ビーチバレーは僕のチームに軍配が上がった。と言っても、かなり僅差だったけどね。
試合は白熱したよ。大いに盛り上がった。両チームとも実力は近かった。僕は積極的に声掛けして、チームの気分を盛り上げた。
「いいね!今のスパイク、凄く良かったよ!アズリウス!」
「今のは手ごたえありましたわ。ふふ、気分が良いですわね。」
「ナイスファイト、インディゴ!良い動きだったよ!」
「はい、あともう少しでした。次も頑張ります…!」
ソーンズの奴も、意外とチームメイトと声掛けをしていたよ。
「いいか。チーム内で自分のすべき動きを考えるんだ。失敗を恐れずに、思い切って動け。いざとなれば俺もカバーに回る。行くぞ。」
「ソーンズさん、分かりました。」
ソーンズの激励を受けて意気込むグラウコス。
「もう。あんた、飛び入り参加なのに、どうしてもうリーダーになってるの。…でも。あんたがやる気なら…、私も頑張るよ。」
ソーンズの指示に呆れながらも、頑張る意思を見せるウィーディ。
うんうん。ブラザーはよくとっつきにくいって思われがちなんだけど、あいつはチームワークのことをちゃんと考えるし、意外と面倒見が良かったりするんだよね。
「ソーンズ!ちょっと、今のは私だって拾えたよ!」
「いや、俺の見立てだと、お前の手はあと2センチほど足りずに届かなかった。」
…だと言うのに。あいつはなぜかウィーディと衝突してばっかだった。なんか二人共意地張ってばかりなんだよなあ。仲が良いんだか悪いんだか。僕のチームが運動神経抜群なあいつのチームに勝てたのは、二人の痴話喧嘩が多かったこともあるかもしれない。
「お疲れ様!」
ビーチバレーがひと段落した僕たちは、海の家に行って人数分のサイダーを注文した。店内の四角いテーブルを囲みサイダーを手にした僕たちは六人分のグラスをぶつけて、賑やかな音を立てる。
ロドスを離れた僕たちオペレーターが、こうして潮風に吹かれながらサイダーで喉を潤し、会話に花を咲かせる。そんな楽しいひと時を過ごしてるなんて、とても非現実的な光景だ。水着姿のお嬢さん方も、普段はメカニックとかアーツとか真面目なことを話してるのに、今日ばかりは仕事から解放されて、肩肘張らずにバレー楽しかったねとかいい勝負だったねとか、これから何しよう?とか話してる。良い雰囲気。とても心地よい。
ところで、気づかないうちに席を立っていたらしいソーンズが、何かを両手に持って店の奥からこちらへと戻って来た。
「へい。」
どんと僕の前にそのブツを置く。…特大かき氷だ。三、四人前くらいありそうなやつ。
「な、何…?」
「バレーのリベンジだ。こいつで勝負しろ。」
「かき氷で、何するの?」
「早食い。どちらが先に食べ尽くすか。」
「ばっ」
僕はテーブルに突っ伏す。
「ばかじゃないの?」
それって、勝ち負けがどうであろうが、両者共にダメージを受けるやつじゃないか。冷たいかき氷を無理やり口に詰め込んで。4人前もかき氷を食べたら、きっと腹も壊すぞ。
しかも、今はお嬢さん方の目もある。みっともなくかき氷に食らいついた上で負けた日には、もうお嬢さん方に顔を合わせられないかも…。
「怖いのか?俺に負けるのが。」
「ぐ、ぐぐぐ。」
ブラザーは見事に僕の退路を断ってくる。わざと女の子の前で挑発して…!僕だって男だ。プライドもあるから、退くに退けない。もしかしてこいつ、僕を追い詰めること自体楽しんでるんじゃないか…?
「どうしたんですか?二人とも。」
「これは…【決闘】ですか。」
尋ねてくるグラウコスと、何かを悟ったようなインディゴ。
「インディゴさん、ケットウ…ですか?」
「はい。これは決闘です。光と光。同じ存在は、本来相容れぬものなのです。光は、一人で十分ですから。」
「…?」
「私が見届けます。この決闘の、行く末を。」
「お二人共。」
アズリウスも僕とソーンズに話しかけてくる。
「勝負をされるのはお二人の勝手ですが。折角の食事を無駄にしてはなりませんわ。男なら、最後まで食べきってくださいまし。」
そう言って僕達に微笑んでくる。残すなんてもっての他、ですわよ。なんて僕達に釘を差してくるかのように。
「もう、あんた達って、ほんっと馬鹿なんだから…。テーブルを汚すことだけはしないでくれる?」
ウィーディも呆れた様子でそう言って、サイダーを行儀よく両手で飲む。
「分かった。」
軽く了承するソーンズ。そして僕の方を向いた。
「だとよ。」
「…ああもう!分かったよ!君の言う通り、やればいいんでしょ!」
そして、お嬢さん方が見守る中、僕とソーンズは馬鹿みたいにかき氷を食べ続けて、頭と口内が痛くなってもかき氷を喉の奥に押し込み続けて、あいつがどれくらい食べてるかたまに確認して、食べるペースを速めて…。
そして、どちらかが食べ終えた頃には、どちらも両手で頭を抱えてテーブルに突っ伏し、呻き声を一緒に上げていた、とさ。
「ばっかみたい。」
ウィーディがそう呟いた。
あいつ VS 僕
3 ― 2
かき氷を腹に詰め込む勝負においては、ソーンズの根性が僕に勝っていた。
でも勝負が終わり、二人の戦士がテーブルに突っ伏して、頭を抱えていたその場に勝者なんていなかった。そう、無意味だったんだ。この戦いは。
戦いなんて無意味だ。僕は心底そう思うことができた。この寒さで悲鳴を上げる僕の身体がその証人だ。僕は自分の華奢な身体に、シンプルで力強い誓いを刻み付けることが出来た。戦いなんて無意味。そう、無意味なんだ。
僕はこの戦いのお陰で、悟りを得ることが出来たんだ。そういう意味では、この戦いも無意味ではなかったのかもしれない。
…なんてね。そんなはずあるか、ばか。
「二人共、凄い食べっぷりでしたね!」
「ええ。どちらが勝ってもおかしくない闘いでした。まさに、竜虎相搏つ、と言ったところでしょうか。」
感心したグラウと、戦いの総括をするインディゴ。
そして一方。
溜息をついているウィーディと、苦笑しているアズリウス。
「…温かいお茶でも貰いに行ってきますわ。」
「あ、私も!」
アズリウスとウィーディが席を起つ。
そして二人の持ってきてくれたお茶のお陰で、僕とソーンズは生き返ることが出来たのだった。
その後も僕達の遊びは続いた。僕達が休憩していた海の家の店長さんが、何と過去にロドスに助けられた経緯があるらしく、ささやかなお礼をしたいとのことで僕達に大きなスイカをくれたのだ。
砂浜にスイカがあると来たら、やることはひとつしかない。
「エリジウム、進んで!そのまま!そこで右に30度くらい回転!あと少し、進んで!そこよ!」
目隠しをした状態で、ウィーディ達の声をヒントに僕は気合を入れて棒を振り下ろす。
「やあっ!」
ぱかんっと小気味の良い音がしてスイカが割れるのを感じた。
「やったね!」
僕は目隠しを外す。いい具合にスイカが真っ二つになっていた。お嬢さん方(とソーンズ)が寄って来る。
「流石の方向感覚ですわね。こちらのナビ通りでしたわ。」
褒めてくれるアズリウス。
「へへ、まあね。まだ少し酔いは残ってるけど、お嬢さん方の声援には応えなきゃ。男が廃るってもんでしょ。」
「次はソーンズの番ですわね。頑張ってくださいまし。」
「分かった。」
そう言ってソーンズは目隠しをする。
「ほら、僕が君の目を回させてあげるよ…。」
そう言って僕はソーンズの焦げ茶色の身体を掴み、ありったけの力を込めて全力で回し始めた
「っ!お、お前っ」
僕の加える容赦のない回転に、思わず抗議の声を上げるソーンズ。
「ふふっ、さっきっ、付き合わされたっ、特大かき氷のっ〝お礼〟っだよっ」
「ぐっ!」
十分すぎるほどソーンズをぐるぐる回して、僕のささやかな復讐心を満たした後、「ほら!」と彼を突き放して彼をぐるぐる地獄から解放した。ソーンズはふらつきながらも踏みとどまり、なんとか直立を維持した。
「じゃ、いいかい?まず最初は右に90度だよ。ほら、行って。」
「ソーンズ、右に90度だよ!」
女の子達も皆、ソーンズに同じ指示を出している。間違った指示じゃない。
それなのに、ソーンズは身動きしない。直立したままだ。
「ブラザー?」
そして、ソーンズは僕の声に反応し、目隠しをした顔をそのまま僕の方に向けた。そしてこちらに向き直り、木の棒を、まるで剣でも構えるように正眼の構えにする…。
「よくも散々弄んでくれたな…。覚悟しろよ、〝ブラザー〟。」
「え。ちょ、ちょっと待ってくれよ!」
「目を凝らせ、これが真のデストレッツア!」
「デストレッツァって、木の棒でも出せるの!?って、まずいっ」
僕がかわした地面に木の棒が突き刺さる。
「ふふ、逃げ惑えよ〝ブラザー〟!」
「待って、何でそんなに楽しそうなんだよ!ってあぶっ!」
「こらー!!二人とも、ふざけないで!!」
僕は暫くの間あいつに追い掛け回された後、ウィーディがカンカンに怒ってくれたお陰で、ようやく僕はあいつとの鬼ごっこから解放されたんだ。
あいつ VS 僕
3 - 3 (あいつの反則負け)