個性『不義遊戯』でいく! 僕の曇らせアカデミア!   作:波間こうど

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君を曇らせたいと思ってしまった。


★楽しんでいこうぜ?

 

【荼毘side】

 

ワープから出てすぐに、荼毘は辺りを見渡した。自身が置かれている状況を正確に把握するや否や、日本国内を大きく二分するような戦争中であるというにも関わらず、まるでゲームに飽きた子どものように眉を顰めた。

 

「…………なんだ、お父さんはいないのか」

 

荼毘は心底がっかりした、失望した、萎えた、と言わんばかりの顔でため息をついた。周りは瓦礫の山。オールマイトの銅像が立っているところを見るにあまり離れたところに飛ばされてはいないようだが、それでも、己の憎き(いとしき)肉親がいないことへの失望か、それとも、自分を率いるに値するその飼い主の不在への不満か。

 

「ただでさえ減ったヒーローがさらに減って、当たる確率は上がってるはずなのに……お父さんは俺との対峙を選ばなかったわけか」

 

足から炎を吹き出して、空へと昇る。その男の目には、流れない涙が蒸発したように、黒い蒸気が噴き出ていた。

 

「三男と側近3人……って、これが俺に対する答えか。まだ舞妓置いてくれてる方が随分とやりがいがあるぜ」

 

復讐の炎は、最高温度に達してなお、過激に燃え上がる。

 

そこに対峙するのは、轟炎司、エンデヴァーが最高傑作、轟焦凍。ヒーロー名、ショート。

 

荼毘と血のつながった実の兄弟は、目の前の蒼炎を睨んで言う。

 

「燈矢……荼毘。勘違いするなよ……俺は言われたからここにいるわけじゃねぇ。俺自身が止めたいと思ってるからここに立ってるんだ」

「かっこいい〜。本音は舞妓のところに行きたいくせに。首輪をつけられた癖に捨てられたワンちゃんのことはよくわかるぜ? 可哀想に! 俺がその立場なら首を括って死んじまってる!」

 

荼毘は嗤う。馬鹿にしたように、心底馬鹿にしたように。それでいて、大事で誰も持っていない、羨まれていることがわかりきっているゲームでも自慢するように嗤う。親指で首を掻き切るようなジェスチャーをして見せて、荼毘は轟のセリフを踏み躙るように笑った。

 

「今回は俺が捨てられなかった側ってわけだ!」

「……舞妓は必ず連れ戻す」

「無理だろ! ハハ! お前らがどんなトンチキな勘違いしちまってんのか知らねぇがよ!! 俺たちが認めるボスは、ヒーローのトップなんかとは器が違う!!」

 

頬の肉が焼けて落ちる、筋繊維が剥き出しになったまま、青い炎を燃料を注ぎ込んだ炉のように、燃え続ける復讐の焔は、目の前にいる怨敵の大事なものを見て、笑みを浮かべた。

 

自分の親と、飼い主を見比べて、掛け値なしに自分の飼い主を自慢するように。

 

「アイツらは本当に大事にしたいものは確実に守り抜く。それが俺らの惚れた、死柄木弔と、舞妓譲葉だ。特に舞妓が、お前らの下に帰ることなんて断じてない」

「それでも! 俺は友達を連れ戻す!」

「友達! アハッ! なんの冗談だよ」

「俺に初めてダチだって言った奴だ。何がなんでも、必ず連れ帰る」

「馬鹿が!! ありえねぇって言ってんだよ!!」

 

その言葉が終わるが先か、焔が揺らめいた。

 

先に動いたのは、荼毘だった。

 

「俺さ! 生きてたってわかってからすぐに家に帰ったんだ!! でもそこでは俺が居ても居なくても変わらない! お父さんは俺にしてたようにショートを鍛えてた!! お前たちは俺を過去にした!!」

 

ただ、腕を振るって放出された炎が、エンデヴァーよりも高温の地獄の業火となって振るわれる。空気が焼け、アスファルトが溶けるその炎は、確かに世界を焚べるほどの炎上だった。

 

「その全てを知って! 知った上で! 舞妓は俺に復讐という目的以上の価値をくれた!! 死柄木は轟燈矢、荼毘以上の役をくれた!!」

「!!」

「お前ら知ってるか!? 俺、AFOにすら見放されたんだ!! 偏執狂の死炎だってよ!! そんな俺にアイツは“友”だって! お前は間違ってないって言ってくれた!! これがどれほどのことか分かるか!? わからねぇよな!! 最高傑作で! 何もかも持っていたお前には!!」

 

手を振るうだけで、歩を進めるだけで、世界を焼く、地獄の業火。

 

有史以来、最高熱量の確執の炎は。

 

 

「俺は!! アレの大事なものを全て燃やして灰にする!! その上で!! アイツの目的を支えてみせよう!! お前ら全部焚べて!! 前へ!!」

 

 

フクシュウノホノオから、ジゴクノゴウカへ。

 

全てを燃やして、進む暴走列車として、まずは自らの弟にその爆炎を向けた。

 

「させねぇって言ってんだろ馬鹿兄貴……!!」

 

それを止めようと動くのは、轟焦凍だった。

 

「お前は俺が止める……!」

「わりぃが! お前は俺にとってもう通過点だ!!」

 

荼毘の両腕がうねった。指先から飛び出すのは、格子状の、蒼炎による網の目。

 

「赫灼熱拳! ヘルスパイダー!」

「アッツ!!」

「大雑把で正確性なんて一つもないけど……! これ、エンデヴァーの……!」

 

No.1の技。確かに、正確性は消えていた。繊細な部分なんて消え失せている。それでも、出力は、父親以上だ。

 

つまり、人類最高熱度。有史以来、人間が到達していない火力に達した焔は、鉄を飴細工のように折り曲げ、地面を豆腐でも切るように切り刻む。

 

「最高の環境と! 最適な体! 全てを持ち得てなお他に! 友に縋る!! 誰も言ってくれねぇなら教えてやるよ! 焦凍!! 腐っても兄だからな!!」

 

連打、連打、連打。降り注ぐ火の雨は、アスファルトを焼いて、瓦礫を燃やして、焚べて、そのまま多くのものを燃やし尽くす。

 

「フラフラの中途半端人形が! テメェは何者にも成れない!! お前に友は救えない!!」

 

荼毘の拳が轟焦凍の腹に突き刺さった。拳から放出されるのは熱。蒼炎。それが立ち昇る一条のレーザーとなって轟焦凍を瓦礫へと叩きつける。

 

赫灼熱拳 ジェットバーン。

 

荼毘の対人戦闘でも範囲を限定した中で一番殺傷能力の高い技。

 

「……手応えがねぇ」

 

しかし、その攻撃を以てしても、ダメージは確認できない。

 

「そうだ、遠回りして、中途半端ばかりの半端者……それでいて、友達がいなきゃ何もできない、何も気付けない鈍臭いヤツ……それが俺だ……」

 

荼毘はそこで、自身の弟の体を纏う青白い炎に気づく。

 

それは、まるで雪のような。

 

「親父のことしか見えてないと思ったよ。お前が、俺も見てて、ちゃんと舞妓も見てて、良かった」

 

ビルに叩きつけられ。

 

骨が軋んで、血を流して、身体中に無視することができない痛みが走ったとしても。

 

「兄貴が、舞妓に貰ったもんは、俺もアイツから貰ったんだ」

 

その男のオリジンは歪まない。

 

「アイツはそれを演技だって言うんだろうな……だとしても、俺が、A組のみんなが貰ったもんは、アイツがくれたもんは!!」

 

『君の力じゃないか!!』

 

かつて友が押してくれた背中を、その言葉と、

 

『No.2だろうがなんだろうが関係ないよ。僕は焦凍の友達で、僕は焦凍のことが好きなわけ。つっけんどんなやつだけど、大事な友人なの。そんな僕の友達に手を出すなんてこと、許さない』

 

気絶から起きて聞こえてきたそんな言葉を。背中で、当時No.2だった父親に向かって啖呵を切った彼の言葉を。彼は胸に抱いている。

 

「間違いじゃなかったって!! そう証明するんだ!!」

 

確かに彼のオリジンであった。

 

「赫灼熱拳!! (りん)!!」

「!!?」

 

身体中に染み渡る白刃を、荼毘は感じていた。

 

「……この灼熱の中を耐える上に、俺の熱を冷ます力……お前以上に俺の適任はいねぇって訳だ……! ハハ! 舞妓の言ってた通りじゃねぇか!!」

 

吹き飛ぶ体、ダメージはある。だが、弟と同じく、荼毘にも、止まれない理由があった。

 

「同じ血を分けた兄弟でもこうも型が違う! やっぱり俺たちは平行線だ!! 目的も、考えも、交わることがない!! 灼けて死ねよ!! 俺たちのために!!」

 

地面に手を置く、荼毘は自らの炎を、地面を媒介として柱にし、噴き上げさせることで視覚からわかりにくく、殺傷力の高い攻撃へと変化させた。

 

轟焦凍は熱に強い体を持つ。

 

それ以外の、エンデヴァーの側近たちは確かに炎に強い耐性こそ持つものの、それは常人よりもという枕詞がつくぐらいのもの。この攻撃には耐えられない。

 

ならばせめて、一撃分、切り札の盾となろう。

 

彼らは進んで自らの体を盾として轟焦凍への攻撃を防いだ。その身が焼け爛れる温度の炎、狂い燃やし尽くす死怨の炎。それを自ら受けてでも、自分たちの信じた未来を掴み取ってもらうために、その身を犠牲にした。

 

「ありがとうございます……!」

 

思えば。

 

轟焦凍は、こんな一言すら言えなかった少年だった。血や過去に固執し、あまりに多くのものを取り落としてきた。この一年間は、それを拾い続ける時間だったと言ってもいいだろう。A組の誰よりも遅れていた。その自覚がある。

 

それでも、A組は、誰も、轟焦凍を置いていかなかった。安心させてくれた。

 

それは、轟焦凍にとって、人生で初めて出来た。安心して、全てを委ねられる居場所だったのだ。

 

「焦凍!! お前が持っていて!! 俺が持っていないのは何故だ!! 同じ親から産まれて!! 全てを持っているお前と!! 何も持っていない俺!! もういいだろう!!」

 

荼毘は吠える。それは、切実な、それでいて、全てを焼き払わん勢いの復讐の炎が見せた隙。

 

「居場所までは!! 奪わせない!!」

 

小さな小さな。綻びだった。

 

「赫灼熱拳!!」

 

怒りは、激情は、彼の炎を猛々しく燃え上がらせた。その炎は確かに全てを灰へと変えた。しかし、その炎は、友にだけは、その居場所にだけは向けない。そう決めていた。それ故に生じた、怒りや、復讐ではない。確かに奪われたくないと願った、死人のような少年の、一瞬の隙。

 

「……奪わない。返してもらう」

 

『夏は涼しく冬はあったかくできるじゃん! 優しい個性だねぇ。欲張りだ!』

 

「ほんと……俺は欲張りになっちまったよ。舞妓」

 

それを見逃すほど、舞妓譲葉に一年間鍛えられた男は甘くない。

 

体に溜めて、放つ。エンデヴァーや、爆豪勝己と同じ、放出系個性の応用。それでいて極意、境地。

 

それは、静かに。

 

全てを凍て付かせる、氷の波だった。

 

大氷海嘯(たいひょうかいしょう)!!」

 

それは、範囲にして約一キロ。

 

見えるもの全てを凍て付かせてもまだ足りない。地面も、燃えていた瓦礫も、溶けたアスファルトも、全てを白の中に閉じ込めて、倒れかけたビルすらも凍り付かせた。文字通りの銀世界(シルバー)

 

舞妓譲葉がこの光景を見たなら「え? いや、荼毘くんも馬鹿みたいにレベル上がってたけどこれはやばいだろ。1キロだよ? 1キロ。誰が高二で直径1キロ凍らせられるんだよ。しかも実戦で。頭おかしいのか? 僕は絶対疲れるからやりたくない。パス」と言うほどの攻撃。それは確かに、止まることができない暴走機関車。フクシュウノホノオを、鎮めた。

 

「……やった、荼毘! 確保!!」

 

各ブロックに朗報が飛び渡る、エンデヴァーがプロミネンスバーンを放つ、都合にして数分前の出来事である。

 

 

  × × ×

 

 

目のチカチカが収まってようやく、僕とラスボス先生は自らが本当に死ぬ一歩手前にいたのだと言うことを自覚した。ガードが間に合っていなかったら今背後でおおよそ一キロ以上道なりに沿って燃え尽きたあの炭木と同じようになっていただろう。そう考えると恐ろしい攻撃である。

 

「……完全に入ったと思ったのだがな」

 

……ほんと、死ぬかと思った。なんで死ななかったのか正直あまりわかってない。エンデヴァーやばすぎるだろ。ラスボス先生がとっさに防御態勢に入ってくれなかったら両方多分死んでた。というかいきなり必殺技打ってくると思わないじゃん? 原作だともうちょっとやり取りあったはずなのにまさかないとは思わなくてさ、いきなりすぎるでしょ、決着つけに行く勢いだったじゃん。

 

「ほーんと……ひっでぇ技。見て見て、人がいたら跡形も残ってないぜ。なんだあのクレーター。馬鹿なのか?」

「譲葉が危険を教えてくれなければ危なかったね」

 

咄嗟にラスボス先生がガード張ってくれたけど、そのガードも割れて僕たちにも少なからず被害が出てしまった。一応僕が個性を使えなくて押し付けることができないことを理解した上での攻撃なんだろうけど、左肩の感覚ないんだけど? まだある? 大丈夫?

 

「それにしても……狙ってるねぇ。わかってる?」

「わかっているよ。気を付けていたつもりだったんだが……流石にヒビが入ってしまった」

「僕なんて左肩燃えてんだけど?」

「消火してあげただろう」

「そういう問題じゃないやい」

 

消したからいいだろって本当に心ある? 生き返らせるから殺してもいいかって言われたら承諾するのか? 本当に? 頭おかしいやつでしかないだろ。……ごめん。僕生き返るなら死んでもいいや。何故なら僕が死んだときに人がたくさん曇ってくれるから。その顔が見れるなら死んでもいい。……ってか先生のマスクにヒビが入るような攻撃受けて左腕落ちてないならまだマシなのかな。ラッキーか。うん。そう思わなきゃやってらんない。

 

つまらないことを考えながら下へと目線を下す。下ではこっちへ一緒に飛ばされてきたダツゴクやこちら勢力の雑兵がヒーローたちとやり合っていた。頑張ってるけど……このままだとヒーローに負けそう。一応ヒーロー飽和社会とか言われてるけどヒーロー個人個人は研鑽を積んでいて強いし、ヴィランがそれをひっくり返せるほど強いならこの時代はもっと混沌としているはずだった。そう考えればわかるだろう?

 

このままいくとヴィラン側が負ける。もちろん、それは構わないんだけどね。

 

「結構決死の一発だった? 疲れてるみたいじゃん。ホークスの羽根も雑魚羽根ばかりで戦力として大したことないし……追い詰めようぜ? 先生」

 

追い詰めよう。なんて言わなくてもわかっていたのだろう。ラスボス先生が手を広げて、個性を放つ。遠距離型の個性ばかり……というか、ラスボス先生の個性一覧一応聞いてるやつは頭に入れてるはずなんだけど知らないやつ交じってるな……スターに壊されたからなのか、複製品をコンボしてるからわかんなくなってるのか……どっちだ? まぁ、どっちにしても同じことだけど。

 

そのあからさまにピンチな攻撃は、止められるから。

 

ラスボス先生の攻撃が音の壁に阻まれた。エンデヴァーも、ホークスも動けていないヴィラン側からしてみれば絶対的チャンス……だけど、そのチャンスを救うのは……

 

いつだってヒロインだ。

 

心音壁(ハートビートウォール)……ってことは……」

 

まぁ、君たちがここに来ることは知っていたからこんなセリフ予定調和でしかないのだけど、でも、だからこそ言わせて貰おう。

 

「やぁ、耳郎に常闇。久しいなァ」

「………………ユズ」

 

僕たちよりも少し上空、ダークシャドウに運ばれる常闇くんに乗った耳郎ちゃんが飛んでいた。どうでもいいけどあの格好流石に男の子として言わせてもらうけど騎乗位じゃね? 背面? どういう化け物?

 

「なんだ、学友かい?」

「元ね、元。もう違う」

「ッ……」

 

お、顔が歪むねぇ。いい顔だ。でもこの前の曇らせの爆弾にはまだまだ程遠い。もっといい顔してもらわないと困るんだけどなぁ。

 

「羽虫だ。無視するとうざったいから駆除はするが……でも、気にするほどじゃないよ」

「譲葉がそう言うのなら僕から積極的には狩らないよ。指示はくれるんだろう?」

Of course(もちろん)

 

ほどほどにいじめて……いい感じに曇らせてやらなきゃね? 殺しちゃうと再利用できないからいい感じに……

 

ん? あれ? ……おかしいな。でもよくよく考えたらそうか。

 

「あ、ちょ! あんま揺れないで! ウチ飛ぶのあんま慣れてないから! ユズ狙えない!」

「堪えろイヤホンジャック! あとあんまりお尻を動かすなドギマギする」

「バカじゃん!」

 

物語はエンディングに近づいてる。このままだと、彼らの出番はもうほとんどない。ということは、もし、価値がないなって感じたら殺しちゃってもいいのか。

 

僕が満足するほどの顔をしてくれなきゃ、すぐさま……

 

「A組の……! ダメだ! 君たちじゃついてこれない! 死ぬぞ!!」

 

ホークスの言う通りだ。原作では死ななかった。でも、異分子(ぼく)がいるせいでぐちゃぐちゃになっている今のこの現場で、彼女たちが死なないという保証は一切ない。なんなら面白くならないと思ったら即行僕が……

 

「うるさい!!」

 

その声は確かに戦場の時間を一瞬だけ止めた。

 

「あんたのせいで友達は泣くし! ユズは間違えるし! ほんっとにろくなことにならない!!」

「魔王だか覇王だかなんだか知らないけど!」

「ウチ、友達泣かしたヤツは許さないから!」

「ユズも連れ帰る!」

 

それは強い咆哮だった。号哭ではない、確かに本気で、本音の全力の咆哮。かっちゃんのものにも負けない、良質な叫び。

 

「昔読んだコミックにあったな。魔王の引き立て役に充てられる脇役の話」

「そーゆーの勝ってから言った方がいいんじゃん? AFO」

 

か、か、か!

 

かっっっっこいい〜〜!! いいねいいね! ヒーローらしくなってきたね! それでこそ雄英高校ヒーロー科1年A組史上一番曇らせの似合う女の子だ!! やっぱり曇らせは落差! 一番元気で魅力的で溌剌とした笑顔と、一番どん底まで落ちて全てを失った過呼吸になるほどにまで追い込まれた精神状態で見せる曇り顔の差を求めることで生み出される芸術だ! この前コテンパンにされて地面に転がった女だとは思えない! 僕のエミュをしようとしていた女だとは思えない! 凄まじい色気と馬鹿げた可愛さ! そしてかっこよさ!! 素晴らしすぎて涙がちょちょ切れちまうぜ!!

 

ならば! 今この場において! 耳郎響香はさらなる進化を遂げた! 理由は言うまでも無い! この最高にチャーミングな顔故に!!

 

さて、曇らせてみせようか。予定外だけど、構わないだろう。君の顔を!! 

 

 

僕は今すぐに!! 曇らせたくなってしまった!!

 

 

「……先生ごめん。やっぱり、俺のお客さんみたいだ」

「譲葉ダメじゃないか。しっかり清算してこなくちゃ」

「ごめんね〜。ちゃんと振ったつもりだったんだけど。お別れしなきゃだなァ? えぇ? 耳郎」

「悪いけど、アンタを止めるのは私だから」

「場所を移そう……先生」

「あぁ、好きにするといい」

 

僕はラスボス先生にお願いをして下ではなく、少し斜め……森の中へと落としてもらった。ついてきたのは……耳郎ちゃん単体。

 

「あれ? 耳郎一人か?」

「とこ……ツクヨミはホークスとの連携のために残ったよ」

「なーるほど……つまりあれか公開告白じゃないってことね」

 

ポリポリと髪の毛をかく。ここで彼女が一番嫌がるセリフは……多分これだろう。

 

「ちょうどよかった。俺、女の子フるの慣れてないから……見られてたら恥ずかしいし? 知ってんだぜ? お前が俺に気があるの。心苦しかったわ〜、一年間さ」

 

ほら、ヒミコちゃんとのキスで一番いい顔してたのはお前だろ? つまり、僕への恩義を、恋愛感情にコンバートさせてたわけだ。だったらそうだろ? 僕のこの言葉はあのキスを思い出させて! 失恋を思い出させて! 最高にクるだろ!?

 

ま、気があるのは知らなかったんだけどね。僕のことを好きになるような奴なんていないと思ってたし……いるわけなくない? と思いながら過ごしてたからむしろあの場でヒミコちゃんとキスした時の顔を見なかったら二度と気づかなかった、一生知る由もなかったんじゃないかなと思うけどね。

 

僕のことを愛してくれる人間なんて、一人しか知らないよ。

 

「ほら、俺とアイツの間につけいる隙はねーぞ? 諦めな」

「安心してよ、無理矢理にでもアタックするから」

 

 

【挿絵表示】

 

 

「!」

 

うっそ。なんで? なんでこれで曇らないわけ!? は? 予想外なんだけど!? 君はそこまでメンタル強くないはずでしょ! 強くないから、すぐに崩れて僕に最高の曇り顔を見せてくれるはずなんだ! だから君は最高のヒロインだったのに……!

 

「というか、ごめん……勝つ気しかしないから。ウチからいくよ?」

「させると思う?」

 

個性が使えない今の状態の僕が彼女に勝つにはこの森を有効活用するしかない。まず、上手く、うまく使って……じゃなきゃ勝てない。無個性の僕はその程度の実力でしかない。

 

個性にかこつけてる。でも間違ってない。この世界で無個性は無能で無駄で、無価値だ。

 

個性だけが、優れた個性だけが全てを凌駕する。

 

だけど、例外がある。それは、圧倒的な差があるのなら、個性なんてあってもなくても同じだってことだ。

 

「君じゃ俺に勝てねぇよ。様式美としてビンタでもいっとくか!?」

 

でも、僕は負ける気がしない。左肩からの感覚が無かろうが、徒手空拳だけでも僕はA組なら出久くん、かっちゃん、轟くん、飯田くん……あと切島くん? 以外のほとんど全員に勝てると思っている。生身と個性の相性が悪すぎる人たちはやめてもらって……素手イコール死みたいなのは無理じゃん。普通に考えて勝てっこないんだからさ。

 

「悪いけど、ウチじゃアンタに勝てないから」

 

そりゃそうだ。君じゃ僕には勝てない。何もかも足りてない君じゃ個性なしの僕にだって勝てないだろう。そもそも、肉弾戦は男女差があるし、君の個性は範囲型だ、近距離だと自分も巻き込む。とはいえ、中距離、遠距離は個性が使えない僕が許してあげるわけもない。

 

なら近距離で攻めるのみ!

 

「だから……ズルするね!」

 

だからこそ、僕は気づかなかったのかもしれない。最近、サーチに胡座を描いていたから見誤った。彼女の泥臭さ。ヒーローとして、そして恋する乙女としてのなりふり構わなさに。

 

それは、耳郎ちゃんのリストバンドから飛び出した。

 

「い゛ッ!?」

 

僕の右肩に突き刺さったのは針だった。一瞬の痛みと、体に流れる痺れという名の不快感。そして指ひとつ動かせない麻痺。これもしかしなくても一服……というか一撃盛られた?

 

「リストバンドに仕込んだの、上手く刺さってくれたみたいだね」

 

彼女がリストバンドを下げると、そこには射出口がついた銀色のバンドが巻かれていた。

 

暗器!? ウッソでしょ! このご時世に銃でもなんでもなく暗器持ってくるとか正気の沙汰じゃないでしょ! 僕がいくら個性使えないからってこんなの普通なら当たるはずが……

 

あ、だからこその暗器か。近距離で、確実に当てる、その上でバレバレの得物じゃなくて、僕が気づかないものをセレクトしたんだ。

 

「発目が作ってくれたベイビー……超加速ネイルガン、“ドッ可愛い譲葉さん捕獲縄”だってさ」

 

僕は銃なら個性で奪い取れる。銃弾だって適当なものと入れ替えればいい。もし僕に不意打ちでダメージを与えられるとしたらその可能性があるのは暗器……見えない死角からの攻撃だけだ。つまり、彼女は僕を捕えるために自分の個性すらも囮にした。もし仮に個性が使えたとしても、馬鹿正直に耳郎ちゃんに転移で近づいて打撃をしようものなら相打ち覚悟で暗器が飛び出してくる可能性がある。もし、仮に個性を使えても使えなくても、完全に僕を“狩る”準備をしてきていたのだ。

 

原作になくて、異分子を排除する最高の引き矢。まさか飛び道具使ってくるなんて思ってもみなかった。痺れる感じ……麻痺毒でも塗ってあるのかな? 撃たれた瞬間から体動かないし……すげぇ、初めて負ける気がする。

 

「さ、帰ろうか」

 

耳郎ちゃんが近づいてくる。その足取りは軽く、それでいて強い。うーん……首から下が完全に動かないんだけど……でも、僕にも一応あるんだな、奥の手。とはいえこんなところで使うつもりはなかったんだけど……いや、だけど使わないと“詰み”だな。ここまでのアドリブは想定してなかったけど、でも使えるものはなんでも使う主義なんだ。

 

「……なるほど」

 

こういう気持ちか。

 

「エンデヴァー風情に奥の手を出さないといけないときのラスボス先生の気持ちは……」

「は? 何言って……」

 

これは一か八か、正直、ミスれば死ぬけど……でもそうだ。僕は死なない。

 

死ぬくらいの思いならもう既にどっかで死んでる。

 

それに、死んだって別に構わないんだ。僕は、死んでもいい。ただ、全てを曇らせたいだけ。

 

 

全ての天は、曇の下にあるんだから。

 

 

「さァ、楽しんでいこうぜ? 耳郎響香」

 

僕はそう言って奥歯に仕込んだスイッチを噛み締めた。

 





評価を受けるとやる気が出る。皆さんは作家の生態を知っていますか?

お気に入りを受けたり、感想を読んだりするだけで僕たちの意欲ってすごく向上するんです。どれだけ拙くてもいいので自分の言葉で伝えることが大事です。pixivの鼻血を吹くゾウとか、あれあんまり嬉しくないんだ。

ほら! 君たちの言葉と歓喜を僕に! 評価で知らせて!(強欲)

それと作家さんとかにはできるだけたくさん愛を伝えて!!(お裾分け)

映画編を入れるかどうかのアンケートをさせてください!

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