個性『不義遊戯』でいく! 僕の曇らせアカデミア! 作:波間こうど
君は告白をしたことがあるか。胸の苦しみを、あの切なさを。
感じたことはあるか?
さて、話を少し戻そう。
楽しんでいってくださいね!!
目の前が苦しくなっていく、力が抜けていくのがわかって…………………………
拍手の音が聞こえて、体からその感覚が消えた。
もう、何度も聞いた拍手。何度も聞いてきた拍手。私たちの心を鼓舞し続けてきた、私たちが何度も心を救われてきた拍手の音が、私の体から不快感や、疲労感や、痛みすら拭い去って、そこに優しさと暖かさを与えてくれる。
「……え?」
「ばーか。僕がそんなの許すわけないだろ」
二人分の人間の襟首を掴んで現れたのはゆずくんだった。白馬の王子様というにはその黒い羽衣に多くの血をつけて、まさにジト目というような視線を私に投げかける。肩で息をしているゆずくんを初めて見た。もう息が上がっている。
彼が少し怒ってるのがわかった。……嘘、結構怒ってる。え? 初めて見たその顔……かっこいい……A組のみんなと決別したときより怒ってない? マグ姉が死んじゃった時よりも怒ってない? なんで?
「ゆず……くん……」
「……」
「その……ヒーローは?」
ゆずくんが首根っこを掴んでいたヒーロー……ミイラのように血の気の失せた二つのそれを指さすと、彼は息を整えて視線をそれに向けた。
「あん? ……君の体を癒すのに使ったやつ。失血量を肩代わりさせたの。下手したら死んでたんだよ? わかってんの?」
干からびたヒーロー二人を捨てるみたいに手を離して、彼が頭をガシガシとかいた。その顔には不思議なほどの焦りが見える。私が死ぬかもしれないから焦っていたの? 焦ってくれていたの?
「あのさ、マジで。なんでお茶子ちゃんに血なんてあげようとするかな……まずは僕のこと呼んでよ、そしたらなんとかしてあげるからさ」
「…………そんな余裕なくて」
「あのねぇ……いや、まぁ、仕方ないか。許してあげるよ。でも、こんなの二度としないでよね。僕の心臓が止まるかと思った」
げっそりとした顔に本当に疲れを滲ませながらゆずくんがため息をこぼす。そこまで? 貴方の中での私の出番なんてもう終わったと思ってたのに、貴方はまだ私のことを必要としてくれるの? そんなことで、死んでもいいくらいに嬉しいんだから、女の子って、単純だ。
「……えへへ、ごめんね」
「わかってないでしょ? 本気で心配したんだよ。間に合うかも五分五分だったんだから。邪魔なのがたくさんいて片付けてから来たんだからね」
「あ、ヒーロー……」
「ヒーロー? ……あぁ、うん。殲滅した。運が良ければ生きてるんじゃない? 大体死んでると思うけど」
さして興味もなさそうに彼はあっけらかんと呟いた。返り血でなんとなく気づいていたけど、あの量のヒーローを一人で倒したんだ。本当に文字通りレベルが違う。
弔くんは確かに最強になった。荼毘くんが「エンデヴァーでも勝てない」なんて言ったくらいに。ゆずくんが「あれとやるくらいならマウントレディと個性縛って殴り合いっこするね」って笑うくらいに。他の女の名前出さないで欲しい。そういうところは好きくない。
そんな弔くんが「譲葉と本気でやるくらいならデクとスターアンドストライプを一気に相手にするね」と想像したくもないと言うように引いた目で見ていたんだからゆずくんの化け物っぷりがわかるだろうか。伝わるだろうか。
そんな彼が私のために全力で目の前の障害を突破して来てくれたのだ。こんなに嬉しいことがあるだろうか。私のために駆けつけてくれたのだ。こんなに心が揺さぶられることがあるだろうか。
「君のところまで来るのに邪魔するから、つい殺しちゃったけど……まぁ、いいでしょ。僕たちはそうやって生きてきたじゃん? それで、これからも生きていくんだ」
裸の私に上着と、倒してきたヒーローのものと思われる比較的綺麗な服を差し出して、彼は私のそばに座り込んだ。二人揃って、何も話さないで日の差し込んできた雲の晴れ間を見つめる。ヘリコプターが遠くに見えるけれど、きっとこっちには気づいていない。この空間には、眠っているお茶子ちゃんを除くと、私たち二人っきり。
……………………なんか、告白とかされそうな雰囲気だな。いや、絶対に違うのはわかってるんだけどね? わかってるんだけど、でもなんだかこう、わかる? 私だって血が飲みたい、その人になりたい、認めて欲しいって思ってる少し普通の人からしたらおかしい女の子なのかもしれないけど、これでも普通に可愛い服とか少女漫画とかも好きなんだよ? 知らないかもしれないけど。いや、一緒に少女漫画読んだことあるっけ。……いや、これ多分マグ姉だ。じゃあ流行りのドラマを一緒に見たのは? これ弔くんとスピナーくんか。じゃ、じゃあ、一緒に映画見に行ったのは!? ……仁くんだ! じゃあゆずくん知らないじゃん!!
ごくりと生唾を飲み込む音が彼に聞こえたのかわからないけど、彼が急に話し始めた。私の手を握る。ドキリと胸が跳ねた。さっきまでなんかとは比較にならないくらい、鼓動がうるさい。うるさい。うるさいです!
視線はまだ空の先。
「ねぇ、ヒミコちゃん。いいこと教えてあげる」
「ひゃい!」
「僕ね、結構人生好き勝手してきたんだ」
なんで一人で悶々と考えていたらゆずくんから話しかけられてしまって、油断してたから声が裏返ったけど、そんなことを気にせずに彼は空を見つめたまま言葉を続ける。
「本当に好き勝手生きてきたんだ。上手くいかなかったことなんてほとんどなくて、それをひっくり返す状況を自分で整えられるくらいにはすごく優秀でさ、僕困ったことなんてないの」
嘘だ。彼は無個性で、それで困ってきたはず。でも、それとは別……? なんだか、私たちは重大な勘違いをしているの?
そんな考えは続くことはなかった。彼の言葉が紡がれていく。
「その分、あんまり人に執着も持てなくてさ。数人だけ、友達だと呼べる仲間がいて、それも一年だけでさ。何が言いたいかって言うと……うーん……むずいんだけどさ。人と関わるの好きじゃないんだ。きっと壊れてるんだ。みんな以外」
そのみんなが誰を指しているのかなんて言うまでもない。
「僕たちはそうさ、狂っちゃったから集まった。僕たちは……ねぇ、ヒミコちゃん。僕の人生は割とうまくいってたんだ。だけど、一つだけ誤算があった。たった一つだけの誤算ね」
彼はポリポリと頬をかいた。照れてるときの癖。チラリとお茶子ちゃんを見てから、ほとんど意識がないのをわかった上で、彼は目を閉じて。
「ただ一つ、誤算だった。僕の人生でマジでただ一つの誤算ね」
周りをキョロキョロと見渡す、挙動不審だ。そんなところがなんだか可愛い。
…………いや、待って。落ち着いてトガヒミコ、ゆずくんより一応私の方が年上なのだ。忘れがちだけど一歳お姉さんなんだ。そんな夢みたいなことあるわけないってわかってるんだから落ち着け。本当に、心臓うるさい。ちょっと黙ってて欲しい。これで違ったら恥ずかしいから。
「一回しか言わないからね」
「う、うん……」
「ヒミコ……ちゃん」
「は、はい……!」
彼が少しだけ頬を染めて、照れくさそうに微笑んで。
「しくじった。惚れちゃった」
こんな血みどろの戦場に、彼の笑顔だけがやけに美しく咲いた。
雲の隙間から差した光は彼に降りかかってまるで後光みたい。彼が照れて笑ってるその顔が、『モナ・リザ』なんかより神秘的で、目が離せない。
そんな映画のワンシーンみたいなそのセリフで。
私は彼に何度目かわからない恋をした。
× × ×
ッス〜〜〜…………………………………………今、僕は童貞みたいな告白しましたか? 了解、死にます。
一応キャラクターロール的には悶えてもいいくらいなんだけどそんなこと言ってる場合じゃなさそうだから我慢する……けどこれきっつ。えぐい。精神的にダメージデカすぎるんだが。ギリギリ死亡するまである。足無くした時の三十倍くらい効くんだけど。僕もしかして今ここで死にますか? わかりました、死にますね。切腹します……恥ずかしさのせいで吐血するのか腹掻っ捌いたせいで吐血するのか……どっちのがいいかなって思えば腹掻っ捌いたほうがいいと思うので。
「ぐぉぉぉぉぉぉぉぉ……」
「え? なに!?」
「恥ずかしくて……こういうの初めてだし……」
「えぇ、ゆずくんモテてたでしょ」
「はい? 僕が? モテてるわけないでしょ。興味もなかったし」
「……ふぅ〜ん」
「なんだよその顔〜」
答えなんてない。なくていい。
だって2人ともわかってるから。これはただの様式美だ。2人ともわかってる。ここでの答えに意味なんてない。お互いに理解してる。僕たちが今後一緒に幸せに生きていくなんて未来はどこにもない。
だから本当に少しだけ無為だとわかっていても、無駄なんだとわかっていたとしても、ここでこうして戯れることぐらい許してくれ。
「君だってモテたでしょ」
「うわ、そういうこと言うんだ? ゆずくん意地悪です」
「え〜」
この記憶が、彼女を末長く生かすのなら。彼女が生きるときの支えになるのなら、僕のこの行動もきっと間違いじゃない。2人して笑い合って、ヒーローたちが倒れているこんな戦地の真ん中で2人して戯れ合う。
僕は今、意図して、君に
消えない傷痕を残す。
「ねぇ、ヒミコちゃん」
「…………」
「ヒミコ」
「はい!」
なんかすっごい抱きついてくるんだけど……そんなに抱きつきたかった? もういいけど……許してあげるけど……少しくらい優しくしてあげないとね。べ、別にぃ? この子の豊かなあれに喜んでとかないし? 僕童貞じゃないし? ……正直役得だよね!
「……僕の個性が二つあるのは、知ってるよね」
「……うん、不義遊戯と、サーチ。あ、呪力だっけ?」
「それはどっちでもいいんだけど、今回は『サーチ』の話ね」
息を吸い込む。なんて間抜けなんだろうか。僕はここまで間抜けだったのだろうか。
「今、君に二つの個性の輝きが見えるよ」
「え……」
それがどういうことなのかわからない子じゃない。学がないって描写をされているところもあったけれどこの子自体は聡い子だ。賢い子だと思う。だからきっと、含みを持たせたこの言葉の意味もわかっているだろうし、わかった上で話を聞いてくれるだろう。そういう聡い子だ。
「それって、」
「しんどいとは思う」
言わせない。その先なんて絶対に言わせてやるもんか。僕は、だからこそ、ここに来た。その二つの輝きを理解したから、僕は……。
子どもを雑に扱う親にだけはなりたくなかったから。
それだけは、曇らせをすることよりも、僕の目的を果たすことよりも、何よりも優先されることだったから、僕が生きている以上は。なによりも、何よりも優先しないといけない事象だったから、僕は絶対に優先するって決めたんだ。彼女と、その子を。
わかってる。
「辛いことも山ほどあると思う」
わかっているのさ。
「これから先、君は傷ついて、苦しんで、悩みながら生きていくことになる。失敗したかな、間違えたかな、そう思って生きていくことになる。どこまでいっても僕たちはヴィランだから。きっと苦しみ抜いて、その先に何もないとしても生きていくしかないんだと思う」
わかっている。これが呪いになる。今から僕はただ一人、愛した女の子に呪いをかける。解けない呪縛をかけて、縛りつける。それでも、これが愛じゃなくて呪いだとしても。
「それでも」
彼女には、あの子と同じ道を辿って欲しくなんてないから。
「生きてくれなきゃ困るよ。ヒミコちゃん」
多分、そうだった。
あの子にもこの言葉を言ってあげたかったのかな。それとも、別の言葉だったのかな。僕のわがままで、生きていて欲しかったのかな。どこまで行ったって、あの日の僕が彼女に、もし、間に合ったら告げられたはずの言葉はどこにあるのかな。
二つの光、そんなものを見てから僕の頭の中が変だ。苦しい? 痛い? そんなものなのかな。どうにもモヤが晴れるような感覚と同時に刺すような感じがする。これがなんなのかはわからない。僕にはわからないのか?
かっちゃんがオールマイトを終わらせたんだと、出久くんに叫んだ日に似てる。よくよく思い返せばあの日に具体的な記憶を取り戻したんだっけ。
記憶の交錯……そういったもの? それとも別の言葉をつけることができるんだろうか。専門家に言わせれば違うのかな? わからないけど。どうでもいい。今、やけに痛む頭も、なんだって構わない。
僕が最低な男なことは変わらないし、彼女たちに生きていて欲しいのは変わらない。
ずっと苦しんで死ぬのはのは僕だけだけど。みんなの胸につける傷とは別種の、もっと深い傷をつけることを、許して欲しいんだ。
「……行くんだね」
「うん」
ヒミコちゃんが涙を溜めながら笑って問いかけた。何が言いたいのか、わからないほど僕は子どもじゃない。そして、止めたって聞きやしないことくらいは彼女もわかっている。だから、これは様式美にすら近い、呪いをかけた相手への細やかなリップサービス。
「どうしても?」
「どうしても」
「……もし、私が泣いて、行かないでって縋ったら、止まってくれる?」
「おっと流れ変わるね」
そんなこと言って止まるならきっと恥も外聞もなく泣き喚くんだろうなってことが容易に想像できるから首を縦に振れないんだよね。まぁ、振るつもりなんてさらさらないんだけど。というか実際にはフるんだけどね。
「……それでも行くよ」
だって、それが僕の存在証明。
君に残した、それとは全く別の、僕だけの存在証明。
僕が生きているって証はどうしたって、曇らせの中にしかないから。誰かの顔が曇るときにだけ、僕は僕として生きてられるから。
「ねぇ、知ってるかいヒミコちゃん」
両手の人差し指で口角を無理矢理あげるみたいにして笑顔を作って見せる。それはムチムチお師匠さんのようで、耳郎ちゃんを励ましたときのようで、君の心に染みつく笑顔になるようにという気持ちを込めて。
「僕は案外、馬鹿な男なのさ」
愛している君の曇った顔すら楽しめてしまう馬鹿な怪物が。君の一生の後悔として残りますようにという、
× × ×
【ヒミコside】
「本当に行っちゃった……」
手を叩いてどこかに消えた大好きな彼が最後に残した少しの血を見つめてため息をついてしまった。彼が居た場所には小さな人形が置いてあって、これと入れ替わったんだってことがわかる。
想いがきちんと通じ合ったかと思えばすぐさま消えていくなんて私への思いが重いのか軽いのか……いやでもきっとそれよりも大事な用があるんだと思うことにしよう。縛り付けたら疲れちゃう人なのは知ってるし。
「……お茶子ちゃん寝てる場合じゃないよ〜。恋バナしたいのに」
不貞腐れながら彼女の横に座る。気絶している彼女の頬を突きながらこれからどうしようかって考えてみた。
「あ、そもそもこの戦いに勝てば潜伏なんてしなくていいのか」
そうは呟いてみたもののなんだか実感が全く湧いてこない。……私は心のどこかでこの戦いが負けで終わると確信してしまっている。その引き金はきっと、彼が引くんだ。
それに、物語はヒーローの勝ちで締めくくられるのがセオリーだ。私がお茶子ちゃんに絆されたように。彼が出久くんに焼かれてしまったように。
「あーあ。私男の人見る目ないのかなぁ」
誰も彼もきっといい人だったんだと思う。だけど上手くいかなくて、最終的に私のことを受け止めてくれて、愛してくれた彼はどうしようもない人間で。つくづく男運がないというか、ちゃんといい人を捕まえられなかったと思ってしまう。
……呪いをかけるだけかけて笑顔で、女の子のためじゃなくて自分のために走り出すような無責任な男の人を好きになって……愛してしまった私が悪いんだけど。
「この個性じゃなかったらよかった?」
結果は変わらないのかも知れないけど。
「女の子じゃなくて男の子だったらよかった?」
これも結果には影響しなさそう。
「……どんな人生歩んでも結果は変わらないんだろうなぁ。だって後悔してないんだもん」
水平線の先までよく見えるこの場所で、私はまたため息を一つこぼした。
「どんな人生を歩んでも、きっと、君のことが好きになる」
これは呪いだ。神様から私たちのような堕ちてしまった人間に与えられた呪い。
私たちは片翼の鳥。一人では普通にすらなれない。鳥なのに飛ぶこともできないし、青空に夢を見ることしかできない。だから、お互いに手を取り合うけれど、空まで飛ぶことはできないんだ。身を寄せ合ってなんとか耐えることしかできない哀れな女です。それに呪いをかけた彼はもっと酷いけど。
最悪だ。わかってはいたけど。
恋って……
「……最後が呪いの言葉なの。私たちらしいね。ゆずくん」
さざなみはいつも凡庸な音がする。
風切り音はいつだって私たちの心を慰める。
戦いの焔は、きっと消えない。
「とりあえずは安静にしないとだからそろそろ行くね。お茶子ちゃん」
立ち上がってお茶子ちゃんから離れるようにして森の中へと歩いていく。行き先なんて決まってない。どこに行こうかなんて考えてない。それでも……それでも、きっと明日も、明後日も、その先も。私は生きていく。
「あ〜あ。どうしようかなぁ」
どこまでも、しんどい思いを胸にしたまま。
渡我 被身子は歩いていく。この先の未来まで。
いつも読んでくれてありがとうございます! 波間こうどです!
この話はずっと構想していて、これを書くのに手間取っ……てはないのですが、それでもこの話は自分の中では今まででベストまであるつもりで書きました。曇らせじゃないんかいって言うね。
皆さんの感想には全て返事をして、評価には一喜一憂し、お気に入り登録にはワクワクする、そんな作者です。これからもたくさん、皆さんをワクワクドキドキ、ニチャニチャさせられる物語を書きます。
これからもよろしくお願いしますね!!
映画編を入れるかどうかのアンケートをさせてください!
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入れたのが見たい!
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本編だけ追いかけるのでOK!
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