個性『不義遊戯』でいく! 僕の曇らせアカデミア! 作:波間こうど
大詰めぇ〜!
舞妓譲葉。
ヒーロー名はユズ、ヴィラン名は舞。
この世界、『僕のヒーローアカデミア』の世界において、異物であり、それでいて正史の世界の誰よりも大暴れを演じてみせた生粋の道化は、その屍を全世界へと晒した。そのあまりにも呆気のない幕引きにそれを見た人間の多くは動揺し、多くは困惑した。そして、大きな衝撃を日本に広げたのである。
さて、ここで思い出していただきたい。
舞妓譲葉の行ってきたことだ。彼が今まで行ってきたこと。思い出せるだろうか?
曇らせだ。目に映る全てを曇らせてみせようとした異常性癖者のなれの果て、それが舞妓譲葉だった。……それが我々の見解だ。じゃあ、舞妓譲葉が行ってきたことは? この世界においてどんな意味があるのか。曇らせのために積み上げた積み木は、どんな価値があったのか。
ヒーロー科の名門、雄英高校に主席で入学、入学してすぐヴィランの魔の手にかかり右足を失うも、オリンピックに代わるエンタメとして名を馳せた雄英高校体育祭で学年2位の成績を納める。仮免試験では満点主席合格、インターンでヒーローとしての片鱗を見せつけ、さらにはヒーローとして、最速のスピードでNo.8にまで上り詰めた。高校生にして誰もが知るヒーロー、誰もが憧れる憧憬の対象。
子どもにとって憧れの存在で、大人にとってはオールマイトたちの後を継ぐヒーロー。
そんな存在だったはずだ。
それがヴィランへと堕ちて、さらには死柄木弔……悪の親玉であり破壊の権化に自らの命を預けて逝った姿は、全世界に放映された。元無個性の少年は、確かにこの世界に大きな傷痕をつけたのだ。
今回は、その大きな傷痕を追いかけていくこととする。
その心に大きな傷を、消えない痕をつけられた生粋の弱者たちを。
× × ×
耳郎響香の心中を占める言葉があるとするなら、それは絶望以外のなにものでもなかった。
声すら出なかった。彼が倒れた瞬間は網膜に焼き付いて離れない。彼の2本の指にできた皺までしっかりと覚えている。忘れられるわけがないと思った。
いや、思った、なんてものじゃない。実感だ。何度も夢に見た、彼の傷つく様、それを忘れることができるという実感。
もう、彼の今までの怪我なんて思い出さないだろう。夢に見るのは、それ以上の悪夢に決まっているのだから。
怪我? 欠損? 誘拐? 植物状態? 確かにそれは自分にとっては地獄そのものだった。何度も冷や汗と吐き気によって目が覚めた。何度も頭痛によって地面に倒れた。
それを超える、圧倒的で明確で、明瞭な“死”を──。
「……………………………………………………ぁ」
脳が灼ける音が聞こえた。
それは常人なら聞こえるはずのない音。常人なら聞こえないほどの微弱な音。それでも、耳郎響香の耳には確かに、しっかりと、灼き付いたその音が聞こえたのだ。
イヤホン=ジャック。
その個性を呪ったことなんて何度もある。何千回だって憎んだ。彼の傷を癒すこともできない個性、この個性のせいで彼の気持ちを暴いた林間学校、何の役にも立たなかった神野、彼の手すら掴めなかった数々の事件。
なら、人のためにと鍛えてきたこの個性はなんのためのものなんだろうか? この個性は、どこまでウチのことを傷つけるのだろうか。
常人離れした聴覚に、腹の中から湧き上がって、逆流してくる胃液の音が聞こえてくる。それが喉を熱く溶かして地面へと吐瀉された頃には、自分の目の前が歪んで見えるような錯覚に陥っていた。
「……ぉお゛ぉぉお゛ぇぇぇッ!!」
なんで。
どうしてこんな思いをするんだろう。
こんなにもしんどいなら、こんなにも苦しいなら。出会わなければ良かった。雄英に受からなければ、雄英を受けなければ、彼に出会わなければこんなことにはなっていなかった。こんな苦しみと出会うことなんてなかったんだ。
『今までありがとう。さようなら。響香ちゃん』
最後の呪いの言葉がリフレインする。あんな奴嫌いにならなきゃ、ダメな奴だ、好きになっちゃいけない。体が防衛反応で出した答えを何度も何度も反芻させて、それでも自分の心は決まっていた。
『響香ちゃん!』
『歌えよ、そっちのがロックだろ?』
『あっはっはっ! 誰か! 僕告白された!』
ダメだ。何度、何度反芻させても、心は決まっている。
曲がらない。曲げられない。心が折れてしまっていても、変えられない答えだった。もう、望みなんてないのに、これ以上どうすることだってできないのに、それなのに…………。
吐瀉物に涙が吸い込まれていく。こんなところで突っ伏している場合じゃないのに、なのに、もう。
動けない。
身体中が、心臓が煩いくらいに痛む。頭が真っ白になっていく。地面に垂直に立つなんてことすらもできなくなってしまう。
無様で滑稽な姿だ。本当は見られたくなんてない。だけど、もう、見られたくない相手も居ない。この世に、もう、ウチが声を届けたい相手は──。
「あはは……ユズ……なんでこんなことするの?」
答えなんて返ってこない。知ってる。それでも口をついて出た言葉に嘘はない。
周りだって阿鼻叫喚だ。苦しんでいるのは分かっている。その上で、ウチはもう意識を手放してしまいそうなくらいに自分が溶けているのが分かってしまっていた。
これ以上、どうすることもできないほどに、落ちぶれているのだ。
「………………ねぇ、ユズ、好きだったんだよ? ……知ってたかなァ……」
それを知ったのが、トガヒミコに出会うよりも前なら、バンドに誘った時にでも照れ隠しじゃなくて、ちゃんと想いを伝えられていたならば、こんな後悔をしなくて済んだのだろうか、彼の手を握っていられたのだろうか。
『裏切りには裏切りを。それだけ。みんなのことは確かに、友達だと思ってた』
もし、ちゃんと伝えられていれば、この失恋に向き合えていたのだろうか。
答えのない考えだ、答えのない物語だ。
それでも呻き声と涙に流されるような嗚咽に混じって、敗者に許されるのは、愛した男の亡骸に向けてただただ頭を下げることだけだった。
最後の呪いの言葉を、胸に抱いて。
『今までありがとう。さようなら。響香ちゃん』
耳郎響香は崩れ落ちた。ただ、純然たる、地獄へと。
× × ×
緑谷出久にとって、舞妓譲葉とは光だった。
太陽のように身を灼くほどに輝く、熱くて、焦がすほどの熱であり、夜道でひっそりと横に寄り添ってくれる蛍の光のように暖かくて、そして自分の行く末で燦然と輝き続けるまさに道標のような存在だった。
出会いは偶然。
たまたま家が近所で、たまたま同じ公園に集った子ども。爆豪勝己たちと幼馴染になり、一緒にヒーローごっこをしたのは、確かにただの偶然でしかなかった。たまたま生まれた場所が近くて、たまたま知り合った。将来的に小学校に上がれば知り合ったのだろうけれど、それよりも早く知り合ったことには必然性があると思わずにはいられない。
緑谷出久にとって、舞妓譲葉は光そのものだった。
自分にできないことも、彼にはできた。難しい漢字も読めたし、複雑な計算もできたし、敬語も使えたし、英語だって話せた。道に咲く花の名前は由来から説明してくれるし、転んだ時は丁寧に処置してくれるし、いつも持っているバッグには絆創膏が常備されていて、女の子のように可憐なワンピースなんかを着ながら、いつも笑顔で笑いかけてくれる。
生まれた時から、舞妓譲葉は、緑谷出久にとって太陽だった。太陽そのものだった。
これ以上に輝くものを緑谷は知らなかった。
これよりも暖かいものを緑谷は知らなかった。
こんなにも焦がれるものを緑谷は知らなかった。
そして、それは最終的には負け犬根性が染み付いた同族意識にまで辿り着く。
きっかけは簡単だ。
この世界では齢四つにして知る。社会の現実。
彼は、緑谷と同じ無個性だった。
個性のない子どもは同学年に彼と僕だけ、同じ学校でも二人だけ、中学校までみても二人だけ。周りの大人を巡っても二人だけ。二人はただ、どうしようもないほどに似通っていた。だって、二人はヒーローになりたくて、それでも、ヒーローになる上で一番大事なものが欠けていて、ヒーローになるには個性がなくちゃいけなくて、彼は常日頃から恨めしそうに個性を自慢する人を睨んでぶつぶつと怨嗟の声を漏らしていた。
『“個性”がないってのは、死んでるのと変わらないんだ』
緑谷にとってその声は救いだった。自分よりも何もかも秀でている幼馴染が。大好きな幼馴染が、個性がないことを憎んでいる。それは、とてつもなく甘露な蜜だった。この上なく甘い甘い飴だった。
何もかもできる彼は、個性があればどこまでだって駆け上がっていくことなんて目に見えている彼が、どこまでも辿り着くことが分かりきってしまっている彼が、“個性”がないというただ一点だけでここにまで落ちてきてくれているという事実はそれほどまでに甘露な蜜だったのだ。
二人はずっと一緒だった。
苦しい時も、楽しい時も一緒だった。
緑谷出久にとって、舞妓譲葉は光だった。
暗闇の中に落ちてきた小さな太陽だった。
手を伸ばしたって本来なら届かないはずの“ヒーロー”が、自分と同じ底なし沼にまで沈んできてくれているのだ。こんな幸運があるだろうか。
そして、緑谷にとって、それすらも超える不運と幸運は。
『君は、ヒーローになれる』
同時に、手元に転がり込んできた。
緑谷は突発的に、ただその手を掴んだ。
そして、それから一年間はただ、ひたすらに罪の意識に苛まれることになった。自らの親友を、血肉を分けたとて構わないような親友を、ただひたすらに欺き続け、騙し続ける生活が始まったのだ。勉強は緑谷の方ができていなかった。運動だってそうだ。習い事を多くしていた彼に比べて自分にはヒーローのことを人よりも多く知っている分析家気質だという特技くらいしかない。負けられないと思った。
オールマイトによるつきっきりのレッスン。オールマイトによる肉体改造。それら全てを一年間隠し続けなければならなかった。
何度も声が喉をついて出そうになった。何度も「聞いてよ!」と言いそうになった。最終的に舞妓に個性を譲渡することになったとしてもそれは構わないと思った。罪悪感だけが胸に蔓延っていて、それがこの上なくしんどくて。
だから、入学式に彼で同じクラスだってことがわかったとき、「個性が発現した!」って喜んでいるときは人生で一番なんじゃないかってくらいに報われた気がして。
それからの一年間は、二人とも個性を持って、憧れの雄英で授業を受けて、幸せで。大変なことも、苦しいことも、舞妓にとっても、緑谷にとっても、傷が絶えない毎日ではあったけれど、幸せで。
目の前の光景は見たくなくて。
動悸も、吐き気も起きてこない。後ろでは誰かが吐いて、誰かが泣いて、誰かが叫んで、誰かが誰かに止められて、阿鼻叫喚の地獄絵図になっていた。それでも、緑谷は。緑谷出久だけは前を見ていた。
満足そうに斃れている親友を見ていた。
その口から垂れるまだ固くなっていない流動する血液を見ていた、お腹に空いた大きな穴を見ていた、その服の皺を、羽衣の裂け目を、虚空を見つめる朧げな瞳を、ピースサインで固まった右腕を、動かなくなってしまった屍を。
名前すら声にならない。
瞳孔が開いているのがわかる。目が乾くのも、頭の中で誰かが声をあげているのもわかる。わかる。わかる。理解できている。
頭を過ぎる全てのことが言っていた。
「お前のせい」だと。
全ての声が言っていた。
緑谷出久のせいだと。
× × ×
爆豪勝己がその場でなんとか自分を律することができたのは、彼自身が自分に一番厳しい男だったからに他ならない。
そして、彼がその場で屈さなかったのは、彼には分かったからだ。理解していたからだ。
この場で屈してしまった場合、もう、自分でも立ち上がることができないのだと、それが分かっていたからこそ、それを理解していたから、彼はグッと拳を握った。……そして、その場で立ち尽くしていた。
ドクン、ドクンと、脈打つ心臓が、痛みすら思い出さずに自分の足の指の先端にまで血液を運び続けた心臓が、やけに煩く鳴っているのが分かった。
勝機を見出したからか? 違う。
確かに舞妓譲葉、ヴィラン名 舞は強大なヴィランだ。もしも死柄木弔と共に並び立つのならばそれは勝ち目のない戦いになってしまっていただろう。
しかしそうじゃない。
失恋したからか? 違う。
そもそも恋愛感情など持っていなかった。持っていたのは憧れと、敗北感と、後悔と、嫉妬と、羨望と、焦燥と……それら全てを混ぜたものが恋に似ているというのならば、それもよし、しかして、爆豪勝己にとって、それは恋ではなかった。
では?
では何故。心臓がこんなに煩く鳴るのか。
恐怖?
では何故。瞳から涙が溢れるのか。
恐怖?
何が、爆豪勝己を駆り立てているのか。
自らが終生のライバルであると定めた人間が死んでしまったから? その遠因とはいえ原因の一端になったから? 今後のヒーローの人生に、キャリアにどう考えても不可逆の傷がついてしまったから? どれも違う。全て違う。違う。違う! 違う! 違う!!
それは、心底絶望したからだ。
ただ、自分はヒーローとしてあまりにも未熟なのだと、罪は償っても償ってもなお、消えやしないほどに固まってしまって、流れた血がその場で血痕として残るように、心の奥底に残っていた大事な何かが壊れてしまって。理解してしまったからだ。把握してしまったからだ。納得してしまったからだ。
ヒーローとして、あまりにも未熟で。
ヒーローとして、あまりにも脆弱で。
ヒーローとして、あまりにも埒外な。
己という存在を。
己という存在を乗り越えられない矮小な自己を、肯定することなど二度とできないであろうあまりにも邪な結末を、邪悪そのものな全てを、世界を、彼は呪い続けることになってしまうのだ。自分というあまりにも、
あまりにも無邪気で、それ故に多大な悪を。
世界で一番の罪を。
× × ×
その少女に……幼女にとって、彼、ないし彼女は救いだった。
自分の人生に良いことなんて何にもないと思って生きてきた。自分の人生で優れたことなんて、幸せなことなんて何も起こらないと思って生きてきた。
切り刻まれて、擦り潰されて、崩されて、壊されて、ぐちゃぐちゃの肉片になる最中、自分は何で生まれてきたんだろうと、なんでこんなことになってしまったのだろうと、何度も世界を憎んでは、何度も後悔をしては、その度にそんなの無意味なことなんだと、二桁に満たないその幼い脳で達観して、諦観して、諦めては、暗い、無機質に子どもが好きそうなおもちゃだけが並べられたファンシーな部屋で涙を流していた。
そんな彼女を救ったのは一人の少女だった。
『やぁ! 君がエリちゃんだね? 俺の名前は舞! 好きに呼んでくれていーぜ? よろしくな?』
仮面をつけた怪しい少女。確かにお姉さんと呼べるような歳だっただろう。子どもの、いつも自分に怖いことをする彼らよりも年下のお姉さんはまるで当たり前のことのように、その部屋に入るのなんて当然の権利であるように、まるで自分がその部屋の主かのように入ってきた。
それは敵連合、舞と名乗り、そして、たったの一日で少女の心にまで。
『俺は死なないよ。エリちゃん……壊理ちゃんの個性なんかじゃ死ねない。何てったって俺は強いからね!』
深く。
『大丈夫! 壊理ちゃん。君は悪くない。だから、君のことを教えて? 僕は消えないから』
深くまで、入り込んだ。
『あの……』
『うん』
『うさぎのお人形さんが、好き』
『へぇ、そうなんだ?』
『りんごが、好き』
『うんうん。美味しいよな! お揃いだね』
『手術室が嫌い』
『怖いよなぁ、俺も嫌い』
『そう、怖い。怖いんだよ、すごく……』
『それでも我慢してたんだ、怖いのも、痛いのも……立派だね』
『うん』
『偉いよ、君は。よしよし、いい子だ!』
『う゛ん』
たった十分程度で壊理から、エリを引き出し。その少女の懐にまで入り込んだ人心掌握術を、その少女はただ優しいお姉さんとして知覚し、認識した。そのお姉さんはたった数日間ではあるけれど、ご飯を一緒に食べたり、一緒に遊んだり、一緒に過ごしながら自分のことをたくさん可愛がってくれた。
ヴィランだと、悪い人だと自らのことをそう称した彼女のことを、幼女は、全くそうは思えなかった。
『君は救われるべき人間さ。必ず、君を救うヒーローが現れるよ』
そう言われた時に、彼女のことだと思った。
結局、彼女とは違うところに救われていくことになるんだけれど、そのときも、なんで心の底からその場にいることが怖くなかったのかと言われれば話は単純だった。
そこには彼が居たから。
『僕は舞じゃなくて、舞妓譲葉。……いや、名前に舞入ってるけどね? 舞じゃないんだ。僕のことは好きに呼んでいいけど、お兄ちゃんって呼んで欲しいかな!』
飄々としてその場に立つ少年。片足で少女のことを抱き上げて笑う少年。
『僕は、君の言う舞じゃないけど、君のことを守ってあげられるヒーローになれると思うんだ』
『……私にとっては舞お姉ちゃんだけがヒーローだもん』
『そうなの? じゃあ、ハイ! 立候補させてよ!』
『……舞お姉ちゃんだけだもん」
『アハハ! そこまで? なら頑張らなきゃ。君のヒーローになりたいんだ! 君みたいに可愛いお姫様のヒーロー役、そいつだけが独り占めなんてずるいだろう?』
圧倒的な救いは、圧倒的な光は。
『『君は救われるべき人間さ。必ず、君を救うヒーローが現れるよ』』
『……!』
『そのうちの一人に、僕が成れたら嬉しいな』
『…………なんでそんなに優しくするの?』
『え? 僕はヒーローになりたいからね! 知ってるかい? “夢や希望は語るもん”なんだぜ? だから、君のヒーローになりたいって夢は存分に語らなきゃ!』
少女のことを激しく照らした。空に輝く星々よりも、空を強く打ち灼いた太陽のように。
そうして、少女の人生に大きく映り込んだその少年はいつの間にか居場所であった学舎から消えて、傷ついて、そうして、その最期を。
「……?」
映像越しに眺めていた。
舞が、譲葉が同一人物であったということ自体が彼女にとってはどうしようもなく嬉しいニュースだったのに。それすら超えていくようなニュース。バッドニュース。あまりにも酷い、齢七歳の少女にとっては酷に過ぎる、事実。
「? ? ……? ??? え?」
脳が理解を拒んでいることが幼い頭でも理解できた。そして、それを拒絶だととったのか、それともどうとったのか、涙が溢れ出すのに、さして時間はかからなかった。時間なんてかからない。ただ涙だけが溢れた。零れた。器に並々と水を蓄えたかのように。ただ不可逆に流れるように。
「あ゛……あぁ、あぁぁ……あ゛ー?」
「エリちゃん……!」
抱きしめてくれたのが誰なのか分からなかった。抱きしめてきたのが誰なのか分からなくて、それよりも、何よりもただ、あの人が死んでしまったことが理解できて、理解できなくて、もうなんとかして欲しかった。
曇る。なんて、そんな優しい表現をするべきではないだろう。それは雨であった。
止むことのない雨だった。大粒の雨は、そのまま少女の頬を流れ落ちた。自分の全てを象ってくれた、救ってくれたそんな自分にとって得難い本物の兄のような、姉のような、ただ自分にとって何者にも代え難い存在が今、この世から失われたという事実は。
母を失ってしまった幼子よりも、それよりももっと深くまで突き刺さった。
トラウマになって、深くまで刺さって仕方ない。
涙は止まらない。
「う゛わ゛ぁ〜ん!」
それは、滂沱の雨。
曇から流れた。後悔を示す、雨だった。
曇らせってのはね、どこまでも良いものなんですよ……
物語が大詰めに向かうほど少しずつセンチメンタルな気分になりますね。しみじみと曇らせ書いてました。
ラスト数話ではありますが、応援してくれる皆様の声にお応えしてしっかり書き続けられればなと思います! 感想に元気もらってます。本当に。
これからも是非ともこの物語をよろしくお願いします!!
それと、んこにゃさんは絵が上手い。
映画編を入れるかどうかのアンケートをさせてください!
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入れたのが見たい!
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本編だけ追いかけるのでOK!
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アンケート結果が多い方で!