髪を染める前の君みたいじゃないか! 固い意志を持ちなよ!! まぁ! 君はそんな固いその意志を持っているからこそ曇った顔が映えるんだけどさぁ!! 芦戸ちゃんと一緒に泣き喚いていいんだぜ? 僕の養分になれよ! なぁ! 切島鋭次郎!! お前が倒れずに受け止めたその男がそこで崩れそうになって、折れそうな瞳をしてるぜ!? お前がブレて壊れそうな顔してるのどうなってんだよ!! そこまで苦しめたか!? そうか! 最高じゃないか!! 瀬呂くんもいい顔するね! インテリア買いに行くタイミング無くなっちゃってごめんね!? でも仕方ないよね!? 先延ばしにしちゃったのがいけないんだしさぁ〜! これからの人生では先延ばししないでね!! でもその顔は先延ばししてでも見る価値があるよ!! 本当にいい顔してくれてありがとう〜!!

 

「舞妓……! お前が一番ヒーローだったろう……!」

「俺を、普通じゃなくて特別だって言ったのはお前だ……! そんなお前がヴィランなわけがない……!」

「………………………………」

 

障子くんもいい顔するね〜! 最高の顔じゃん!! そんな顔されちゃったらたまらないんだよね〜!! 顔の下半分を隠してもなおあまりある最高の曇らせ顔!! その異形のマスクの下まで覗き込んじゃおうかなぁ〜!? 手を叩くだけでそのマスクだって剥ぎ取れるんだぜ? だってそこらのやつと入れ替えればマスクみたいに口元を覆わないそれは落ちていくだけだからね!! そんなことをこんな状況下でしないけどさ!! 尾白くん! 君の声は届いてるぜ!! でもお前は原作で普通だったお前は!! 葉隠ちゃんとイチャイチャしてヘイト稼いでたお前が、どれだけ優秀で素晴らしい個性なのかを教えたのは僕だよ! 確かに僕さ!! でもそんなこと関係ないよな!? 僕がヴィランのクズだったとして! 君の個性にアドバイスするのなんて演技の一端だもん!! そして何よりも青山く〜〜〜ん!♡ 愛しの100円ライターく〜〜〜〜ん!!♡ 破茶滅茶にいい顔してくれてるね〜!? たかが100円ライターの癖してその顔マジで唆るからやめてくんないかなぁ!! 君の顔見て動いちゃうじゃん!! 心がさ! 気持ちがさ! 動くじゃん! ざわつくじゃんか!! 何も言えないよね!? 言えるわけないもんね!! 言えたら苦労しないもんね!! 君の気持ちは、隠しておかなきゃいけないもんね!?!? ヤッベぇわ! 滾ってさぁ!! たっちゃうじゃんか!! 最高じゃん!! 君を使い捨てにしようとしたラスボス先生はゴミカスだ!! こんなのリサイクルして何回だって使い潰さないとダメだろ!! リユース、リユース、リユースだぞ!! それが曇らせの3Rさ!! ダメに決まってるだろ!! 100円ライターだって何回だって使い潰せるんだからさぁ〜!! ね! 優雅!!

 

「嘘ですわ、そんなの……ですよね? 舞妓さん……」

「ゆずちゃん! 嘘だよね? 冗談ひどいよ〜……ね? 帰ろ? ね?」

「…………ユズ?」

 

ヤオモモが胸の前で両手を握る。それはまるで神に祈るような動作だった。お〜、全天曇下と同じポーズじゃん! やっぱりヤオモモ的には僕のことを結構好きだったのかな? いいクラスメイトだと思ってくれていたのかな? それでもごめんね! 君のその今にも泣きそうな顔で興奮してそれどころじゃないんだぁ〜!! いや〜、危うくちょっと色々出ちゃうところだぜ〜、ちなみによだれとかあれとかそれとかね♡ それに、葉隠ちゃんもいい顔してるよね〜!! わざわざ君のために『サーチ』を手に入れてよかったよ〜!! 楽しくて仕方ないよね!! こういう伏線回収ができた瞬間がさぁ〜!! 君みたいな子のその顔を見たくて僕はずっとずっと!! 今まで頑張ってきたんだからさぁ〜!! 二人揃っているだけでダイヤモンドの何万倍カラットの輝きがあるよ〜!! 最高すぎてもうビンビンだぜ〜!! あはは!! 本当に最高なんだけど!! 何!? どういうことなの!? マジでムカつく〜!! 最高すぎて逆にイラついてきた!!

 

それに、何よりも耳郎ちゃんだよ!! 君どうしたの? なんでそんな顔するの? 僕のこと興奮で鼻血出させて出血多量で殺したいの? 何? 僕のことを殺したくて仕方ない感じ? なら君の目論見は僕が我慢できる男であるという一点を除けば大幅成功だよ馬鹿野郎。本当にクる顔しないで欲しいんだけどなぁ〜!! 僕がこんなにも興奮しちゃうのは君の顔のせいなんだよ? 何その顔!! 僕のことが好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きでたまらないって顔しちゃってさぁ〜!! そこまで好かれることした? いや、気のせいだと思ってたんだよ? 僕が好かれてる可能性なんてほとんど消去してたんだよ。でも今の顔でわかったよ!! 君は僕のことが大好きなんだね!! はぁぁぁぁ〜〜♡♡ たまんない顔してくれるよねぇ〜!! 僕のことが好きで好きでたまらないって顔!! その顔が僕も大好きで仕方ないよ!! だからこその曇らせの顔!! すぐにもっと絶望の淵にまで落としてあげるから楽しみにしててよね!! 君のことは念入りに潰してあげる!! 味が出なくなるまで!! 噛み潰してあげるから!! 覚悟しなよ!! 君のその曇るエロい顔だけで最高にHighになっちまうんだからさぁ!!

 

「おいおい……嘘……? そんなの! ついてねぇよ! 本心さ! お前らとの学校生活は得難いものだった! 大切なものさ! 目に入れても痛くない宝物だ! 楽しかったのは嘘じゃないぜ! ただ、演技をしていただけさ! それもこれも全て任務のためだ!! 楽しかったぜ!? お前らとの友情ごっこ!!」

「なんで……」

「ん〜〜? なんで? あぁ、わからないか。言ってないもんね。俺何も話してないんだなぁ……ハハ、そこまでお前たちのこと低く見てたんだ。傑作だぜ」

 

大仰に広げた両腕を下す。体をだらんと弛緩させて、顔を覆うように右手を当てた。表情が見えないってことは、顔を隠したってことは、漫画的に大きな意味がある。

 

それは、表情が見えない敵は、不気味であるということ。少年漫画のお約束だ。

 

「俺は裏切られたからさァ……絶対に裏切ってやろうって思ってたんだよね。一番嫌なタイミングでさァ……弔くんが進化する、その前に、抜けてやろうって考えてたんだよなァ……!」

 

指の隙間からみんなを見下す。世界でいちばん、いちばん幸せな少年が僕だ。最高だよ、最高に、最高に、最高に!! 幸せだぜ!?

 

ずっと体はギンギンさ! 身体中をいろんなものが巡って心音がバクバク高鳴って、ココロオドルよ! 最高でしかないぜ!! 鼻血出そうだ!! 鼻水も、涎も涙も全部全部流さないように注意しなきゃな!!

 

ダセェ敵にはなりたくねぇからさぁ!!

 

「なぁ、出久くん。君が裏切ったときから、この運命は確定してたんだ」

 

指を指す。邪悪な笑みを溢しながら俺は指名した。

 

「ワン・フォー・オール」

 

分けて、

 

「平和の象徴たる所以」

 

分けて、

 

「オールマイトの力」

 

分けて、口にする。彼の顔が曇るのに合わせて口を開く。

 

気づいてないと思ってた? 間抜けが。

 

あれに気づかないなんて、どんなご都合主義だよ。僕はずっと見てたんだぜ? 君のことを。

 

君の、隣で。

 

「そんな力、手に入れたんなら言ってくれればよかったんだ。俺は祝福したよ。お前のこと、祝福したよ。無個性だろうと、お前にその資格があるって祝福したのに!! なのに、お前は俺に告げなかった!! 自分だけでその利益を享受して俺に話したりしなかった!! それはなんでだ? 俺のことを考えてなかったからだろう? 俺のことなんてどうでもいいと思っていたからか? それとも女みたいな外見の俺のことを見下してたのか? 違うよな? ちっぽけな劣等感! 俺の方が相応しいって劣等感から伝えなかったんだろう? ハハハハハ!! 裏切られて、無個性のまま生きていく俺のことを哀れだと思ったから言わなかったんだろう? なぁ!! 教えてくれよ!! 緑谷!! 俺はなんで裏切られたんだ!? お前はなんで俺に言わなかったんだよ!!」

 

髪を掻き回す。イライラが堪らない。止まらない。怒りがあって、仕方ない。そんな風に見えるように、演技をする。みんなの曇らせ顔を摂取しながらの僕はほとんど無敵だからね。なんでもできるぜ。今ならアカデミー賞とか余裕で取れちゃうレベルで演技上手いと思う。アカデミー賞とかよくわかんないけど。

 

「そ……れ、は」

「言えるもんなら言ってみてくれよ!! 緑谷!! アハハハハハハハハハ!!」

「ユズ、気持ちはわかるけど……落ち着きなって……ね? 隠し事されてたイライラだけでしていいドッキリじゃないって……!」

 

まだドッキリであるって疑ってる耳郎ちゃんが止めに入る。いや、これは縋っているのか? その顔には、瞳には一寸の希望が見て取れた。

 

なるほど、なら、その希望を折っておくか。

 

君の曇った顔は興奮するからね♡

 

「わかるよ……? ハハ、わかるよって言ったか? えぇ? なぁ、耳郎」

「…………………………え?」

 

苗字呼びを初めてされた耳郎ちゃんが驚いて固まるのが見えた。おい、これ以上響く顔するなよ犯すぞマジで、ふざけんじゃねぇよ。唆る顔するなよ無茶苦茶にしてやりたくなるだろ〜が! こんなところでシたくないで〜す!! 童貞じゃなくてもそういうの早いと思いま〜す! つか君処女だろ? こんなところで散らすなよ♡ というより全部台無しになっちゃうわ!! できないよそんなことさぁ〜!! この曇らせの花束の一番綺麗な花の茎を折るようなものじゃないか!! 頭がおかしいのかな!?

 

そんなイカれたことする馬鹿野郎はこの僕がぶち殺してあげるよ!! デザートをご飯の前に食べるような愚行だ!! マナーから叩き込んでやる!!

 

いいか? カトラリーは外側から使うし、外堀はしっかりと内側に向けて埋めるんだよ!!

 

そんな気持ちを抑えながら。なるべく感情的に言葉を吐いた。早口で、怒りがわかるように。吐く、叫ぶ。みんなの曇り顔ができる限り歪んでくれるように。

 

「誰も! 俺の気持ちなんてわからない! ふざけるなよ! ふざけるな!! 恵まれた個性を持って生まれたお前たちに!! 何が!! 何がわかるんだ!! こちとら絶滅危惧種の無個性人間だぜ!?」

 

胸元を掴む。それは、まるで“オールマイトを終わらせた!”と叫ぶかっちゃんのように。

 

絶望を、あの18年と、この15年を合わせて手にした絶望を、映しだす鏡となって晒せ。僕の最高の演技力に刮目せよ。

 

「恵まれて!! 幸せで!! いじめになんて遭うこともなく!! ぬくぬくと育って!! 個性を持ってるってことが当たり前! それが普通であるというように言われているような世界で育って来たお前らにはわかるはずがないだろーが!! 何がわかるよだ!! ふざけるな!! 寝言は寝て死んどけやゴミカス共が!!」

 

恵まれていたお前たちじゃあわからない。

 

「お前たちはクラス替えで『個性は何?』って聞かれたときに無個性って答えた時の周りの動物を見る目がわかるか!? 猿を見る目がわかるかよ!? お前らは俺たちが馬鹿にされてる声がわかるか!? お前たちは努力して、なんでもできるようになっても個性がないだけでスタートラインに立てない人間未満の存在の価値がわかるか!?」

 

本当の辛さが。

 

「個性っていうのはつまるところ“アイデンティティ”だろ!? それがないって、つまりキャラがたってようがなんだろうがそれだけで生きてる意味がないんだ!! 人権なんてないんだよ!! もうどうしようもなく、ゴミなんだ!! 生きてても何も始まらない!! 無個性で優れていても!! 個性ありの凡俗の方がこの世界の“普通”なんだ!! 俺はどう足掻いても普通にはなれない!! 普通以上になれない!! 劣等種だった!! お前たちは15年間!! 猿の扱いを受けて来たことはあるか!? なぁ、教えてくれよ!! 何黙ってんだよ! 俺に教えてくれよ! なぁ! おい!! 教えてくれよ!! 気持ちがわかるんだろ!? なぁ! そういう個性だったりすんのか!? ハハハハハハ!! 笑えねぇよ!!」

 

 

【挿絵表示】

 

 

本当に“スタンダード”から外れるということがどういうことなのかということを知らない、お前たちには。

 

この慟哭の本当の底を理解し得るに足り得ない。

 

それでも苦しいだろう? “舞妓譲葉”という存在を、明るく元気なムードメーカーであると認識してるお前たちは、この慟哭が刺さるだろう?

 

ここまで考え込んでいたのかって、抱え込んでいたのかって! それに横にいながら気づけなかったヒーローの皆々様におかれましてはさぞかし気持ちがいいことでしょう!!

 

「これから起こる戦争は!! そういう劣等種が!! その生まれを!! 思想を虐げられてきた愚かな敗者こそが!! 雄叫びと勝鬨を上げるための戦争なんだよ! お前らみたいな勝ち組をぶち殺すための!! そういう戦いだ!! 100年後! 1000年後! このカスみたいな世界でどっちが生き残るのかって! そーゆー戦争なんだよ!!」

 

ただ、これを理解して、苦しめるのはお前だけだ。なぁ? 出久くん。

 

お前だけは、俺のことを、わかってくれるだろう?

 

「俺の気持ちがわかるのはお前だけだ! お前だけだったんだよ! 緑谷!! そのお前も! 俺を裏切った!! あぁ、だったら! 俺のこの気持ちはどこにいく!? どこに行けばいい!? お前と遊んだ公園も!! お前と考えた作戦もヒーロー名も!! 全部全部全部全部!! 俺ごと捨てて!! お前はヒーローを手に取った!! オールマイトの手を取って!! その事実を隠蔽したまま!! 当たり前の顔して俺と過ごした!! どうだよ、俺に言わなくてどうだった!? 幸せだったかよ! 満たされてたかよ!! 俺はお前のことを親友だと思ってたんだぜ! お笑い種だよなぁ!! なぁ! いっそのこと殺してくれたほうが恨まずに済んだ!!」

 

生気の抜けたような顔をしたかっちゃんを涙目で睨む。反応がないとつまらないな、デク人形のがまだマシだ。サンドバッグじゃないんだよ? さぁ、いい顔を見せてくれよ!!

 

「なぁ! 爆豪!! 死ねとか殺すぞとか脅すなら!! 本当に殺してくれればよかったんだ!! その個性なら簡単だろ!? 赤子の手を捻るように俺の首を焼き切ればよかったんだ!! 簡単さ! なんたって動物を殺すようなもんだ!! だって、無個性ってのは罪深い猿なんだからさぁ!!」

 

かっちゃん!! そんなポカンとした顔しないでよ!! ねぇ!! 君のその顔が!! たまらないんだよ!! あぁ……! その顔が! その顔が見たかったんだよ!! ねぇ! その顔が! あぁ……!! 君の! 曲がったことのない!! 折れたことのない顔が曇っていく!! ミシミシって音を立てて曲がって、折れる!! その瞬間を!! その一瞬を!! 僕は楽しみにしていたんだ!!

 

ポケットの中から取り出したレコーダーのボタンを押す。中学3年生が始まった頃、オールマイトと出久くんが出会う運命の日に、録音したものだ。覚えてるかな? 録音のシーンはきちんと伏線張ってあったんだぜ? ハハハ、いいものだろう? この日のために置いておいたのさ。この言葉が一番効くだろうからね。

 

カチッとスイッチを入れた。

 

それは、あの日のリフレインさ。

 

 

『来世は個性求めてワンチャンダイブ』

 

 

「は…………」

 

顔が歪んだのは、かっちゃんだ。その言葉に聞き覚えがあるのだろう。あ、言い覚えだったりするのかな? さっきまでのぽかんとした顔から驚愕と焦りと苦しさと、自己へ向けた怒りのないまぜになった顔になる。だが、もう遅い。

 

「個性がないってこういうことを言われるってことじゃねぇのか? えぇ? 人格否定、全部全部全部全部全部全部!! 否定されるのが当たり前だよなぁ……!! なぁ、緑谷ァ!!」

 

ヘラヘラと目の前の存在にせせら笑うようにして顔を見せる。みんなのポカーンとした顔がたまらない。顔を覆って哄笑した。えぇ〜♡ みんなの顔可愛すぎるだろ〜!! 好(ハオ)なんだが〜♡ マジでやばいってこんなの見せられたら僕ももう我慢できなくなっちゃうからさぁ!! 全部今から壊すのに!! 足りなくなっちゃうじゃんかやめてよねぇ〜!!

 

「……今も」

「あ?」

 

僕が内なる僕を抑えていると、ボロボロの状態の出久くんが地面を踏み締めながらこちらを見て何やら口にした。いい顔してるね〜。で? 何が言いたいのかな?

 

「今も、君に危機感知が発動しない……君のそれは、悪意のあるものじゃないんでしょ……? 冗談ならやめてよ……ゆずくん……みんなの心にも毒だよ……ね? 帰ろ?」

「…………あぁ、危機感知! 4th(フォース)ね! はいはい、そんなのあったね! 先生に聞いてたよ!」

 

せせら笑ってから首元に手を当てた。そこには一つのチョーカー。

 

「これ、外し忘れてたな」

 

チョーカーを外す。これは、出久くんが覚醒した後に作ってもらったもので、脳波が人に読み取られるのを拒絶する効果がある。だから。

 

「…………ッ!?」

「緑谷!?」

「おーおー、効き目十分じゃん」

 

膝をついて涎を垂らした出久くんを見て、僕はケタケタと笑う。確か、危機感知は不快感が電気みたいにピリッと来るんだよね? なら、今の僕の悪意と敵意は君の体を蝕んで仕方ないんじゃない? なんてったって、この数年、いや、10年以上の永きに渡って! この世界を認識したその時から! 愛を込めて仮想敵である君のことを憎んできたんだもん。親の仇くらいの憎悪は籠っているはずだろう? 君みたいに、運が良かった、助けられた人間なんて、僕たち助けられなかった人間からすると喉から手が出るほどに羨ましい存在なんだから!!

 

まぁ、それだけで出久くんにダメージ入るわけないから実は脳にチップ埋め込んで感情を増幅させてるんだけどね〜。頭蓋骨割るの結構怖かったけどこの結果のためならまぁ、普通の出費かな! 安上がりまであるぜ!

 

流石の僕でも脳みその中にチップ埋めるのに手を叩いて入れるのはできなかったなぁ。血を取り出してとか、脳の一部取り出して、とか、ロボトミー手術じゃねぇんだよ? 僕の妹みたいに普通に死ぬって。医療事故じゃなくても死んじゃう〜!

 

……あれ? あの子の名前(・・・・・・)って、なんだっけ?

 

ま、いいや!!

 

「これ、俺から出る脳波みたいなもの落ち着けてくれるんだよね。だから感じてなかっただけだ」

「ぁが……?」

「なんでそんなことをって? これつけてなかったらイライラが止まんなくてさぁ……お前らのこといつ殺すかわかんなくなってたんだよなぁ……個性がいくつもあるってそういうことだろなぁ。欲張りすぎたかなァ」

 

脳無への改造を示唆してみる。そうすればみんながさらに曇ってくれるなんて最高だぜ〜♡ 僕の言葉の一つ一つで絶対に曇ってくれるじゃんか〜! 最高すぎて涙出てくるじゃんかぁ〜!! 僕がまるで泣いてるみたいで最高だろ〜???

 

「お前がなんでそんなことに……!」

「なんで……?」

 

誰かの言葉に首を傾げる。そしてできるだけ喉を絞って、死ぬほど、死ぬほど! 切なさそうな声を出してあげた。泣きそうな、静寂を、切り裂くように言葉を落とす。

 

爆弾のような声を。

 

「………………人になりたいって、夢を見たいって、悪い、ことなのかな……?」

「………………………………………………ぁ」

 

誰かのか細い声が折れる。

 

今、僕は天国にいる。目の前の数にして19の曇った顔。ここがエデンだ。

 

「人になるためならなんでもするよ」

 

顔が歪む。そこを突く。

 

ここが僕の楽園だ。

 

「そのために悪に堕ちる必要があるなら、俺は人だって殺すし、国だって滅ぼす。まぁ、実際人なんて散々殺したし、国も滅ぼしかけてるわけだけど、弔くんと一緒に滅ぼす前哨戦としてはカスみたいなゴミクズであるお前たちを壊しても運動不足の解消くらいにはなってくれるか」

「なんで……! どうしてだよ……!」

 

僕がコキコキと手を鳴らす。それを見て切島くんが一歩距離を詰めた。その瞳には涙が浮かんでいた。ハハ、友達思いだね〜♡ 可愛い顔♡ 君みたいに優しい子がいてくれるから僕みたいなゴミカスが光り輝くんだぜ〜? というか輝いてるのは君の曇り顔の方だけどね♡ いい顔しやがってぶちのめしてやろうか。あの可愛い顔をぶちのめさずにいられるだろうか、いや、いられない。(反語)

 

「切島。お前みたいな個性持ちにはわかんねぇよ……」

 

わからないだろう。被差別者の気持ちなど。

 

わからないだろう? 僕たちの気持ちなど。

 

相互理解などあり得ない。

 

相互不理解を極めた先にだけ、ヒーローとヴィランの対立はあるのだ。

 

「わからないよ」

「わからない」

「いいか? わからないんだ」

「俺ってなんなんだ?」

「生きてる価値があるのか?」

「世界はなんで俺を創造した? 神はなんで俺を造った?」

「いや、神なんていないよ」

「大昔ニーチェは神は死んだって言ったんだ。知ってるか? あれは俺が殺したってことさ」

「神なんていない」

「じゃあなんで俺は生まれた? 欠陥品として」

「貶められるため? 蔑まれるため?」

「一人で何もできない、圧倒的なゴミとして」

「他の人間より優れているのに劣っている圧倒的な無個性として」

「なんで産み落としたんだ?」

「わからない」

「わからない」

「わからないんだよ」

「俺が理解していないのに、世界は俺を救ってくれないのに」

「なら自己救済に走るべきだろう?」

「今世界は混沌の渦の中にいて、ヒーローが救ってくれないからと市民が力を持つ時代だ」

「俺はそれを一人で、最も効率的にしているだけだ」

 

僕がゆっくりと足を踏み出す。そして、それを見た出久くんと目が合った。

 

「ゆずくん……」

 

いい顔だよ♡ だから、壊すね。何もかも。

 

『俺が主人公になるんだ!』

 

あの日に嘘はつきたくないから。

 

「嗚呼、戻れないよ。もう、僕は……俺は……ヴィランだ」

 

手を重ねた。神に、クソッタレな神に祈りを捧げるように。目を瞑る。この瞬間まで、温めてきていたんだよ。この、最強のカードをね。

 

さぁ、楽しんでくれるかい?

 

 

「領域展開『全天曇下(ぜんてんどんか)』」

 

 

全員を飲み込んで黒が顔を上げる。範囲にして半径50メートル。

 

曇天をくり抜いたように、空が見えた。あぁ、さっきまでと同じ曇り空だ。積み上がる、塗り替わる、切り替わる、世界が造られる。A組を捉えて、ただ、この世界が創られる。

 

神の不在を証明する、寂れた教会。

 

俺の心象風景の具現化。

 

「なんだコレ……!?」

「領域展開……! 舞が使ってた……!」

「舞は俺だから使うだろ間抜け。その頭は飾りなのか? 自分で考えろよゴミカス」

 

寂れた教会に案内された可愛い〜♡ 顔をした仔羊たちに向かって向き直る。領域内では、常に音楽が流れている。流れる音楽はロックンロール。その音楽に合わせて手拍子が鳴り響いていた。一定のリズムではなく、変拍子でうねるように変化していく。心拍のようで心地いいよね。

 

「俺は悪党だからなぁ……術式を開示する。まぁ、ハンデくらいにはなるだろ。初見でこの領域の対策とか、オールマイトでもできやしねぇ」

 

僕の言葉がみんなに響く。

 

「まず、俺の個性は『不義遊戯』じゃなくて『呪力』。自分の持つ、または溜め込んだ恨み辛みをエネルギーとして様々なことを引き起こせる……といっても手を叩いて位置を入れ替える『不義遊戯』と溜め込んだエネルギーを解放することで超強力な打撃を打つことができる『黒閃』の二種類だけどな」

 

……いや、本当のことを言うならこれは少し違うのだけど、まぁ、ミスリードの一環としてこんな認識でいいだろう。この漫画能力推理型の漫画じゃないからこの個性説明自体相性悪いし。そもそも、本当の個性の内容言っても伝わんないだろうし。

 

本来は『呪力』ですらないからね。

 

「まぁ、『黒閃』ってのは自分の意思で当てることができない。呪力をゴッソリと持っていかれる割に、ラッキーパンチな部類でね。ただ、その威力は俺の普段の打撃の2.5乗。俺のパンチ力は平均150キロだから、その2.5乗ってことになるな」

 

僕の言葉に計算の早いヤオモモちゃんが「約1700トン……!?」と怯えたように口にした。まぁ、その通りだけど。この辺りは下々先生も結構ノリで話してたんじゃないかな……乗用車1500台分くらいの威力とか、骨折とかじゃ済まないだろ。どこに掠っても死ぬわ。まぁ、漫画的な表現なのは分かりきってるけどね。

 

「そして、この領域ってのは自身の中の莫大な呪力……まぁ、恨みを放出することで仮想空間を作る術だ。この寂れた教会の中では神なんていないから祈るなよ? 強いていうなら俺が神さ」

 

体をプラプラと動かす。目の前の誰かがピクリと体を揺らした。

 

「それと、この領域は“閉じない領域”ってやつでね。この教会の高さを超えたら出られる。……つまり出るのは簡単なのさ。この場から逃げることは誰でもできる」

 

逃すわけないけどね、なんて笑って、ゆっくりと地面を踏み締める。散乱したガラスがジャリッて音を鳴らした。なんか素足の感覚が久々だからかな、気持ち悪い気がしてくる……あ、ガラスなんか踏みつけたら怪我するからやめてね? すぐに反転回すけど。

 

常時回すだけの呪力量はないんだけどね。そんなことできるの六眼でコスパ最強のどこぞの最強か、呪力量バケモノな人種だけだ。僕は人よりは多いかもだけど乙骨くんたちよりは多分少ないしね。一級の上位陣くらいかな?

 

ただ、原作の術師を相手どっても五条悟と宿儺以外には勝てる自信があるね。あそこら辺は無理。まぁ、もしかしたらワンチャン……あるかも? くらいだね。他は絶対になんとかなる。それくらいにまで鍛えた。

 

僕があっちにいたら特級さ。一人で国くらいなら堕とせるよ。

 

「この領域の中では俺は個性をマニュアルで発動できない。流れている讃美歌に合わせて鳴っている拍手の音でだけ入れ替わることができる……その場所は指定できるが、拍手の鳴るタイミングは領域に付与されてるから好き勝手にってわけにはいかない。その代わりに俺に付与される効果がある。……おい、切島ぁ、体固めろ」

 

音が響く。拍手の音と、拳が切島くんの硬化した体をぶち抜く音が響いたのはほとんど同時だった。すごい勢いで切島くんが吹っ飛んでいき瓦礫に突き刺さる。誰もの目が音に後追いして瓦礫に埋もれる切島くんの方を見た。

 

「『黒閃』が必中だ! さぁ! 踊ろうぜ愚物ども!!」

 

みんなが半身を取った。戦闘態勢じゃないな。迎撃の構え、まだ状況が把握できていないんだろ。ここ最近の活躍も相まって、忘れがちだけど彼らは日本トップの学校のヒーロー科で学んでいる学生なのだ。まずどんな状況にも対応できるように身体を鍛えてある、

 

だけど、その程度のことを僕が想定していないとは思っていないよね?

 

「次は障子なッ!」

「……ッッッ!!」

 

峰田くんと場所を入れ替えて障子くんを蹴り飛ばした。瓦礫の山に突っ込んでいく彼を見ながら態勢を立て直す。

 

「おい、ゴミども。全員丸ごと殺されてぇのか? かかってこいや」

 

暴れ出した僕を止めようと拘束しようと飛んできたテープをオートの拍手で僕とかっちゃんの位置を入れ替え対応する。こうすることでかっちゃんはしばらく身動きできない。

 

次は誰? と視線を向けると、タイミングよく出久くんが飛んできた。それを察知して拳で受け止める。

 

「なんだよ、熱烈ハグか? お呼びじゃねぇよ死ね!!」

「……ッ!」

 

体が硬直した出久くんの髪を掴んで無理矢理地面に叩きつける。お、叩きつけるのでも黒閃って出るんだ……初めて知ったな。

 

領域の練習は主にヴィラン連合のみんなや脳無でやったけど、みんな嫌がるからなぁ〜……まぁ、黒閃で殴られるのは誰でも嫌か。マスキュラーとかがいたらよかったのかもだけど。基本的にはトゥワイスさんに複製された連合のみんなをボコボコにする……というか一発ぶん殴ることだけに注力してたからなぁ……戦いになるのは弔くんくらいだったし。知らないこともままあるんだよね。

 

なんて考えている暇はない。次に僕に迫って来たのは氷だ。それにはヤオモモちゃんと場所を入れ替えることによって対処する。なんか知らん武器とか出されたらダルいからね。ついでに入れ替わったときにすぐ横にいた耳郎ちゃんの腹を殴りつける。

 

「んぎぃッ……!!」

「邪魔」

 

拳を振り抜いて耳郎ちゃんを弾き飛ばす。え〜♡ いい声出してくれるじゃ〜ん!! 可愛いよ! 君は笑った顔なんかよりも泣いてる顔が一番可愛いんだからね!! その顔で標本作ってやりてぇくらいなんだから!! 最高に唆る顔しといてまだ僕のことを諦めないでいてくれてありがとう!! 吹き飛べ!!

 

上鳴くんに耳郎ちゃんをぶつけて弾き飛ばせばレーザーが僕に向かって飛んできた。拍手は間に合わない。いや、マニュアルでできないからしても意味ないけど。腕を晒してジュッ! とレーザーに腕を掠めた。青山くん的には足を狙って行動不能が狙いだったのだろうか? それとも当たるわけがないと思っていたのだろうか。どっちでもまぁ、構わないけど。

 

「優雅ぁ! 俺にダメージ与えたらダメだろう!」

 

そのレーザーで受けた火傷は今すぐに僕に近づいて放電しようとしていた上鳴くんに押しつけた。いきなりの激痛に怯んだその腹に飛び蹴りを喰らわせる。上鳴くんが血を吐きながら飛び上がって地面に転がった。

 

「おい、テメェら。個性持って一年未満の奴にボコられて恥ずかしくねぇのかよ。天下の雄英生だろ。根性入れろやカス。お前らの大好きなPlus Ultraで先まで行けよ。なぁ、ここまで来いよ!!」

 

ケタケタ笑えば全員が少し後ずさる。わかるよ。こんなの怖いよね。僕も怖いと思うわ。自分でもこんなイカれ野郎と会ったら全速力で逃げるね。え? 僕のこと? そんな……。

 

「オラオラ! 俺のお通りだぜ! ゴミカス共!!」

 

殴る。蹴る。吹き飛ばす。死なないように、細心の注意を払うなんてことはあり得ない。

 

だって、この漫画において、A組は生き残るからね。怪我程度なら許してくれよ。欠損しない程度にしてあげるからさぁ!

 

「優雅ァ! 個性使いこなせてねぇんだよ!」

 

「芦戸はその個性大雑把に使うなら俺に寄越せよ! 有効活用してやる!」

 

「蛙吹! カエルのこと詳しくても個性に限界があるなぁ!! 粘液も、保護色も!! 全部上から叩き潰してやるよ!!」

 

「足が速いだけでモテるのは小学生までだぜ〜!! わかってんのかぁ〜? 飯田ァ!!」

 

「麗日、随分酷い顔してるぜ〜!? いつもの麗らかな顔はどうしたんだよ!! 傑作だ!! お前の顔が歪むのは“良い”なぁ!!」

 

「尾白! お前みたいに尻尾があるだけの普通の個性でも、あるだけで無個性の俺よりも秀でてるのはおかしいと思わねぇか!? お前みたいな雑魚が!! 空気みたいになってる癖に!!」

 

「上鳴、痺れさせるだけのお前が! 指向性すら持たない電撃撒き散らすだけの無能が! 無個性ってだけの俺より上とかどうなんだよ!」

 

「根性だけじゃどうしようもねぇってことがわかったか? なぁ! 切島!」

 

「口田。この恨みも操れるか? お前の個性で何とか俺のこと操れねぇか? なんてな!! ハハ!! 根暗くんは人とのコミュニケーションを学びまちょうね〜!! ここには動物も虫もいねぇよ。無能が」

 

「どうした? 障子。複製腕ちゃんと上手く使えや。テメェみてぇな奴に腕が山ほどついても何の意味もねぇよな!! だって使いこなす図体がゴミなんだから!!」

 

「瀬呂! お前のテープは何のためにあんだよ! 活躍したところ見たことねぇなぁ! お前程度の使い手なら山ほど見てきたわ! ヒーロー辞めちまえ!!」

 

「常闇ィ! そんな強い個性持ってても弱っちぃのかよ! ハハ! ゴミカス過ぎて笑えねぇな!! ここは夜なのに! 暗闇の中なのに!! ダークシャドウも強くでれねぇか!?」

 

「轟ィ! 立派な個性持って生まれたくせに悲劇の主人公ムーブかましてんじゃねぇよ! 個性持ってない状態で生まれた俺の方がよっぽど酷い目にあったってことがわかんねぇのか!?」

 

「葉隠! 見えねぇだけじゃあ何の役にもたたねぇぜ!? ほらほら必殺技っての使ってみやがれ! それが役に立つならなぁ!! おい、透明なだけでどうやって俺を超えるんだ!?」

 

「峰田! お前の個性なら俺を捕まえられるんじゃねぇの!? 捕まえてみろよ無能が! エロいだけのカスならここで死ね!」

 

「八百万ぅ!! またお前はなにもできない! 何も持ちえない!! 金も、個性も! 恵まれたくせに! お前は弱い!!」

 

全員、全員、全員。全員。全員。

 

一人残らず、丁寧に。

 

丁寧に殴る。弱点になる部分を、見据えて。

 

殴る。蹴る。投げつける。叩きのめす。捻り潰す。

 

方法なんてなんでもいいけど。ただ、ひたすらに。

 

死なない程度に壊してあげる。

 

そして、最後に一人だけ残った。

 

「ゆず……りは……」

「何名前で呼んでんだ? 幼馴染アピール?」

 

一人だけ、君だけ残していたんだよね。

 

無力だ、誰も助けられない。ボーっと突っ立ってるだけの木偶の坊。どっちがデクなのかわかったのかにゃぁ〜?

 

「爆豪。今から、戦えや。俺と」

「…………」

「他のは全員潰れたんだ。ここでやろうぜ。雄英体育祭の続きだ。手加減されてたの、気づいてたろ?」

 

地面を踏み締める。体を倒すように力を抜いた。足が地面に倒れるギリギリで拍手の音が鳴って──

 

「ッ!?」

「油断か? 爆豪勝己ィ!!」

 

かっちゃんの籠手と自身の場所を入れ替える。身につけていたものと場所を変えたから、僕はかっちゃんの真横に出現した。体を倒して足を伸ばす。サマーソルトキックだ。この技、とあるモンスターをハントする系のゲームで嫌な敵キャラが使ってたから苦手なんだよね。毒になりそう。この世界ではゲームしてたからね。あっちじゃとてもじゃないけど買ってもらえないどころか触ったことすらなかったけど。

 

咄嗟にガードをしたかっちゃんの腕から嫌な音が鳴って空へ飛ばされる。そりゃ、黒閃防いだんだから腕の一二本イカれてくれなきゃ困るんだよな!

 

空を跳ねたかっちゃんが両手を広げる。バチバチと掌が爆ぜて、空中でバランスを取った。おぉ、それ以上飛ぶと領域から飛び出すところだったし、助かるわ。

 

「撃ってこいや、その距離なら撃てるだろ」

「…………ッ!!」

「あぁ、いいことを教えてやるよ。なんか苦しそうな顔してるお前にぴったりな言葉だぜ? 俺の仲間の言葉だ! 心して受け止めろ!!」

 

唇を噛んで、涙を瞳に溜めたかっちゃん本当にかわいいな……そんな君の顔を一気に歪ませる言葉をあげようか。

 

僕がこの世界で一番大好きなセリフだよ。

 

「なぁ! 爆豪!!」

「いいか! よく聞け!!」

 

ね、荼毘くん。君は正しいよ。僕も同じ気持ちさ、なんてったって。

 

 

「過去は!! 消えない!!!!」

 

 

かっちゃんの顔が歪んで、ついで、歯が食いしばられる。そして両手を大きく振って爆炎を纏った。

 

「う、ぉ、アァァァァァァァァァ!!!」

 

多大なストレスがかかったが故の自暴自棄気味な暴れ方。前も見えていないだろう。そんな状態で僕に勝とうなんて間抜けもいいところだ。今のテメェじゃ洸太くんも倒せやしねぇよ。

 

「あぁ、あの日もこうしてやりたかったんだよなぁ……」

 

手の甲と甲を打ち鳴らす。するとかっちゃんの体から爆炎が掻き消えて、固定される。

 

「術式反転、【定華(ていか)】」

 

この領域で術式はマニュアルで使えない。

 

しかし、反転が使えないとは言ってない。

 

「さぁ、今までの散々の暴力と暴言を、一度に溜めて放つから。存分に味わえや、爆豪」

 

拳を握る。体の内側で呪力のうねりが跳ねた。

 

僕は、技に名前をつけない。

 

それはこの個性自体が借り物であり、僕のものでないから。僕は今まで『不義遊戯』を東堂葵が使える範囲でしか使えないと思っていたから。まぁ、何度も逸脱してるからその辺りは頑張れば弄れるんだけどね。

 

ただ、個性を見つめ直す中で、この技だけは名前をつけた。

 

極悪で、ゴミカスで、クズな僕が使える最低(さいこう)の技だ。受け止めてくれるかい?

 

縛りはこの領域内でだけ、多対一の状況下で、一度発動すると強制的に領域が解除され、術式が全く使えない三十秒間のインターバルを要する。ただ、威力は折り紙つきで、最大出力は黒閃の二倍近い。それはマキアで試してある。

 

不殺の縛りをかけていて、この技を当てられた人間は誰も彼も、死にはしない。ただ、HPバーを強制的に1残しされるようなダメージを無理矢理引き出す。正真正銘僕だけの必殺技で、理不尽な攻撃。最も禍々しい峰打ち。

 

かっちゃんが身動きを取れない状態はそう長く続かない。空に飛び上がれば右の拳を強く握った。これは鉄槌だ。相手を地面へと叩き落とす、天誅だ。これは────

 

大好きな君に与える最高(さいてい)のプレゼントだ。

 

 

黒撥(くろばち)ィ!!」

 

 

雷が落ちたような轟音が鳴って地面にかっちゃんが叩きつけられた。意識も失い、地面を数度バウンドすると血を吐いて伏せる。その姿はまるで車に撥ねられたバッタのようだ。羽をもがれた蝉? それとも無様に落ちた鳥?

 

自分の領域がドロドロと溶けていくのがわかる。地面に降り立つと、外殻から崩壊を始めていた領域が音を立てて崩れ始めた。

 

着地する。僕は両手を広げて顔を上げた。なんだろうか、この満足感! この達成感!! あり得ない。この快感!! 曇らせだけじゃない!! 未知の快感!! 人はこれをなんと呼ぶのだろう!! 俺ツエー? わからせ? なんだって構わない!! ただ、爽快に胸を通り抜ける風のような心地よさが残った。

 

「ハハハハハハ!!!! あー!! ハッハッハッハッ!!!!」

 

崩れ落ちたみんなを見下して、血まみれの髪をかき上げて笑う。わかりやすくヒールになれたかな? 僕のことを倒そうとしてくれなきゃ、今後も接点が取れないからさぁ! 最高に楽しむためには! まだまだ接点作っておかないとね!!

 

「は〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜♡ 楽しかった!」

 

体を伸ばす。領域は解除され、雨が降ってくる。なんだ、降りそうに見えたけどタイミング良すぎるだろ。僕ってば日頃の行いが良すぎて運がいいなぁ〜♡

 

圧勝もいいところだ。ヒヤッとする場面もなくはなかったが、それでも僕が勝った。それはひとえに、僕という存在の不確定要素故に。

 

「ストレス発散にはなったよ。ここまで全力で暴れようと思うと相手は大体弔くんになるからさぁ〜……」

 

頭をかくと地面にひれ伏したようなA組の面々に言外に「そこまで届いてもないぜ」と教えてあげる。おんぶにだっこの状況にならないように気をつけたつもりだったんだけど甘かったかな? まぁ、このあとどう覚醒して、どう強くなるかなんてわかんないけど、強くなってもらわないと困るね。一方的だと弱い者いじめみたいだ。

 

僕、弱いものいじめ嫌いなんだよね。

 

「ゆずくん!」

 

空を仰いでいると、瓦礫の山の一つに座っている影が僕を呼んだ。顔を向けて目を凝らしてみると、そこに座っているのはトガちゃんである。どうやらここまで迎えに来てくれたらしい。優しいねぇ〜。他の人は絶対に来ないでって厳重注意したから来なかったのかな? まぁ、注意破ったら絶交(死別)だからって言ってるし、来ない理由もわかるけどね。来させなかったのはあの子達来たら今の状況的にみんなのことを殺しちゃうからだし。言い訳としては自分一人でやりたいからってことにしたけど。

 

は? これ邪魔したら親でも神でも殺すわ。

 

「来ないでって言わなかった?」

「私だけ言われてないよ!」

「え、そうだっけ?」

 

一人ずつ指差しながら言ったつもりなんだけどねって惚けながら言うと惚けちゃって〜といわれる。なんでバレてんだよ。この子、僕のことなんでも知ってて怖いんだけど。君にそんな個性はないはずなんだけどなぁ。

 

なんかトガちゃんには全部バレてる気さえしてくる。僕って全部バレてる可能性ある? この世界の人間じゃないことくらいはバレててもおかしくないってくらい全部読まれるんだが……なんなんだ?

 

瓦礫の山から降りてきたヒミコちゃんを抱き止めてボロボロのヒーローたちを眺める。あぁ、最高にいい光景だね。本当にさぁ。

 

「あぁ……相澤先生……イレイザーに言っといてくれ。除籍でいーよって」

 

発目ちゃんがくれた義足を踏み潰してからみんなから離れるように振り向く。そこでジャリッと、立ち上がる音が聞こえた。

 

振り返る。そこにいたのは出久くんだ。お前が一番ボコボコにされたのになんでそんなに元気なの……? ただでさえA組とやり合ってるし……その前も刺客、ナガンとかともやり合ってるんだよね? ほとんど休みなしだよね?

 

何? 不死身なの……? 化け物過ぎるだろ、なんだそのあり得ないタフさ。ゾオン系の悪魔の実とか食ったか? 覚醒した?

 

少年漫画あるある。どんだけボコボコにしても、どんだけ「それは流石に死ぬだろ」って怪我しても当たり前に生きてる。あると思います。死んどけよ、人として。

 

いや、死なれたら困るんだけどね?

 

「ゆず……くん……」

「……俺の名前を軽々しく呼んでんじゃね〜よ。その名前は俺の“仲間”のためのものだ、裏切り者。お前のものじゃあない」

「…………ごめんね」

「謝って欲しいなんて言ったか? むしろ快適だぜ? 個性が手に入って、人権を手に入れて、雄英に入って、本物の仲間もできて、やりたいことしてる。幸せそのものだ」

「僕が、追い詰めてた」

「そうだぜ? 謝罪はわかったから死ねや」

「君はそんな風な罵倒をしない子だったのに、そうやって荒むくらいまで、追い詰めた」

「わかってんならワンチャンダイブすれば? 今は個性あるしできね〜か? あぁ、なら俺が殺してやってもい〜ぜ?」

「本当にごめんね……謝って、許されることじゃ……ないんだけど……騙して、利用して、君を……」

「堕としてってか? 生憎だな? 性根から腐ってるんだわ」

「君が本当になりたかったのは……」

「これじゃないって? 勘違いすんな、これが一番したいことだ」

「君が、一番、ヒーローになりたがってたのに……」

「ヒーロー? あぁ、あのオママゴトまだ信じてたのかよ、残念ながらさぁ……」

 

会話をしていく、重ねていく度に、僕と目を合わせて。これでもかと曇っていく彼を見る。嗚呼、たまらなく、たまらなく幸せな言葉だ。この瞬間がずっと、ずっと欲しかったんだ。首に巻いたチョーカーを外す。危機感知がイカれるほどの敵意をぶつけて。

 

 

「お前がヒーローになれるって言って貰った日に、それを見た日に、お前がそのことを俺に言わなかった、その日に、その夢は、捨てた」

 

 

一節、一節、区切って口にしてやる。すると出久くんが絶望した顔が見えた。瞳孔が開いて、呼吸が細く、ヒュッ、ヒュッと過呼吸気味に繰り返される。胸を掴んで、膝を折った。地面に転がって荒い呼吸を続ける。

 

あぁ〜!! 最高の顔じゃん♡♡ たまらなさ過ぎるんだけど!! え! この場で下品なんですけどね……? フフフ、ヨダレとか何から何まで全部垂れ流してしまいそうです……! ついさっき垂らさないって我慢するって決めたところなのにそんな顔されたらたまらないじゃんか! やばすぎるだろ、なんだよその顔。なんなんだよ!! お前その顔反則だろ!! 鬼に金棒過ぎるって!! 鬼に金棒! 僕に『不義遊戯』!! 出久くんに曇り顔だぜ!? 出久くんの幼い顔が、一生懸命ヒーローに殉じようとしたその顔が分厚くて、灰色の、何も見えない雲に閉ざされている瞬間を見てしまうのがとてつもなく幸せだよ!! これでこそNo.2!! 僕の曇らせたい相手!! 最高すぎるぜ……これなぁ、もうちょっとサーチの性能が良ければ奥にいる奴らの顔も見られたんだろうけどなぁ……そこまでの性能にはできなかったことが今このタイミングで悔やまれるんだけど!! 突っ伏してる顔までは見えねぇ〜!! というか見たら流石に我慢できないだろうから見えない方がいいだろうけどさぁ!! あ、やべっ……曇り顔のバーゲンセールだぁぁ〜〜♡♡ みんな一生懸命血を流して、地に伏して、血に溺れて!! こっちを見上げてくるその瞳がたまらないんだよね!! 鼻血出て来そうだよ、涎は拭ったし……あとのやつはまぁ、今はいいか!!

 

梅雨ちゃんもお茶子ちゃんも、普段はろくすっぽ曇ってくれない君たちですらそんな顔するなんて!! 舞がクローンだとか嘘ついたとき以来じゃない!? やべ……涎垂れて来た……我慢なんてできるわけないじゃん! たまんねぇ〜!! うっひょぉ〜〜〜!!

 

なんかみんなが一生懸命顔上げて手を伸ばすみたいに、懇願するみたいに僕のこと見てる! そこまで見て可愛いね! いいね!

 

もうあと二、三個くらい曇らせ見たいなぁ!! でもそんなに見たら破裂しちゃって脳回路がショートしちゃうかも! ショートォォォ!!(轟くんではありません)

 

それはそれとして、曇らせ見たいなぁ……今ならなんでもできる気がする。やっぱ、黒閃できたときと同じでさ、何もかもをぐちゃぐちゃにするには盛り上がってるタイミングでしてあげないとね?

 

ピーンと天啓が降りてきた。ので、ちょいちょいと手を振って、ヒミコちゃんを呼ぶ。

 

「ヒミコ」

「……! ん!」

 

僕にしなだれかかってきたヒミコちゃんの腰に手を当てて引き寄せる。お互いの吐息がぶつかった。……扇情的な吐息だけど、ここ外だよ? 興奮してんの?

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

唇を合わせる。見せつけるみたいに舌を絡めてあげれば数秒間、とびきり濃密なキスをしてあげた。みんなの顔が歪む。というか! すごい絶望した顔してる!! うわぁ〜!! なになに!? やっぱり僕のこと大事だった!? 好きだった!? 恋愛曇らせもいけるじゃねぇか!! 最高かよ!! え〜! WSS(私が先に好きだったのに)ってこと!? 僕的には別にBSS(ぼくが先に好きだったのに)でもいいよ! どっちでも君たちなら抱けるし! クレバーに抱いてやろうか? あ〜ん?

 

数秒、艶かしく、見る人によっては美しい絵画のように感じるであろうキスを見せつけてあげてから唇を離す。唾液の橋が滴って、落ちた。

 

「来る日、弔くんがしっかり“器”として完成したその日に、俺たちは世界を滅ぼす」

 

トガちゃんの腰を引き寄せながら言ってみる。彼らの何割が聞こえてるかわかんないけどね。

 

「止められるもんなら止めてみろ。コレは、A組ってクラスで楽しくやらせてもらっていた俺が、お前たち“元”学友に送る最後のプレゼントだ、逃げるなり歯向かうなり好きにすればいい」

 

手をひらひらと振る。そしてもう一度告げた。

 

「だけど次、俺の前に姿を現したら……殺すから」

 

 

【挿絵表示】

 

 

手を打った。大きな大きな、特大の爆弾は、起爆してなお、余韻ですら達してしまいそうな快感を僕に残した。





みなさんどうも、波間です。
ここまで読んでいただきありがとうございます。このクライマックスを思いついて、書き切るまでにおよそ60000文字以上書き、たくさんの人に読んでもらいました。その期間、一年超。長いよ。

二次創作であるとはいえ、ここまでたくさんの人に見て貰う機会など、おおよその作家は経験できないことだと思います。これもひとえに、皆さんの優しさと、『僕のヒーローアカデミア』の偉大さが故だと思います。僕はそこに曇らせのエッセンスを足しただけで、大層なことはしていません。

ここまで読んでくれた皆さんや、サーバーで一緒になって盛り上がってくれている皆さん、Twitterをフォローしてくれる皆さん、感想を投げてくれた人に、評価やお気に入りをしてくれた人たち。そして何より神絵師んこにゃさんのおかげでここまで書くことができました。

僕は至って普通の人間なのですが、まだまだ書きます。他の作品についても書きたいし、オリジナルも書きたいので、まだまだ波間こうどという作家と、んこにゃという絵師をよろしくお願いします。

改めて今までありがとうございました! これからもよろしくお願いします!


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波間こうど https://x.com/Namima_kodo
んこにゃ(KONY) https://x.com/Nkonya0529

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