個性『不義遊戯』でいく! 僕の曇らせアカデミア!   作:波間こうど

70 / 83

やっはろー。こんな作品読んで「曇らせいいっすねー! たまんねぇ〜!」って頭おかしいんじゃないですか? 異常者。変態さんですね……。僕曇らせ苦手なんだよね……可哀想。みんな幸せが一番ハッピーじゃん! 幸せな話が書きたいんだ!

そんな僕の書く幸せをご堪能あれ!


★崩壊していく学級は、かの光を求めて。

 

「ハァァァァァァァァ〜♡ 最高だったなぁ〜♡」

 

体を伸ばすのはベッドの上。どうしようもない興奮と快楽に締め付けられた胸が鼓動を早めた。やっばいよ、なんだあの顔! 最高すぎてもう帰ってきて速攻服着替えたもんね! 下着含めて諸々ダメになっちゃってたからさぁ!

 

まだ脱いだままで着てない状態を着替えたと言っていいなら着替えたと言ってもいい。つまり全裸だ。どうでもいいけど裸の女性を裸婦像って言うけどあれってその言葉単体で見てもそこはかとなくエッチなのになんでえっちじゃないですみたいな顔してるんだろうね? なに? どうでもいい? そっか……

 

 

【挿絵表示】

 

 

「ゆずくん、嬉しいのはわかるけど服は着て欲しいです」

「んぁ? あぁ、ヒミコちゃん的には目に毒?」

「……というより見ててまだ寒い」

 

4月も半ば、暖かくなってきたとはいえまだ寒さが残る時分だ、そりゃあ見てたら寒いだろう。わかるわかる。僕今全裸だしね。大事だから何度も言うけど。ところで裸婦像ってさ(以下略)

 

「雨にも濡れたしね。ヒミコちゃんがそう言うなら服着るかぁ」

「そうしてよ。みんなも待ってるだろうし」

「そうだね。そろそろ構ってあげないとみんな寂しそうだ」

 

飼うだけ飼って餌を与えないっての、僕の信条には反するしね、どうせならしっかり餌をあげたいところ。僕は餌付けするだけして放置するゴミとは違うからね。ちゃんと躾までしてあげる派だよ。だからみんな待てがお上手でしょ。

 

「じゃあ行こっか、服着るね」

「……」

「ん、ヒミコちゃん?」

 

着替えようとタンスに指をかけるとヒミコちゃんに腕を掴まれてしまった。

 

振り返ると、彼女の瞳は据わり、息は荒い。

 

なるほど…………餌をあげる云々どころか、餌は僕だって話か。なるほどね? やっぱり待ては苦手みたいだ。

 

「やっぱりみんなには少し待ってもらおうか」

「うん……」

「で、ヒミコちゃんは俺にどうして欲しいわけ?」

「……名前」

「名前?」

 

名前を呼んで欲しいとかそういったものだろうか? いや、うん。さっきA組のみんなを苗字で呼び捨ててボコボコにしたのがちょっと怖かったとかそういうのかな? トガとか呼ばれたらブチギレそうだもんね。いや、案外泣いたりするのかな? 曇ってくれるのなら全然呼ぶけど♡ え? 試そうかな……。

 

「……名前、呼び捨てがいい」

「…………そうくるか、男たらしめ」

「え?」

 

は? なにそれ、さっき僕が呼び捨てにしたのが刺さってたってわけ? は? 無理なんだけど。僕流石にここまでグイグイ来られると勘違い……じゃないんだったそうだった。あまりにも可愛すぎだろ、僕のことをどうしたいって言うんだ……? ヒミコちゃんってこんなに可愛かったっけ? そんなに目に涙を溜めながら言われても困るんだけど……可愛すぎて僕の中の僕が声を上げるぞ? ……それはいつもか。

 

「ううん、なんでもないよ。ヒミコ」

「そっちで呼ばれる方がなんだか特別感ある!」

「え〜、そうかなぁ?」

「うん! ゆずくんの特別がいい!」

 

『私はお兄ちゃんの特別だもん!』

 

カーテンが風にたなびいた。頭が殴られるような、そんな感覚。

 

「……特別だよ、君は」

 

そんな言葉が口から溢れでた。わざとじゃなかった。そんな言葉を言うつもりなんてなかった。それでもなお、言葉がこぼれ出したのだ。

 

「えへへ、ゆずくん! 大好き!」

 

僕に抱きつく彼女のことを強く抱きしめる。柔らかい感触と、雨の匂い。

 

「僕もだよ」

 

好きだって言葉は言えなかった。その言葉を言えるほど、僕は彼女のことを愛していない。

 

だって、漫画の中のキャラクターだ。あの日、夢見てたキャラクター。僕の中で、彼女に恋をすることは現状あり得ない。

 

なんだろう、この感覚は。

 

あり得ないはずだ、ならこのときめきは恋じゃない。

 

……はずだ。

 

じゃあ、これは、なんだ?

 

自分の鼓動の意味がわからない。体を通る温かさを理解できない。向けられてる感情を把握できない。

 

僕は恋愛感情が欠落している。

 

人を愛することができない人間だと思ってた。

 

もしかして、これが恋なのだろうか。

 

そうだとしたら、こんなにも苦い。

 

ベッドに背中を預ける。ヒミコちゃんが舌舐めずりしてるのが見えた。……なんかこの光景何度目だよって感じなんだけど。いや、二回目なんだけどね?

 

「みんなに遅れるってメッセージしておくね」

「人の上でメッセージ送らないでくれない?」

 

僕に馬乗りになりながら携帯をタップするヒミコちゃんに、もしも僕が恋をしているのならば……。

 

……いや、やめておこう。そんなこと考えたら僕が僕じゃなくなる気がする。

 

誰もを平等に曇らせて、貶める。

 

そのために生まれ変わったんだから。

 

「ゆずくんお待たせ!」

「別に待ってないけど」

「ふふ、嘘つき」

 

だから今はこの感情に目を背けて。

 

ただ、溺れる────。

 

 

  × × ×

 

【出久side】

 

僕たちは、地面に転がされていたのをオールマイトたちによって救出され、なんとか雄英最寄りの安全な場所にまで連れてきてもらっていた。みんな死屍累々といった様子で怪我を治療してもらっている。リカバリーガールの治癒と、適切な処置のおかげで、体を起こすことができる程度には回復してきていた。

 

あくまで体は、ということだけど。

 

「…………」

 

雨の音だけが外から聞こえてくる。体から体温を奪ったそれが、外でまだ猛威を振るっていることは、誰にだってわかった。

 

けど、そんなことが理由で、みんなは話さないわけじゃない。

 

沈黙も心地よく感じる空間こそが居心地のいい空間だと言っていたのは、人の何倍も元気な彼だった。覚えている。彼のことを、覚えている。

 

覚えている。

 

覚えて……。

 

 

『お前がヒーローになれるって言って貰った日に、それを見た日に、お前がそのことを俺に言わなかった、その日に、その夢は、捨てた』

 

 

喉元がぐわっと熱くなる。咄嗟に僕は立ち上がって建物の外へと飛び出した。そのまま不快感の正体を地面へとぶちまける。

 

「ぅお゛ぉ゛ぉ゛えぇ゛ぇ!!」

 

ビチャビチャと跳ねた吐瀉物は、全て胃液だった。そこで、オールマイトに「ご飯を食べてないだろう」と言われていたことを思い出す。もう、何日もまともなご飯にありつけていない。

 

……いや、ありつけていないという言葉は変だ。僕が自らそういう道を選んだのだから。

 

「はぁ……はぁ……ハハ」

 

ズキリと痛む傷を抑える。彼に殴りつけられたお腹が痛む。

 

『俺は親友だと思ってたんだ』

 

「……僕もだよ」

 

そう思っていた。そう思っていたのに、こうなってしまった。

 

それも全部僕のせいだ。

 

僕が彼のことを裏切ったのだ。僕が彼の気持ちを踏み躙って、貶めて、馬鹿にした。裏切るっていうのはそういうことだったのだ。

 

無個性がどんな風に扱われるのかなんてわかっていた。今まで散々経験してきたことだ。学校の先生だって僕がヒーローになれるなんて思ってもない、親だって、周りの誰も僕のことを応援しない。応援していても声にすらならない。

 

そんな中で、僕のことを応援してくれていたのはゆずくんだけだった。

 

彼だけが、応援してくれていたんだ。

 

『君はヒーローになれるさ!』

『出久くんはとびきりのヒーローになるよ、僕が保証する!』

『僕が困ったら、君に助けてもらおうかな』

 

なのに!

 

僕は彼のことを裏切った。何度も彼に告げるチャンスはあったのに! 僕は彼に真実を告げなかった! それは全て、僕が、彼に嫌われるのが怖かったからだと思っていた。

 

違うのだ。

 

僕が彼に勝てないと思っていたから。僕は彼のことを騙したのだ。

 

「……何がヒーローだ」

 

僕はヒーローじゃない。大事な親友の一人すらも救えない。

 

『僕が困ったら君に助けて貰おうかな』

 

何もできない。彼を選べない。

 

そんな人間が、ヒーローになる?

 

反吐が出る。

 

頭の中を巡る言葉は、全てが全て後悔でしかなくて。形を変えた言葉の全てが僕にとって意味のない言葉だ。もう、どうしようもない言葉だ。

 

「緑谷、体冷えるぞ」

「轟くん……」

「みんな……心配してる」

 

彼が炎を出しながら僕に近づけた。それが体の寒気をゆっくりとほぐすように溶かしていくのを感じながら笑みが溢れてしまう。わざわざ僕のことを追いかけてきてくれた彼の優しさが今は苦しい。

 

「こんなことしてもらえるような資格、僕にはないよ」

「緑谷……」

「大事な友達を追い詰めちゃうような人間に価値があるの?」

 

これが轟くんのことを困らせちゃう言葉なのはわかってる。それでもなお、そんな言葉が漏れてしまっていた。

 

「ゆずくんはもっと寒かったんだろうね、辛かったんだろうね……なんで、気づけなかったのかな……なんで、僕は止められなかったのかな……」

「それは……」

「僕なんかよりゆずくんがヒーローになるべきだったんだ!」

 

言葉は溢れて止まらない。彼が僕のことを非難したように、僕も僕のことを非難して仕方なかった。

 

彼の言うことは100%正しい。僕がおかしい。

 

裏切り者を裏切っただけだ。彼のことを裏切った僕が裏切られただけ。いいや、裏切りを一度果たしたのは僕なのだから彼からすれば正当に過ぎる報復なのだろう。

 

「……彼なら、きっと、世界を救えるヒーローに成れた」

「……緑谷」

「僕は、なれない」

 

理由なんて、明白だ。

 

言葉にするだけなら、簡単だ。

 

もう、心が折れてしまった。

 

「緑谷! 轟! 耳郎ちゃんが!」

 

雨空を見上げる僕と轟くんの元に葉隠さんがやってきたのは、そんな折だった。

 

 

  × × ×

 

【A組サイド】

 

破裂音がビルを揺らした。そして、次いで衝突音が鳴る。

 

ここは、雄英から最寄りの廃ビルだ。雄英教員たちの助力もあって、現在、そこはベッドや包帯や治療器具などが持ち込まれ、野戦病院のようになっていた。それも、現状では、雄英の門を潜ることが不可能であったからだ。

 

理由は簡単だ、緑谷出久の存在である。

 

今、緑谷出久は敵にとってみればターゲットだ。

 

存在そのものが身近に置くだけで危機に晒される。そういう存在。敵の目的が彼である以上、彼のことを安全な場所である雄英に招き入れるのは避難民たちからしてみればこれ以上ない危険を伴うことになる。

 

緑谷出久を取り戻すために雄英のヒーロー科が揃って外に飛び出したということを知った避難民たちは、彼の帰還を阻止するためにデモを行なっていたのだ。雨の中、ご苦労なことである。しかし、このデモのせいで満身創痍のA組をそう易々と雄英へと入れることはできなくなった。

 

それ故に用意された野戦病院、廃墟が揺れた。

 

ことの発端は重度の怪我から起き上がった耳郎響香の発狂であった。

 

言葉にすると彼女が狂ったというように取ることができるが、まさにその通りだ。彼女は発狂したのだ。自身の想い人に完膚なきまでに叩きのめされて、打ち砕かれて、最後には想い人からの拒絶とも取れる他所の女とのディープキスだ。彼女の心傷は考えるまでもないだろう。

 

起き上がった彼女は三度の嘔吐、四度の絶叫、二度の昏倒と覚醒を繰り返し、その瞳に復讐の炎を宿らせた。

 

そのイヤホンジャックは治療を受け、呆然と窓の外を眺める、彼に向けられた。

 

「爆豪勝己ィッ!」

 

刹那、爆音。飛び出した衝撃波は、誰が止めるよりも早く爆豪勝己の体を壁に向けて吹き飛ばした。

 

「耳郎!? お前何してんだ!」

「止めろ! ダークシャドウ!」

 

悲鳴と怒号が交差する。瓦礫に埋もれた爆豪勝己にまだ迫ろうと血走る瞳を向けた耳郎響香を押し留めたA組の生徒たちを無理矢理退けるようにしながら、なお、耳郎は前に進んだ。

 

「あんたがあんなことしたから……!」

「…………」

「ふざけるな……! なんであんたみたいなのがここに残って! ユズがいなくならなきゃいけないんだ!!」

 

それは慟哭だった。わかりやすく言葉にするのならその一言に尽きる。

 

慟哭だ。それは耳郎響香という、あの少年に焦がれた少女の慟哭であった。

 

彼女は、彼に惚れていた。

 

これを舞妓譲葉が聞けば「僕のこと好きになるとかセンス無さすぎない? それに、それって僕がコントロールした感情な訳じゃん? むしろ操り人形みたいで滑稽だよね〜。それは恋じゃなくて、雛鳥が親鳥を好きになるのと同じ感情だと思うんだけど、何が違うの?」などと言いそうなものだが、彼の内面を、裏切るつもりでずっとプランニングをしていたことを知っても、彼のことを誤解している人間は、未だにその感情を恋だと誤解しているのだ。

 

恋は、執拗に胸に絡みついた。寝ても覚めてもその人のことしか考えられなくて仕方ない。そういった種類の呪いは、彼女の、あるいは彼女らの、ともすると彼の、もしかすると彼らの心に絡みついた。

 

好意という名の呪い。

 

とある世界で、特級術師の名をほしいままにした、ある最強はこう言う。

 

“愛より歪んだ呪いはない”と。

 

「ウチは別にあんたに何かをされたわけじゃない……! 口が悪いだけで、素行が悪いだけで、やるときはやるやつだと思ってた……! 緑谷と喧嘩するくらいなら別になんとも思わなかった……! 態度が悪くてもすごい奴だと思ってた!」

 

止めるクラスメイトが固まる。それは、自身も同じ感情だったから。

 

手が止まる。彼女にかける声を、彼にかける言葉を失う。

 

それは、自分の中で燻る苛立ちだったから。

 

「でも、あの声は! ユズのレコーダーから流れてきたあの声は! あんたの声だった! なら! あんたがユズをいじめたから!」

 

その言葉は、事実の羅列だ。その一言一言に込められた言葉の真意が、爆豪勝己に突き刺さる。

 

それは正当な断罪だ。正当な報復だ。

 

これが私刑であると言うことを除けば、だが。

 

「ふざけるな! そんな奴がヒーローになるなんて……! ウチは認めない! 絶対に認めない!!」

「落ち着けって耳郎!」

「爆豪もなんとか言えよ!」

「…………」

 

ハッ、と我に返ったクラスメイトたちが耳郎を止めようと体を前に投げ出した。

 

耳郎の声が割れる。ハスキーなその声は、最早影も形も見えない。

 

 

「アンタのせいで! ユズはヴィランに堕ちたんだ!!」

 

 

悲鳴のように、絶唱のように、彼女の声が割れる。

 

……ここで、件の少年に視線を移そう。

 

爆豪勝己は、強い少年だ。

 

誰にでも打ち勝てる少年だ。ヒーローに憧れた少年だ。

 

彼は、辞書的な意味を以て、強い少年なのだ。

 

しかし、そんな彼が強いからといって、勝利を必ず我が物とするわけではない。

 

まず、彼は強い少年ではあるが、同時に、負けを重ねた少年でもある。

 

先の告白の中で述べたように。彼は、この雄英高校に入学してから、何かで一位を取ったことがほとんどない。それこそ、体育祭くらいのものだろう。それですら、本当の意味で一位なのかと問われれば首を横に振らざるを得ない。

 

『体育祭の続きだ、爆豪。手を抜かれてたの、気づいてたろ?』

 

彼は負けが込んだ少年なのだ。

 

故に、ここで心が折れてしまってもおかしくない。彼は項垂れたまま、耳郎響香の叱責を受けていた。体は傷が開き、包帯から血が滲み、目は伏せられている。

 

彼は、負け続けた少年なのだ。

 

「なんとか言え!」

「…………あァ、俺はそうだ。譲葉をいじめてた」

 

彼は立ち上がった。その目には、何も映っていない。瞳が虚無を映す。体から流れる血をまるで受け入れたように、彼は歩みを前へと進めた。

 

「俺が弱かったから、アイツらのことをいじめてた。今まで、何度も何度も負けてきた」

 

耳郎響香を見ているわけでもない。周りのA組を見ているわけでもない。ただ、前を見ている。虚無の先に、何かを見ている。

 

「笑えるよなァ、ヒーローになりてぇって奴がヴィラン紛いの自殺教唆だ。器物破損、人権侵害、暴行罪、傷害罪……思い当たるだけでいくらでも刑が重くなりそうな言葉が出てくるわ」

 

ここで、爆豪勝己の名誉のために告げておくと、彼が明確に殺意を持って舞妓譲葉を罵倒したことはない。いや、確かに喧嘩腰ではあった。女男と呼ぶこともあった。しかし、彼からすると、舞妓譲葉は確かにヒーローだったのだ。

 

『かっちゃんみたいな子が強いヒーローになるんだろうねぇ』

 

その言葉が、彼をここまで連れてきた。

 

彼にとって、舞妓譲葉とは綺麗な石ころだ。

 

それは、確かに綺麗な石ころだ。

 

では、こんな言葉をご存知だろうか? 知るはずもないだろう。しかし、経験則として、確かに持っている言葉を。

 

“少年にとっての綺麗な石ころとは、大人にとっての宝石に等しいのだ”という言葉を。

 

「出久が気に入らなかった。譲葉が気に入らなかった。ずっと負けてきた。俺が弱かったからだ。喧嘩が強かろうが、体育祭で優勝しようが、俺は負けてたんだわ」

 

宝石に手を伸ばした。

 

今まで、自分の欲しいものはなんでも手に入れてきた。学力も、強さも、友も、環境も、無理矢理手に入れてきた。

 

ただ、手に入らなかったもの。

 

彼にとって喉から手が出るほど欲しかったのは──。

 

「耳郎ォ、お前の言う通りだわ。俺はヒーローになるべきじゃねぇのかも知れねぇ」

 

爆豪勝己は静かに目を見開いた。

 

澄んだ瞳に、迷いはない。

 

「だから……俺が譲葉を連れ帰る」

「アンタなんかにできるか! ウチら全員を捨てて走っていったアイツに! アンタなんかの声が届くか!」

 

その声が響く。まさしく、正論なのであろう。

 

「じゃなきゃ……」

 

涙ぐんだ耳郎響香が崩れ落ちた。

 

そして、見据えるのは地面だ、雫の落ちる先だ。取りこぼした涙がタイルを濡らす。

 

「じゃなきゃ……ウチたちなんて……本当にあいつの中で何の意味もない存在って言われてるみたいじゃんか……」

 

言葉の意味など問うまでもない。

 

誰の声も届かなかった。誰の声も響かなかった。

 

だから、彼は消えたのだ。闇の中に。

 

「……俺だけが出来ることがあんだよ」

「ないよ!」

「耳郎。お前の言うことは正しいわ。お前らも同じ気持ちだろ。何も間違ってねぇよ」

 

その澄んだ瞳がみんなに向けられる。視線が泳ぐところを見るに、文句がないわけでもないらしい。ただ、それを叩きつけることを拒んでいるというような顔だった。爆豪はハッ、と鼻を鳴らすように笑った。

 

「お前らの方がよっぽど強かった。テメェの方がよっぽど弱かった」

 

ここで、再度確認する。

 

爆豪勝己は弱い少年なのか?

 

断じて否であるのだ。

 

「このクラスにゃ、アイツがいなきゃいけねぇ。ここがアイツのヒーローアカデミアだろーが」

 

階段を駆け上がってきた緑谷と轟が息を切らせながら部屋に到着する。それは、丁度一連の騒動が終焉に向かおうとしている最中のことだった。

 

「かっちゃん……!」

「なぁ、出久」

「……?」

「俺が前を走って、譲葉がなんだかんだフォローして、お前が手を差し伸べる……そういうヒーロー活動が、したかったはずなんだよなぁ」

 

あの森の中での冒険は。あのヒーローごっこは。

 

この日になるまで爆豪勝己の中で原点になる出来事だったのだ。

 

「アイツがいなきゃ始まんねぇよな」

「かっちゃん……」

「だからよ、出久。あの馬鹿連れ戻してくるから」

 

窓を開けた爆豪勝己がニヤリと笑った。

 

あの日、ヒーローごっこをした日のように。

 

不屈の魂を持つ少年は、折れない心を掲げるように柔らかく笑った。

 

 

「あと、頼むわ」

 

 

「かっちゃ……!」

 

窓から飛び出した爆豪が爆破の音と共に路地裏へと消えていく。夜の闇へ、溶けていく。

 

かくして、彼らは振り出しに戻ったのである。

 

2人のクラスメイトが欠けたその廃墟に、淡い雨音だけが響いていた。

 





どうみなさんこんにちは。もしくはこんばんは。波間こうどです。
お待たせしました。随分長くなってごめんね。まぁ、色々あるものです、人生ですからね。仕方ないね。
ところで僕はオリジナルも書いててたまに投稿してるので、よければそちらも是非ご覧ください!
いつも楽しんで読んでくださる皆さんの感想と、評価励みになってます。声はたくさん届いてます。ありがとう。

これからもよろしくお願いします!

映画編を入れるかどうかのアンケートをさせてください!

  • 入れたのが見たい!
  • 本編だけ追いかけるのでOK!
  • アンケート結果が多い方で!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。