個性『不義遊戯』でいく! 僕の曇らせアカデミア!   作:波間こうど

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じゃがりこにハマってるんですけど緑のロング誰か僕の家にダースで輸送してください。


★溢れたのは、心。

 

【ヒミコside】

 

「ヒーローは殲滅する!!」

 

仁くんの個性で、ヒーローたちを押し潰している。圧倒的な戦力差で、言葉の通り無尽蔵に増えていく仁くんはヒーローたちからすれば数の暴力そのもので、一生懸命止めようとしているみたいだけどその全てが無駄になるのなんて言うまでもない、わかり切ってることだと思う。ゆずくんでも戦いたくないって言ってた相手、それがこの個性の真骨頂。

 

哀れな男たちの行進(サッドマンズパレード)

 

倍々方式で増えていく仁くんの個性。自分を増やすことができるようになった彼は文字通り無敵だ。どんな相手でも物量で抑えることができる本当の意味での無法の技。この状態の(じんくん)を抑えられるのは弔くんとゆずくん、デクくんと……エンデヴァーくらい? かな。あとはAFOさんも抑えられるとは思うけどあんまり興味はなさそう。止めるより誘導の方が上手いだろう。自分の嫌いなものにぶつけるとか躊躇なくすると思う。

 

「ヒーローは殲滅する!!」

「ヒーローは殲滅する!!」

「ヒーローは殲滅する!!」

「ヒーローは殲滅する!!」

「ヒーローは殲滅する!!」

「ヒーローは殲滅する!!」

「ヒーローは殲滅する!!」

 

どこからも仁くんの声がする。もう、生では聞けない声がする。優しく笑ってくれる仁くんはもういない。この世にはいないのだ。

 

大好きだった。あの優しい声が、私がイタズラしたりすると「トガちゃんダメだぜ?」って笑ってくれる顔が。いつでも笑わせてくれるところが。私がゆずくんに甘えてるときに他の人を近づけないようにしてくれている優しさが、どこまでいっても好きだった。優しくて、優しくて仕方ないのが彼だった。

 

そんな彼をヒーローは殺した。

 

害悪だったから? ヴィランだったから? なんでもいい。危険だったから? 敵だったから? どうだっていいんだ。

 

 

「なんで……」

 

仁くんのことは大好きだ。でも、ゆずくんみたいに個性が使えない。いや、使えている、ただ()()()使()()()()()()()()()()()

 

なんで? 仁くんの個性なら増やしたみんなの個性も解放できるのに。なんで荼毘くんを、弔くんを出しても個性が使えないの? なんで、ゆずくんを出しても個性が使えないの……!?

 

ゆずくんのことは大好き。個性も使える。変身した時のムーブすら完璧に真似出来ていると言ってもいい。ゆずくんから太鼓判を押されている。仁くんのことも好き。個性使えるし、変身した私の姿を見て「完璧だと思うぜ! 間違ってる!」って言ってくれてた。燈矢くんも、弔くんも上手にできてる。2人とも笑いながら褒めてくれてた。何がダメなの? 何がおかしいの……! 何もおかしくない! 間違ってない! 私は私の好きになれる! この場所でなら私は私のままでいられる!! 私の全部をこのために捧げたっていい!! なんで……!!

 

ヒーローたちを蹂躙する仁くんをどこか他人事のように眺める視点の中で、私は自分の個性と自分がわからなくなっていくのがわかった。今すぐにゆずくんを助けに行きたい。今やってることはおかしいこと? いや違う。ゆずくんの助けにきっとなってるはずなんだ。今私がしてることはゆずくんのことを助けてる。ゆずくんの支えになってる。

 

今までは、血が出てる、血に塗れた人が好きだった。

 

今、好きになってる彼は血を流してるところなんて碌にみない。いつもケロッとしてる。血を流す時はいつだって作戦のため。

 

そんな彼のことが好きになった。

 

きっかけは、初対面だったかな。でも、明確に好きになったのは覚えてる。

 

『ヒミコちゃんは血が吸いたいんだよね』

『え、うん……』

『僕のでよかったらいる?』

『え……?』

 

 

【挿絵表示】

 

 

なんてことない。至って普通の会話の流れだった。時期としては敵連合がまだ死穢八斎會と仲良くなってない頃だった気がする。まだまだ最初期。彼はゲームでスピナーくんをボコボコにしながらヘラヘラ笑って言った。その言葉は、肩に寄りかかるようにしてゲームの画面を見てた私が思わずガバってゆずくんから離れてしまうには十分すぎる衝撃だった。

 

『な、なんで……? やじゃないの……?』

『? だって君の好きなことを肯定するって言ったじゃん』

 

何がおかしいの? って、彼は不思議そうな顔をしてた。

 

私のしたかったこと。好きなこと。今までたくさん止められてきたその好きなことを、彼はあっけらかんと、何も考えてなさそうな顔で肯定した。

 

『で、でも! こんなのみんな変だって……!』

『変? わはは! そんなこと言ったらそこで一生懸命レースゲームやってる弔くんなんて僕に将棋で一勝もできてないのに必死に向かってくるんだよ? そっちのが変じゃん』

『おい、半周差つけときながら余裕ぶりやがって……今からアイテムボックスでロケット出してやるから覚悟してろよ……』

『ほいサンダー』

『お前マジでさぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!』

『舞妓こっちにも飛び火きてんだけど!!』

『あいつあそこまでサンダー運んだのか……?』

 

片手間でみんなを半周以上の差をつけて勝ちながら、ゆずくんがこっちに視線を向けた。

 

その青い瞳がこちらを捉える。

 

綺麗だと、思った。

 

『君が幸せになること。君のしたいこと。全部肯定する。言ったでしょ? 生きづらい世の中だ。僕だけは、全部肯定するって』

 

彼がシャツの胸元をぐいっと引っ張りながら首筋を見せてくれた。綺麗で、ついうっとりしてしまうほどの真っ白な首筋。シミのひとつもない。本当に私と同じ赤い血が通っているのか少し不安になるほどの白い、白い肌。

 

『……………………』

『おい、舞妓……』

『荼毘』

『……ッチ、はいはい。お前がそう言うんなら止めやしねーよ』

 

荼毘くんが弔くんに止められてる。そんなのどうでもいい。今、私の欲しいものが目の前にある。

 

『……はぁ、はぁ、はっ……』

 

その優しい目が私を見つめてた。

 

おかしくない。何もおかしくない。哀れんでもない。蔑んでもない。彼は今。

 

私が求めてるから当然という気持ちだけで差し出してる。

 

『あ……』

 

彼は、私のことが大好きだから全てを差し出してくれてるのだ。私の全てを理解した上で私のことを愛してくれているのだ。

 

こんな人いなかった。私のことを知って、その上で理解しようとしてくれる人。私に血を吸っていいよって言ってくれる人なんていなかった。

 

『あ、あれ? なんで、涙が出るのです……』

『なはは、泣いちゃった。よし! ヒミコちゃんアーンして!』

『?』

 

私が口を開けたら彼は私の口に自分の指を噛んで血を流して注ぎ入れた。温かい、温かい、彼の味。

 

『いつでも言ってね。僕たちは仲間なんだから』

 

自分のことなんてなんてことはない。自分なんて度外視して、私のことを愛してくれた。誰も、誰も知ろうともしなかったのに。私のこんなところ、みんなが怪物だって、お前はおかしいんだって言ってたのに。オカアサンとオトウサンは「人間じゃない子産んじゃった」って言ってたのに。君だけはなんてことないって、おかしいことなんて何もないんだよって笑ってくれたんだ。

 

私のことを受け入れて、全部知った上で愛してくれた。

 

 

そのことに私がどれだけ救われたのか。

 

 

貴方にはわからないかもしれない。でも、そこで、私は確実に貴方に惚れちゃったんだ。どうしようもないほどに、常識や理解の外側で、誰も祝福してくれない本当の初恋を私はあの時、貴方にしたんだ。

 

渡我 被身子は舞妓 譲葉に恋をした。

 

虜になってしまった。夢中になってしまった。どう言い換えても貴方に恋をした事実は変わらなくて、心の底からの恋慕の情というものを貴方に向け続けているのは変わらない。想いを遂げても、貴方と肌を重ねても、益々募るばかりのこの愛情は、きっと、分不相応なものなんだ。それでもいい。神様は彼と出会うために、その帳尻を合わせるために、今までの私の人生を不幸にしてたんだから。

 

どこまで行っても平行線な考え方なんだろうなとも思うけど。それでも私は、彼のことが好きだ。その支えになるためならなんだってする。なんだってしなくちゃいけないのに……!

 

なんで、仁くんになれないんだろうか。

 

おかしい。私はみんなのことが好きなのに、愛しているのに、なんでこんなにも涙が出るんだ。なんで私は彼に成れないんだ。

 

「……ッ」

 

増やした荼毘くんも、弔くんも、ゆずくんでさえ個性を使用できない。これじゃあ増えてるだけ、量が増えることはとてもいいこと。彼我の戦力差をひっくり返すことができるから。ここで私が頑張らないといけないのは事実で、私はここで限界を越えなくちゃいけないんだ。

 

さっきチラリと戦況を確認した。ゆずくん1人でヒーローたくさんを相手してた。燈矢くんがいたけど、あれじゃあ長くは持たない。

 

私がしっかりしなきゃ。ゆずくんより一歳お姉さんなんだ。そりゃ他のみんなよりは年下かもだけど、私だって敵連合の一員なんだ。

 

「待って!!」

「……しつこいっ」

 

腕に巻き付いたロープと、大軍の後ろから聞こえてくる声。お茶子ちゃんの放ったロープが腕に絡みついて取れない。切り離すためにナイフを持った。

 

「去年の夏からの短い付き合いだけど……! 私結構考え変わったよ!!」

「遅いよ。ゆずくんだってそれくらいの付き合いだけど、私のことわかってくれた」

「遅くてごめん……! でも、見つけられた! 貴女は泣いてた! きっと、成りきれなかったからじゃない!?」

 

お茶子ちゃんが近づいてくる。私は、ロープを、切り裂けないでいた。このロープを切ってしまったら何かが変わってしまう気がして、なんだろう?

 

「“殺意”と、“想い”が傾いて! 純粋な好きだけじゃなくなってる!!」

 

殺意と想いが傾いて……

 

「ゆずくんへの好きが!! 全てを変えてしまってるんじゃないの!?」

 

……なにそれ、なんで、なんでそんなことを言われなくちゃいけないんだ。

 

「うるさいんだよ!! 麗日お茶子!! 貴女が私の!! 何を知ってるの!!」

 

仁くんたちで捕まえた梅雨ちゃんを掲げて、激昂してしまった。彼女は何も知らない。そんなことわかってる。私のことを私以上に知ってた彼とは違う。ゆずくんみたいに、私の全部を知ってくれてるわけじゃない。だから、何も知らない貴女に言われてもイライラするんだ。このムカムカは止まってくれないんだ。

 

「何一つ不自由なんてなかったくせに!! ルールにあってただけのくせに!! 生きやすく生まれただけのくせに!!」

 

腹が立つ。なんでゆずくんは無個性で生まれてきたの? 彼ほど優しくて、彼ほど強い人なんて他にいない。きっとどんな個性を手に入れたとしてもヒーローになってた。そしたら私と出会わなかった。そうだ、わかってるんだ。

 

彼はヒーローになるべき存在だ。こちら側じゃない。不自由で、ルールにあってなくて、生きにくく生まれてきた、ただそれだけのことだ。……ただ、その一点で彼はここまで生きにくい。彼はここまで不自由で、彼はここまで堕ちてきた。

 

私とおんなじだ。

 

ナイフを振り下ろした。つゆちゃんを八つ裂きにしてやるつもりだった。でも、無理矢理引っ張られたロープに引き摺られて体が宙に浮いちゃったから、ナイフは刺さらない。

 

「麗日ァァァァァァ!!」

 

梅雨ちゃんも奪い返された、私に切れるカードは? まだ残ってる? ……いや、違う。この怒りがどこまで持続する? わかってるんだ。彼女の方が正しいなんてことは。

 

「トガ……ヒミコちゃん! 聞いて!」

 

どこかで梅雨ちゃんの声がする。もう、今の私には見えない。

 

「私はルールを守ることがヒーローだと思ってた! 外れることがヴィランだと思ってた! でもね! お茶子ちゃんは、そんなルールじゃなくて、貴女と向き合おうとしてるの!!」

 

うるさい。

 

「ただ殲滅するより、ただ確保するより、困難な道だと思う。だから、お茶子ちゃんのこと、遅くなったかもしれないけど聞いてあげて……!!」

 

うるさい!!

 

ナイフを突き刺す。次は、外さない。お茶子ちゃんの脇腹に引っ張られる力を利用して差し込んだ。ナイフが肉をかき分けていく感覚が手に残る。こういうとき、ナイフは縦じゃなくて横の方が入るんだよって、教えてくれたのはスピナーくんだっけ。

 

いつだって思い出すのは普通を生きた十五年でも、逃亡生活をしていた一年間でもない。一年にも満たないような、淡いぬるま湯。

 

そうだ。私は敵連合を愛してるんだ。

 

「構造が違う!! 貴女たちの感じる祝福も、喜びも、私は感じない……! そっちの尺度に考えて私を貶めるな……!」

「ぐッ……でも! ゆずくんが、私たちの元から去った時、ゆずくんとキスしてたあの時の貴女は!!」

 

お茶子ちゃんが息を絞り出すように、言葉を叫ぶ。

 

「この上なく幸せそうだった!!」

 

その声が私にまで聞こえた。私が増やした仁くんを通してこだまして聞こえた? なんだかよくわからない。ただ、よく、本当によく聞こえた。

 

「うるさいんだよっ!!」

 

一般的な、普通な幸せを私が求めているとでもいうのか? 私が? 至って普通の幸せを求めているとでもいうのか。

 

まるで暖かな陽だまりのような──

 

「ッ、黙れぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 

ナイフに力を入れる。力が入った私の手に、彼女の指が触れる。『無重力』は、触れたら対象になる。

 

「……耳当たりのいいこと言って! 結局は檻に入れて死刑でしょう……!? でなければ仁くんみたいに殺すだけだ……!!」

 

殺されて、最後に私にもたれかかる彼の分身。その体温を覚えている。彼が最後までゆずくんたちの幸せを願っていたのを覚えてる。私が、私だけは!! 絶対に覚えてる!!

 

「勝つか負けるか!! 生きるか死ぬか!! 生存競争なんだよこれはもう!! こっから100年!! どちらが表舞台に立つのか!! ペラッペラの正義の押し付け合いなんだよ!!」

 

吠えた。人生でこんなに吠えたことなんてない。自分の全部が、目の前の彼女に向いていく。ゆずくんのことも、仁くんのことも、弔くんや、燈矢くんや、スピナーくん、コンプレスさん、マグ姉、誰のこともわかってないくせに!! 理解なんてできやしないくせに!!

 

「それは、“当たり前”だね……!」

「同情じゃないならエゴだ!! 互いにそうなら……!! 死ねよ、ヒーロー!!」

 

我々は大勢であるが故に(サッドマンズレギオン)

 

仁くんの個性で増やした人間を、全てぶつける技。個性なんて関係ない。ただ、相手のことを圧死させるためだけの技。

 

「圧し潰れろ!!!!!!」

 

私の気持ちだけで、世界だって変えられる。

 

他の何よりも私の気持ちだけが優先する。それが、私が教えてもらった私の価値だ。

 

「故意に人を殺めたことをなかったことにはしてあげられない……!! 貴女の考えの全てを、認めてはあげられないのかもしれない!! でも!! 貴女の気持ちだけは!! 肯定してあげる!!」

 

『君の気持ちは全部認めてあげる。全て肯定してあげる』

 

「好きなものを好きだって言ってる!! ゆずくんと話してる時の貴女の笑顔は!! とっても素敵だと思うから!!」

 

『笑おうぜ? ヒミコちゃん。笑った方が可愛いよ!!』

 

なんで、今。今なの?

 

なんで今、ゆずくんと彼女が重なるの?

 

「血なんて、いくらでもあげる! 貴女の普通になりたいんだ!! 私と恋バナしよう!! ヒミコちゃん!!」

「……ッ! あァァァァァァァァァァァァ!!」

 

わからなくなってきた。もう、私には彼女が私のことを知らないとは思えない。私のことを知ろうとしてると思う。だったら、それは、私のことを理解しようとしてくれてるその姿は、ゆずくんそのもので。

 

じゃあ、何もおかしくなんてないんだ。私のこの溢れ出てくるような気持ちは、間違ってなんてないのか。間違ってない? 本当に?

 

彼以外に頼ってもいいのだろうか。

 

ナイフは、彼女を突き刺さない。

 

綺麗な血は溢れない。

 

溢れたのは、心。

 

「……………………………………すぐ、好きになっちゃうの」

「うん」

「男の子も、女の子も、動物も、みんな綺麗な血が流れてるんだもん」

「うん……!」

「笑うなって言われたもん、羨ましかったんだもん……!」

 

ゆずくんの助けになりたい。なんで君の助けになりたいのか、私はわかってるよ。

 

君と一緒にいたいんだ。君と一緒に、君の側にいたいの。君が私のことを好きになってくれるなんて思わない。君が私のことをきっと、自分の目的のための手段の一つくらいにしか考えてないことを私は知ってる。

 

だけど、君が笑える理由になりたいの。

 

だって、君はまだヒーローに囚われてる。何よりも、心が善性に傾き過ぎている。私たちがヒーローを殺させたり、敵になった色んな人を殺すたびに、君がこっち側に来てくれているような気がして、歩み寄ってくれているような気がして、すごく喜んでたの知らないでしょ? 知ってた? 知ってたなら意地悪だ。

 

「ゆずくんは、笑ってる私を見て可愛いって言ってくれるの、血が欲しいって私が言ったらいくらでもあげるって言ってくれるの」

 

本音が溢れる。貴方は私の希望だ。私の理想だ。敵連合みんなの夢が姿を成したのが君なんだ。

 

だって、私を救ってくれるただ一人のヒーローなんだから。みんなを救ってくれるただ一人のヒーローなんだから。

 

「ゆずくんは、みんなが欲しい言葉をくれるの。みんなのことをたくさんたくさん、愛してくれるの」

 

溢れた心は止まらない。溢れ出して、止まらない。

 

「だから、“敵連合”なの。ここが、ここだけが」

 

ここだけが、君の居場所だったら良かった。

 

「ここが、私の“好き”に生きられる場所だったんだ!」

 

ナイフはもう、届かない。

 

わかってた。わかってたんだ。最初からずっと、ずっとわかってた。

 

彼はヒーローになるべき人間で、私とは完全に別種の人間で、そんな彼を閉じ込めるために、彼がどこにもいかないように、捕まえたくて、監視したくて、そんなメンヘラ染みた思いから彼のことを、束縛したかった。

 

彼の居場所でいたかった。彼のためになりたかった。それも全て彼が私の側からいなくなることが怖くて、怖くて仕方なかったから。彼みたいな人はきっともう現れないと思ってた。

 

この戦いが勝ちで終わっても、負けで終わっても、きっと私と彼は添い遂げられない。なのに、私は彼の役に立ちたい。もう、彼と一緒にはなれないから。私たちは堕ちてしまった成れの果て。本来交わらないはずの二つの翼。

 

「……ずっと、サインを出してたのに、私たちは気づけなかったんだね。ごめんね」

「……うぅ」

 

なんで泣いてるの? ゆずくん以外に、私のことを受け止めてくれる人ができたから?

 

「敵連合の代わりには、ゆずくんの代わりにはなれないけどね。でも、貴女の笑顔が素敵だってことは伝えなきゃいけないと思ったの」

『ヒミコちゃんは笑ってた方が可愛いよ』

「ゔぅぅ……」

 

どこまでも、どこまでも彼と彼女が被っていく。

 

私は彼以外を知らないだけだったのかな。彼以外にも、彼女みたいに手を伸ばしてくれる子はいたのかな。

 

でも、この気持ちは間違いじゃないんだ。

 

浮気じゃない。ただ、ただね。ゆずくん。

 

「ねぇ、お茶子ちゃん」

「ん?」

「可愛い?」

「世界一」

 

仁くんが抜けていく。空を覆い尽くすほど、雲を連想してしまうほどの個性が消えていく。私たちが消えていく。なんだか、仁くんが親指をビッと立てているのが見えた。そんなわけがないのに。

 

落ちていく。ゆっくりと。貴女は、貴女の個性は、気を失っても私たちのことを浮かせた人を落としはしないんだね。

 

……本当に、素敵な個性だね。

 

それに比べて私はどうだろう。

 

好きなものになりたくて握ったはずのナイフを、怒りと憎しみと、自分の欲望のために握ってました。

 

私たちが生きやすい世界にするために。

 

 

君が生きやすい世界にするために。

 

 

でも、もういいの。

 

「致死量の血が出てる。私が刺した後も動き回ったからだよ」

 

ゆずくんが生きていて欲しい。ゆずくんの役に立ちたい。貴方の側で生きたいよ。

 

「……お茶子ちゃん、敵連合はね、全部ぶっ壊すの。地平線を作るの。弱肉強食でも、上っ面の優しさなんてものはない世界を作るの、誰もが自分の手で変えられる世界を作るの」

 

でも、貴方の側に私の居場所はない。

 

初めからわかってた。貴方は、ヒーローだ。ヴィランじゃない。

 

みんな知ってる。貴方はヒーローなんだ。

 

「……お茶子ちゃん。貴女がもし、子どもの頃に私と出会ってくれていたら、何か変わったのかな」

 

お茶子ちゃんの血を飲む。血を飲めば、個性が使える。相手に変身できる。

 

“血”まで、その人のものになる。

 

「その答えを、次に会った時に教えてね」

 

血を分け与える。この子が死なないように。

 

「私の血、あげるから。生きてよ、お茶子ちゃん」

 

お茶子ちゃんが驚いた顔をした。それもそうだよね。私だって自分がしてることが理解できない。こんなことしたって死ぬ人間が変わるだけだ。でも、もう十分だ。もう十分幸せだった。

 

彼はヒーローだ。きっと、ヒーローになる。

 

傷口を閉じながら思う。この戦いが終わって、世間は彼を助けようと手を伸ばすだろう。無個性から個性を手に入れた少年は心の傷から巨悪に付け入られた……なんて筋書きがあれば情状酌量の余地がある。そもそも、AFOさんが相手にいたのだから今までの全てを催眠だとかそういうもののせいにできてしまう。

 

彼の犯罪は全てもみ消せる。そもそも、まだ未成年だし。彼に植え付けられた個性の数の多さから考えても、脳無になりかかった、といえば“精神の損失”だ。それは犯罪に問われない。

 

でも、私はそうじゃない。彼の側にいられない。そんなの耐えられない。この戦いがどうなろうと、きっと。

 

 

彼の目的に、私はもう必要ないだろうから。

 

 

「捕まえたら、私が死ぬまで血を届けに来てくれるつもりだったの?」

「…………!」

「声出てないよ。お茶子ちゃんは傷つけてきた相手を救ったんだよ。刺して来た相手をさ、憎いはずなのにね、不思議だね」

 

どうせ側に居られないのなら、彼と重ねてしまったお友達に……敵連合じゃない、私を救ってくれたお友達に、ヒーローみたいなことをして、死んじゃうのもいいんじゃないかな。

 

「なんで……! こんなこと……!」

「私は好きに生きるの。そうした方がいいってゆずくんが言ったから……お茶子ちゃんは、私の心を軽くしてくれたんだ。ゆずくんがしてくれたみたいに。そんなことしてくれた人いなかったから、だからね、だから……」

 

親には人間じゃない子だって言われた。世間は、大人は私がおかしいんだって囃し立てた。お友達はいなくなった。私だけが残った。

 

『あ? お前も敵連合の仲間だろ』

『死柄木はツンデレだな! 吐き気するぜ!!』

『俺たちは運命共同体さ。死ぬ時も果てる時も一緒さ』

『もう。荼毘ちゃんそれどっちも死んでない?』

『言ってやるなよマグ姉。荼毘なりのアイラブユーだ』

『不器用な奴しかいないのか? ここは』

 

でも、そんな私にも居場所ができたの。

 

弔くんが、仁くんが、燈矢くんが、マグ姉が、スピナーくんが。

 

『大好きだよ! ヒミコちゃん!』

 

ゆずくんが。私の居場所になってくれた。

 

だから、もういいんだ。

 

「ふふ、いいでしょ? 最後はヒーローみたいなことさせてよ。どうせ捕まっちゃうんだから」

「ヒミコ……ちゃん……」

「はぁい」

 

お茶子ちゃんの意識が落ちて、私は彼女の目尻に溜まった涙を拭う。血が抜けていくたびに体が言うことを聞かなくなっていく。それがどこか他人事みたいで、なんだか面白い。

 

あーあ。これが最後か。これで最後なんだ。

 

君の助けになれた? 支えになれた? 多分出久くんは絶望したよね? 弔くんは勝ったのかな。ゆずくん……は心配する必要ないか。スピナーくんは……死んじゃったかもしれないけど、荼毘くんはもう長い命じゃないし、最期まで踊るって言ってたし……いいかな。

 

もう、みんなはいない。敵連合は、きっと負ける。弔くんが勝っても、敵連合は負けるのだ。

 

……ふふ、思い返せば不思議だ。潜伏してた期間の方がよっぽど長い。そうやって生きてきた時間の方が明らかに長い。圧倒的に長い。でも、不思議とこの1年のことを思い出す。短くて、長くて、不思議なほど愛おしい記憶を思い出すのだ。

 

この1年は、すごくすごく愛おしい、人生で最高の一年だったから。だから、悔いはない。

 

もう今の私はヴィランなんかじゃない。連続失血死事件の容疑者トガヒミコじゃない。ヒーローでもない。

 

今の私は普通の、世界一笑顔のカァイイ、普通の女の子!

 

目の前が苦しくなっていく、力が抜けていくのがわかった。

 

それが、私にとっての最後の景色だった。

 

 

 





誰かに認められるっていいですよね。僕も皆さんに認めてもらってまして、本当にありがたいことにこんな風に作品を発表できてます。嬉しいね。こんな風に発表して読んでくださる方があるのが最高です。マジで。

先週に書いたお詫びがね、たくさんの人に励まされまして……ありがとうございます……なんか、うん。ありがとうございます!!

皆さんのお気に入りと、評価を受けてまだまだ書きます! ありがたいことに⭐︎つけていただいたりしてますからね、このまま完結まで行きます!! あとごめんなさい!! 毎週投稿って言いましたが次の話は違います!!

明日出します!! よろしくお願いします!!

映画編を入れるかどうかのアンケートをさせてください!

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