個性『不義遊戯』でいく! 僕の曇らせアカデミア!   作:波間こうど

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新年あけましておめでとう御座います!!
今年は精力的に活動していって、ちゃんと完結させますので、皆さん見逃さないでね!!




★だって僕のヒーロー

 

 

【出久side】

 

僕たちA組はいつでも出撃することができる準備を整えながら、体を休めて、そして自身の戦闘力の強化に勤しんでいた。ゆずくんも、AFOも死柄木も行方が知れない現在、多くのヒーローで虱潰しの捜索が行われているが成果は出ていなかった。

 

歯痒い思いをしながら過ごす、そんな中での話だ。オールマイトから招集がかけられたのは。

 

「……猶予?」

「そうだ。本来なら死柄木は明日にでも完全体になる予定だった」

 

オールマイトの声が重々しく響く。かっちゃんはまだ帰っても来ていない。彼が飛び出して、僕が雄英に帰ってきてから、世間ではとてつもない変化が起きた。

 

一つはダツゴクの一斉摘発。謎の赤い影が、爆破と共にダツゴクを届けてくれるという。……こっちについては、見当もついているのだけど。

 

もう一つの方が良くない。

 

アメリカNo.1ヒーロー、スターアンドストライプ。

 

現最強と謳われるヒーローが死柄木の手によって討ち取られた。

 

彼女の訃報は瞬く間に世界中に駆け巡り、人々の心に暗い影を落とした。オールマイトすら倒せると目されたヒーロー。最強の証。アメリカという国の平和を維持するヒーロー。そんな彼女が討ち取られたのである。世界が萎縮するのも無理はない。

 

「少なくとも一週間、死柄木は動けない。スターアンドストライプが残してくれた最後の猶予だ。この時間を有効に使う」

 

「死柄木とAFOと……いや、この二人を倒そう」

 

オールマイトが言葉を濁した理由なんてわかってる。わからない人はここにはいない。

 

18人。二人の空席。

 

かっちゃんと……それから。

 

「……ユズ」

 

その、誰かの声は、どうしようもなく堕ちて響いた。

 

ヒーロー(ぼくたち)全員の心を静かに狂わせる、泣き声だった。

 

 

  × × ×

 

 

【青山side】

 

指定されたのは、雄英校内の森の中だった。

 

彼の個別のメッセージに書いてあったのはそこに置いてある受信機を持って指定された時間に家族を連れて来い、誰にもバレるな。ということだった。今や日本で三本の指に入るヴィランと化した彼が、わざわざその個別のメッセージで送って来たことに驚きを隠せなかった。

 

どこか抜けていて、それでいて完璧。

 

それが、僕の知る彼だったから、そのこと自体に驚きはあまりなかったのだけど。わざわざAFOを通さずに連絡をしてきたこと、妨害電波の処理がされていない端末で連絡をとってきたこと、それらの全てが彼のすることじゃなく思えてしまって、そのことに驚いてしまったのだ。

 

だけど、そんな驚きや不思議に感じていた内容も全て掻き消えることになる。

 

『優雅〜! 聞こえる? 聞こえるよね! やっはろ〜!』

「……!」

 

その声を、僕が聞き間違えるわけがない。

 

彼の声を、僕が聞き間違えるわけがない。

 

何度、その声に救われただろう。何度その声に鼓舞されただろう。何度その声を聞いて、助けを望んだのだろう。

 

何度。

 

彼に縋りたくなったのだろう。

 

『聞こえてねぇわけねぇよな? クラスメイトの声を無視するなんていただけねぇぜ? なぁ、優雅』

「……君は、もう。A組の仲間じゃない……!」

 

舞妓譲葉。ヒーロー名、ユズ。

 

ヴィラン名、舞。

 

今現在、A組が、世界が注目するヴィランAFO。その、No.2……右腕に当たる男だ。

 

そして、僕たちのクラスメイトでもあった。

 

僕と同じ、裏切り者だ。

 

『っ! アハッハッハッハッ! おいおいそれは何かの冗談だよな!? 優雅!!』

 

彼の声が軽快に笑う。笑う。嗤う。

 

僕のことを嗤うのだ。彼の声が、僕のことを嗤って。

 

 

『お前が! ()()だったことなんてないだろうが!!』

 

 

突きつける。どうしようもない現実を。

 

僕はみんなと違うのだということを。

 

「………………………………」

『あ〜〜! 面白! 冗談も休み休み言えよば〜か!!』

 

受話器の向こうでケタケタと笑う声が聞こえる。わざわざこの電波で、盗聴防止までプログラミングした端末を送ってきて、そのセリフ……何のつもりだ?

 

『! ん? ……あー、はいはい! わかったって……あんまりお前に構いすぎるとヒミコがうるせぇーんだわ。だから端的に言うぞ?』

 

彼は心底面倒くさそうに、とりあえず、ありきたりの言葉でも紡ぐように。耳掃除でもしながら、さも興味もないというように言った。

 

『俺たちにヒーローの情報を寄越せ。そっちからの端末で事細かにメッセージしてくれればいい。どうせ緑谷のことだから折れないだろうしなぁ……アイツは頑固なんだ』

 

アイツ、が誰のことかなんてわかっていた。誰だってわかるだろう。

 

緑谷出久。ヒーロー名、デク。

 

あの人に唯一対抗できたオールマイトから個性を受け継いだ。ワン・フォー・オール。その第九代目継承者。

 

そして、舞妓くんの幼馴染で、親友だった人。

 

『次は踏み躙る』

 

その冷徹な声が響く。彼が。

 

【『優雅〜! お前いつも元気で最高だね!』】

 

彼のその声が。あの、いつだって笑顔で、微笑んでくれる彼がその冷ややかな声を出すまでに、一体どれほどの過去があったのだろう。

 

僕と同じ無個性だった彼が、あの人に自ら志願して個性を譲り受けた。

 

そして、その個性でトップヒーローともやりあえる化け物へと一年で登り詰めたのは。

 

きっと、その受話器越しに聞こえてくるその怨嗟の声故に。

 

『以上〜、んじゃ、楽しみにしてるな? 優雅。吉報待ってま〜す。あ、ちょっ、ヒミコ。脱がすな、脱がすなって言ってるだろ、おい』

 

通話はそこで途絶えた。

 

パパンもママンも震えている。当然だろう。二人からしてみれば僕の言動をずっと見張っていた彼があの人の手先であることがわかったのだ。動悸がして仕方がないはずだ。

 

「……あの人に関わってしまったら終わりなの……」

 

ママンの声がした。それは、自然の摂理のように当たり前に目の前にある。恐怖の象徴、魔王のようなあの人を指す言葉だ。

 

「あぁ、優雅許してちょうだい! 愚かな私たちを許して……! 優雅!」

「……僕は、ママンとパパンを守りたくて……死なせたくなくて」

 

涙が溢れてくる。僕は二人を救いたかったはずなのに。今となっては何もできない。どうしようもない。

 

彼まで向こう側にいるならもう手なんて届くわけがない。彼は天才だ。逸材だ。

 

あの人に個性を授けられたのに、平然としている。不調が出ていない。生まれながらにして、個性以外の何もかもを与えられた人間が個性まで手に入れた、オールマイトとあの人に並ぶ天凛の才。

 

あんなのが二人もいるなんて、どうしたって勝てるわけがないんだ。

 

僕は、卑しくも、思ってしまったんだ。

 

神野であの人が捕えられた時に、勘違いしてしまったんだ。これで悪夢から逃れられるんだって。勘違い……してしまったんだ。

 

「私たちを助けて! 優雅!」

 

ダメだよ。もうダメなんだよママン。

 

僕たちはもう逃げられないんだ。

 

そう告げようと口を開く、言葉にはならなくて、どうにもならない空気だけが少し出て、嗚咽へと変わった。

 

そんな情けのない僕を含んだ空間で、次に鳴ったのは草むらの音だった。目を向けるとそこにいたのは、緑谷くんだ。

 

なんの因果か、一番、会いたくて、会いたくない顔だった。

 

あぁ……ねぇ、緑谷くん。

 

その嘘だろって顔、やめてよ。

 

「あの、何か葉隠さんから聞いて……今、内通者が……えと、青山くんが……」

「なんの話かしら! 何かとんでもない聞き間違いでも!?」

「…………緑谷くん」

 

この狭いクラスで、3人も、元無個性がいたんだよ。

 

そして、僕だけが個性を手に入れても、上澄になれない。選ばれなかった存在だったんだ。

 

そう、僕だけが。

 

「……青山くんだけ、浮かない顔のままだったから、何かあるのかと思って……探しにきたんだ」

 

…………あぁ、そうか。

 

僕は、保身ばかり考えている僕は、ヒーローになんて……元から成れなかったんだ。

 

「USJも……合宿も」

 

言葉が。

 

「僕が手引きした……緑谷くん」

 

さっきまで、一言だって出なかった言葉が。

 

「僕は」

 

いとも容易く意味を成して口から滑り出て……

 

 

「クズのヴィランだ」

 

 

その言葉は不思議とするりと口を這い出た。

 

それは諦観にも似た、憧れの果てのナニカだった。

 

 

  × × ×

 

 

【出久side】

 

青山くんと、ご両親が椅子に縛り付けられていた。僕は……僕たちA組は全員、彼らと、校長、オールマイトたち教員と同じ部屋に来ていた。

 

「なるほど……個性を与えてもらって、支配されるに至ったと……付与は約10年前か、今無事ということはナガンのような裏切ったら爆発する仕掛けはないようだが……」

「できれば、君たちは下がってなさい」

 

校長先生が振り向きながら僕たちにそう言った。でも、下がっていられるわけがなかった。みんなからすれば、二人目の、裏切り者なのだから。

 

「下がってられる」

「道理がねぇよ……!!」

「葉隠さんが見つけなかったら何するつもりだったんだ……!」

「青山……! 嘘だって言えよ……!」

 

みんなが口々に、青山くんに言葉を投げかける。その言葉の全てが、青山くんと……この場にいないゆずくんに向けたものであることにどのくらいの人数が気づいているのだろうか。無意識にでも、まだ彼を求めてしまっているということにどれだけの人が気づくことができているのだろうか。

 

「個性を……それが、俺たちを裏切った理由なのか」

 

轟くんが冷えた目で尋ねた。……隠そうとしても隠せないほどの情動が言葉に滲み出している。彼の言葉の節々に炎のような揺らぎが見える。無理矢理、押し留めている感情が揺れる。

 

「無個性だからって……なぁ、青山……! そんなことで……!」

 

峰田が畳み掛けるように前に出た。その手を、掴む。

 

無個性だからって。その後の言葉を、そんなことでって言葉を。僕たちは……僕だけでも、拒絶しなくちゃいけないんだ。

 

 

「………………それが、無個性ってことだよ」

 

 

峰田くんの息を飲む声が聞こえた。誰かが鼻を啜る音がする。

 

君たちは、無個性という圧倒的なハンデを知らないから。理解したことなんてないから。何も持っていないということを知らないから。だからそんなことが言える。……彼らに悪意がないとしても、それは言い訳にならない。ただ生まれただけで悪意に晒され続ける恐怖を、僕は、僕たちは知っているから。それがどれだけ恐ろしいのかということも。

 

「どれだけ模試で全国一位を獲ろうが、体育で大会新記録を総ナメしようが、ヒーローには成れない。元から、人未満だって認定される。それが無個性なんだよ。そうならないようにって青山くんのお父さんとお母さんの考えは…………僕も、理解できる」

 

これは、ゆずくんがよく言っていた言葉だ。どれだけ優れていようと欠陥品として認定される。普通じゃないと決めつけられる。それが無個性であるということなのだと、僕は彼に散々教わってきたのだ。

 

思えば、ラグドールに謝っていた時の彼のセリフは。

 

『ごめんなさい‥‥! ごめんなさい‥‥! 無個性にして‥‥なんの力もない‥‥なんの意味もない‥‥! 無力な存在にしてごめんなさい‥‥! いじめられたら助けます、何かあったら飛んでいきます‥‥! ごめんなさい‥‥! ごめんなさい‥‥!』

 

きっと、あれも全部演技だったんだと思うけど。

 

『僕が! 貴女を被差別者にした!!』

 

あの言葉だけは、嘘じゃなかったんだ。

 

「…………自分が、殺していたかもしれない人たちと僕は、仲間の顔をして笑い合った。笑い合えてしまったんだよ。個性がとか、パパンとママンの心配とか、そういうの全て関係ないんだ。僕の性根が腐っていただけ……僕がヴィランだっただけ……」

 

青山くんの赤く充血した瞳がこちらを見る。いつも、笑顔で、ムードメーカー的に笑っていた。仮免試験の一次審査で僕たちのことを集合させてくれた、彼が。

 

凪いだ、諦めた瞳で僕たちのことを見つめている。

 

深淵すら、感じさせるその絶望した瞳は。

 

『出久くん。僕らって、なんで無個性なんだろうね』

 

そう言って涙を流した彼と同じだった。

 

「同じ無個性で、それを変えるために親ではなく自分からあの人に向かっていった、あの人に認められる右腕になった彼とも、無個性で、AFOと戦う重圧を背負った君とも違う……君たち二人を知って、自分の惨めさに絶望したよ……心配じゃなくて、絶望したんだ、そのことに……絶望してしまったんだよ……性根から腐ってた。僕は、根っからの……ヴィランだったんだよ」

 

だとしても、その言葉は認められない。

 

僕は、もう。二度と、失いたくないから。

 

「じゃあなんで、大人しく捕まったんだよ……あの夜のチーズは、AFOに言われてやったのかよ……!? 違うだろ……! あれは僕が気付けなかったSOSだったんだ……! 今泣いているのはAFOの言う通りにできなかったからじゃないだろう……!?」

 

もう僕は、失っちゃいけないんだ。全部拾うんだ。

 

オールマイトみたいに。

 

「AFOに心を利用されても全ては開け渡さなかったヒーローを、僕は知ってる! 心が押し潰されただけだ! 罪を犯したら一生ヴィランなんてことはないんだ! この手を握ってくれ、青山くん……!」

 

何も取りこぼさない。ヒーローに。

 

「まだ! ヒーローになれるんだから!!」

「……待ってくれ、緑谷くん。三茶、青山くんの口に枷をつけてくれ」

 

青山くんの口が塞がれる。……当然のことなんだろうと思う。

 

でも、まだ、彼にはやれることがあるのだ。

 

「拘束中だ。手は取れない。事情はどうあれ、AFOに加担した罪は消えない。それに、状況からセーフだと推測しているだけで、まだナガンのような仕掛けがないとは言い切れない。これ以上彼を喋らせるのは良くない……」

「塚内さん……! AFOは見つからない……それが今の見方でしょう……!?」

 

僕だって、何も十年間、ただゆずくんの隣にいたわけじゃないんだ。常に頭を回すんだって、諦めるんじゃないって、ずっと彼に教わってきたんだ。

 

「あ!!!!」

 

だから、大人よりも早く。僕たちが辿り着く。

 

「だからせめて、出方を誘導できたら……!」

「そっか……!」

「見方を変えれば……現状ただ一人、青山さんだけがAFOを欺くことができるかもしれない……!」

 

ラスボスを倒すための鍵に。

 

「待て、待て待てガイズ! 飛躍しすぎだ! 罪は罪……言いたかねぇさ、けどな……お前らが一番の被害者だ。今更信じられるのか……?」

「僕たちは」

 

そうだ。マイク先生の言うことはわかる。理解できると言う意味でわかる。飛躍しているのかもしれない。僕たちは子どもだから、飛躍していて、子どもっぽい若さ丸出しの発言をしているのかもしれない。でも、違うんだ。

 

「…………僕は、加害者です。ただ、彼のようにならなかっただけのヴィランでもおかしくない人間だ。だから、だからこそ、全部拾うんだ」

 

完璧に勝つ。それがかっちゃんのセリフだ。

 

全部を拾う。これがゆずくんのセリフだ。

 

「それに、それは過去の話でしょう。彼の心を救えなかった俺たちの責任でもあります。今、泣いて絶望しているクラスメイトを、友として支えたい。それが、彼と俺たちが……俺たちと、彼が再び対等になれる唯一の方法だからです」

 

飯田くんが前に出て、代弁してくれた。

 

そうだ。僕たちは全部拾うんだ。

 

日本も、青山くんも、被害者も。

 

ゆずくんも。

 

全部拾って、進むんだ。

 

『緑谷、何か具体策はあるのか?』

「……いえ、それは……」

『だろうな、ったく……舞妓だったら三つは具体策を出すぞ。お前は考えは深く、早いが、合理性に欠くね……』

「うぐ……」

『塚内さん。この責任は見抜けなかった俺にあります。あいつのことも……ただ、気持ちはこいつらと同じです』

 

マイク先生が持っているタブレットから声がする。そこにいたのは、病衣を纏った、相澤先生だった。

 

『青山、俺はまだ、誰も除籍するつもりはないよ』

 

それは、事実上のA組内の基本方針。僕たちが、今後どうしていくのかという作戦に他ならない。僕たちは。

 

雄英高校ヒーロー科1年A組は、全員でヒーローになるんだ。

 

『A組担任として、俺に考えがある。塚内さん、一応青山たちには聞こえないよう──』

 

 

 

 

……青山くんが塚内さんたちに連れて行かれる。相澤先生が示してくれたのは、確かに実現性が高い、これ以上ない具体策だった。

 

「青山くん……!」

 

彼は、振り返らなかった。その瞳には、涙を蓄えて、悲しみとも、苦しみとも取れない絶望を、深く、深くまで堕ちた絶望を携えていた。

 

……僕たちは、一言も話さずに寮へと帰った。寮について、話し始めたのは、誰からだったか、自然に、まるでご飯を食べるときのように誰かが話し始めた。

 

「……コスチューム、直さないとね」

「僕も……」

「つか、体動かして〜んだけど。今から組み手付き合ってくれる奴いねぇ?」

「俺でいいか?」

「私もやる!!」

「必殺技煮詰めないとな……完成させてぶつけてやるんだ」

 

流れる会話は、止まらないけど。誰とも目が合わない。

 

でも、どんな目をしているのかは見ずともわかった。

 

強い、意思と怒りを纏った、強者の瞳だ。

 

「ねぇ」

「……」

「……絶対、倒そうね」

「うん!」

 

僕たちは、3人が欠けた少し広く感じる寮で、一つになったのだ。

 

 

  × × ×

 

 

「倒そうね! うん!」

「うぉ……びっくりした……なんだよ」

「いや? 今頃ヒーローたちは決意を固めてるのかしらと思って」

 

あのシーン感動ものだよね。みんなガチギレしててさぁ……たかが100円ライター風情のためにみんな必死になって……涙ぐましい……本当に……可愛らしいねぇ〜。

 

本当に、馬鹿みたいだ。

 

使い捨てだろ。馬鹿みたい。アイツは僕と同じだ。クズ。保身のためのクズ。もっと早い段階で裏切ることはできた。彼はヒーローにはなれない。過去は消えない。

 

それに比べてみんなはどうだい? たかが馬鹿みたいな裏切り者に、臆病者に、必死になって、感情移入なんかしちゃってさ。馬鹿丸出しじゃないか。僕がいうのもなんだけども滑稽の一言で片づいちゃう。あんなのみんなの心を揺さぶる一つのコマであればいい。退場したって惜しまないさ。上手く起動してくれよ? 舞台装置くん。

 

僕がうーんと伸びをするとラスボス先生がくつくつと笑った。なんで弔くんが呻いてるのに笑ってんだこいつ。殺したろか。弔くん苦しめてるのはお前だろ。僕にはぶち殺す用意があるぞ。

 

「最後の戦い。楽しみだね、譲葉」

「どうでもいい〜」

 

ラスボス先生のお言葉は至極どうでもいい。

 

「全員殺すんだし」

 

できるだけ軽く呟く。周りのみんなが嫌そうな顔をしているのを確認して微笑みそうになる口の中を甘噛みした。いやだってここで笑ったら僕が何かを意図して発言したみたいになるじゃん。やめてよね。

 

「つか先生スターは俺も会いたかったんだけど。何勝手に殺してるわけ〜?」

「君が居たら心強いが君の足場を用意できなかったんだよ」

 

ダウト。別に用意はできた。でもラスボス先生的には嫌だったんだろうね〜上手く使えるかどうかわからない手駒は。

 

ラスボス先生と僕の関係はあくまでも同盟だ。弔くん相手になら別に友達だから僕も無条件に助けるだろう。だけど、僕は彼からすれば同盟相手でしかない。とどのつまり、どういう動きをするのかわからない相手だ。

 

彼は僕のことを買ってくれているだろう。それはわかっている。僕が弔くんに執着していることも知っているし、僕が出久くんに固執していることも理解しているだろう。

 

だからこそ、手を焼くだろうね。諸刃の剣。使い方を間違えれば自らにそっぽ向く、風向きを変えかねない女神様。

 

そう思ってるでしょう? そう思うように誘導してきたし、そう思われるように動いてきた。事実、彼の見積もりをいつも低く見積もるように設定させて、その上で僕が原作通りの結果を出すことで僕が得体の知れない何かのように思えているはずだ。

 

それは本来ラスボス先生が手に入れるはずのものだったんだけどね。まぁ、僕の予想通りだけど。

 

「それでもスターには会いたかったよ〜! 僕じゃ勝てないんだけどね!」

「譲葉はいいね。自分のことをちゃんとわかってる」

「そうだよ。僕はわかってる。僕が世界の支配者になることはない」

 

それは貴方に譲ると聞こえるかい? さぞ甘美に聞こえるかい? 僕のことを都合のいい駒のように思ってくれるかい?

 

そうしてくれ。そうして、僕の思い通りに動いてくれ。

 

貴方の目的が世界の支配者ならば。

 

僕のことを有意義に使いたいよな? 僕のことを都合よく使いたいよな?

 

使ってくれ。そしたら、僕の望むエンドロールが見られるから。

 

「そんなことを言って。全て君の掌の上だろう」

「そんなことないよ。もしそうなら僕には最初から切れるカードがもっとあったはずだから」

「ハハ、君には立派な人心掌握術があるだろう。みんな君の虜じゃないか」

 

そりゃ、みんなの過去を知ってるんだから当然と言えば当然ではないかと思うんだけどどうだろうか。僕のようにみんなの心のうちを知っているなら当たり前にこの程度できるって人が大半だと思うよ。

 

全ては運命だ。

 

僕が僕として生まれて、僕として生きてきた。

 

全ては曇らせのために。

 

「そんなことないよ。僕は正直な言葉を口にしてるつもりだけど?」

「演技は一つもないと?」

「そりゃなくはないよ? A組のみんなには俺の本心なんて伝えたことがないんだから」

 

こっちのみんなには本心だったよと言ってあげる。まぁ、そうだと思ってるだろうけど。んなわけないじゃん。僕が本心で話したことなんてないよ。後にも先にもね。

 

それが嘘かもしれないけど。

 

「譲葉は上手いね。僕も参考にしてもいいかい?」

「どうぞ。先生が今更使えるようなテクニックがあるなら」

「フフフ、これは一本取られたなぁ……」

 

まぁ、ラスボス先生にはもうないよね、そんなテクニック使い込んでもっと効率がいいのわかってるだろうし。

 

「ぶっちゃけ、世界征服とかにはあんまり興味ないんで。緑谷たちをくれるならね」

「あぁ、僕は個性は欲しいが彼自身には興味がないんだ」

 

それも嘘だろ。

 

出久くんに興味津々の癖して偉そうに。笑わせるなよ。君は出久くんとかっちゃん……オールマイトに固執するって知ってるんだよ。知ってるから、僕が布石打ってるんだ。

 

君が本腰を入れて僕を警戒すると面倒くさいんだよ。

 

「ねぇねぇゆずくん」

「ん?」

 

ラスボス先生とばかり話しているとヒミコちゃんが興味深そうに僕の袖を引っ張った。なになに? 興味ある? 何に?

 

「なんでデクくんにそんなに執着するの?」

 

そのセリフはとても端的で、それでいて、とても僕のことを気にした言葉だった。この上なく、僕を表した言葉だ。僕のことをこの世で一番理解しているであろう彼女だからこそ出た言葉であると言ってもいい。

 

僕が何故出久くんに固執するのか。

 

僕がなんで出久くんなんかに執着しているのか。

 

「えー? だって、ふふっ」

 

そうだな。うーん。どんなセリフが適切だろう。ただ、うん。これだって表す言葉はあって。表象はできるんだから、あとはセリフだ。

 

そう考えて僕は目を細めて笑って、口を開いた。

 

フレー! フレー! って何度も言わせるなんていう才能。それを持った僕のヒーロー。

 

「“だって僕のヒーロー”だもん」

 

 

【挿絵表示】

 

 





新年あけましておめでとう御座います。今年、運勢大吉でしたのでバリバリ進んでいきます。
いつもお気に入り、高評価、感想、⭐︎10に始まり様々な評価本当にありがとうございます。これからも進み続けます。

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