個性『不義遊戯』でいく! 僕の曇らせアカデミア!   作:波間こうど

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それは、強い男だった。


★二つ目の太陽

仮初(かりそめ)

【爆豪side】

 

「チッ、どこにいんだよアイツ」

 

雨は止んでも、曇り空が晴れることはなかった。少なくとも、爆豪の心はそうであったし、それだけに限らず、天気そのものもそうであった。やけに濃く、重たい空模様。雨でも降り出しそうなほど、重く、黒い曇。

 

そもそも、爆豪にも当てがあって飛び出したわけではない。考えなしというわけではないが、具体的な居場所まで掴めると思って飛び出しているほど、彼にアイデアがあるわけではなかった。楽観的といえば少し聞こえが悪い、向こう見ずといえば決まりが悪い。彼としては、あれ以上あの場にいない方が得策だという考えの方が大きかった。

 

あの場において、爆豪勝己は、加害者だった。

 

「……当然だな」

 

彼はそう独りごちる。そもそも、彼の考えや発言はいつだってそのものだった。いや、仮初(かりそめ)というのもおかしな話だ。彼の心は常にそうあったから。

 

ただ、常に己を鼓舞する気持ちが入っていたことは変わらない。彼は胸の内側に常に野心があって、それを折れないように、支える気持ちだけでここまでやってきた。いつまでも、心の内側にあるヒーロー像に固執してきたのだ。彼ほど、自身の思い描くヒーローになろうと踏ん張り続けた男もいない。

 

だからといって、人を傷つけていい理由にはならないが。爆豪は自嘲気味に笑いながら空を見上げた。随分と手掛かりになりそうなところはさらったが、彼の目的は果たせていない。

 

「どこにいんだよアイツ……」

 

頭をガシガシと掻いてから瓦礫の山と化した街を廃墟と化したビルの上から見下ろした。惨憺たる有様だ。数ヶ月前まではここも繁華街だったとは思えないような、そんな荒れ具合だった。血の跡、破れた布、壊れたレンガ、折れた鉄柱に千切れた電線。雨風に晒されて数ヶ月でここまで廃れてしまうのかと思うほどには、汚れた場所だった。

 

そこで彼は一人の少女の姿を見つけた。

 

泣きながら、目を擦るようにして歩く少女だった。布切れのような服に、大きめの、男の子向けの靴、髪の毛まで埃と油で汚れた、捨て犬のような格好だった。

 

すぐさま彼はビルから飛び降りた、爆破を使って衝撃を緩和しながら地面へと降り立つと、少女の側に駆け寄る。しかし、こういったときに少年は自分よりもいくつも小さな少女にかけるような言葉を持ち合わせていなかった。驚いたように固まる少女を見て、口の中をいくつかの言葉が飛び回るが、それは言葉にならない。

 

先に口を開いたのは少女だった。

 

「おにいちゃん……」

「あ?」

 

爆豪がそんな声を溢したのも無理はないことだろう。少女、いや、むしろ幼女であるというように言ってもいいだろう。歳の頃は五歳やそこらだろうか? 個性が発現しているか否かも定かではない、そんな少女。

 

髪は結ばれず、無造作に投げ出され、服は着せられてはいるもののダボダボだ。むしろ布と呼ぶ方がいいだろう。男物の、彼女よりも年上の男の子が着るような服を何重にも重ね着をしている。茶色い瞳に、白い肌。ぶかぶかの靴を紐で括り付けたなんともアンバランスな格好をしている。

 

そんな少女は、涙を流しながらも、端的で、それでいて一言でSOSであるとわかる声色で口を開いたのだ。

 

「おにいちゃんが、怪我してるの……助けて」

「ンだ? ……ッチ、どこにいんだよ」

「! こっち!」

 

少女が嬉しそうに笑って手を掴んだ。そのままヨチヨチと歩いて行くのに連れられて爆豪も歩みを進める。

 

A組から離れて数日が経過した。

 

しかし、爆豪には成果と呼べるような成果はあげられなかった。無論、ダツゴクなら数人捕えたが、それが本来の目的というわけではない。それはヒーローとして行わなければいけない当たり前のことであって、彼の目的とはズレている。

 

舞妓譲葉の奪還。それが今、彼がしなければいけない使命で、彼が命をかけてでも行わなければいけない唯一の“やるべきこと”であった。

 

「俺は忙しいんだよ……」

 

そうは言ってみるものの、ここで難民の子どもを救わないというのも寝覚めが悪い。ヒーローとしての本懐を遂げるのであればむしろ彼らは救わなくてはいけない対象だ。少女に案内されるようにして瓦礫の山となった道をいく。

 

……ダツゴクが日本中を脅かすようになって、随分と日が過ぎている。自身が捕まえたダツゴクの数と、緑谷が捕まえたダツゴクの数。それから様々なヒーローが捕らえたダツゴクの数を足しても、まだ足りない。どこにどれほどのダツゴクが潜伏しているのかもわからない現状は、日本人の心に暗い影を落としている。

 

「雑魚ばっかりならなんとでもなるんだがなァ」

 

ため息をついた。日本の平和を取り戻すこと、舞妓譲葉を連れ帰ること。両方しなくてはいけないのがヒーローの……というよりも、爆豪勝己の難しいところである。

 

瓦礫の山を登り、どこから飛ばされてきたのかわからない木々を掻き分けて歩くこと五分。爆豪は瓦礫に足を挟まれた少年を見つけた。少女が駆け寄っていくところを見るに、あれが兄というやつなのだろうか。ツンツンした黒髪に、生意気そうな三白眼。泣きそうでくしゃくしゃになった顔。生傷だらけの体。そんな小学生辺りの少年だった。服は肌着一枚。それがどうしてなのかわからないほど爆豪も鈍感ではない。

 

「お兄ちゃん!」

「お前、勝手にどっか行くな……! にいちゃんがなんとかするから……!」

「瓦礫に足取られてどうするっていうんだよ間抜け」

 

その瓦礫を両手で持ち上げながら爆豪は悪態をついた。少年が急いで足を取り出すものの大きく腫れ上がっていて、青く浮腫んでいる。骨が折れているのは見てわかった。裸足の足は瓦礫の街を歩くのだから当然のように傷だらけで、見ていられない。

 

「あ、ありがとう……」

「おぉ……そっちのガキに感謝しろや。そいつが居なきゃお前はここで死んでたかもしれねぇからな」

 

瓦礫の崩れ具合を確認して、どうやら崩れた瓦礫に巻き込まれたのであろう少年に言葉を向けた。

 

「う、うん」

「わかったらとっととシェルターにでも行けや」

「でも、危ないよ?」

 

少女にそう言われて爆豪はハッと我に返った。確かにそうだ、彼女の言う通りで、彼らのような小学生程度の子どもたちにとって、今の日本はあまりにも危険すぎる。その上、少年の方は歩くことも覚束なさそうだった。足が折れているのだから当然と言えば当然だが。

 

「……あー、わかった。俺が送ってやる」

「やった!」

「ありがとう! お兄ちゃん!」

 

少年と少女の礼を聞いて爆豪は何も返事をしない。どう返すべきなのかわからないのだ。

 

彼は、頭の回る男だ。それでいて、子どもとの経験がとんとない。それこそ仮免のあれこれくらいのものだ。

 

特に、未就学児や、小学校低学年程度の子どもがどのくらい柔な存在なのかを理解している彼は、自身の粗野な言動が彼らを怖がらせてしまうことを恐れていた。現状を鑑みて、彼らを泣かせれば一発アウトだ。舞妓譲葉を連れ戻すどころかタルタロス行きも視野に入ってしまうだろう。いや、タルタロスは大袈裟かもしれないが。

 

とにかく、丁寧に、丁寧に対応しなくてはいけない。爆豪の一言一句が子どもたちにトラウマを植え付ける可能性すらあるのだから。

 

それはまるで、緑谷出久と、舞妓譲葉にとてつもない傷を残したように。取り返しのない傷を残したように。

 

 

『過去は消えない!』

 

 

あの時、笑いながら叫んだ譲葉の言葉が、どうしようもない絶望感と、取り返しのつかない過ちに気づかせたように。

 

「私はね! アヤ!」

「ボクはユウ!」

「……そーかよ」

「で、おにいちゃんのお名前は?」

「……爆豪勝己」

「じゃあかっちゃんだ!」

「あ゛ぁ゛? なに舐めとンだクソガキ共!」

 

口をついた言葉にしまった、と後悔したのは口を飛び出してすぐだった。彼らは見ている限り小学生、しかも低学年だろう。威圧的に迫っては恐怖を与えてしまい、彼らが泣くのは当たり前だ。

 

しかし、彼らは泣かなかった。それどころか、ケロッとした顔で顎に手を当てる。

 

「かっちゃんでしょ? それとも他の呼び方がいい? ばっちゃん?」

「あはは! ばっちゃん!」

「おぉ、クソガキいい度胸だなテメェらァ!?」

 

えっへんと、胸を張った子どもたちはクスクスと笑う。しかし、それが強がりであることを彼は見抜いていた。わかる。強がりで泣き出しそうなのに、それでも胸を張る姿はいつだかにどこかで見たような気がするからだ。

 

……どこで見た?

 

「で、テメェらなんでこんなとこにいんだよ」

「シェルターが壊滅したの」

「僕たちはそこから逃げてきたの」

「……そうか」

 

爆豪は、それ以上多くを語らなかった。語れなかった。

 

原作、『僕のヒーローアカデミア』においては既出の内容ではない、それでいて誰もが考えればわかることである。

 

この状況において、各市町村程度のシェルターは役に立たない。ヒーローの手が回らなくなっていた場合、もしくはヒーローが気づくことができなかった場合、あまりにも脆く崩れ去ってしまう。

 

多くの人が対処しようとして、多くの人が対策しようとして、崩れ落ちた。多くの血が流れた、未だに解決できていない問題も、未だに屈辱と後悔に塗れた人間も山のように燻っている。

 

この世界において人間が人間臭いという感想を持つ読者は多くいる。それは間違えていない、それでいて大きな間違いを孕んでいる。

 

“本当の人間臭さはこの程度のものではない”という点において。

 

史実からして、明らかに、この世界の人間は、いや、人間という種族は汚れ切っているのだから。

 

現状のシェルターが壊滅したことも、未就学児程度にしか見えない兄妹が瓦礫の山を逃げ惑う姿も、別によくある悲劇の一つ。いくらでもある悲劇の一つで、これからも量産されて、店頭に並べても在庫が余るような、そんな悲劇の一種でしかないのだから。

 

「ねぇねぇ! かっちゃんはヒーローなの?」

「あ?」

 

少年と少女を抱き抱えるようにして歩きながら、爆豪は瓦礫の山を跨ぐようにして歩いた。そんな中、背後から聞こえてきたのがそんな言葉だった。質問としてウキウキと問いかけられた言葉、それは夢見る少年の言葉だ。

 

「ヒーローだわ。見りゃわかんだろ」

 

爆豪は見栄を張った。ヒーローと自称するにはまだまだ甘い存在であることを自覚しながら。

 

「そうなんだすげぇー!」

「かっちゃんすげぇー!」

「ハッ! すげぇだろーが」

 

少年と少女の声を聞いて、爆豪は鼻高に笑った。……見栄こそ張ったものの、しかし、爆豪自体がヒーローの仮免を持っている優秀なヒーローの卵であることは間違いない。久しぶりに褒められるようで、その言葉は妙にくすぐったかった。

 

「じゃあ、ヒーローユズのこと知ってる!?」

「! ……あぁ、よく知ってる」

「ほんと! 僕ね僕ね、ユズみたいにヒーローになりたいんだ!」

「……そりゃあ、大変だなぁ」

 

色んな意味で、と爆豪は頭の中で溢しながらそう口にした。

 

ヒーローユズ。

 

本名、舞妓譲葉。

 

爆豪勝己にとっては幼馴染で、決して無視できない目の上のたんこぶで。いつだって笑顔で、勉強も運動も喧嘩も。自分よりも少しだけできる奴だった。ただ、個性がないってだけで周りから馬鹿にされていたけれど、それが間違っていることくらい、爆豪にもわかっていた。

 

だが、爆豪にはそれを正すことはできなかった。理由は簡単だ。爆豪の心の弱さ故に。

 

「最年少ヒーロー! 早すぎた男! カッコいいよね! しかも大怪我してるのにずっと前を向いてるんだ! カッコいいよね! すごいよね!」

「……あぁ、そうだな」

「僕もね! あんな風にみんなを助けられるヒーローになりたいんだ! ヴィランをぶっ飛ばせる! そんなヒーローに!」

 

曇りのない瞳は空を向いて。少年の言葉を、少女がニコニコとしながら聞いている。

 

……あぁ、そうか。

 

この二人は、あの頃の誰かに似ているのか。

 

「かっちゃん?」

「かっちゃん?」

「あ? かっちゃん言うな」

 

二人の子どもを背負って瓦礫の街を歩く。雲が重く、鳥がどこかで鳴いて、瓦礫が崩れる世紀末のような光景に。

 

ただ、自分がどうして、舞妓譲葉を、緑谷出久を、目の敵にしていたのかを思い出した。

 

そうだ──。

 

嫉妬していたのだ。

 

この上なく醜いことだと思う。自身が恥ずかしくて仕方ない。そんなことわかっている。そうなのだ。自分がどれだけ醜いのか、客観的に見れば簡単だ。爆豪はどうしようもなくガキだったのだ。

 

「ハッ……笑えねぇな」

 

自分が惨めなことは自覚していた。その上で、この上なく、どうしようもなく哀れな存在だなんて、誰が決めたのだ。

 

そうだ、わかっていた。理解していた。

 

爆豪勝己という少年は、負けていたのだ。

 

哀れで、無様な少年だと決まっていたわけではない。ただ、負けていた。

 

他の何よりも、己に負けていたのだ。

 

「ねぇ、かっちゃん。僕たちの後にさ、シェルターの人たちを助けてよ」

「シェルター?」

「うん。今もたくさんの人が捕まってるんだ」

 

捕まっている。その言葉の意味を図りかねるほど、爆豪は愚かではない。避難民が人質にされているという話なのだろう。そこから少年たちは命からがら逃げてきた、というのが一番丸いシナリオだろうか。誰でも思いつくような、ありふれた悲劇だ。三文芝居でももう少し精緻に練られたシナリオを描くだろう。

 

「じゃあ後で場所だけ教えろや。俺が飛んでいくから」

「ダメだよ! 僕もいく!」

「じゃあ私も!」

「テメェらじゃ何の役にも立たねぇって言ってんだよ」

「!」

「いいか。お前一人がいても足手纏いが一人増えるだけだ。妹がいても同じだろ」

 

爆豪からすれば足手纏いでしかない。ただ、その事実は伝えるべきだ。

 

「お前らはまだヒーローにゃなれねー」

 

どの口が。

 

どの口が言うのだと、爆豪自身思う。それでも、その言葉が真実だった。

 

「でも、僕も……みんなを助けたいんだ!」

「!」

 

それは、幼馴染の……無個性で、どうしようもなかった彼のセリフだ。

 

『君が! 助けを求める顔をしてた!』

 

きっと、この少年はいいヒーローになる。だったら、自分のすることは──。

 

そこまで考えて、爆豪は目の前で何かが光るのが見えた。

 

「ッ!!」

 

咄嗟に少年と少女を撥ね飛ばした爆豪を襲ったのはとてつもない“痛み”だった。凝縮されたそれは腹部を貫通して、胃の中を掻き回すような衝撃を伝えてくる。それを彼が衝撃波によるものであると認識することができたのは、吹き飛ばされて瓦礫の中に埋まってから数瞬が過ぎてからだった。

 

ヴィラン。言うまでもない。ダツゴクか、はたまたこの混乱期に顔を出した化け物か……差し当たっては対処しなくてはいけない敵であるということさえ分かれば十分だった。

 

「……ぁ゛〜」

 

痛む体を起こす。馬鹿なヴィランの攻撃とはいえ、直撃は体に響く。口の中に広がる血の味を吐き捨てて、口を拭う。

 

「ガキ! ガキ共! 逃げ出したガキ共! 殺す! 殺して、殺す、殺させて、殺ス? 殺すんだ! 私の世界を作るのです!」

「……テメェ、自分でも何言ってんのかよくわかってねぇんだろ。ラリってんのか?」

 

瓦礫から体を持ち上げて、駆け寄ってこようとする少年たちを手で制止した。子どもたちが来たところで何もできない。ただでさえ足に大怪我をしている兄の方はもとより、それよりも小さな妹の方など邪魔にしかならない。そも。

 

ヴィランに対抗できるのは、ヒーローだけだ。

 

「ガキ共を殺して! 人を殺して! 私は私の王国を作る!!」

「……そーかよ」

 

弱者は虐げられる存在。自分の思い通りになるべきだと望む声。

 

それはまるで弱い自分のようだ。

 

否定すべき自分自身だ。

 

「なら、俺のこと殺してからにしろや」

「なお立ちはだかるのですね? ならば、私が自ら相手してあげましょう!」

 

両手を大きく広げた。両手の爆破を推進力にして前方へと突撃する。だが、爆豪勝己はただ突進するだけが能の馬鹿ではない。この突撃で相手に有効打を与えられないことを理解しているし、相手の攻撃の方が先に届くことを理解している。

 

しかして、爆豪の体力も限界に近かった。今すぐ倒れるわけではないが、あと二発か、一発か……数日にわたって彼が行ってきた無理は、この場で彼の体を蝕んでいた。このままだと無意味な特攻となってしまうだろう。

 

だから、彼は昇る。

 

両腕を交差させて爆破に勢いを乗せた。そのまま両掌から飛び出した爆破はそのまま彼の体を空中へと飛び立たせる。グングンと飛び上がった彼は、おおよそ地上から数百メートル近くの場所で停止して、両腕を翼のように広げた。それはまるで大きな鳥のように。

 

「無駄です! どこまでも追いかけて殺しましょう!」

「馬鹿が……! 俺がただ逃げるとでも思ったのかよ!」

 

両腕を広げる。爆発に、回転を加えて撃ち出すこの技は攻防一体。何もかもを貫く紅蓮の螺旋となって、相手を粉砕する。

 

ただ、それだけではダメだ。足りない。

 

今までの彼には足りなかった。戦闘で何度も負けを見た。彼に足りなかったのは爆発力? 破壊力? 貫通力? それともセンス? 才能? 努力?

 

それらは全部ノーで、全部イエスだ。

 

「つまりぃ、俺がもっと強くなれば解決するってことだよなァ!!」

 

彼が人のことを罵り続けたのは、ひとえに彼の心の弱さ故。

 

彼の心が弱かったのは、ひとえに彼の力が未熟であった故。

 

で、あるのならば。

 

とことんまで突き詰めた破壊力で、全てを薙ぎ倒す、王となればいい。神になればいい。

 

誰よりも強く、誰よりも皆を救えるヒーロー。

 

なんだ。

 

「最初っから目標(ゆめ)は変わんねーじゃねぇか」

 

それは、拳一つで天気すらも変えてしまう、あの大きな背中に見た夢だ。

 

両腕の汗腺から、否、身体中の汗腺から、全てを絞り出す。ニトロのような汗からなる爆撃を、全て、絞り尽くして。破壊する。

 

弱かった自分も。

 

惨めな自分も。

 

全部。壊して、前へ。

 

我が校の理念は、更に向こうへ(Plus Ultra)

 

「勝て! かっちゃんー!」

「いけぇ!!」

 

下から声が聞こえた。目を向けるまでもない。彼のことを応援する少年たちだ。そんなことはわかっていた。しかし、彼には聞こえるのだ。過去からの声が。

 

『カッコいいよ! かっちゃん!』

 

「ハッ!」

 

その時に聞こえた声は、彼にとっては懐かしい声色。懐かしくて、思い出すだけで傷跡が痛むような、そんな声。大事で大切で、心の底から縋らなくちゃ生きていけない、そんな、思い出。

 

そんな思い出を取り戻すために、今、彼は戦っているのだ。

 

その思い出を取り戻すために、爆豪勝己は、強くなる。

 

強くなるのだ。それは、爆破と共に。

 

それは煌めきだ。身体中を包み込む拡散性の煌めきなのだ。

 

「クラスター!!」

 

光は拡散する。そして、一点へと収束した。

 

「おい! ガキ共!! 覚えとけ!!」

 

空に舞い上がる風のように、両手を大きく広げて彼は不敵に笑った。

 

口の端を大きく吊り上げて、歯を見せるような、何事にも負けないと信じている彼特有の獰猛な笑み。

 

獣は、強く、気高く笑う。

 

少年、爆豪勝己として。

 

またの名を、ヒーロー──

 

「俺の名前は! 大・爆・殺・神! ダイナマイトだッ!」

 

煌めきが大きくなる。全てを包んで、光は渦となる。雲すらも焼けて、世界から色が消えてしまうほどの光。

 

少年は妹の手を握りながら口を開いた。それは憧れの眼差しで。

 

 

……少年は、それを、その光景を二度と忘れないだろう。

 

 

光が、渦となって世界を焼く。

 

分厚い雲すらも吹き飛ばす熱気、飛び上がった彼は、まさしく二つ目の太陽であった。

 

「ハウザー……!」

 

緑谷出久にとって、爆豪勝己にとってのヒーローがオールマイトであったように。

 

舞妓譲葉にとってのヒーローがデク、緑谷出久であったように。

 

多くの人にとってのヒーローが、決まる決定的な憧れの瞬間を。

 

 

彼は、二度と忘れない。その圧倒的な輝きを。

 

 

「インパクトォォォォ!!」

 

刹那、赤い炎が全てを破壊した。

 

轟音、衝撃。爆風が吹き荒び、髪が乱れる。土煙を掻き分けて、少年たちが見たのは凄まじく大きなクレーターと。

 

自分たちを脅かしたヴィランを踏みつけるようにして右拳を空へと突き上げる、憧れだった。

 

 

  × × ×

 

 

「すげぇぇ!! かっけぇぇ!!」

「おい、ガキ共」

「ダイナマ!」

「略すなボケ。お前らのこと最寄りのシェルターまで連れてくからさっさと来い。妹の方は歩け。兄の方は足がダメんなってるから背負っていく。これも、ついでに届けなきゃいけねぇしな」

「やだ私も背負って!」

 

片手に最早黒焦げになってしまったヴィランを引き摺りながら爆豪はそう言った。身体中が痛む。ここ数日の連戦の代償が、ここに来て仇となった。まとまった休息が必要になるだろう。……さもなくば、“彼”のことを助けることすらできない。現状の独断専行も、彼の我儘だ。そろそろ情報の共有をしたい。

 

「ねぇ! かっちゃん!」

 

少年は声を上げた。その瞳には決意が満ちている。その姿はまるで、幼い頃の自分のようだ。輝かしい未来を思い描いて、未来に縋る自分の願いそのものだ。

 

「ボクも! 強ければヒーローになれるかな……! かっちゃんみたいに、ヴィランをどかーん! ってやっつけられるような! 個性で全部全部叩き潰しちゃうような! 強さがあったら! ヒーローになれるかな!?」

「……強いだけじゃダメだな」

 

ヒーローは、遠くを見つめる。青空、雲さえも吹き飛ばされて剥き出しにされた青空を眺めて。ヒーローは鼻を鳴らした。

 

「強くて、優しいやつがヒーローになんだよ」

 

ポン、と頭を撫でる。ヒーローは、優しい顔で笑う。誰もが二度見するような、そんな兄のような顔で。誰にも見せたことのないような顔で笑った。

 

曇が晴れて、空には虹が掛かっていた。

 

後に、世界を揺るがす戦いであったと呼称されるその戦いの、その前日の出来事である。

 

 

  × × ×

 

 

かっちゃんがとてつもない爆破をするのを見る。うんうん。何あれ。太陽じゃんほとんど。知らない技使わないで欲しいんだけど……いや、知ってる技だけど知らないというか……その威力普通の人に当てたらその時点で終わりだからね? わかってんのかな。

 

僕はヒミコちゃんと二人で廃墟と化したビルの上からかっちゃんたちを見下ろしていた。探すのに苦労はしたが、最近ダツゴクが立て続けに捕まっているという地域を探れば一発だった。ダツゴクを何匹も捕らえられるのなんてこの世界でも上澄みだし、そんなネームドキャラは描写されていないから、かっちゃんしかあり得ないしね。

 

「すごくない? 太陽みたいだったねぇ」

「熱いです」

 

彼がヴィランを吹き飛ばすところを見ながらうんうんと頷いた。いや、かっちゃんが強いことなんて今に始まったことじゃないから言うまでもないことではあるんだけどね……まぁ、うん。一応ね……一応……にしても強すぎるけどさ。誰? あれ。僕が知ってるかっちゃんにしてはクラスター覚えるのとか諸々早いんだけど。何なのほんとに。今って調整に時間かかってるぐらいの時期じゃないのか?

 

「雲まで吹き飛ばしちゃってまぁ……オールマイトみたいだねぇ……」

 

かっちゃんの個性で弾き飛ばした雲が晴れて、青空が見える。いやぁ、天候なんてそう簡単に変えないで欲しいんだけどなぁ。というか、クレーターなんて作るなよ。復興の時どうするつもりなんだ? セメントス呼んでくればいいと思ってない?

 

「それにしても……」

 

なんだ? あのガキは。

 

二人いて、かっちゃんが背負っているガキが二匹。何だあのガキは。何であのガキは救われている? かっちゃんの行動の指針を変えた? かっちゃんを焚き付けた? 何でもいいけど何だってあんなガキ共がかっちゃんの背中に乗ってる? かっちゃんが助けてる? こんなシーンは原作にはなかった。つまり、僕の予想外にある出来事であるということだ。

 

「なんだ……あの子……ムカつくなぁ……」

「ゆずくん?」

 

あんなガキがかっちゃんにきっかけを与えた? いい加減にしてくれないかなぁ。突如生えてきた謎のキャラクターに全部台無しにされるとか僕からしたら願い下げなんだけど。不確定要素なんか出てきてさぁ……今までそんなやついなかったじゃんか。いなかったから僕も安心してたのにさぁ……知らない奴がたくさん出てくるのは困るんだけど? ねぇ〜……困るから。

 

「殺すか」

 

手を開いた。打ち合わせようとすると、そこで携帯電話が音を立てた。非通知だけど、こういうときの非通知が誰からのものなのかくらい僕にはわかる。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「チッ……はい。俺だけど」

『譲葉。そろそろ帰ってきてくれないか? そろそろ()()()()を取ろうと思ってね』

「あ〜! もうそんな時間? なら帰る帰る! すぐ帰るね!」

 

青山くんのやつだね〜。おけおけ、すぐ帰るね。と電話を切る。ビルの下にもう彼らの姿はなくて、荒廃した街並みがただそこにあっただけだった。

 

「…………」

「ゆずくん? 誰だったの?」

「ん? あー、先生だよ。早く帰っておいで〜ってさ。じゃ、帰ろ?」

 

彼女に手を差し出して、僕は気づく。何だか絆されてない? 何だか随分と絆されているような気がするんだけど……

 

「うん!」

 

笑って手を取ってくれる彼女がいるから。それでいいのかもしれないと思うあたり、本当に絆されていると思う。

 

僕は彼女の手を引いてから、両手を合わせた。





かっちゃんかっこいいね〜。波間です。これが年内最後の投稿です。お世話になりました。みなさんの高評価、コメントが励みになっております。たくさんお気に入りしてくれてありがとう。

あ、僕はオリジナルも書いていて、そっちはあんまり興味ないかもしれませんが、そっちも面白い話を書いているので是非見ていただければなと思います。ジャンルは全然違うんですけどね。面白いですよ。

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来年の皆さんにも幸が在らんことを!

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