運命的とは言えない出会い
いつからだろう、歌うことをやめたのは。
いつからだろう、歌が嫌いになったのは。
昔から、歌が好きだった。変に取り繕う必要もないし、自分だけの世界に没頭できる。誰に邪魔されるでもなく、誰に必要とされるでもなく、ただ自分のために自由に歌うことが好きだった。ただ、好き勝手自由に思いを乗せて歌うことが楽しかった。
「……今日も空は青いな」
いつからだろう、他人を嫌いになったのは。
いつからだろう、自分を嫌いになったのは。
気付けば自然と誰も居ないこの別館に閉じこもり、外部との接触を断つようになった。いっそ自主退学できてしまえればと退学届を提出したこともあったが結果は当然のように却下。定期試験を忘れず受けることを条件に此処に閉じこもることを許されこそしたが、結局何をするでもなく無気力のまま毎日を過ごしている。……ただの一生徒などさっさと退学届を受理して放任すればいいものを、一体ティーパーティーは何を考えているのやら。確かに未練がないと言えば嘘になるし、ティーパーティーやシスターフッドの面々とも少なからず関わりはあった。だからといって退学を拒否される理由になるはずが……いや、あるにはあるのか。はぁ……相変わらず面倒くさいことだ。
別館の天井裏を改造した自室から見渡すキヴォトスの空は今日も清々しいほど青く、眩しいくらいに太陽が輝いている。こういう日は何時ものように人が居ない時を見計らって軽く運動でもするべきなのだろうが珍しいことに今日はそれさえする気力が湧かない、どうしたものか……うん、大人しく二度寝と洒落こんでみよう。
「……規則正しい生活とはいえないけど……っ!?」
思いっきり伸びをしベッドへ転がり込もうとした瞬間、気のせいかもしれないが別館の扉が開く音が聞こえた。……一体誰が何の用でこんな場所に?此処1年別館が使われたことはないし、私が此処に閉じこもってることは一部しか知らない筈、それに私が居ることを知っている生徒は関わらないって約束していたはずだが……考えたところでどうにもならないな。幸い携帯食料の備蓄はこの前買い出しに行ったから残っているし、此処がまた無人になるまで隠れているとしよう。……最悪見つかっても私が目的なら逃げればいいだけのことだし、よくよく考えればそこまで問題でもなかったな……あ、昨日買ってきたケーキどうしよ……今日中に帰ってくれることを祈るしかないか……
「私たち以外にこの施設に人が居る……?」
「ああ、間違いない」
補習授業部の特別合宿が始まって3日目、本日の勉強も終わり、風呂を終えてさあ就寝、といったところで突然アズサが放った一言で補習授業部の皆に緊張が走った。
「……アズサちゃん、一応根拠をお願いします」
「わかった。まず一つ目、此処を掃除した時に明らかに定期的に掃除されている場所があった。これは皆も知っての通りだと思う」
「確かに食堂とか風呂は最初から綺麗でしたし、食堂に至っては何故かケーキまでありましたけど……」
「勘違いじゃないの?誰かが善意でやってくれたとかそういうのもあり得るでしょ」
「でもそれだったら全部綺麗じゃないとおかしくないです?コハルちゃん」
「め、面倒で途中でやめたとか……」
「流石にそれはないんじゃないかな……」
「二つ目、夜見張りをしていた時天井から少し物音がした。ネズミやネコにしては大きすぎるし、人が居るとしか思えない」
「それは……だいぶ使われてなかったみたいですし老朽化とかじゃないんです?」
「別館は一応放置されてたとはいえ老朽化が進んでいるなら補修はされるでしょうし……確かに妙ですね」
「じゃあ天井に潜んでるってこと!?なんのために!?」
「そこまでは分からない。……ただ、不安要素は早めに取り除いておきたい。皆付き合ってくれる?」
「も、勿論!正義実現委員会として監視なんて許すわけにはいかないんだからっ!」
「別に監視と決まった訳じゃあないと思うのですが……このままだと確かに不安ですし、行きましょう!」
「ふふ、皆乗り気ですね。なら私も行かないわけには行きませんね」
「なら決まりだね、行こう」
夜遅くだしあまり無理はさせれないが、ヒフミたちの意思を尊重して別館の天井に居るらしき何者かの捜索へと赴くことにした。……ただ、監視にしたってわざわざナギサがそんなことするとは思えないんだけど一体誰が……?
「……うーん、天井に居るとは言いましたが……ありませんね、出入り口」
「私一人で探した時も見つからなかった。多分巧妙に隠されている」
「単純に見落としただけじゃないの?」
「こういう時は一回深呼吸しましょう。落ち着いたら何か見つかるかもしれませんよ?」
捜索開始から数十分。別館の広さもあって天井への入り口探しは難航していた。何かヒントでもあれば楽なのだが、見張りをしていたらしいアズサでも物音以外証拠を掴めなかったことからそうとう用意周到なのだろう、全く以て見つからない。ハナコの言う通り1回深呼吸して落ち着くべきだろう。
目を閉じて深呼吸をし、周りを見渡す。……うーん、やっぱり特に変わったところは『先生!』……アロナ?
「どうしたの、アロナ?」
『少し気になって私の方でも周りを調べてみたのですが……この部屋、本棚の後ろに不自然に空間があります!』
「映画みたいだね……よし、ありがとうアロナ、調べてみる」
『このくらいお茶の子さいさいです!』
「えーっと、本棚のうし、ろ……おぉっ!?」
「先生!?」
「敵の襲撃か!」
「早合点しすぎじゃない!?」
アロナの助言に従って適当に本棚を触ってみると1冊の本がカタンと音を立てて倒れ、同時に本棚が扉のように開いて勢いで思いっきりこけてしまった。……心配してくれるのは嬉しいんだけど、ちょっと襲撃は早とちりが過ぎるかなぁ……
「大丈夫、ちょっとこけただけだから……」
「ならよかったです。……そしてこれは……」
「なんというか、如何にもって感じの隠し部屋ですね……」
「……多分この上に居る、行こう」
「ね、ねえなんかドタバタ音が鳴ってるんだけど!?」
「動揺しているらしい、早めに制圧する」
本棚の先は階段があるだけのこじんまりとした部屋だった。……アズサの言うことが本当なら、探している何者かはこの上に居るのだろう。……よし、覚悟は決めた、行こう。
何かあった時のために先頭で階段を駆け上がり、天井裏らしき部屋へと到達したところで。
「動くな」
指揮棒を構えたフードの女性が、冷え切った声で此方に睨みを利かせた。
「……わざわざ何の用?ティーパーティーかシスターフッドに頼まれた?」
「何か勘違いしてるみたいだから落ち着いて、私たちは別に誰かに頼まれたわけじゃなくて……」
……なんだこいつらは、数日経っても帰らないし、ついにはこの部屋を探り当ててきた。一体何の用だ、あいつらに頼まれたわけでもないならこんなところまでくる理由など……
「ていうかそっちこそ何者よ!?どうせ天井からコソコソ監視とかしてたんでしょ!?」
「……は?」
「うん、監視じゃないなら一体誰?場合によっては……」
「アズサちゃん!?いきなり銃を構えるのは……!」
「あっちだって臨戦態勢」
……私の事を、知らない?なら余計にどうしてこんな真似を……
「……本当に、何も知らないの?」
「どういうことです?一体貴方とティーパーティーやシスターフッドとの間に何が……?」
「少なくとも私たちは貴方をどうにかしようという意思はありませんよ、安心してください」
「……そう、なら今のところは信じることにする。……で、改めて何の用?」
「私たちはただ此処に居るのが誰だか確かめたかっただけ。……まさかこんなに怪しい奴だとは思わなかったけど」
「失礼な物言いだね。人の寝床で好き勝手して……」
「一応私たちはナギサ様から合宿にここを使うように言われて使ってるだけなので……」
「……ナギサが?」
……ああ、そうか。数日前ナギサからメールが入ってたのはそれだったのか。どうせいつものようにどうでもいいことだろうと内容を見てすらいなかったが……そのツケがこうやって回ってくるとは思いもしなかったな、せめて確認くらいはしておくべきだった。
「……君たちの事情は大体わかった。私は君たちに危害を加えるつもりはないし特に助ける気もない。だから君たちも私に何もしないで帰ってくれ頼むから、邪魔しないでくれ」
「……君はなんで此処に?」
「答える必要性がないしそもそも初対面の相手に話すことじゃない、だから早く帰って」
「じゃあせめて名前だけでも教えてくれないかな?一応同じ場所で過ごすわけだし、それくらいは知っておかないと」
「……それだけ言えば大人しく帰ってくれるの?」
「うん、約束する。いいよね皆?」
「私は別に構いませんよ」
「問題ない、敵ではないと分かったし」
「ちょっと不服だけど……今問題を起こしても困るだけだし……」
「うーん……もう少し話を聞きたいですが、今日はもう時間が時間ですしね……」
「……あっそう、なら言うからさっさと帰って」
「私は壊羽ルル。一応3年生……はい、言った。言ったから帰って頼むから、寝させて」
「うん、これからよろしくね、ルル」
「関わらないでって言ったよね?話聞いてる?」
……ねえ、本当にこいつらなんなの?
勢いで書いたので続きは未定です。好評だったら頑張って早めに出します。