イベリア出身のオペレーターは皆仲良くしていてほしい。
「じゃあ、エリジウムさんとソーンズさんは同室ですね。」
ロドスの慰安旅行。行先は人工海に面したリゾート地。それは僕達オペレーターへの、アーミヤからの温かい心遣い。日々働き詰めている僕達にとって、珍しく貴重な機会だというのに。アーミヤの告げた僕の同室が、いつものあいつだと聞いて僕は落胆した。そして、その発表を聞いた直後のあいつ、こっちを見てしたり顔でウィンクして来てさ…。これが、僕達の夏のバカンス(?)の始まりだった。
時刻はまだ早朝。海に反射された朝陽が目に痛いくらいに眩しい。そんな中、僕は息切れを起こして砂浜に両手を付いていた。呼吸が整わない。ぜぇはぁ、ぜぇはぁ。
そんな僕の元に、あいつが駆け足で引き返してくるのが見えた。
「へいへい。もう終いか?」
タオルを首にかけて、もも上げを続けながら僕の様子を見にやって来る。
「お前。未踏の地を踏破した、自慢の脚を見せてやるって言ってたじゃないか。あの時の威勢はどうした?へいへい。」
「くっ、君がっ、僕を朝練に連れてくって言って聞かないから、仕方なく、君の持ちかけた体力勝負に付き合ってあげてるのに…っ、はぁ、はぁっ。
そもそもっ、戦場で前線を張ってる君とは物理的耐性が違うんだ。勝てっこないじゃないか。」
「そう言う割にはお前。勝負に乗った時は自信ありげだったじゃないか。」
「……。大体。折角の旅行先で、何でこんな早朝から体づくりをしてるんだよ、僕達は。」
「ただの日課さ。日々の体づくりを怠れば、真のデストレッツアを放つことは出来ない。」
「僕は、ただの通信員なんだけど…?僕には剣術を放つ為の体づくりなんて、これっぽっちも必要ないんだけど!?」
「言い訳無用。一度やると決めたんだろ?最後までつきあってやるから。ほらさっさと立ちな。」
「なんでこうなるんだよ…。」
仕方なく立ち上がる僕。
「あと五セットだ。根性見せろよ。〝ブラザー〟。」
「く、くそっ…。砂浜ダッシュは、見た目以上に脚に来る…。」
「へいへい。無駄口叩いてたら置いてくぞ。」
「ま、待って…。」
ソーンズに叱咤激励されながら、やりたくもない砂浜ダッシュを僕は何とかこなす。
「へい。お疲れ。」
彼が事前に用意していたスポーツドリンクを僕に向けて投げてくれる。
「へへ、ありがと…。」
走り切った達成感と、頬に押し付けたスポーツドリンクのひんやりした感触が気持ちいい。
「こら!そこの二人!」
「あ、ウィーディ…。」
声のする宿舎の方を見ると、ウィーディがぷりぷりと怒ったような仕草でこちらの浜辺へ向かってくるのが見えた。そして、急いで足を動かしてたお陰なのか、「きゃっ」と言って彼女は脚をもつれさせてコケる。べたっと地面に倒れ込んで暫くそのままだったけど、すぐさま跳ね起きて何事もなかったかのように肩を怒らせて僕たちの方に歩み寄ってきた。
「そ、そろそろ朝食の時間が近いんだよ!?あなた達二人が部屋にいないって聞いたから、探してみたら…。
こんなところで何してるの!」
「男の勝負さ。」
ソーンズがタオルで顔を拭いながらさらりと言う。運動用に来ていた白Tシャツの裾を暑そうにぱたぱたとさせる。
「もう宿舎に戻る。余計な心配だったな。」
「何よ!折角、人が気にかけてあげてるのに!」
ソーンズが宿舎の方に戻り始め、ウィーディがその後を追うようにとてとてと着いていく。
(僕は、もう少し休んでから行こうかな…。)
砂浜ダッシュでふらふらになった足腰が回復するまで、まだかかりそうだった。僕は砂浜に一人残される。
あいつ VS 僕
1-0
朝食が済んだ後、僕とソーンズは部屋に戻り、なぜか二人で将棋を指すことになった。
「極東に面白いボードゲームがあるらしい。SHO-GIというそうだ。」
そう言いながらソーンズが部屋のテーブルに盤を置き、駒を並べ始める。
「ブラザー?え、待って。外には出ないの?折角皆で遊びに来てるんだからさ…。」
「む。自由時間の意味を知っているか?それは〝何をしても自由〟って意味だ。やるぞ。」
「えぇ……はぁ…。ブラザー、君ってやつは。一度好奇心に駆られたら、本当に手に負えないってことは僕も知ってるよ。でも、何で僕がそれにつき合うんだよ。」
「他に誰が相手をしてくれるんだ?」
「別の対戦相手を探して来なよ!」
「そう言いつつ、お前だっていつも俺との対局を楽しんでるだろ?」
「…はぁ…。仕方ないな。普段なら君と存分に遊ぶ機会も、あまり無いことだしね。
将棋って、チェスに似てるんだっけ?新しい遊びってわくわくするね。新しいものに対する僕の順応力、甘く見ないでよ?」
「ふん、そうこなくては。勝ち越した方が今日の昼飯を奢る、でどうだ?」
「いいね。乗った!」
そうして僕達は真夏の日中に、旅行先の宿舎に籠って将棋をひたすら打っていたのだった。
あいつ VS 僕
2-1
結局将棋では互いの決着がつかぬまま、僕達は水着に着替えて砂浜をぶらぶらしていた。
延々と将棋を続けようとするソーンズを、食事次いでに外に出よう、折角バカンスに来ているのだからと何とか説得した結果だった。今の彼は、非常に気乗りしない様子で僕と浜辺を歩いている。
砂浜には多くの観光客がたむろしていて、思い思いにそれぞれの夏を楽しんでいた。
「あ、あれ。」
僕が指した先。ビーチバレーをしている人達に、見知った顔を見た。というかロドスのメンバーだ。
「アズリウスにグラウコス、インディゴ、ウィーディじゃないか。」
4人が水着姿で、和気あいあいとビーチバレーを楽しんでいた。彼女ら全員がイベリア出身だ。
「同郷出身の人って、何だかんだロドス内でも仲良いよね。うんうん。微笑ましいね。」
「俺とお前は、そんなに仲良くないけどな。」
「…本当?それ?」
僕ばっかり君に振り回されてるんだけど?というか、今朝から君は僕にべったりなんだけど?
「むしろ犬猿の仲さ。冗談だけどな。」
そう言いながら気だるげな様子の彼は、急に真剣な目をして彼女らのバレーボールに視線を注ぎ始めた。
利き手を顎に当てて、何か考え事をしている。
(え。も、もしかして…)
あのソーンズが…女の子に興味を持っている!?
ま、まじか。研究と悪ふざけばかりが好きで、あまりにも異性に関心を示さないから、もしや男が好きなんでは?という疑惑すらあったんだけど。そんなソーンズが、女の子のビーチバレーに見惚れている…。いや、もしかして、あのメンバーの中に、ソーンズの気になる娘がいたとか!?まっ、まさか君がそんな、隅に置けない奴だったなんて…。
「エリジウム。」
ソーンズの言葉が、僕の高速回転する思考を遮った。
「俺とお前があのビーチバレーに加わり、それぞれ別のチームに入る。そして、チームを勝利に導いた方が勝ち。どうだ?」
「ブラザー……」
「見たところ、両チームの実力は伯仲している。その中で加わった俺とお前のどちらが、よりチームを強く出来るか。面白いと思わないか。」
「彼女達はそんな、勝敗を気にして遊んでる感じじゃないと思うよ…。そこに僕達のゲームを持ち込んじゃったら、彼女達が楽しめなくなっちゃうんじゃない?」
「この話は、俺とお前の間だけで良い。彼女らの楽しみを邪魔するつもりもないし、彼女らに勝ちを強要するつもりもない。ただ、俺達にとって、腕の見せ所が無ければ面白くないと思っただけだ。」
「はぁ。単純に、君があのビーチバレーの仲間に入りたいってだけなら、僕も諸手を上げて賛成したんだけどね。」
ソーンズは黙っている。
「君はもう少し、女の子とも遊んで良いと思うよ。見た目だって悪くないんだし。君と仲良くなりたい人だっている筈だよ。ま、普段から野郎とつるんでばかりの君が、同郷のあの娘達の輪に入りたいってことなら、僕もそれに加わるさ。君一人で女の子に囲まれるのは、苦手そうだしね。」
「…ふん。」
もしかしたら、ソーンズはあの同郷の人達がやっているビーチバレーに加わりたいだけで、それが恥ずかしいから僕にゲームを持ち出しただけなのかもしれない。もしそうだとしたら、かわいいやつだな。そう思ったらくすりと笑みが漏れた。
「言っとくけど、チームワークなら僕は負けないよ?特殊行動隊として色んなチームと仕事をしてるんだ。この勝負、僕は負けないよ。」
「ふん。そうこなくっちゃな。やりがいがない。」
そう言って僕達は彼女らがビーチバレーをしているコートに近づいて行った。
「え?ソーンズ!?エリジウムまで!」
接近する僕達二人に気づいたウィーディが驚いた声を上げる。
「何しに来たの?」
「俺達も混ぜろ。」
ソーンズが短く言うと、なんか脅迫じみてるな…目つきも鋭いし。ほらウィーディがびびっちゃってるじゃん。
「僕達ね。君たちが良ければ一緒に、ビーチバレーをしたいんだよ。構わないかな?」
「え、えーとね。ソーンズとエリジウムが加わりたいんだって。良いかな?」
ウィーディは戸惑いながらも、他のメンバーに伺いを立てる。
「良いですわよ。人数が多いのも、楽しいと思いますわ。アリアとグラウも宜しいですか?」
アズリウスがそう言って、インディゴも良いですよと答える。グラウコスも分かりましたと短く答える。
「ありがと!それじゃ、よろしくね!」
僕はそう言ってにこやかにお礼をする。
故郷を離れても、こうやって同郷の人が集まって一緒にバレーに熱中する。それは素敵なことだと思わない?ブラザー?
あいつ VS 僕
2-2
(続く)