個性『不義遊戯』でいく! 僕の曇らせアカデミア! 作:波間こうど
未来を付け加えてしまいましょう。
全て身から出た錆
羽振りよく増やした黒歴史
ありとあらゆる物を捨てたり
身に覚えのない運命に殺されかけたこともあったし
死んだ目をして生きた時期
それでも今日生かされているってことは?
その意味は?
誰も僕のことを助けてくれなかった。
個性が吹き出して、誰かを傷つけて、家の地下牢に閉じ込められたときのことを僕はよく覚えてる。誰も助けてなんかくれなかった。結局、僕がそこから抜け出せたのは、もぬけの殻になったその家を、化物が踏み散らして破壊してくれたからだ。
たった七年前。世界は大きく変わった。
敵連合。
ヴィラン史に残る、日本を通じて世界を揺るがした大犯罪組織。それはたった数人の幹部と、それを牛耳る一人の長、死柄木弔と、その相棒にして被虐者、舞によって統括された世界で一番優れたヴィラン団体だ。
彼らは自らが虐げられてきた歴史と事実を胸に、世界を一度自分たちにとって平和であるように動かそうとした。たった十六やそこらの少年や、二十歳そこらの青年が、世界を書き換えてみせたのだ。
それは僕たちに大きな力を、勇気を、そして反逆する意志をくれた。七年前、世界は変わったのだ。
ページを捲り、また中身に目を通す。そうして眺めてからゆっくりと反芻する。彼らの軌跡、最後は敗れてしまった、その軌跡。
コンコンとノックの音が聞こえたから本を閉じた。入ってきたのはタキシードに、仮面をつけた男だ。
「ボス。時間ですよ」
「……わかってるさ」
「……まだ読んでたんですか? 残党が書いた、」
「残党じゃないさ。彼の意思はここに残っている。僕は、必ずこの世界を救う……僕らは、残党じゃないだろう?」
「えぇ、私たちは世界を救います」
「だから間違っているよ。僕たちがいる。僕たちがいるなら……スピナー様は残党じゃない」
「えぇ、お言葉を間違えました」
僕と少し会話を交わした男はぺこりと頭を下げた。彼はいい男だ。優れていて、僕がヴィラン団体を立ち上げてからずっと付き従ってくれている右腕。敵連合においては舞の立ち位置に当たる男であり、彼は舞に共鳴しているらしい。
まぁ、僕たちの世代のヴィランで、彼にリスペクトのない奴なんていやしないが。
「行きましょう。ボス」
彼に促されるようにして立ち上がる。本を懐に入れた。
「あぁ……次は、僕だ」
大昔に縫い付けられた口をガリガリと掻きむしって、僕は立ち上がった。
まずは手始めに、世界を救うのだ。
× × ×
「おい、緑谷。お前聞いたか?」
「はい?」
事務作業の途中、緑谷の横から声をかけたのは元担任で、現同僚の相澤だった。一時期は内臓の大幅な欠損で生死を彷徨っていたが、今はピンピンしていて、実技なんかでは一年生や二年生を投げ飛ばすこともある、現役こそ引退したものの、教員の一線で闘い続けている優秀な指導者である。
「お前の幼馴染、また炎上してるぞ。しかもまたいつものだ」
「あー……」
「仕方ないこととはいえ……これじゃあいつまで経っても通形にゃ程遠いな」
緑谷の幼馴染でプロヒーローの爆豪勝己……ヒーロー名、大・爆・殺・神ダイナマイトは、大きく分けて二つの見方によって見られている。
片方は不屈のヒーロー、悪を挫くための絶対的なカリスマ、強さの権化、日本一強いヒーローとして。
もう片方は、最早伝説となった男を……ヒーローでありヴィランであった“彼”を終わらせた存在として。
「いくらあいつがヴィラン対処ランキングNo.1になってもなぁ……ビルボードチャートはそれこそ知名度や人気も重要だ。このままじゃあ過去のイザコザのせいであいつずっとトップに立てないままだぞ」
「それはかっちゃんも分かってるんじゃないですかね……」
「はぁ……そこらへん頑固なのはお前たち幼馴染の悪いところだよ」
相澤は頭をガシガシと掻いてそう言った。そこでの言葉に気がつかない緑谷じゃない。
彼の「お前たち幼馴染」という言葉が指している三人を、カウントできないほど馬鹿じゃなかった。
「本当にそうですよね……」
「……あー、すまん」
「いえ、いいですよ! もう吹っ切れましたから!」
「そうか? ……吹っ切れなくてもいいと思うぞ」
「いやぁ……はは……」
緑谷は返事に困って愛想笑いを浮かべた。
誰もがもう立ち直りつつある。僕たちの大事な人。僕たちにとって大事な思い出。
「……そういえば、今日は集まりがあるんだったか」
「はい! みんなに久しぶりに会えるんです!」
「存分に楽しんでこいよ」
「もちろん! あ、だから少し早く帰りますね!」
「いつも残業しすぎで指導教官だった俺が校長と教頭に文句言われてるんだ。早く帰ってくれる分には構わねぇよ」
「相澤先生も顔を出しますか?」
「アホ、若い奴らでやってくれ」
相澤は緑谷のデスクにあった書類の束を一式奪い取るように乱暴に受け取るとそのまま背越しにひらひらと手を振って自身のデスクへと歩いていった。
「……敵わないなぁ」
自分たちの恩師の大きな背中に緑谷はそう小さく呟いた。
× × ×
「かんぱーい!!」
「緑谷チャート1位おめでとうー!!」
「これで正式にNo.1ヒーローだな!!」
「ハハ、みんなありがとう!」
都内某所。雄英高校1年A組……訂正しよう。元1年A組のメンバーは集まっていた。お酒を片手に笑うその姿は大人になった彼らの逞しさと、優しく成長したことを示し、原作以上に醜く残る傷跡が、先の大戦の戦火の激しさを物語っていた。
「しかし良かったよなぁ……ずーっと通形先輩がNo.1だったもんな!」
「轟も2位まで迫ってたんだけどなぁ! やっぱり流石は“英雄”だよ」
「あんまり褒めないでよ……照れるってば」
緑谷は照れくさそうに右頬を人差し指でポリポリと引っ掻きながら、それでも嬉しそうにはにかんだ。A組の元同級生が笑っているだけで嬉しいのである。
「おい出久」
「ん? どうしたの? かっちゃん」
「お前、無理しとんのか」
「何がさ」
「最近、誰よりもお前が早くに現場に着く。それだけならまだ別にいいんだけどよ……教員の仕事、まだやっとんだろ」
「うん。後進の育成は急務だよ。僕にできることはなんでもやらなきゃ」
「まぁ、年々ヴィラン関連の犯罪の指数は上がってるもんなぁ……」
「どいつもこいつも“シンパ”だしな。緑谷ももっと俺たちを頼ってくれていいぜ?」
「頼ってるよ! というか……頼りにしてるよ。みんな」
ビールをくぴりと飲んでから、緑谷はまるでその笑顔を周りに染み込ませるような、優しい声で言った。……チャートのトップヒーローとして君臨しながら、それでいて雄英高校で後進の育成にも励む。その姿は、まさしく日本が世界に誇る英雄の姿、日本が誇る平和の象徴。
彼らの軸になっていた彼の姿が重なる。
「……緑谷って、変わったよな」
「変わったんじゃねぇよ」
上鳴の言葉にすかさず爆豪が言葉を重ねた。危なっかしいものを見るように……例えるなら、コンクリートの上を全力疾走する幼子や、昔の緑谷のように。
「変えたんだ」
その姿を、“彼”に重ねてしまうから。
「……俺も、もっと頑張らねぇとな」
「お前はもう頑張らなくていいって。なんであの数のアンチいるのにNo.5なんだよ。日本の半分に嫌われてそれなの異常だからな」
「No.5じゃ不満だね!! 俺が目指すのは完膚なきまでの1位なんだわ!!」
「それは諦めたらー? 緑谷には勝てないでしょ」
「芦戸なんだコラ! やんのか!!」
「爆豪が人の名前呼ぶようになったんだからすげぇ成長だよな」
「ンだアホ面コラァァァァァ!!」
「そこは上鳴じゃねぇのかよ!!」
A組は今日も楽しそうに集まった。こうして集まる頻度は一月に一回、多ければ一月に三回。何がなんでも、理由をつけて集まる。
一人でいると悪夢を見るからだ。誰もが、あの瞬間を、網膜に焼きついて離れないあのピースサインを幻視してしまうから。
だから、理由をつけて集まる。
彼らは強くなった、確かにそうだ。強くなった。どこまでも強く、強くなった。
だけど、個で生存することは絶望的に思えるほどに、弱くもなってしまったのだ。
お互いがお互いに傷を舐め合い、支え合わなければ生きていけないほどに、強くなった。
それでもヒーローになるほど、弱くなったんだ。
『エマージェンシー!! エマージェンシー!!』
けたたましい警告音。それが流れるや否や青年たちは立ち上がった。即座に服を脱ぎ、コスチュームへと着替える。男女の垣根こそ(主に男性陣による配慮によるものだが)あるものの、そのスピードを落とすことはない。即座に着替えると、そのまま着替えて外へと走り出す。
「おちおち楽しく飲んでもられねぇな」
「まぁまぁ」
「さっさと終わらせちまおう」
「終わったら飲みなおそーぜ」
「終わるのは早いだろうけどどうせ交通整備とかで時間かかるだろ」
「そこもまぁ、できるだけ早く片付けてさ」
着替えをすぐ済ませると、マントを翻して緑谷が前に出た。キリッと瞳を釣り上げた元クラスメイトたちを鼓舞するように。
『ヴィラン団体! 不眠の掌!! 銀行強盗!! 繰り返す……!!』
こんな、脅威ですらない警告音に怯まないように。
「それじゃあ、みんな」
パン! と手を叩いた。
「いくよ」
ピリッ、と。空気が引き締まったのを、元A組の面々は感じていた。
ワン・フォー・オール。
その正統後継者にして、No.1ヒーロー。
デク。
その姿に、年々と、彼らの憧れが重ねられていく。それがどこまでも屈辱で、それがどこまでも救いにもなっていった。
それが緑谷出久という少年にどこまでも責任の所在をなすりつけるような形になっているという事実に、気づいていながら。
その後、そのヴィランによる大掛かりな銀行強盗は、ビルボードチャートトップ30までで埋め尽くされたヒーローたちによる逮捕とも呼べない蹂躙、ヴィランを捕獲するショーによって幕を閉じる。
少し交通が麻痺することになっても、ヒーローたちは自らの力の誇示、そしてヴィランによる犯罪の全てを無に返すため、いつ生まれてもおかしくない、第二、第三の死柄木弔……第二、第三の舞を生み出さないために、その力を誇示し続ける。
それが、彼らにとって、一番大事なヒーローの証明、存在証明だから。
× × ×
「はーい、交通整備でーす。気をつけてくださーい!」
「危ないから瓦礫には触らないでください!!」
「ショートの出した氷をSNSにあげるのは構いませんが、周りの一般人の方に配慮してくださいねー!!」
「お前ら危ないって言っとんだろうがさっさと離れろやぁぁぁぁ!!」
「かっちゃーん!!」
「ダイナマー!!」
「お前らは毎回くんな!! かぁちゃん心配すんだろ!! 帰れ!!」
デクは一人ヴィランの大捕物を終えた後の交通整理をしながら
「うわー! ちょ、走らないで!!」
犬が一匹飛び出していく、それを見つけるとデクはそこに向かって少しだけ駆けた。子犬の後ろを、袈裟姿の少年が追いかけている。
「ごめんなさい! なんか急に走り出しちゃっ……て……」
「全然いいよ! でも危ないからもう少し離れててね!」
──そこは、ヒーローが今まで以上に必要とされる社会。今まで以上にヒーローが力を持つ社会。
今まで以上に、ヒーローに力が求められる社会。
自らの正義と、意義のために戦う人が大勢いる社会。
──死柄木弔と、舞妓譲葉が残した世界だ。
デクの前にいたのは一人の少年だった。黒い髪はボサボサで、伸ばしっぱなし、爪も伸び切っていてズタボロの袈裟を着ているが、おかしなことに何故か様になっていた。彼のどこにも“彼”の面影はない。一番よく彼のことを表すとするのなら“墓場から出てきた”というのが正しいように思えた。夜中に暗い道で出会ったら卒倒しそうな相手だった。
確かに個性的な格好をしているが、現代において服装なんてものは意味をなさない。各々が好きな服装をするのが普通なくらいだ。だから、ステレオタイプなホラー的服装に関しても何にも思わなかった。
少年と目があって、ふと、デクはまるで運命に口を開かされるようにして声を出した。
「……ゆずくん?」
「…………」
何より、額に残るツギハギが、彼の印象を決定づけている。不気味な少年。
そのツギハギの少年は、不気味の中に、不思議な優しさを携えた青い目をした少年だった。彼が不思議そうな顔でこてんと首を傾げながらデクの声に言葉を返す。
「……ゆずくん? って誰ですか?」
「あ! いや! ごめんね! 僕の親友に似てたから……!」
「アハハ、そうなんですね。そんなに似てますか?」
「う、うん……顔はそんなに、服装や雰囲気も似てないんだけど……なんだか似てるって思ったんだ……なんでだろうね?」
「…………それはそれは」
なんだか似ている。そんな言葉で言うのも変な話なのかもしれないと思う。デク自身、目の前の少年は何も、彼と一致した要素なんて持ち得ていないとわかっていた。わかっていたのに、それなのに、彼に対してそんな言葉を口走ってしまったのだから。
身長は彼の方が低かった。彼の髪は白かった。瞳の色は同じ青色だけど、彼の方が澄んだ色をしていて、どちらかと言うと水色めいていた。
男の子にしては丸みを帯びた体をしていた彼に対して目の前の少年は細長い印象を受ける。華奢、という言葉がよく似合うが、それよりも折れそうな儚さも同時に内包されていた。
どこもかしこも似ていない。似ている部分を探す方が難しい。それでも、それでもなお、デクには少年が彼に見えた。
見た目じゃない。なんと言えばいいんだろうか。
そうだ。魂だ。
「魂が、そうだって……言ってたんだ」
魂だけが、彼を親友と結びつけてしまった。
そんな、あり得ないことだった。
「…………他人の空似って奴ですかね? まぁ、ヒーローデクに声かけられたんですから別にラッキーの方が大きいです、いいですよ」
少年はそう言うと、パトロール頑張ってくださいね、と笑ってデクを送り出した。桜の舞う、四月のことだ。
新たな季節。新学期。新生活。
それは季節が循環する日本という場において、始まりであり、終わりの場でもある。
「これから交通整理に出るんだ! 大丈夫? 助けはいらない?」
「これは転んだだけなので大丈夫です。気にしなくてもいいですよ。犬追いかけてたんです」
彼の手のひらには確かに一匹の犬が捕獲されていて、その犬が少し申し訳なさそうにワンと鳴く。ご主人様を泥まみれにしたのを謝罪するようだ。しかしその犬を愛おしそうに撫でて少年は微笑む。
「服装は趣味です。安心してください」
「そっか! ならよかった。困ったらいつでも言ってね! 僕が飛んでくるから!」
「そりゃいい。期待してますね」
デクは振り返る。A組のみんなが手を振って彼のことを待っていた。
「……せいぜい頑張れ、僕のヒーロー」
「え……」
その優しすぎる言葉を聞いてデクは後ろを振り返るも、先ほどまでそこにいた彼の姿はどこにもなかった。そこにはふわりと舞う、桜の花びらが一片、あるだけだった。
「デク!」
「……あ、うん! すぐ行く!」
みんなに呼ばれて振り返る。デクはもう後ろを振り返らずに走り出した。
その後ろ姿を、ただ一人、ビルの上から一人の少年が見送っていた。
× × ×
「……やっと起きれた。しばらく死にかけてたからなぁ。というか、死んだんだけど。何年経ったんだろ……原作軸なら八年かな? って思ったんだけど……まだ7年ちょいしか経ってないんだけど! 早い早い! しかもアーマードデクわい! なんで出久くん生きてんのさ!! 寿命縮むみたいな設定どこいったの!?」
男は軽快に笑いながらズキズキと痛む頭を、脳を抑えるように額のツギハギを撫でた。当然、それが意味するところなんて一つしかなくて。
「まぁ、ここ数日で情報を集めた感じ原作とあんまり大差ないかな? ちょっと個性関連の犯罪が増えてるけど……まぁ、誤差誤差! 僕が死んでからハッピーエンド迎えたんでしょ。ケッ、好都合ではあるけど癪だなぁ……」
あるビルの屋上で、一人の男がクスリと笑う。ビル風に吹かれて舞い上がった前髪が隠すその額には、横一文字に額を切り裂く縫い目が走っていた。
「……さて、どうしようかな。弔くんのこともあるけど……でもまぁ……」
道路の交通が麻痺しているところに駆けつけた、元A組の姿を目視する。そして彼はその青い瞳を瞬かせた。
空よりも青く、水底より暗い群青の瞳で。
どこまでも続くような青の瞳で。
「……次も、僕だ」
彼はパンと手を打つと、ビルの屋上からふわりと消えた。
澄み渡った青空に桜の花がふわりと舞う。
その行方を、誰も知らない。
ありがとうございました!!
波間こうどでした!!
映画編を入れるかどうかのアンケートをさせてください!
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入れたのが見たい!
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本編だけ追いかけるのでOK!
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