悪友ふたり。   作:藍繕なつき

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ソーンズ君とエリジウム君が旅行先で遊び倒す話。

イベリア出身のオペレーターが沢山出て来てくれて僕は満足です。
君は最高だよ、ブラザー。


夏の終わり

 海の家に戻って割ったスイカを皆で美味しく頂いた後、日が暮れるまでの間、もう少しだけビーチバレーをした。アズリウスにグラウコス、インディゴにウィーディ。彼女らが全員で遊ぶことを〝またやりたい〟と言うなんて、もしかしたら珍しいことなのかもしれない。

「日没までまだ時間がありますわ。もう一度バレーをしませんこと?」

 控えめに主張するアズリウスにみんなが同意した。

「それじゃあ、今度はメンバーを変えてみようよ」

 そんなウィーディの提案があり、僕とソーンズは別チームのまま、お嬢さん方がそれぞれ別チームへと移動することになった。つまり、僕のチームにいたアズリウスとインディゴがソーンズのチームに行って、ウィーディとグラウコスが僕のチームメイトになるって寸法だ。

 男の勝負はまたあったの?って気になる人もいるかもしれなけど、まああったよ。あいつ、僕に対してぶんぶん木の枝を振り回したことでウィーディに絞られたばっかりだってのに。またこっそり勝負を持ちかけてきた。試合の詳細は省くんだけど、今度はあいつのチームが優勢だった。あいつの優秀さは僕も知っているし、あいつはちゃんと自分の失敗と向き合って反省できる男だ。さっきの試合を踏まえた上で、味方との連携をしっかり取れていた。今回はウィーディとの衝突もなかったし、あいつは連続で僕に負けるなんてことはあるはず無かった、そんな次第さ。

 

 

 あいつ VS 僕

 

 4 ー 3

 

 

「みんなお疲れ様!」

 ウィーディが頬を綻ばせて労いの言葉をかける頃には、ビーチを夕焼けがオレンジ色に染めていた。二度目のバレーも試合は白熱し、試合を終えた僕達は心地よい汗をかいていた。夕焼けの少し涼しくなった海風が、浜辺に敷いたレジャーシートに座った僕達の肌を冷やしてくれる。

「とても楽しかったですわ。こんな時間、なかなかロドスでは取れませんわね。」

 アズリウスが微笑む。

「またやりましょう。どこかで。」

 朴訥ながらも力の入った主張するグラウコス。

「私も同じ気持ちです。一人でいるだけでは経験出来ない、温かい灯りが心に点ったかのようです。」

 胸に手を当て目を閉じるインディゴ。

 やれやれ。お嬢さん方に混じってバレーをしようと、ソーンズに言われた時はどうなるかと思ったけど。こんなに良い雰囲気になるなら、あの時感じていた心配も杞憂だったみたいだね。

 そのソーンズはと言えば、お嬢さん方から少し離れた場所に僕と一緒に座って、両手を頭の後ろに組み目を閉じている。ソーンズがこんなにのんびりしているところを、僕は久々に見たかもしれない。ブラザーはいつも忙しそうにしてることが多いから。

「疲れたね、ブラザー。」

 隣にいる彼に話しかける。彼が目を開ける。

「そうだな。たまには、こういう時間も…悪くない。」

 そう言ってまた目を閉じる。こういう時間とはのんびり過ごすことを言っているのだろう。珍しく素直な物言いをする彼にほくそ笑んだ僕は、そのまま水平線向こうにある夕陽をぼんやりと眺めていた。

 

「あれ、ウィスパーレイン!外に出て大丈夫なの?」

 ふとウィーディの声のする方を見ると、真黒な日傘を差したウィスパーレインがウィーディ達の傍に立っている。

「ええ、少し散歩しようと思いまして。…実は、先程のビーチバレーを拝見させて頂きました。」

 ウィスパーレインが微笑む。

「ええ!?見てたの?それなら、声掛けてくれても良かったのに。」

 ウィーディが気まずそうにする。

「いえ。私は身体が弱いので、激しい運動は難しいですから…。でも、皆さんとても楽しそうで。見ているだけで、私も幸せでした。」

「そんな…。たしかに、貴女と一緒にバレーは出来なかったかもしれないけど。それでも声掛けてくれて良かったんだよ?私達、同じオペレーターの仲間なんだから。」

「私を気遣ってゲームを中断されるより。私は皆さんのことを見ていたかったんです。」

 微笑むウィスパーレイン。その穏やかな優しさに、この場の皆が息をのむ。

「…ねぇ。これからウィスパーレインも一緒に出来ること、無いかな。」

「そうですわね。これから出来ることを探しましょうか。折角なら、皆さんで出来ることをしたいですし。」

 ウィーディとアズリウスの言葉に、インディゴとグラウコスもうんうんと頷く。

「しかし、もう陽が沈んでしまいますね。私のアーツで、砂浜を照らしましょうか。」

「インディゴさんが照明をすると、ちょっとしたライトショーになりますね…。」

「待て。俺に考えがある。」

 ソーンズの唐突な発言に、皆が僕の隣に寝転んだままの彼を見る。ソーンズは徐に上体を起こし、自分の目を覚ますかのように頭を軽く叩いた。

「夜にしか出来ないことだ。これからエリジウムと準備をしてくる。少し待ってろ。」

 そう言って立ち上がり、すたすたと宿舎の方へと歩き始める。

「えっ。僕も行くの?って、おーい!ちょっと待ってくれよ!」

 気にせず歩き続けるあいつを僕は急いで追いかけて行った。

 

 

 * * *

 

 

 夜の浜辺。寄せては返す潮騒の轟音が遠くに聞こえる中、僕とソーンズ、そしてウィスパーレインも含めたお嬢さん方は砂浜に立っていた。夜になって大分気温も下がったから、皆水着の上に上着を一枚かけていて、僕とソーンズの準備を見守っている。

 僕は砂浜に固定した蝋燭に火を灯す。

「はい。じゃあ一人ずつ、これを持ってね。」

 一人一人に三本ずつまとめて渡していく棒状の物は、手持ち花火だ。何とソーンズが自作したんだって。以前、薬液でかんしゃく玉を作ったことがあるのは知ってたけど、まさか火薬まで取り扱うようになっていたなんて。

「アンドレアナとラテラーノ銃の仕組みについて調べていた時に、火薬の製作に興味が湧いてな。その時の副産物さ。」

 あいつが大型の鞄から花火を取り出していた時、そんな風に説明してくれた。

 …また危なそうな実験に手を出してる。

「花火の色は炎色反応によるものだ。燃焼させる化合物中の元素によって、炎の色が異なる。これは緑、これは赤。これは黄。これは青。余興にでも使ってやろうと考えていたが、思わぬ出番を得たな。」

「余興で手製の花火ほど物騒…いや、刺激的な物は無いかもしれないけど、アーミヤの雷が落ちるのは覚悟しなよ。」

「ほう。雷が落ちて、新たな火花が生まれる、という訳か。」

「何も上手いこと言えてないよ!そのドヤ顔やめて!」

 どうしてそんな戯言が言えるんだ。

「それにしても。ひとりで20本以上、よく作ったね。」

 感心したような、呆れたような気分になる。

 こいつの凝り性は普段、本業の薬剤製作とかに向けられてる訳で。それこそ身だしなみが乱れてもそれに気づかず実験に没頭してたりするんだけど。そんな彼の凝り性が、今回は花火製作に向けられたらしい。その結果が、休憩時間に作られた20本を超える棒花火の数々だった。

 そんな僕の感嘆に気も留めず、ソーンズは棒花火の整理を続け、作業を終えたらしい彼は僕の方を向く。

「この纏まりを持て。俺はこっちを持って行く。」

「はいよ、ブラザー。」

 そして僕達は沢山の棒花火を抱えて、夜の砂浜で待っているお嬢さん方の所へ戻ってきた、って訳だ。

 

 ソーンズと僕が手渡す棒花火はひとり三本。棒花火を持った人から、順々に火を点けていく。

「わっ。」

 新鮮な驚きを見せるウィーディ。彼女の手にした棒花火から、緑色の火の粉が勢いよく火の粉が噴出した。そしてぱちぱちと音を立て始める。」

「何驚いてるんだ。俺が作った花火を、不良品とでも思ったのか。」

「ち、違うよ。そんなんじゃない。ただ、花火ってあまりやったこと無かったから、驚いて…。」

「とても綺麗ですわ。見蕩れてしまいますわね。」

 アズリウスも手にした赤い花火に見入っていた。

「アズリウスさんのは赤なんですね。私のは青です。」

 グラウコスはアズリウスの隣で一緒に、互いの火を見比べていた。

 インディゴはと言うと…。ん、なんか固まってる。黄色い花火を手にしたまま、微動だにしない。

「どうしたの、インディゴ?」

「…これ、どうやったら作れるんですか。」

「え?」

「これ、どうやったら作れるんですかっ。」

 興奮した様子で僕の方を見てくる。

「イ、インディゴ?」

「ソーンズさんが作ったんですか?」

 インディゴの目が輝いてる。真剣な光を湛えてる…。

「ああ、そうらしいね…。」

 僕の言葉を聞いた彼女は、すたすたと花火を持ったまま、近くの浜辺に胡座をかいているソーンズのところへと歩いていく。

「ソーンズさん。お願いがあります。私を、弟子にしてください…!」

 花火を手にしたままぺこりとお辞儀をした。…下に向けられた棒花火が、彼女の足元に火花を吹いてるけど。まずいっ。

「おいっ火花が脚につくぞ!」

「きゃっ」

 そうしてソーンズとインディゴは消火活動の為、暫くどたばたしているのだった。幸い、花火の炎は彼女の服に燃え移っていないようだった。

(…やれやれ。灯りに関することなら、インディゴは何でも興味を持っちゃうのかね…)

 僕は苦笑した。

「エリジウムさん。」

 そんなことを考えていた僕に声を掛けてきたのは、ウィスパーレインだ。

「あの…。ありがとうございます。」

「なんの事?」

「いえ、私を、花火に誘ってくださって。ありがとうございます。」

 そう言って、手元の青紫色の花火をうっとりと見つめる。

「とても儚くて。とても美しいです…。皆さんとご一緒することが出来て、とても嬉しいです。」

「ああ、うん、それなら良かった。でも、花火を提案したのはあいつだからね。ソーンズに後でウィスパーレインの分も、お礼を伝えとくよ。」

「はい…。」

 ウィスパーレインは僕の隣で、じっと花火を見つめる。

「儚くて…。美しい思い出は、いつか消えてしまうもの…。私と似ていて、愛おしいです…。」

 その言葉が終わると同時に。ウィスパーレインの持っていた花火が、しゅっと音を立てて消えた。

「また火を点ければいいさ。新しい花火に。」

 そう言って僕の棒花火を一本渡した。

「良いんですか?頂いてしまって…。」

「君は途中参加だからね。皆と一緒に、ちょっとでも長く遊んで来なよ。」

 そう言ってウィンクしてやった。

「はい…。ありがとうございます。」

 穏やかに顔を綻ばせるウィスパーレイン。

「ウィスパーレイン!私と一緒にやろうよ!」

 そう言って僕達の元に来たのは、新しい花火の棒を持ったウィーディだ。

「はい…。」

 嬉しそうにウィスパーレインは立ち上がり、ウィーディに気遣われながら、新しい花火に火を点けていた。

 さて、ブラザーはどうしてるかな…と見ると。

 どうやらインディゴのブラザーに対する追及は終わったらしい。ひとりで砂浜に胡座をかいたまま、頬杖をついて黙って皆の様子を見ている。

「ブラザー。君はやらないのかい。」

「ああ。別に俺は花火をやりたい訳じゃない。正しい花火の製作が出来たことを確認しただけで、俺は満足さ。」

「そんなこと言わずにさ。君も一緒にやろうよ。ほら、君の分も火を点けてきてあげる。」

 そう言って彼の手持ち花火を一本抜き取った。

「ふん。」

 仕方ない、と言った彼の様子を見ながら、僕は自分の分と彼の分を持ってろうそくの方へ駆け寄った。

 二人分の花火に火を点けて、胡座をかいたままでいるソーンズの元へと戻る。

「はい。ブラザー。君には青色が似合うよね。」

 そう言いながら僕は青い方を彼に手渡した。僕のは緑色。

 そして彼の横に座りながら、ただ地に落ちていく火の粉達を眺める。

「いいね。たまには、こういう時間も。」

「ああ…悪くない。」

 そう言うソーンズも、じっと自分の花火を見ていた。彼の横顔が、微笑みが、花火の灯りで輝いて見える。

 まったく、君は最高だよ。ブラザー。

 自分勝手に見えるし、面白さを求めてふざけてばかりの君だけど。その実、君は人一倍、仲間の為に貢献出来る男なんだ。つき合いにくいけど、君は本当に良い奴さ。僕にとって、君の自由さ、率直さがとても羨ましい。

 海鳴りが遠くに聞こえる。花火のぱちぱちと爆ぜる音。浜辺を通る夜風が肌を撫でる。火薬の焦げる匂い。花火を取り囲んだオペレーター達の、思い思いの歓声。

 君が僕達にくれた思い出は、きっとこれからも長く、輝いてくれるんだろうね。

 

 

 

 あいつ VS 僕

 

 君の勝ち。

 

 

 

 

 

 …まあね、このお話がここで終わりだったのなら、綺麗な終わり方だったのだろうけど。このお話には後日談があって、この後ソーンズから徹夜将棋に誘われたのさ。「先に寝落ちした方が負け」っていう勝負で、二人とも酒も入れて内容の酷い将棋ばかりして、戦法に刺激を求めた挙句、両者入玉とかよく分からない事をして、ゲラゲラ笑いながら遊んでたらいつの間にか二人とも寝落ちして。明日の集合時刻に大遅刻して、アーミヤの大目玉を食らったんだとさ。とほほ。

 

 

 

 あいつ VS 僕

 

 二人とも負け。

 

 

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