個性『不義遊戯』でいく! 僕の曇らせアカデミア! 作:波間こうど
残酷な運命が、絡まってるとして、それがいつの日か僕の前に現れるとして。
ただ一瞬、この一瞬、息ができるなら。
どうでもいいと、思えた。その心を。
かっちゃんとオールマイトがギャイギャイ言ってるのを見る。かっちゃんの体から飛び出したエッジショットも含めてわちゃわちゃと……ここ戦場だってことはわかってるのだろうか。原作においてもあまりにも平和ボケしたシーンだから覚えてる。このあとあれだよね? エッジショットのこと先輩って呼ぶようになるんだよね。
馴れ馴れしくておっえ〜! って感じだけど。
「こっちのセリフだヨボヨボのじいさんがよ!」
「それはこっちのセリフでもあるんだが?」
うん、原作通りのやり取りだ。まず間違いなくかっちゃんは一度死んだんだろう。死んだのにこんなに元気なのまず頭がおかしいとしか思えないんだけど僕だけ? エッジショット曰く「一息が地獄の苦しみ」だそうだから普通に気絶してたっておかしくなんてないじゃん。気絶してろよ普通に。
こづいたら死にそうな顔してよ。なんでそんなに目が爛々と光ってるんだよ。なんでそんなにウキウキしてるんだよ。今すぐにでも戦いたいみたいな顔してるんだよ。意味がわかんないよ。
だからだよ。
だから、曇らせたいんだよ。
「もう話終わった? 邪魔だから容赦なく殺すぞ?」
「ハッ! あんま強い言葉使ってんじゃねぇよ!」
かっちゃんが笑う。その顔は不敵で、負けるつもりなんて一ミリもない、いつもの傲岸不遜そのもののような姿だ。
そんな顔が見たいわけじゃない。
「なんだ? 強い言葉は怖いか?」
「馬鹿が」
かっちゃんが歪んだ。……え? 連戦したし領域も使ったから、疲労が目にきたのかと目を擦ろうとしてその手が掴まれる。
気がつけば僕の顔と手を掴んだかっちゃんが目の前にいる。
……は? 疲労かと思ったら速すぎて見えなかったってこと? 開始のゴングちゃんと鳴らせや!!
「お前に似合わねぇって言ってんだよボケ!!」
「ッ!?」
爆撃が煌めいて──
「うぉぉ!?」
次いでの衝撃で僕は大きく吹き飛ばされていた。痛みが全身を駆け巡る。胸が焼けて……つーか右腕消し飛んでるんだけど何? 速い上に威力も高いのかよやってらんねぇ〜! オールマイトじゃないんだぞ!!
「いってぇんだけど、ふざけんなよ!?」
「テメェの不義遊戯は手を叩かなきゃ使えねぇもんなァ!!」
「だからって腕消し飛ばすのがヒーローのやり方なのかよ!」
「悪いけどよ!」
かっちゃんがまた消える。そしてすぐさま腹に手が置かれたのがわかった。なんで肉薄するまで見えないんだよ! だから速すぎるって!! 『サーチ』使ってるんだぞ!?
「お前のこと止めて連れ帰るって、ダチと約束してんだわッ!!」
「ッ!!?」
ビルを突き抜ける感覚が背中を通した痛みとして脳にまで届く。腹が焼ける痛みもそうだけどビルを何棟も突き抜けるほどの衝撃って普通なら死んでるぞマジで。ヤマカンで咄嗟にガードしたからよかったものを危うく死ぬところだったんだけど。
「あれガードできんのか、ハッ! でもこれで両腕無くしたな! 回復まで時間かかんだろ!!」
「ほんと……昔から変わらねぇな……人の話を聞きもしなけりゃ、暴力って手段で相手のことを自分の都合のいいように貶める……」
両腕を反転で生やして、かっちゃんを睨みつける。『サーチ』を再度セットして見逃さないように気をつけながら煽るために口を動かし始めた。
本当に、いや、ちょっと相手とタイミングが悪すぎる。僕前も言ったけど全盛期オールマイトみたいなスピードとパワーでゴリ押ししてくる系の対策として領域を準備してたんだけど、もうさっき切っちゃったからすぐさまは使えないし、かっちゃん速すぎるしで最悪なんだけど。役満レベル。
「そういうところがカンに障るんだって言ってるんだよ爆豪!!」
手のひらを打ち合わせて入れ替えるのはかっちゃんのボロ切れのようなコスチュームと自分の体。すぐさま移動するのはかっちゃんだけの特技じゃない。かっちゃんの目の前に移動して空中に爆破で浮いている彼に合わせて蹴りを放つ。それを右腕でガードされるが体を捻るようにして右足を蹴り込んだ。
それは手のひらで掴まれることで簡単に防がれてしまう。反射神経良くなってね? お前満身創痍なんじゃねぇの? やってらんねぇ〜んだけどマジで。
「……お前にしたことも、出久にしたことも消えねぇよ」
それは決意を固めた顔。
「だから、これから死ぬまで。ずっと罪滅ぼししていくんだ。出久にも、お前にも」
爆破は、止まることを知らない。足が吹き飛んだのがわかった。こいつ、ノーモーションで足が吹き飛ぶような爆破やめてくんない? 慰謝料請求するぞ。今までの加害と合わせて何億単位で求めたろか。
「うるせぇンだよクソボケがァァァァァァ!!」
腕を思いっきり溜めて拳を打ちつけた。それもかっちゃんには当たらない。ヤバい。想像以上だ。嘘でしょ。こんなに当たんないことある? 今のこいつ出久くんとか弔くんと同じくらいなんだけど。化け物じゃん。
「過去は消えない!! お前には何もできない!! ヒーローになんてなれない! させない!」
そうだ。お前はヒーローにはなれない。
『こいつめっちゃ金持ってるじゃん!』
『なんだよ、今から彼女にプレゼントでも買う予定だったのか?』
『お前みたいな奴が誰かを幸せにできるわけないだろ!』
『可哀想に彼はまだ、現実が見えていないのです』
『勘違い野郎が! 死ね!!』
『お前みたいな人間は生きてても価値がない』
『死んでしまえばいいのに』
『お前みたいなやつ生まれてこなけりゃよかったんだ』
『今の無様な人生を変える方法が一つだけあるぜ?』
『来世は上手くいくと願って屋上からワンチャンダイブ!』
アイツらと同じことをしてたお前なんかは、ヒーローになれない。最高のヒーローになんてなれない。
どれだけ輝いていたとしても。過去は消えない。お前がカスだってことは消えないんだ。この世界がある限り、過去は消えないから、お前は……!
「そうだ」
かっちゃんは冷静に、だけど悔いすらも呑み干して前に進むみたいに少し笑って──。
「でも、未来は変えていける。これは、お前らが俺に教えてくれたんだろ」
「は?」
そんな、綺麗事を口にした。言い返してやろうとしたけど言葉が口から出てこない。
体が地面へと落ちていく。……? そうか、足が爆破されて……そもそも僕は空を飛べないからかっちゃんとの密着する部分がなくなった今、落ちていくしかないのか。
「グッ……!」
ビルの屋上に叩きつけられて頭を押さえる。背中の痛み、肺から無理矢理空気が吐き出された痛み。……痛すぎるだろ。
右足を再生させて立ち上がりながら周囲を確認する。『不義遊戯』は環境を利用しながら戦うものだからね。
チラリと見渡す景色が……不意に何かと重なる。なんだ? 何に見えてるんだ?
……あ、ここ。出久くんとオールマイトが初めて言葉を交わした廃ビルの屋上か。なんとも因果なところだ。出久くんたちがあんなところで戦ってるのに、僕はかっちゃんと思い出の場所で罵り合ってる。
出久くんの思い出の場所で。
腹が立つ。未来は変えていける? なら過去は変えた未来によってなかったことになるのか? お前たちが未来に向かって進んでいったところで、過去に囚われた被害者たちが救われることはない。それは当然にして、当たり前にして、どう考えたって変わらないまでの、自然の摂理そのものだろう。
「綺麗事ばっかり言いやがって……なんて言おうがお前がヒーローなんかになれるわけがないンだよ……! お前が! ヒーローなんかに!!」
それが多分、合図だった。
「……は?」
空に映像が映し出された。ホログラムだ。馬鹿でかいサイズのホログラムはどう見立てても僕の知らないサイズの個性。……個性だろう。誰かに起因するであろうそれは紛れもなく原作で、『僕のヒーローアカデミア』で起こっていない出来事で、間違いなく異変そのものだった。僕の知らない、物語。
そこに映っていたのは小さな少年と少女だ。小さく、か弱く、一人では何もできない存在が手を握りながら泣きそうな目をしてこちらを見ている。ボロボロのワンピースの少女と、治療されて包帯でグルグル巻きにされて、やけに太くなった足を持つ少年。
僕が見逃してしまった異物。この世界にない存在。
『かっちゃん!』
あのときかっちゃんに助けられた子どもだ。
「なんだあのガキ……」
知らない。こんな展開はない。いや、そりゃそうだ。僕が知らないのは当たり前だ。そんな展開がないのなんて知っている。本来ならここにいるのはラスボス先生で僕じゃないから。本来のストーリーとはかけ離れた動きをしているんだから、そりゃおかしいに決まっている。僕自身が歪めた世界なんだからおかしいのは当然だ。
思えば、今まで歴史の修正力だのを警戒してた。散々、ことあるごとに確認してきた。それでも歴史はストーリーに沿っていっていた。僕という不純物を抱えたまま。だけど、僕の思うように進んできたから、最後の最後に修正力の存在を除外した。つまり、僕は修正力を無視したんだ。最後は大幅に変えてやるつもりだったから、ここまで修正力ってやつが働かないなら、今更気にしても無駄なんだと思ったんだ。
じゃあ、あのガキは、僕を排除しようとするストーリーだったんだ。ストーリーが前に進むための、僕という存在をかき消すためのほんの些細なキッカケ。
物語は、書き換わる。
『今僕の個性で投影してるんだ!!』
「アイツら……」
ご都合主義のような、いやでも、確かに漫画だったら何週間も前に張られた伏線なんだろう。休載を含めたら何ヶ月も、一年も前から張り巡らされた伏線なんだろう。彼らにとって正しい世界なんだろう。だが、僕は知らない。こんなの知りもしない。つーか映画で出てきたガキの上位互換じゃねぇか。そんなもん出すなや。馬鹿なの? 死ぬの?
『見てるよ! かっちゃん!』
こんなガキどもは、本来いないはずだ。かっちゃんなんてヒーローに救われた存在は本来いないはずなんだ。でも、今ここにいる。ここで僕たちの前に姿を現して、ヒーローを、かっちゃんたちの背中を押している。
ここで、かっちゃんに、ヒーローにこの声が届くことには意味がある。
それは簡単だ。ヒーローが、ヴィランより優勢になるタイミングなんて相場が決まっている。
守るものが増えるほど、応援の声が届くほどに、彼らは強くなるのだから。
グッと少年が息を飲んで叫んだ。その声は空に投影されたモニター越しに僕にまで、僕たちにまで届く。
『ダイナマ!! 頑張れ!!』
それに続くようにして、少女は──
『頑張れ! お兄ちゃん!!』
そう、口にした。
「………………………………………………ぁ」
頭を、あの子の言葉がフラッシュバックして過ぎ去っていく。あの子の言葉がどこまでも純粋に俺に刺さって抜けやしない。いつだかな真夜中、溢れ出した記憶の残滓が、さらに大きな濁流となって頭の内側を侵食していくのがわかる。
『お兄ちゃん大好き!』
「あぁ……」
『頑張れ! お兄ちゃん!』
「あぁ…………」
フラッシュバックする。あんなに思い出せなかった彼女の顔が脳裏を走り抜ける。通過する。僕の脳みそに刻まれた、
足が震える。僕がおかしいのか?
いや違う。僕はおかしくなんてない。
僕は僕にとって正しいことを、自分の望むところに従って生きてきたはずだ。そのはずだ。
そのはずだ! 俺は! 俺に従って生きてきた!!
俺はおかしくない!! 俺は間違ってない!!
僕は曇らせのために!! 他の全てを捨ててでも!! そのためだけに!!
『お兄ちゃん! 大好き!』
「ゔぉぉぉえぇぇぇぇぇぇぇ!!」
胃の中のものを吐き出す。苦しい。眩暈がする。
そうだ。僕は、僕は。僕は。
俺は!!
『お兄ちゃーん! 大好きだよ!』
曇らせが見たかったのか? 違う。そうだけど、違うんだ。それだけじゃなかった。僕はあの子に生きててほしかった。
体が拒絶反応を起こしてる。今まで無理やり抑え込んできた頭痛が脳を破壊していた。掻き回していた。それをすかさず反転で食い止めようとするけれど……そう簡単にいくならもう既に治ってる。
邪魔されるんだ。反転が機能してるのに機能しない。壊れてるわけじゃない。脳みそに被害があるわけじゃない。でも、壊れているのは分かる。
だって、声がするから。
『ゆずくん。デクくんが呼んでたよ』
『舞妓ー! 俺の訓練付き合ってくれねぇーか!』
『舞妓くん! 寝不足はヒーローとしてあるまじき態度だぞ!』
『お、舞妓も今から飯? 一緒に食おう』
『おし! 舞妓! 今から俺の硬化とお前の黒閃のどっちが強いか決めようぜ!』
『舞妓ばっかりモテてオイラ許せねぇよ!』
『舞妓くんはいつも輝いてるね……僕の次に!』
『舞妓舞妓ー! どう? このペン! 可愛いでしょうがー!』
『おい舞妓ー、インテリア見に行きて〜んだけど付いてくるか?』
『君の体術はすごく参考になるよ……尻尾なんてないはずなのにね?』
『ゆずちゃん今日はいつもとヘアピン違うのね。可愛いわ』
『……舞妓くんはいつもすごいね。立派だね』
『俺は舞妓のことを尊敬してる』
『姉さんがまた飯食いに来いって。今日空いてるか?』
『死ね! 女男!!』
『ユズ、今度さ……が、楽器店とか行かない?』
『舞妓さん! またデザートを作ってくれませんか?』
『ゆずちゃーん! えへへ、イタズラしちゃった!』
『ゆずくん。一緒にヒーローになろうね』
彼らの声が響くから。
『お兄ちゃん!!』
『ねぇ、ゆずくん。好きだよ』
『譲葉。頼むぞ』
声が、聞こえる。僕に向けられてきた、
「あ゛ぁぁぁぁ゛ぁ゛ぁぁぁぁぁぁ!!」
心が折れる。折れる。折れる。オレル。おれる。堕れる。折れる……ッ!!
頭が割れる。地面に倒れて身体中の全てを吐き出すように吐瀉物を吐き出した。地面を汚して目の前が霞む。
そうか。愛してたんだった。あの子を愛してたんだ。
今の俺を見たら、きっとあの子は。
太陽のように笑ってくれるあの子は。
笑って────。
「笑ってくれるわけねぇだろーがァ゛、な゛ァ!」
空を見上げた。分厚い雲に覆われた空。僕は五体を放り出して空を見上げた。空は、暗がりに落ちて。曇天に沈んで、それでもなお、光り輝く太陽は、ある。
太陽のような君が獰猛な──
いや、哀れんだような顔をして。
「爆豪勝己ィィィィィィ!!!!」
「譲葉ァァァァァァァァァァァァ!!」
両手の甲を合わせて掲げる。奥の手も奥の手、一か八かの賭けだ。それをここで使ってやろうと呪力を流す。成功するかどうかなんて五分、いや、もしかしたらそれよりも低いかも、それでも僕の全霊を込めて呪力を回した。迎撃のために、かっちゃんを討ち取るために。
だけど、わかってる。
「クラスター……」
「不義遊戯!!
「ハウザー……!!!!」
これは、彼らの物語だから。
「インパクトォォォォォ!!」
彼の爆破の方が、早い。
爆破が僕の体を吹き飛ばして空の要塞と化した雄英高校まで吹き飛ばした。電磁バリアが解けているからよかったもののもし解けてなかったらその場で気絶していただろう。全身を壊されたかのような衝撃が走って地面を転がる。何キロ飛ばされたんだ? 体の感覚がない、身体中の感覚がなくなっている。右耳は聞こえない。左目は見えない。反転をかけて治せる限度を少しばかり超えてそうだ。
両手は……ついてるな。ならいいか。
やっと何かにぶつかって勢いが止まったかと思ったら、そこには満身創痍の弔くんがいた。その奥にはなんだか覚悟がガンギマった出久くんが見える。いや、いつも通りだけども。高二が持つにはあまりにも重い使命を自分のものとして握り直せる子なんだけども。
それにしても弔くんお互いに死に体だな。笑えてくるぜ。
「……譲葉、何負けそうになってんだ」
「……お互い様でしょ。弔くんも死にそーじゃん」
頭が急激に冷えていく。血が抜け過ぎだな。死にそうだ。……少年ジャンプ連載なのでそう簡単に死ねるのかというと疑問の声も上がるところではあるが。かっちゃんが復活したんだったら僕も生きてそうなもんだけど……ねぇ? 僕はこのままだと死ぬだろう。というか体力も尽きてて反転も多分意味をなさない。ちょっとばかし反転で治せる領域を逸脱してる。呪力を使いすぎた。
それに、僕はもう、用済みの異物だから。
……うーん……いや、わかってたんだよ。
全部繋がって、僕は川原優吾で、僕にとって大事な妹である優香との約束も思い出して、なんでこんなにも世界全てが憎くて堪らなかったのかも全部全部理解したよ。さっきまで苦しんでたのも本当で、僕って存在が許せなくて、優香に謝りたくて、生きていること自体がどうしようもない場所から、救われなかった、こんな偽善的な世界を壊したいってただの八つ当たりなんだ。好きだった作品に、好きだった世界に八つ当たりしてただけ。
だけど、この世界に生まれるよりも前に。
僕がみんなを曇らせたいと思っていたのは本当なんだ。
僕と同じくらい、惨めな存在になって欲しいから。僕と同じところまで堕ちてきて欲しいから。僕がヒーローになれることはない。だって大事なたった一人の妹すらも助けられなかったから。僕はヒーローになんてなれやしない。だったら、堕ちてきて欲しかった。
そうすればみんなが、僕が、同等の存在だと思えるから。僕は無様で碌でもなく、最期を自殺という滑稽なエンドロールで締めた存在だけれど。
彼らの顔が歪むときに、僕に少しでも近づいてくれる気がするから。
そのヒーローとしての光を曇らせることができれば、僕が相対的にマシに見えるから。
僕は、なれないと知っていても、
全て、八つ当たりだった。僕はそういう風に輝けないから。だから、みんなのことを曇らせて、ここまで堕としたいんだ。そう考えていた。
だから、全部壊して曇らせてみせるのさ。
それが、優香を笑顔にすることもできなくなった、哀れで滑稽で、堕ちてしまった男の最後の信念だから。
「………………弔くん。コンテニューだ」
そうだ、信念。僕のただ一つの信念だ。
僕の最期の信念なのさ。どうせ死ぬのなら。
メインプランから外れた、最高の曇らせを見せてやろう。
これはまとめて全てを吹き飛ばす爆弾だ。僕はアドリブも上手いって言ったろ?
「弔くんが、決めろ、全部。約束したろ」
死にそうな弔くんの手を取る。意識を離して終えばそれだけで死んでしまうそういうタイプの満身創痍だ。お互いに男前になったね、弔くん。
それでも、今の全てを理解した僕は無敵だ。みんなの感情も全て手に取るようにわかるよ。だから今まで以上に最高で、今後これを使ったらどうしようもないって曇らせを見せてあげることができるんだ。
「次は君だ」
そうだったんだ。
優香。お前のことを僕は愛してたんだ。
そうだったんだよ。
なぁ、『僕のヒーローアカデミア』。
俺はお前のことを愛していたのさ。
なんてこったい。今になってここまで深く刺さるか? 僕がこの物語を愛していたということがここまで深く刺さるものなのか?
愛している相手に死なれた俺だからわかるんだ。この世界を絶望の底に、物語を死の淵にまで貶めることができる方法が。みんなに最高の曇らせ顔をさせる方法が。
黒霧さんを伝ってヒーローが、みんなが出てくる。本来だったらあったはずの富士山周りでの戦いとかなくなってるの多分僕が暴れ散らかして色んなシーン端折っちゃうことになったからなんだろうな。ラスボス先生よりは少し優しめにしたからね……じゃなきゃヒーローが負け筋すぎて僕が見る前にたくさんキャラ死んじゃいそうだったからさ。
お、相澤先生とかエンデヴァーとか、耳郎ちゃんに轟くんもいるじゃん! いやね。出久くんの腕がなくなるってシーンはもうないと思うけど、そこでみんなが来るからかっこよかったのに、ごめんね? 僕の好き放題のためにわざわざタイミング合わせてきてくれてさ。
まぁ、どうせ全国放送どころか全世界放送されてるから一緒なんだけどね。どうせ曇るけど、どうせなら顔見たいじゃん。
「なに、言って……」
「その体でアイツと……アイツらとやりあえると思ってんの? 舐めてる? 僕が鍛えたんだぞ」
弔くんが困惑した顔を向けてくるが、それを見た上で言葉を畳み掛ける。反論なんてさせない。
「出久くんは強い。A組は強い。ヒーローは強い。だから。全てを始めるために勝ってよ」
さて、みんなが僕のことを大好きなのは知ってます。そして、僕もみんなのことを愛しています。この世界を愛しています。そして、僕のしたいことは曇らせで、みんなと僕の違いは“愛する人を失ったことがあるかどうか”の一点です。では、みんなを曇らせるには何をすればいいでしょうか。
答えなんて言うまでもないかな?
「僕の残りの命も、個性もくれてやる。ラスボス先生は僕が連れていく。だから、勝って」
「は? まさか……おい、馬鹿よせ、やめろ……!」
「全部を壊すためじゃない。今一度、始めるために」
「やめろ! やめてくれ、譲葉!」
「だから、勝って!! 君が決めろ!! 転孤!!」
「人の話を聞け! 譲葉! あぁ、クソ! なんでお前はいつも俺の話を聞かない!?」
「君は!!」
手を叩く。一度目は負傷した腹部を僕のものと入れ替えた。一気に気が遠くなるほどのダメージが脳を走る。血反吐が喉をわき上がって、飛び出て、鮮血が地面を汚した。それでも、そんな痛み今更だ。悪いけど痛みに関しては耐性がある。この二年の間に馬鹿みたいにたくさん怪我をしたものだから、麻痺っちゃってんのかな。嘘、流石に超絶痛いわ。
でも、
「何にでも! 成れるんだ!!」
それでもなお。二度目の手を叩く。
知ってるか? “個性”は移動するのだ。
入れ替えたのは、僕の「不義遊戯」と「AFO」だ。弔くんからラスボス先生の因子を丸々引き抜いて、僕の中へ取り込む。弔くんが優位になっていたところを見るに個性自体の調教は済んでいるのだろう。反撃もないし、結果なんて言わずと知れてる。
これで、僕は個性を使って復活することもできなければ、個性で回復することもない。誰かに押し付けてやればいいみたいなところはきっと読者の皆さまに騒がれるだろうけどそれも今から完封してやればいい。まぁ、そもそも限界なんで反転使っても死にかけが重体になるくらいなんだけどもね。
全部曇らせてやるって言ってるだろ?
「ゴフッ……」
「……あぁ、ゆず、」
「せんとうの……途中だろ、とむらくん……もういちど、いう」
「喋るな! 黙れ! あぁ、クソ! なんだこの個性、使いづらい……!」
使いづらいわけないだろ。僕が使いやすいように改良してあるんだぞ。『不義遊戯』だけしか入ってないだろう?
サーチはあげなかった。理由? 死にゆく僕を見たみんなの顔が見えないからね♡
サーチでみんなを観察する。みんなの目が見える。一人ひとりの瞳が見える。心配そうな瞳。泣き出しそうな瞳。その瞳が死にかけの霞んだ視界でもやけにはっきり見える。
なんだよ。僕はヴィランだぞ。
なんて顔してんだよばーか。本当に最高の顔してるじゃん。
みんな最高の曇り顔じゃないか。正直サーチしようにも目が霞んじゃってあんまり見えないと思ってたんだけどみんなの顔が相当曇ってるのは見えるよ。
そっか。僕は、自分でみんなの感情や僕に向くベクトルを定義して、自分で操ってはいたけれど。
愛されてたのか。
「フフフ、アッハッハッハッ!!」
「何笑ってんだよ! おい! 血、止まってねぇんだから笑うな! 興奮したら血止まんねぇだろッ……」
笑うだろ。こんなの。
そうだ。僕は愛されなくて、誰にも救われなくて、全部理不尽に奪われたから逆恨みでみんなのことを不幸にしたくて、そのためにみんなを曇らせてたんだ。みんなが曇ってくれたときに僕のところにまで堕ちてくれたのがわかってどうしようもなく興奮したから。自分が奪われる側じゃなくて奪う側に立ってるって事実がその自体が興奮剤だったから。
それがわかればなんと滑稽で独りよがりで、これ以上ないほどに空回りなことなんだろう。
僕は、優香と、家族と過ごしたかっただけだったのに。そんなことに気づくのが今更だ。
それを気づかせてくれたのは、もしかしたら彼女なのかもしれない。
『ゆずくん!』
全く。本当に馬鹿げているよ。我ながら。カッコ悪いったらありゃしない。
大事なものをなくした僕が大事なものを守れなくて、全てを失ったような顔をして未だに手に残ったものを慈しんで逝くなんて、無様すぎるだろう。
それでも、最後のセリフくらいはカッコよく決めなきゃ。みんなの記憶に色濃く残るためにね。
「いぃ〜……天気だァ……」
右手の人差し指と中指を突き上げて、空に掲げる。ただ、この世界の全てを今の僕が愛している。みんなの曇った顔も霞んでいく。誰かの声が聞こえる。
弔くん? かっちゃん? 耳郎ちゃんかもしれないし、ヤオモモちゃんかもしれないし、葉隠ちゃんかもしれないし、……出久くんかも、それはA組の誰かかもしれないし、誰でもなくて、誰でもあって、あの子だったのかもしれないけど。
この先は好きにして。欲を言うなら、生きて。
さらば! 掲げろピースサイン!!
今回は!!
後悔の残らない! いい人生だった!!
「愛してたよ……僕の……ヒーロー……」
僕の記憶はそこで途絶えた。
これは、僕がみんなを曇らせる物語だったんだ。
もう一度! 遠くへ行け遠くへ行けと僕の中で誰かが歌う!
どうしようもないほど熱烈に〜!!
これにてこの物語は完結です! ごめん! めっちゃ嘘です! もうちょっとだけ続きます! いい感じに締まったけど! もう少しだけ続きます!!
はい! ということで後書きから読む奇特なみなさま以外は楽しんでいただけましたでしょうか。いやこのシーン思いついた時はマジで脳汁溢れ出るかと思いましたね。すごくいい顔をしている皆様に置かれましてはごきげん麗しゅう……最高ですよね?
さて、舞妓譲葉の物語はここで終わりますが、この物語自体はもう少し続きます。というか、もう少し続いてもらわないと困りますよね。みんなはまだ彼ら彼女らの顔を見てないわけだし……大好きな彼が死んだらどんな顔をするんでしょうか、と気になって夜も眠れないでしょう……それは可哀想なので、次の話はそういう話でいきます。
譲葉〜! 今までありがとう〜!! ここまで読んでくださったみなさんもありがとうございます! これからもまだもう少しだけ続くこの物語を、最後まで目撃してくださいね! 応援のほどよろしくお願いします!!
映画編を入れるかどうかのアンケートをさせてください!
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入れたのが見たい!
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本編だけ追いかけるのでOK!
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アンケート結果が多い方で!