個性『不義遊戯』でいく! 僕の曇らせアカデミア!   作:波間こうど

84 / 90

お待たせしました〜!



★託すものは

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

ずっと殺してやりたかった。

 

この殺意は地獄から湧き上がってきたもので、この地獄を生き残ってきた、怨念と復讐心だけで今まで動いてきた俺が、俺だから、持ち続けた悪意で、殺意だった。

 

本当は焦凍を……弟を殺してやるつもりだった。アイツが、オトウサンにとって何よりも大事なアイツが俺の手によって殺されることで、オトウサンの人生の一番を失敗作が壊してやることで、殺してやることでようやく俺の目的が達成できると思ってた。

 

だけどそのうち、それよりも俺がアイツから全部奪うんじゃなくて、アイツの全てを奪い尽くした先で、俺がアイツの目の前で奪われた幸せを見せつけてやる方がいいんじゃないかって思うようになった。俺を失ったことを少しも後悔していないだろうアイツに見せつけてやるのが一番の苦しみになるんじゃないかと思った。

 

アイツの顔に雲をかけて、誰よりもアイツの灼熱の炎を身に受けてきた俺から、地獄と幸せの線引きをしてやろうと思った。引導を渡してやろうと思った。

 

そうしてやろうって、そうするのが当然の権利だって、あの馬鹿が笑ってたから。

 

『荼毘くんは考えなしだよねぇ、いい? 殺すのは一瞬だけど、壊すのは永続なんだ。できる限り一生自分が興奮できる壊し方をしてあげないと! 思い出すだけで頬が緩むような最適解の壊し方こそが、僕たちにできる最大限の復讐なんだよ!』

『うわ、それお前の性癖だろ譲葉。荼毘に押し付けてやるなよ』

『はぁ? 違いますぅー、こんなの性癖と言うにも優しすぎるでしょ……え? なんでみんなそんな目で見るの? ちょっと、ねぇ』

『ゆずくんの性癖はおしまいなのです』

『そんななんかのタイトルみたいな……僕の性癖のどこがおしまいなんだ!』

『まぁ、私はおしまいにされちゃったんだけどね。みんなもそうでしょ?』

『おいこっちに振ってんじゃねぇよ』

『飛び火だ飛び火だ』

『おい、舞妓がキス顔で近づいてくるぞ!』

『そいつぶっ飛ばせ! 近くでいいぞ!』

 

あぁ、俺は幸せなんだ。なんでこんなに幸せなんだろう?

 

絶望を味わったからか? だからこんなぬるま湯みたいな場所が幸せに感じてしまうのか? 俺が壊れてしまったからか? それとも別の理由でもあるのか? 

 

俺が死んだあの日から、俺はただ復讐の炎だけを胸に燃やして生きてきた。それだけでしか生きていられなかった。それだけが生きる理由だったし、生きるための糧だと思っていた。

 

それなのに、全てが浄化されるような、こんな、家族みたいな居場所が見つかって。

 

『おい荼毘、たまには付き合えよ』

『弔くんがみんなでトランプ大会しよって!』

『死柄木は舞妓に負け続けてるから練習したいだけだぞ』

『あんまりそういうこと言うべきじゃないとおじさん思うぞ?』

『余計なお世話はヴィランのいいところだ! うるせぇ! ヒーローのだろ!』

『トゥワイスちゃん煙草切らしてるから調子悪いのね』

『なんでマグ姉はこいつの調子なんてわかるんだよ……』

 

そうして、居場所が見つかってから、俺の炎は強くなって。何もかもを燃やすほどに膨れ上がって。

 

『燈矢くん!』

 

あの優しくて、俺のことを見てくれる瞳のせいで、俺は──

 

 

  × × ×

 

 

黒霧のワープを通り、舞妓に後を任された俺はあんなにも会いたかったオトウサンを目の前にして心が逸らないことに気がついていた。本当に気が狂うほどに会いたかったはずなのに、こんなにも食指が動かない。

 

「……ハハ、なんだよ。その目」

 

念願のはずの父親との対面で、俺は口から溢れる笑みすら隠そうとせずにそう尋ねた。あまりにも、目の前で悔しそうに目を曇らせる父親があまりにも哀れに見えたから。

 

つい最近に思えるけどほとんど一年くらい前に、初めて出会った敵連合に、俺はきっと心を奪われてしまったのだ。

 

俺と再会することを喜ぶんじゃない、俺のことを後悔の目で見てくる父親が、それに心から会いたがっていた自分が、滑稽に見えたから。だから、アイツらのことを思い出した。あの、俺のことを肯定する天国のようなぬるま湯を……。

 

「燈矢……もういいんだ。大丈夫だから……俺が側に居てやる。地獄には俺がついていく。だから、もうやめるんだ。これ以上……」

 

オトウサンが何かを噛み締めるように言った。俺のことを憐れむような視線に腹が立つ。

 

地獄?

 

なんだそれ。

 

それは……この世でないならどこにあるんだ?

 

俺が生きてきたここが地獄じゃないならどこにあるんだよ地獄なんて。なぁ、教えてくれよ。

 

パンチの打ち方よりも、必殺技の打ち方よりも、そんなことが教えて欲しかったんだよ。

 

俺は普通すら知らないんだ。

 

「話のわかんねぇ奴だな……俺はもう止まれねぇし、止まるつもりもねぇんだよ。わかんねぇのか? 分かってるよな? 分かった上で知らねぇフリしてるんだもんなァ!!」

「燈矢……!」

「なら教えてやるよ! エンデヴァー!!」

 

拳は硬く握られている……はずだ。なにぶんもう感覚がない。痛み続けていた体はいつの間にか痛みを感じなくなった。あんなに痛んだ、重い体はもうその役割を放棄したと言わんばかりで、俺の役割がもうないことを示している。俺の役目はもうない。命の灯火は消える。

 

もし、俺が死んだらアイツは泣くだろうか。怒るだろうか。それとも笑ってくれるだろうか。……全部してくれそうだな。

 

俺が死んだことには泣くだろう、トゥワイスが死んだときのように。俺が死んだことに怒るだろう、マグネが死んだときのように。

 

ただ、俺が苦しんでいることから解放されたという事実に笑って、俺の最期を「荼毘くんらしいねぇ」とヘラヘラしてくれるだろうことが、こんなにも簡単に予想できるだなんて、あのタラシに随分と絆されたものだ。天職ホストかキャバ嬢か宗教家だろアイツマジで。

 

笑顔が脳裏に浮かんで頬が綻んだ。それに合わせて炎の出力が上がる。

 

「俺は復讐も! 人生も! どうでもいいんだよ!」

 

焔は猛って止まらない。蒼い焔は身をこがし、そして白く焼けていく。

 

「俺の人生の意味はアイツの行く末にある!」

 

絆されたから。どうしようもなく燻るこの心の炎に燃料を注いでくれた彼が、ここまで付き合ってくれた彼が、作りたい世界のために。目指したい未来のために。目的なんてとうの昔にドブに捨てた。

 

家族も、復讐も、オトウサンもどうだっていい。あの馬鹿の目的のためなら。

 

そのためならもう、命なんて惜しくないんだ。

 

「赫灼熱拳!」

「燈矢! そんなに出力を上げたら……!」

(カイ)!!」

「!?」

 

出力を上げ続ける体、その焔を絞る。

 

体の内側で静かに優しく灯る氷の波動に、添える。狂わないように、崩壊しないように。だけど、その絶大な破壊力を留めるように。

 

気づいていた。丁度半年ほど前だろうか。

 

自覚してからは早かった。一度は大きく絶望した。なんで今だったんだと心の底から苦しんだ。暴れて仲間に迷惑をかけたこともある。荒んだ心は結果として、今だったからこの力は開花したのだと気づいた。

 

体は理解していたのだ、復讐の炎が消えるほどに、この蒼い炎が落ち着くほどに、心の中に、心臓に発露した小さな氷の結晶を。

 

俺がオカアサンの子でもあるということを。

 

「プロミネンスバーン!!」

 

ガスバーナーを使ったことがあるか? 原理としてはあれに近い。ガスの出力を上げて、炎を絞る。そうすればミサイルのエンジンのように絞られた焔は火力を下げて、そして出力をさらに一点突破で上げていく。本来は機動力を上げるためにお父さんが足で燃やしているもの、その亜種だ。

 

「お父さんの真似だけだと思ったか!?」

「燈矢……!」

「いいことを教えてやるよ! 過去は消えない!」

 

オトウサンが必死にガードしてる。その様を見て、昔相手をしてくれていた時のことを思い出すのだから、どれだけこの一年で塗り替えられたとしても、まだまだ俺の心の深いところはあの頃に取り残されているのだろう。

 

過去は、消えない。

 

消えてなんてくれない。どこまでも重く、深くのしかかって、俺たちの未来を犯す。でも、それはどうしようもないことだから。今更変えることはできないから。

 

「だから! 未来を塗り替えるんだ!!」

 

これも受け売りだけど。

 

俺の拳がオトウサンを掠めた。蹴りなんかを見舞ってやりたいけど生憎俺にはもうその足がない。

 

……なぁ、舞妓。俺さ。言いたいことがあるんだよ。

 

本当に感謝してるんだ。

 

こんなに感謝したことなんてない。俺は本当に、心の底からお前に感謝してるんだぜ? 知ってるかよ。

 

家族が居場所だった。そこが無くなって、孤児院を焼いて、流れに流れて辿り着いたのはお遊戯会みたいなあの場所だ。居心地が良かった。ぬるま湯だった。こんなところに浸ってたらイカれちまった心もいつかは治っちまうんじゃないかって恐怖心が顔を出したのは、いつ頃だったろうか。

 

いやきっと、初めから。

 

『荼毘、本名は……そんな顔するなよ、いいよ。まだ内緒にしててあげる』

 

全部手のひらの上だったのかもしれない。

 

あんな場所が終の住処になるなんて思ってもみなかった。誰にも心を開くつもりなんてなかったのに気がつけば俺が誰よりも絆されてたんじゃねぇかってくらいに入れ込んでた気がする。……全員、同じことを考えてるんだろうけどよ。

 

俺は自分の目的を果たす。自分の想いを果たす。

 

それが敵連合における絶対で一つだけのルールだ。

 

自分の心に正直であれ。

 

それだけが俺たち人格破綻者を繋ぐルールで。お前が俺たちの首につけた絡みついて、纏わりつく首輪だ。

 

足元もおぼつかない俺たちのことを引っ張ってくれるリードだ。

 

そんなものに惹かれて、俺たちはここまで歩いてきた。まるで自分の意思かのように。お前の掌の上だったんだろうな。知ってるよ。

 

それでもいいんだ。俺の目的は目の前にある。

 

「灼け焦げろ……! 轟炎司!!」

「……!」

「灰になって!! 朽ちろよ!! 俺たちの……! アイツらの未来のために!!」

 

焔は確かにエンデヴァーを貫いた。脇腹を焼き焦がす感覚がもう感覚すら失った腕をよじ登ってくる。その感覚は甘美に過ぎて、脳みそを堕落させそうなほどの蜜だけれど、それに酔い痴れる余裕はない。

 

「ここで殺す! 死ね!! ヒーロー!!」

「……ここじゃダメだ、燈矢。俺と一緒に、地獄に堕ちよう」

「……は?」

 

ガシリと、その両腕で体を締め付けられた。体を微塵も動かすことができないその両腕に締め付けられながら腕も引き抜くこともできない事実に気づく。

 

コイツ……! 脇で俺の腕抱えてやがったのか……!

 

朦朧とした意識が覚醒していく。感覚としてはもう汗腺なんて焼き切れているだろうが、冷や汗を流しているような錯覚に陥る。

 

見えなかった腕は、確かに感じた手応えは、腕の感覚すらなくした俺の脳に到来した錯覚だった。体を貫いたと思ったのに……!

 

「ここで俺とお前が火力を上げると周りのヒーローに被害が出る。決着は上でつけよう」

「……ッ! 離せ!」

「離さない。もう二度と」

 

正気を失いそうなほどの灼熱が体を焼いている。お父さんだって、もう気を失ってしまうほどだろうに。

 

「熱烈なプロポーズ悪いんだけどよッ……」

 

俺の意識すら飛びそうな熱の中で、なんとか発狂してしまいそうな意識を押さえつけて俺は笑った。

 

そうだ。俺は負けない。

 

こいつを殺すまで、死ねないんだ。

 

「その席はもう埋まってんだワ!!」

 

体に沿わせろ! 死にかけの体に、僅かながらに灯ったオカアサンの個性に!! 炎を!! 復讐の焔を!! 二つの個性を混ぜ込んで、無理矢理にでも解放しろ!!

 

「燃えろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

「燈矢ッ…………ッ……グゥ…………!!」

 

滾らせろ!! 照らせ!! 焚べろ!!

 

どこまでも燃やし尽くす灼熱の炎に沿って、自分の内側の焔に、怒りに、復讐に、ただ憎悪という燃料を焚べて、燃やし続ける。

 

もうこれで終わってもいい。もうここで死んでもいい。それでも、いや、だからこそありったけを寄越せ。ありったけをここにもってこい、全てを満たして、全てを満足させて俺が死ねるように!!

 

自分の心に正直であり続ける。ただそれだけのためだけに、俺は焔を燃やし続けた。

 

自分の肌と焔の境界線すらも最早分からない。オトウサンと抱き合ってるんだか、抱き合っていないんだかも分からない。ただ、俺たちは宙に浮いてきて、お互いがお互いを……いや、俺が一方的にオトウサンのことを燃やしていることだけは理解できた。

 

オトウサンは俺への敵意はない。ただ、俺のことを救いたい一心で個性を使ってる。……この焔じゃ俺は傷つかない。なのに、どうしてここまで熱いんだろうか。

 

さぁ、フィナーレだ。復讐のために黒い闇から生まれた荼毘は、世界を燃やす憎悪となって。世界を作り変えるのだ。

 

俺の復讐の焔は、全てを燃やして灰に──。

 

そんな最中だ、もう書き換え完了直前だった。

 

 

……そして、それは、突然現れたのだ。

 

 

氷が俺とオトウサンの体を包む。包んだ瞬間から蒸発していくが、構わないというように、上から上から、氷が重ねられていく、ミルフィーユのようだ。溶けて蒸発していくだけの水を使ってさらに強固な氷を作っていく。

 

No.1ヒーローとその息子の炎をどこまでも抑えるその氷に、俺は冷たさとは真逆の感情を抱いて。

 

氷の発生源を確かめるために視線を下に向けた。

 

熱気に歪み、死に近づき霞む視界。そんな視界でもわかるほどの近くに、三つの影が見えた。三人の姿、変わってしまったけれど、尚、変わっていない三つの姿。人影、俺の大事な家族の姿。

 

「オカアサン……なつくん、ふゆみちゃん……」

「お前たち……! 何をしている! 焼け死ぬだけだ!! 離れていなさい!!」

「貴方と燈矢もそうでしょう……!!」

 

家族が、俺を包む。氷が俺を包みあげる。炎の出力が下がっていくのがわかる。三人分の氷で、俺の炎が弱まっていくのがわかる。冷えていく頭は、体が温められていくという矛盾を錯覚していた。

 

胸に湧き上がった感情を否定するように無理矢理俺は口を開いた。ほとんど燃焼して、この場にないであろう空気を一気に吸い込んで、カスカスの声を使って敵意を向ける。

 

「……ハハッ! いいねぇ! いいじゃねぇか!! 轟家末っ子以外大集合ってか!? このまま焦凍残して無理心中と行こうぜ!! 一家団欒なんて久しぶりだなぁ!? 焦凍が生まれる以来だろ!! 積もる話もあるんだからさぁ!! お互いにあっちで飽きるほど語り尽くそうぜ!?」

 

炎の出力を無理矢理あげるように体に力を入れる。無理矢理声を上げる。俺の決意が鈍ってしまわないように。彼女たちの顔を見たらわかる。あの顔は、俺のことを──。

 

体が端々から崩壊していってるのがわかる、それでも、今のありったけを寄越せと、炎をつける。つける。つける。燃やす。燃やす。燃やす。

 

最期の悪あがきとしての焔を灯す。

 

「さァ! 一家心中だ! とっととくたばろうぜ!!」

「一家って言うには一人足りねぇんじゃねぇのか!?」

「なつくん野暮なこと言うなよ!! 誰が居ようが一緒だろうが!! これで家族だ!」

 

焦凍なんていらない。いなくていい。あいつは嫌いだ。俺の大事にしてたものを全部持っていくから。個性も、家族も、舞妓も。なぁ? 嫌いにならない理由があるか?

 

「それにアレは今ここには居ない! それが答えだろう!?」

「悪いけどよ!! クソ兄貴……!!」

 

なつくんが、いつも俺と遊んでた笑顔が可愛いなつくんが俺のことをクソ兄貴と呼んだ。

 

それから顔に、意識を保つのも厳しいであろう熱波の中で、顔に笑顔を貼り付けて、高らかに。

 

「うちの弟舐めんな!!」

 

その宣言が灼熱の炎の中でも煌びやかに浮かび上がって聞こえてくる。自信満々なその言葉。その言葉の意味。

 

その期待を背中に背負って。

 

 

それは流星のように、現れたのだ。

 

 

氷が飛び出した。俺の体を纏うなんて生やさしいものじゃない。俺の体を丸々、オトウサンごと仲良く覆い尽くすような氷。この氷を俺は見たことがある。雄英高校の体育祭で? それとも林間を襲ったとき? それとも……生まれてきたときだろうか。

 

こんなのあの三人にできないのは知ってる。このレベルの氷が扱えるのなんて一人だけだ。

 

俺の炎をくすませるのも、輝かせるのも。お前だろ?

 

「燈矢ァァァァァァァァァ!!」

「来たか……焦凍ォォォォォォォォォ!!」

 

あぁ、来ると思ってたよ。来るって分かっていたさ。だってお前はヒーローだから。舞妓と同じヒーローだから。

 

アイツが俺のヒーローであるように。お前は轟家を救うヒーローなんだろ? ヒーローは必ずやってくるんだ。俺たちのことを止めにやってくる。俺たちのことは助けてくれなかったくせして、至極当然の顔をしてやってくる。俺たちを咎めるために。

 

氷が体を満たしていく。体を覆っていく。俺とオトウサンの二人の体すらも、たった一人の焦凍の氷が覆っていく。俺たち二人の火力にすら勝る圧倒的なまでの質量で、俺たちの隔絶した関係性に橋でもかけるみたいに。

 

器用に、俺の体を覆っていく。狂わせていく。

 

ただの氷が炎を落ち着けていく。火力だけなら敵連合でもトップの俺と、No.1ヒーローの炎を、落ち着けていく。なんだコイツ、どんな出力で氷出してるんだよ……! 舞妓の情報よりも成長してんじゃねぇか……!!

 

「クッソ……! なんでこいつ一人に止められそうになってんだよ……! 猛れよ!! 足りねぇだろうがッ!!」

「もう、誰も悲しませない! 誰も、どこにも行かせない!!」

 

焦凍の氷が分厚さを増す。硬度が上がっていく。透明な氷は俺の炎を、復讐を、恩讐すらも打ち消して。

 

「これでようやくなれるんだ、なりたいもんになるんだ……! これは!!」

 

氷は、輝きを増して。ダイヤモンドダストのように、祝福のように散って。

 

 

「俺の個性なんだ!!」

 

 

誰よりも恵まれていて、誰よりもヒーローに近いはずの男は、その右手を──。

 

大氷海嘯(だいひょうかいしょう)ッッッ!!」

 

大きく振りかぶった。

 

全部、目に見える全てが凍りついて、全てが悴んで、全てが見るも無惨な白色へと鈍化して。

 

俺の炎は全て凍てついた。

 

体の自由さえも利かない。動けないどころか、何もできない。俺の全てが凍りついたみたいで、息をするだけでも内側が壊死して行くのがわかる。急激に熱された後に急激に冷やされたんだから当たり前か。

 

「みんな……はぁ、いたのか……良かった。燈矢兄は、火力あげてたから……俺だけじゃ止められなかった……かもしれねぇ」

「焦凍……」

 

指さえも動かせなくなって、体も鼓動も息も絶え絶えになって、ようやく、やけにハッキリとみんなの顔が見える。

 

オトウサンの曇った顔が、お母さんの嗚咽が、冬美ちゃんの火傷の痕が、夏くんの苦しそうな顔が……焦凍の安堵した顔が、見える。

 

「……ッチ、あぁ──」

 

こんなに簡単な話だったのか。ぶつかり合っておけば、話をしておけば、解決したのだ。終わった話だったのだ。それを後回しにしたからこんなことになっていて、こんなことになってしまっては、もう取り返しがつかないのだけど。

 

「火力……上がらなかったな」

「アレより上があんなら……俺たちに勝ち目なんてなかったよ」

「よく言うぜ……俺なんて、お前の足元にも及ばねぇよ……舞妓は……」

 

その先の言葉を、俺は惜しんだ。口をついて出た愚痴のような言葉が、あの馬鹿に、この愚弟に聞かれることを拒むように喉につっかえる。

 

……いや、これを、最期の餞に。

 

「舞妓が、特に警戒するよう俺たちに命じたのは三人。緑谷、爆豪、それからお前だ……お前たちだけは……別格だってよ」

 

焦凍の顔が少し綻んだように見えた。それも一瞬で引き締まる。俺のことを警戒しているらしい。まだ隠し球でもあると思われてるのだろうか。ならお生憎様だ。

 

「そんな目で見なくても動けねぇよ。指の一本も動かねえし。自分のことは自分でわかる。ただでさえ限界だったんだ。無理してたガタが一気に来ただけだ。お前に負けたわけじゃない」

「…………」

「そんな顔すんなよ。ここまでしてようやく俺は止まるんだからよ。お前らの誰かが手を抜いたら俺は止まらなかった」

「……なら、なんで火力を上げなかったんだ」

 

焦凍の言葉に眉がひくつくのが分かった。お前でもわかるよな。俺も言ったし、それに、あれくらいで止められるなら舞妓が俺にここを任せるわけがないとでも思ってるのか? 正解だよ。

 

でも、その答えについても残念ながらわからねぇ。なんで俺は敵連合でも随一の火力を上げ切ることができなかったのだろうか。

 

「……さぁな、俺にもわかんねぇよ」

 

結局、なんで街一つ半壊にできるような俺の炎は火力を上げ切れなくて、全てを燃やす復讐の炎は、どうしてここまで滾り切らなかったのか。

 

そんなこと俺にだって分からない。

 

「……クソ兄貴」

「なんだよ。夏くんは反抗期か? 昔みたいに燈矢兄って呼べよ」

「なんで……!」

 

涙で瞳を潤ませながら、夏くんはやけに声を振るわせながら俺を見下ろした。なんだよ。今更何か言うことでもあんのか。

 

「…………なんで、そんな満足した顔してんだよ」

 

満足? 俺が?

 

氷に映る自分の顔を見る。焦凍の氷は俺の顔をしっかりと映していた。

 

……………………………………………………あぁ、そうか。

 

「……そりゃ火力が上がらねぇ筈だ」

 

敵わないはずだ。俺はもう、満足しちまってたんだ。

 

『燈矢! あと任せた!』

 

だって俺の復讐の焔はもう──。

 

「……焦凍」

「…………」

「お互い悪い男に捕まっちまったな?」

 

俺の家族はもうここにはないけれど。

 

たった一つの、人生でただ一つの居場所になってくれた場所で、俺の命よりも、復讐よりも大事な存在にいつの間にかなっちまってたアイツが、今際の際で教えてくれたんだ。趣味って遺伝すんだな。

 

「燈矢にい」

「あ?」

「男の趣味悪いな」

 

そりゃ褒め言葉だ。俺と焦凍がくつくつと笑い声を上げる。オトウサンもオカアサンも、なつくんも、ふゆみちゃんも、みんなポカンとしてるけど俺らだけが伝わって、だけどこの笑顔だけは伝播して。

 

……暖かい家庭なんてものは明らかに遠くて、どこにもなくて、それでもなお、家を飛び出してまで手に入れたあの感情は。

 

俺を満足させうるものだったのだ。

 

焦凍たちが俺の体を包んでくれた氷を無理矢理割るように少しだけ力を込めた。焔はもう、灯火くらいのサイズだったけれど、上がる煙は線香の先から漂う程度のものだったけれど。それで十分だった。

 

「……先に逝く。じゃあな、譲葉」

 

初めてあいつの名前を呼んで。

 

まるで涙でも伝うように、胸の氷が砕けて爆ぜた。

 

身体中を伝う炎は歌うように、焼香の火となって燃えて消えた。

 





どうも皆さんいつも拙作を読んでいただきありがとうございます。波間です。今回は少し真面目な後書きを書きます。

最近投稿が遅い理由についてね、言い訳をしておこうと思いまして後書きを書いております。興味のない方は読み飛ばしてくださいね。そこまで大層なこと書かないので。でも長いからね。馬鹿は要約できないんだなぁ。

さて、二年前になんとなくの思い付きで、正月休みの暇な時間に書き始めたこちらの作品はありがたいことにたくさんの反響をいただきまして、多くの方に読んでいただいた挙句、ファンだよって言ってくれる方や、専属の絵師や、生き甲斐とまで言ってくれる方まで現れました。感謝の念に絶えません。マジでありがとう。感想を読み漁っては喜ぶモンスターになってます。

たくさんの人に読んでもらって、評価していただきましたこちらの作品はもうすぐ完結してしまいます。ですが、その前に言い訳だけ述べておきたいと思ったわけです。

個人的には段々と期待に沿って面白くしていきたい所存なのですが、何分物語の落としどころであったり、物語の展開であったりがありまして、それでいて低クオリティになってしまうことは避けたいよね〜、みたいな気持ちもあり、書いてはいるけど、ストックはあるけど出さない。みたいなことが続いておりました。

『僕のヒーローアカデミア』という作品の完成度が高いから、できる限り作品を損なわずに面白いものを足していきたいって考えるのは二次創作を書く人ならありがちな悩みだと思います。クオリティ下がるくらいなら出したくないって完璧主義になってたわけですね。

その上ちまちまと書いていますが昔ほど時間が取れるわけでもなく……ぶっちゃけ更新頻度が最初期に比べますと大分下がってました。これに関しては心待ちにしてくれている人は本当にすいません。

生活するには働かないといけないし、大学は卒業しないといけないし、自分の夢も叶えたいし……二次創作を書くのは楽しい趣味の一つですが、これを嫌々書くのは違うよなと、後回しにしていた節はあります。ですが最近心無い言葉が多くてね、僕は別にいいんですけども、無料で挿絵を提供してくださってる絵師のんこにゃさんにまで矛先を向けるのはダメですよ。それもこれも口だけで行動に移してない僕のせいですが。文句言うなら僕だけにしてください。僕が悪いので。

オリジナルは書いていますがここではなく賞への応募作を書くことが多く、二次は書けていませんでした。それで皆さんが焦らされるのもダメだなと思うし、口だけ野郎認定されるのも癪なので、これからは心を入れ替えて頑張っていきます。

ということで、完結まで基本的にノンストップで週一投稿していきます。マジで忙しくてダメな週とか、んこにゃさんも多忙な方なので無理な日とかもあるかもしれませんが、これからも変わらず愛読のほどよろしくお願いします。

頑張るぞー!! 以上!! 言い訳でした!!

映画編を入れるかどうかのアンケートをさせてください!

  • 入れたのが見たい!
  • 本編だけ追いかけるのでOK!
  • アンケート結果が多い方で!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。