個性『不義遊戯』でいく! 僕の曇らせアカデミア!   作:波間こうど

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遅くなってごめんなさい。普段は学生、バイト戦士、ほかにもいくつかの草鞋を履かせていただいております。それ故に遅れることも多々あるかと思いますが、温かい目で見守っていただけると幸いです。

USJ編は一回にまとめたくて、無茶しましたが、楽しんでくださいね!


★USJ編、英雄に成る

 

「バスの席順はスムーズに行くように二列で並ぼう!」

「飯田くんフルスロットル‥‥!」

 

弔くんの曇り顔を見た次の日。レスキュー訓練のために移動することになった僕たちがバスに乗る際、委員長になった飯田くんがやる気を満ち溢れさせているのを見て出久くんがそんな言葉をこぼした。言いたいことはわかる。それにしてもやる気に満ち溢れた飯田くんに対して個性と掛けてフルスロットルなんて言葉出してくるの語彙力磨かれてない?

 

バスに乗り込んで席に座ると飯田くんが向かい合って座るタイプだったことにダメージを受けていた。二列で座るタイプが主流だし気持ちはわかるね。この対面タイプのバス、前世含めてもなんだかんだ言って乗ったの初めてだわ。たぶん。

 

「貴方の個性オールマイトに似てる」

「そそそそ、そうかな!? でも僕は、その‥‥!」

 

僕が少し目を離しただけでなんか横の席が楽しそうな会話を始めていた。僕も混ざろうかな。

 

「でも出久くんみたいに体壊したりしないからね、オールマイト。似て非なるあれでしょ」

「しかし増強型のシンプルな個性はいいな! 派手でできることが多い! 俺の『硬化』は対人じゃ強いけどいかんせん地味なんだよなぁー」

「僕はすごくカッコいいと思うよ! プロにも十分通用する個性だよ!」

「プロなー! でもプロも人気商売みたいなとこあるぜ!?」

 

みんなが個性とヒーローについてヤイヤイと語り合う。こうやって自分の未来について真剣に語り合うことができるというのは未来を背負う少年少女たちの特権であろう。その話を聞きながら相槌を打っておく。

 

「派手で強いって言ったらやっぱ轟と爆豪だな」

「ケッ」

「爆豪ちゃんキレてばっかだから人気出なさそ」

「んだとコラ出すわ!!」

 

うんうん、かっちゃんも順調に曇らせから回復して行ってるみたいで何よりだ。この後また曇ることになっちゃうと思うけど一度回復するのは大事なことだからね! その方が味わい深いから! ギャップみたいなもんさ。ジェットコースターだって落ちてるだけだとただの落下じゃん。上がって行く過程も楽しいでしょ? 何の話?

 

「派手じゃないにしてもやれることが多いのは舞妓かなぁ‥‥」

「実際舞妓は頭も回るし、格闘戦もイケるんだろ?」

「見た目も華やかだしなぁ‥‥」

 

おっと、急に僕の話になったらしい。ふむ‥‥みんなからの評価は概ね高そうだ、しめしめ‥‥ここから曇らせるんだから、まずは評価をしっかりと獲得しておかないと話にならないからね。さっきも言ったが上げて落とすのが鉄則だからさ。ここは友好を深めるためにも話に混じっておこうか。こういうときは本心から褒めておくに限るぜ。

 

「みんなの方が華やかでしょ、女子陣はヴィジュアルが優れてるし‥‥男子メンバーも負けず劣らずじゃん、個性だって派手な子が多い。きっとみんないいヒーローになるよ」

「‥‥‥‥」

「‥‥‥‥」

 

僕が話し出すとその瞬間に会話がぴたりと止まってしまった。もしかして僕今時を止める個性とか発動したっけ? いやでもバスは動いてるしなぁ‥‥

 

「なぁ、緑谷。舞妓っていつもこんな調子なわけ?」

「う、うん‥‥いつもこんな感じかな」

「苦労するな、お前も」

「こいつがこれで女の子だったらオイラ緑谷を殴ってたかもしれねぇ‥‥」

「というかこの見た目で男なのなんとかならねぇ?」

「下手な女子より可愛いじゃん、ウチ女子力舞妓に負けてるし」

「響香ちゃんは自分の魅力に気づくべき」

 

何やら出久くんが慰められてる‥‥女子陣、男子陣に限らずに何やら曇ったのとも喜んだのとも違うジト目が向けられる。ほんとになに? あと離れて座ってるのにイヤホンジャック飛ばしてこないで? 気抜いてたから頬思いっきり打たれたじゃん。伸びすぎじゃない? 半径6メートル伸びるの? 知ってたけどやるね。

 

「ねぇ、出久くん。なんの話?」

「ゆずくんは気にしなくていいよ」

 

出久くんにしては力強い言葉に思わず口を閉じてしまう。なに? 何か癇に障ったかな‥‥

 

「もう着くぞ、いい加減にしとけよ‥‥」

「はい!」

 

相澤先生の言葉に僕とかっちゃんと轟くん以外のみんなが声を合わせた。どうでもいいけど声合わせるのみんな本当に好きね? 示し合わせたりしてる? もしかして僕だけ排除されてんのかな‥‥

 

 

  × × ×

 

 

「スッゲェ〜! USJかよ!」

 

実際USJなんだよね。嘘の災害と事故ルームって名前だけど。というか国営の雄英でこんなものを作れる13号さんってもしかしてすごい人なのだろうか。いや、ヒーローだしすごいんだろうけど。

 

「人を殺せる個性‥‥」

 

そんなことをボソリと出久くんが呟いた。僕はここにいる誰の個性でも人を殺せる自信があるし、みんなもそういう自覚があるだろう。僕の個性だってそこらの飛行機と人の位置を入れ替えたら乗客員丸ごと道連れにして都市を巻き込んだテロできるし。ヴィランじゃん。そんなことしないけどさ。

 

いや、僕ヴィランだったわ。いつかしてやろうかな。

 

「以上! ご清聴ありがとうございました!」

「ステキー!」

「ブラボー! ブラーボー!」

 

13号先生がぺこりとお辞儀をすると生徒みんなが声を上げた。まぁ、いい演説だよね。僕には全く刺さらなかったけど。余計なお世話こそがヒーローの本質だ。だから、殺せる個性も殺せない個性も、好きに使って、相手をただ、曇らせるというただ一つの個人的な理念のために陥れる僕はきっと‥‥‥

 

ヴィランが相応しい。

 

ズズッ、という音が階段を降りた広場から聞こえてきた。僕からしたら聞き慣れた音。というか昨日も聞いた、黒霧さんのワープゲートが開く音だ。

 

「一かたまりになって動くな! 13号は生徒を守れ!」

 

お、見たことないチンピラもいっぱい居るなぁ‥‥まぁ、見知った顔もいるけど。僕がスカウトしたのもいるし、顔隠してたし声変えてたから僕のことをあっちは知らないだろうけど、僕は顔覚えてるんだよね。その程度の一方的な関係だ。

 

どうせ使い捨てだから僕のことを覚えてられると色々と不都合なのだ。覚えてるのは敵連合がそれなりに大きくなった際のメンバー、ヒミコちゃんやコンプレスさん、トゥワイスさんやマグ姉さんくらいからかなぁ‥‥捕まった時に僕のことをポロポロと溢されても困るし。

 

「なんだアリャ!? 入試のときみたいにもう始まってんぞパターン?」

「動くな! あれはヴィランだ!」

 

生徒たちの足がすくむ。それはどうしようもないほどに皆に向けられた視線で。底なしの悪意、そして、果てしない恐怖によって。

 

「オールマイトがいないじゃないか‥‥子どもを殺せば来るのかな?」

 

その黒い決意に満ちた視線が、僕たちをギロリと睨んだ。あ、弔くんと目が合った。なにかわかるかわからないか微妙なラインの合図でも送ってやろうかと思ったが顔を背けられてしまう。昨日の今日で恥ずかしいのかな?

 

「バカだがアホじゃねぇ、何らかの目的があって用意周到に画策された奇襲だ」

 

うんうん、轟くんの言う通り。これはしっかりと準備されて仕向けられた奇襲である。僕が今回の作戦の概要を作ったのでまず間違いない。今や敵連合作戦参謀である。裏で糸を引いているのはラスボス先生だけどね。

 

といってもこの作戦の本来の趣旨であるオールマイトの殺害が成功することはありえない。何なら僕はオールマイトが今日ここにいないことを原作知識で知っていたが、そのことを作戦には加えていないからだ。ただ、オールマイトが居なかった場合のサブプランについては、しっかりと準備してある。

 

それこそが曇らせの計画だ。

 

「一芸だけじゃヒーローは務まらん」

 

バッ! と相澤先生が正面戦闘のために飛び降りる。おぉ、生で見るとわかる。あの先生マジで格闘戦強いな‥‥個性のことをよく考えて練られた戦闘スタイルだ。相手の弱点についてもしっかりと理解してるところも高ポイント。こりゃ強いヒーローだわ。

 

「すごい‥‥多対一こそ先生の得意分野だったんだ‥‥!」

「分析している場合じゃない! 早く避難を!」

 

出久くんがこんなタイミングなのにも関わらず分析を行おうとして、13号先生に怒られた。まぁ、流石にこのタイミングで分析を始めるのは擁護できないかなぁ‥‥もうちょっと考えた方がいいと思うけど‥‥君たちの前にいるのはヴィランだよ?

 

「させませんよ」

 

黒霧さんがこっちまでワープしてきた。相澤先生の個性と、大体の瞬きのタイミングについては僕から情報提供してあるとはいえ一発で掻い潜ってくるのはすごい。黒霧さんって戦うのが面倒な個性してるよね。

 

黒霧さんがつらつらとオールマイトを殺すと言うことを説明する。まぁ、理由としてはクラスメイトのみんなを萎縮させること、それからメインプランがダメな場合のサブプランを行う場合に、その本意がバレないようにする為である。

 

「いくら生徒とはいえ金の卵、だから散らして嬲り殺します」

 

かっちゃんと切島くんの攻撃を透かして黒霧さんが個性を発動する。一応個性で飛ばす人数は大体決まっている。僕は飛ばされない。あと、13号先生も飛ばされない。ここから役目があるからだ。

 

「みんな散らされた‥‥! ワープ系の個性だ!」

「皆はいるか!? 確認できるか!?」

「散り散りになってはいるがこの施設内にいる」

「物理攻撃無効でワープって最悪の個性だぜ‥‥!」

 

ここに残されたのは13号先生と飯田くん、障子くん、瀬呂くん、お茶子ちゃん、耳郎ちゃん、葉隠ちゃん‥‥‥それから僕。なんか原作とちょっと違うけどまぁ、誤差の範囲だろう。

 

後ろを振り返り、目線を飯田くんに注ぐ。

 

「天哉! 応援要請! 走っていけ!」

「‥‥! だが! クラスメイトを置いていくなんて委員長の風上にも!」

「なら信じろ! 僕たちの方が、強い! 捕縛に手が足りない! 相手の数も未知数だ! 言ったろ! 救助要請じゃない! 応援要請だ! 走っていけ! 頼むよ!」

 

原作なら13号先生や他のクラスメイトが声をかけ、救助要請を呼びに行かせる場面だが、ここは出番を貰っておくとしよう。どうせこの後も派手に暴れるんだ。みんなからの印象をいいものにしておきたいし‥‥さらに、ここからの僕の行動に、機動力のある飯田くんは正直言って邪魔だ。

 

「方法がないとはいえ敵の前で策を語る阿呆がいますか!」

「勘違いしてない? 窮地なのはお前らだよ」

 

個性で飯田くんの場所を入り口近くの落ち葉と入れ替える。あとはドアを開けて走っていくだけだ。これで時間も短縮できて、黒霧さんから飯田くんを上手に逃したように見えるだろう。飯田くんはドアを開けて走り出した。そこまで見送る。

 

「‥‥! 転移系の個性!」

 

黒霧さんがお手本のように初めて知ったというリアクションをしてくれる。ありがたいね‥‥これがないと僕が後で疑われる要因になったりする。自分から裏切るまではそういうの避けておきたいからね。全く知り合いじゃないですよ〜、って演技しておかないと厄介だ。

 

「これで形勢逆転かな?」

「くっ‥‥‥!」

 

黒霧さんがわざわざ悔しそうな声を漏らして弔くんの横へと移動した。いやはや、役者だなぁ。いつもご苦労様ですよ本当に。

 

「死柄木弔。一名に逃げられました」

「チッ、ゲームオーバーだな‥‥」

 

わざとらしくそんな言葉を溢す二人に対して笑いそうになる頬を抑える。広場の方を見ると原作通り、相澤先生が脳無に鎮圧されていた。水場のところに出久くんたちも見える。役者は揃っているようだ。この数分で目まぐるしく状況が変わりすぎでしょ。

 

「13号先生、みんなのことお願いします」

「なっ! 舞妓くん!」

 

13号先生に止められる前に走って広場へと飛び降りる。そのタイミングでそこらのチンピラの一人と僕の位置を入れ替えた。たかだかチンピラの一人なら13号先生でなくとも他のクラスメイトが倒してくれるだろう。

 

それじゃあ、サブプランを始めようか。

 

 

  × × ×

 

 

「やぁ、気分はどう? 僕は最悪さ」

「あ? ‥‥なんだよ、餓鬼?」

 

お、初対面の時と同じセリフだ。なんか感慨深いものがあるね‥‥‥あの時は本当に僕のことを知らないから殺してやろうかと考えているような誰でもわかる殺意に満ちた声だったけど、今のは僕にしかわからない程度に優しいニュアンスが籠っている。ここにいる誰もわからないだろうけどね。

 

「相澤先生離してくれない? そうじゃないならこっちにも考えがあるんだけど」

「へぇ‥‥考えってなんだよ」

 

弔くんがぼりぼりと首をかきながら聞いてくる。なんなの? 敵連合って役者さんしかいないの? なに? 芸能事務所とかだった? みんな演技がうますぎるでしょ、どうなってんのさ。あれかな? ラスボス先生が絡むと演技が上手にならないといけない縛りでもあるの?

 

イラつく演技をする弔くんに見せつけるように深呼吸をする。そしてキッと、弔くんを睨みつけるようにしてから口を開いた。

 

「僕が相手になる」

「何言ってんだ馬鹿! 13号のところへ戻れ! 死にたいのか!」

「黙ってろイレイザーヘッド、興が乗ってきたところだ」

 

僕に逃げるように指示を出した相澤先生の頭がまた地面に叩きつけられる。おい、もうちょっと丁重に扱えよ。その人には生きてて貰わないといけないんだ。相澤先生は今ので気絶したらしい。その人がいないとこの先の僕の曇らせのメインプランに大きな支障が出るんだよ! 個性と! 命は大事にして! あとその人は黒霧さん捕まった後のやつどうにかして見るために僕との関係性も強めないといけないんだよ! 後遺症でも残ったらどうすんのさ!

 

自分のためすぎるかな。

 

「それができるとでも?」

「できる算段があるから降りてきたんだよ」

 

昨日の作戦では、この会話が合図になる。

 

パンと手を叩いて脳無と僕の場所を入れ替える。そしてもう一度手を叩いて相澤先生とさっき僕がここに降りてくる際に入れ替えたチンピラとを入れ替えた。これであっちには相澤先生が行ってこっちにチンピラが固まっていることになる。これで万が一にも間違えて生徒を巻き込むことはない。

 

「13号先生! 相澤先生の救護お願いします!」

「何を言ってるんですか! 君も戻りなさい!」

 

13号先生の言葉に返事を返す間もなく、僕がさっきまでいた場所を拳が通過した。脳無の拳だ。すかさず僕と気絶しているチンピラの一人の位置を入れ替えて脳無の拳をチンピラに直撃させる。吹っ飛んだチンピラが木にぶつかって数枚の葉っぱを散らせた。

 

‥‥あんなの食らったら死ぬくね?

 

「‥‥‥転移系の個性か」

「これで生徒を転移させ、逃がされてしまいました」

 

その会話は少しわざとらしくない? なんて思いながら手を叩く。適当なチンピラの位置と弔くんの位置を入れ替えて蹴りを放った。それを弔くんは肘でガードする。

 

これはさながら演舞だ。相澤先生とやり合えるような弔くんと僕が本気で肉弾戦をやり合ったらどちらか、あるいは両方が大怪我しちゃうからね。ここで、行う戦闘のある程度の形はシミュレーションしてある。最初はハイキック。それを弔くんが腕でガードする。そこをチャンスと見た弔くんが手を伸ばすもそれを避けて再度蹴りをお腹にぶち込む、普通ならお腹に捩じ込まれるはずの蹴りは黒霧さんのワープゲートによって遮られた。ワープゲートによって足が固定されているタイミングで脳無が突っ込んでくるも僕とチンピラの位置を入れ替えることで窮地を脱する。

 

一挙手一投足が命の奪い合いに見えるように大袈裟に、それでいてアクション映画さながらに大胆に。

 

これを見ている誰もが僕のことをヒーローなんだと認識できるように。

 

「‥‥強いなぁ」

 

ボソリと弔くんが呟く。そんなセリフ台本にあったっけ?

 

「‥‥黒霧、脳無。こいつは強い。俺たち三人相手にこの実力‥‥はっきり言ってそこらのヒーローと遜色ない」

 

あ、台本に戻った。なに? さっきのはアドリブ? もしかして弔くんは弔くんなりにノリノリなやつ?

 

「だけど、ヒーローだ。俺たちは俺たち、ヴィランのやり方でこいつを殺そうか」

 

そう言って弔くんが黒霧さんのワープゲートに両手を突っ込んだ。すると13号先生の後ろにいた耳郎ちゃんが声をあげる。

 

「えッ‥‥なに!?」

 

後ろを振り返ると耳郎ちゃんの足を弔くんが握っているのが見えた。そして五指で触れて耳郎ちゃんの片足を崩壊させる。途中で手を離したからよかったが、右足は崩れ、耳郎ちゃんは地面に倒れ落ちてしまった。声を上げ、無くなった足を押さえようと手を伸ばすがそこには空白が有るだけだ。ただ、消えてしまったことを知らせるように、痛みと損失感だけは凄まじいらしい。首に当てられた手に恐怖しながらも声を上げるのを()められないようだ。

 

めっちゃいい声だな‥‥、いい悲鳴だ。これ以上見たら多分僕声出ちゃうから見ないようにしよう。というか僕と知り合ってから耳郎ちゃん碌な目にあってないな‥‥可哀想。可哀想は可愛いけどね。

 

「‥‥‥おい、何の真似だ?」

「怖い顔するなよヒーロー。足にしたのは逃げられないようにするためさ。人質は生きていて初めて人質足り得るからな」

 

ニヤニヤと笑いながらわかっているんだろ? と弔くんが口にする。まぁ、これでわからないやつは多分普通にヒーローとか以前に小学校からやり直した方がいい。

 

「お前が妙な反応を見せたら後ろのガキを殺す。まだ首を握っている手は離してないぜ?」

「OK、で? 僕はどうすればいい」

「物分かりがよくて助かるよ」

 

弔くんはヘラヘラとした態度を崩すことなく、僕のことを手招いた。まぁ、単純に考えれば僕のことを殺すだろう。それか体のいい人質、まぁ、裏切りの勧誘もなくはないのか? その辺りが順当だと考える。

 

実際、弔くんは僕の首に手を当てると満足気に笑った。見せつけるようにしすぎじゃない? うわ、水辺の出久くんが今にも飛び出そうとしてきてるのを梅雨ちゃんたちが抑えてら、暴走しすぎでしょ。

 

「これで下手なことしたらお前のことを即座に殺せるな」

「君じゃなくてそこのデカブツにやらせればよかったんじゃないの?」

「脳無は怪人だぜ? 力加減ができねぇのさ」

 

こういう風にな、というように弔くんが僕の首に五指で触れて崩壊させ始める。表面が剥がされて行くような感覚。皮がガリガリと削られるような鋭く重い痛みが走って口の中に血が溢れた。そして僕が血を吐き出すタイミングで中指だけを離す。

 

なにこれ、痛すぎでしょ。こんなの受けながら戦ってきた弔くんを相手にしてた原作のヒーローたちはどんな神経してんだ。これ食らったらろくに戦えないだろ。もしかしてアドレナリンがドバドバ出てて感じなかったのかな? もしくはマゾ、それがとびきりの幸福の中に居たのかのどれかでしょ。それにしても馬鹿みたいに痛いんだけども。そりゃ耳郎ちゃんも泣き叫ぶわ。

 

「‥‥‥これでわかったか? 次に個性を使えば簡単に殺せるってことが」

「言われるまでもなくわかるよ。無駄な確認ご苦労様」

 

あくまで強気に、楽観的に笑ってみせる。ヒーローは命乞いをしない、ヒーローは無様な姿を見せない、ヒーローは救う者であり、ヒーローはカッコよくなければならないのだ。

 

「‥‥お前をそっち側に居させるのは惜しいよ」

「ハッ、言ってなよ」

 

弔くんと目が合う。こんだけ距離が近ければそりゃその顔につけた指の間から見える瞳とも嫌でも視線が絡む。

 

そこにあったのは、後悔と懺悔、使命の浮かんだ悲しみの色だった。

 

はぁ〜??? なに? 僕のことを悶え殺させるつもり? 今君が僕の喉をぶち壊してなかったら多分僕はここで蹲って絶頂してたよ、君がこんな風に喉を壊してくれたおかげだよ本当にありがとう! これはチャラにしておくね! なになに? そんなに僕のことを仲間として見てくれてたんだ? もっと仲良くなろうね♡ もっと曇らせてあげるからさ! こんなにいい曇らせ顔を見せてくれたお礼と、この曇らせ顔をさせてしまった謝罪として今度君のために何でもしてあげるからね♡

 

弔くんが優しく息を吸うのが見えた。危ねぇ〜。喉がイカれてなかったらたぶん声出てたな‥‥いや〜、弔くん様々である。声を捻り出すどころか息するだけで馬鹿みたいに痛いから耐えざるを得なかっただけだし。

 

「最期に名前教えてくれよ。覚えててやる」

「‥‥ユズ、僕はヒーロー『ユズ』だよ」

「そうか、じゃあな、ユズ」

 

優しい追悼の言葉。それを口にして指を下ろそうとした時に、

 

「もう、大丈夫‥‥」

 

自身の首に巻いたネクタイを引きちぎりながら、彼はやってきた。

 

「私が来た‥‥ッ!」

 

それは、圧倒的な光、これさえ捻り折ればそれだけで人々が絶望するような、平和の象徴であり。

 

「‥‥‥コンティニューだ」

 

弔くんたち敵連合にとってはメインプランへの回帰(コンティニュー)を告げる電子音だ。

 

 

  × × ×

 

 

「オールマイト、平和の象徴‥‥会いたかったぜ?」

 

弔くんが僕から目を離してオールマイトを見つめた。それは、弔くんが意図的に作ってくれた僅かな油断。

 

僕はその有難い隙を見逃さないように二度、手を叩く。まず耳郎ちゃんと脳無に殴られて伸びているチンピラ、そして僕とそこらのチンピラの位置を入れ替えてから、首の痛みに耐えながら喉に絡んだ血の塊を吐き出した。

 

「なんだ、逃げられた上に人質まで解放されたか、油断し過ぎたな」

「どうしますか? 死柄木弔」

「放っておけ、どうせ長くは持たない。遺言くらいは残させてやろう。それに‥‥平和の象徴がご立腹だ」

 

そんな風に言った弔くんの瞳がオールマイトに向けられる。油断なんて一欠片もない、自信に満ちた瞳だ。

 

わかりやすいように弱っているところを周りに見せつけて、もう一度決死の覚悟で手を叩く。オールマイトの足元、オールマイトが引きちぎった彼のネクタイと位置を入れ替えた。

 

「舞妓少年! 無事か!」

「何とか‥‥」

 

それらしい会話をして、無事であることをアピールする。まぁ、痩せ我慢ってやつだ。こうやってカッコよく自分を犠牲にするところを見せればさぞかしポイントは高いだろう、オールマイトも僕の大怪我がわかっているのか、曇っているとまでは言えないが十分な苦い顔を見せてくれる。そういう大人の顔が崩れるのも素敵だぜ‥‥

 

「13号くんから聞いた、大きな怪我人は相澤くん、耳郎少女に君だけだとね。よく頑張ってくれた‥‥!」

「ヒーローになりたいもので」

 

さらに格好をつけてポイントを稼いでおく。僕はここから一番の大仕事が待っているので、早く移動してしまいたいものだが、なかなかどうしてオールマイトの苦しそうな顔が良くてここを離れられないのだ。これがヴィランを足止めする平和の象徴の力か‥‥!

 

「それじゃあ、あとは任せます。No. 1」

「任せなさい!」

 

オールマイトを送り出してから、足を押さえて涙を流す耳郎ちゃんの方へと駆けつける。13号先生が救助に当たってくれているようだが、なんたって手立てがない。痛みはあるが、崩壊したものはボロボロと崩れ去るのみで、治療も何もないのだ。そう成るように、弔くんが個性を使ったからね。これも計画通りだ。

 

「舞妓くん! 無茶をして!」

「ほんと何してんだよ馬鹿!」

「ユズくん! 心配したんだよ!?」

「ごめんなさい先生、みんな、あとで罰は受けるから‥‥失礼します」

 

周りの生徒や先生が声をかけてくれるが、今は忙しい。

 

耳郎ちゃんのすぐそばに腰を下ろす。そして耳郎ちゃんの頬に手を当てて僕は視線を合わせた。絶望と苦しみに濡れる瞳はとても素敵だ。こういう痛みで曇る系は趣味とはあんまり違うけどイケるね。お寿司は好きだけど好みではないネタみたいな感じがする。美味しいし好きだけど一番最初に頼まないみたいな‥‥失礼すぎない?

 

「響香ちゃん‥‥痛くないよ、大丈夫」

 

僕が声をかける、耳郎ちゃんの顔に痛みが刻まれているのを見て声をあげそうになるのを必死に抑える。マジでナイスだよ弔くん。この喉の痛みのおかげで耐えていられる。

 

「大丈夫。ほら、ゆっくりと息を吸って、吐いて‥‥こう言ってごらん? 痛いの痛いの飛んでいけってさ」

「なにそれ‥‥! そんなので治るわけないでしょ‥‥!」

 

こんなときにこんな風に馬鹿なこと言われて、尚も人に当たらないとか立派すぎない? 苦悶の表情を浮かべてはいるものの我慢をしている顔だ。僕の言葉に反応して口元を歪めて、笑う様も見える。自身の苦しみを他人にぶつけないのは好感が持てるね。それと苦しんでる顔も素敵だよ。本当に可愛いね?

 

「でも、気休めにはなるって。ほら、大丈夫大丈夫、痛いの痛いの飛んでいけ!」

「‥‥ふふ、痛いの痛いの、飛んでいけ!」

 

耳郎ちゃんがどこかヤケクソ気味に、今の自分の境遇から目を逸らすために僕の言葉を復唱した。ほら、アンコール! アンコール! と煽ると何回も言ってくれる。周りのみんなも声掛けを続けてくれているようだ。

 

それじゃあ、僕は大仕事をすることにしよう。

 

さて、僕が個性を使える対象は認識しているものである。位置を変えられると思っているものは例外なく、変えることができる。本来は呪力のあるものだけの位置を変えられる物であって、原作より大幅なカスタマイズがされているとはいえ、ヒロアカの様々な強個性には敵わない。

 

僕の個性はなかなか伸びなかった、質量が重いものの位置を変えられるようになり、素早さが早くなっていっても、それだけで便利であるとはいえ、使い勝手がすこぶる良いわけではない。この個性と向き合うようになるのにそう時間はかからなかった。鍛えなければ曇らせられないからね。

 

この個性だって身体能力なのだから、鍛えれば伸びる、と思っていた。実際、この個性は僕の体に宿った“個性”だ。これについては否定のしようがない。

 

ただ、僕の知っている『不義遊戯』は東堂葵のものだ。そう思っていたし、今もそう思っている。だから、個性を鍛えてもなかなか伸びなかったとすれば? 東堂葵のものではない、別のものとして、僕のものとして認識したとすれば?

 

これが“術式”であると考えればどうだ? 術式ならどうすれば伸びる?

 

術式の強化に必要なもの、術式と向き合うこと、黒閃の発動、それから‥‥

 

「自由に、術式の解釈を拡げること」

 

位置を入れ替えろ、ただ、自分が入れ替えられると思ったままに! 今の自分なら『怪我をしている』という概念すら入れ替えてみせろ! 欠損部位を、入れ替えてみせろ!

 

手を合わせる、強く、強く。僕には東堂葵ほどのパワーはない。スピードもテクニックもあのハイセンスゴリラには負けるかもしれない。

 

ただ、僕の方が欲への執着は凄まじいぞ、今は僕が主だ。従え!

 

「不義遊戯!」

「へ?」

 

手を叩く。そして、位置を入れ替える。個性が発動したことは、右足を貫くような痛みによって知らされた。なるほど、足を失うってこんな感じか。視界が傾き、体が重くなる。視界は虚で、何も見えない。ただ、みんなの声だけが、遠のいていく音の中に聞こえた。

 





最後の最後まで誰を犠牲にしようか考えてました。ちなみに耳郎ちゃんが今一強ですが、彼女がヒロインであると決まったわけではありません。そこはよろしくお願いしますね。

皆さんの応援、感想は全て読ませていただいております。誤字脱字に関しましてはまだ編集できていませんが、いずれ纏めて直します!

貴方たちの応援で、私は頑張れます。ありがとう。これからも譲葉共々よろしくお願いします。


1/28追記
こちら! んこにゃ様によるファンアートです! 曇らせ好きのみんな〜! 覚悟して開くように! 私は、死ぬかと思いました!!
https://x.com/nkonyasabu/status/1751517419234087266?s=46&t=HealvAsFx8LO1EJokz7uiw

映画編を入れるかどうかのアンケートをさせてください!

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