蒼き地平に星はまた昇る   作:暁真

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そろそろ崩していきます。


エデン条約編3章
怒りの日


 

 

「……ああ、今日なんだ、何とか条約……じゃなくてエデン条約の調印日」

 

 ナギサと話してから大体数日、件のエデン条約についてトリニティとゲヘナで調印式が行われるらしく、引っ越しの準備ついでに少し小物を買い揃えようと外出した先で大きなニュースになっていた。会場は……ああ、あの時の……修理するとは言ってたけどこれのためだったんだ。それくらい先に……いやぁ確かトップシークレットだったっけ?そりゃダメか。というか私にはもう関係ないし今更気にすることじゃないな。

適当に情報を耳に入れた後ニュースには目もくれずモニターに背を向け、本来の目的である小物を揃えるため商店街の方へ歩き出す。本当は小物より先に銃を買うべきなんだろうけど……あれはナギサと一緒に買うって約束したし、それを反故にするのは流石にダメかなと思って今日は見るだけ。そうポンポン厄介ごとに巻き込まれることもないだろうし急ぐこともないかな、たまーに変な目で見られるからなるべく早いとこ買っておきたいのは事実だけど……

 

「……ひとまず本棚を買って……シュシュも新しいの欲しいし、本も……多いなぁ、買いたいって思ったの私だけど」

 

自分を見直せたからだろうか、ちょっと今の私は欲望に正直……になりすぎているような感じがする。引きこもってた頃はそれこそ最低限の暮らしとたまーに甘味な生活だったしそれに比べると随分と文明人になったような、そんな感じ。

……生活リズムも見直さないと、インスタント食品ばっかりの生活は一応栄養は大丈夫だったとはいえ流石にだらしないが過ぎる、ナギサ辺りに見られたら怒られるとまではいかないけど相当お小言を貰うことは想像に難くない。

 

「重いものは最後の方にしておきたいし……まずはシュシュからかな。折角だし良いのあったら2つ買っちゃお、1つナギサに押し付けて」

 

仲直りの証、みたいなのが欲しかったからお揃いの小物は丁度良いと思うんだ、ここまで付き合ってくれたお礼の意味も込めて……まあ、ナギサが付けてくれるかどうかはわからないけど。

 

「……お昼、っていうにはちょっと遅いや、後で喫茶店でも行こうかな」

 

生活リズムが戻りきっていなかったせいで少し遅めに起きてしまったことを若干後悔しつつ、まずは小物店巡りをすることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んー、シュシュは見つからなかったけど……これやっぱりいいな。ナギサはちょっと色が派手って嫌がりそうだけど」

 

 数店程巡り、最後に訪れた店で見つけた花の形の髪飾り。ナギサがあんまり好きそうじゃない派手な色だし着こなせる服装も選ぶやつだけど……私の好みにはドンピシャだったからつい買ってしまった……2つ。ナギサが好きそうじゃないってわかり切ってるなら1つは他の色を選べばいいじゃんって言われそうだけど、お揃いであることに意味がある……って勝手に思ってるから変える気はない、もう買ってしまったしね。

 

「……んー、本屋は……」

 

何処に本屋があったか思い出しながら何か面白そうな本がないか検索してみる。特定の作者を追ってるとかこの作品が好きだから新刊は初日に買うみたいなこだわりはないからどうしても本を探すときはネット頼りだ。友達経由で情報を得れるようになるのは……もう少し先になりそうだし。

どうせならお茶飲みながらゆっくり読めるやつがいいな、とか。久々にシリーズ物買ってみるか、なんて考えながら歩きスマホで路上を進む……って歩きスマホはダメだろ、何浮足立ってるんだ私。

一旦スマホをしまって本屋へ向かいがてら何処の喫茶店に行こうか考える……そんな時だった。

 

 

―――――――何処からか、耳を劈くような風切り音が聞こえてきた。

 

「……え、何?ジェット機……?そんなイベントの予定なんて……」

 

咄嗟に思い返してみるが、少なくとも今日そんなイベントがあった記憶はないし、もしゲリライベントだとしてもこんな騒音をまき散らすゲリライベントなんて却下されるに決まってる。じゃあ、これは……?

 

「……そもそもこんなバカでかい音を出すジェット機とか……ぁ」

 

私の中で一つ、結論が出た。考えうる限り、最悪の結論が。

 

「っ、あぐ……あ、つ……!」

 

そしてその結論を裏付けるかのように、突然右手が熱を帯びた。今までで、一番強く。

 

「……いや、だ……お前は、使わない、って……!」

 

ナギサとの約束、そして私自身が過去と決別するために封印する。そう決めた筈なのにあれは自分を使えと五月蠅い、確かに私は今銃なんて持ってない。使えるのはあれだけだ……でも、使う訳には……!

そう、指揮棒と言葉には出ない押し問答をしている内に。

 

モニターと現場、2重に巨大な爆発音が聞こえてきた。

 

「……!?」

 

こちらまで衝撃が来る爆風、間違いない。さっきの風切り音の正体はミサイル、じゃあ、着弾点は?

ただのテロリストの犯行だとは思えない、それに今日はエデン条約の……まさか。

 

「っ……ナギサ!」

 

燃えるような熱を帯びた右手に構うことなく走り出す。調印式の会場、古聖堂へと。

幸い調査した場所だ、場所くらいは覚えている。今回ばっかりは過去の自分に感謝しよう。

 

『古聖堂が……爆発……』

「……一体何処の、誰だ……!」

 

モニターから流れた答え合わせに悪態をつき、道を急いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「此処を右……そのまま直進……!」

 

 うろ覚えになっている記憶を言葉で復唱して呼び起こし、古聖堂へと無我夢中で駆ける。相変わらず右手は熱いし、気づけば息が切れかけている。けど、それは歩みを止める理由にならない。

 

「ここをひだ、り……!?」

 

衣服が汚れるのにも構わず走る途中で、異様な気配を感じた。

 

「あ、ぐ……だから、お前は、使わないって……!」

 

それに呼応するように右手はさらに熱を帯びる、此処まで熱くなるなんて、今までなかったはず。

断固として指揮棒からの要請を却下し、髪型が崩れるのも気にせずに走り続けて、その先で。

 

「……え……」

 

こちらを待ち構えるように立っていた、奇妙な輩たち。

 

「シスター……フッド?」

 

一見その姿はシスターフッドを思わせるが、違う。あんな際どい角度の服なんて見たことがないし、なによりあのガスマスクはあの時の……アリウスの奴らと、似てる。

 

「じゃあ、これはアリウス……うわぁ!?」

 

思考に割く時間もなく奴ら……仮称シスターフッドもどきは容赦なくこちらに発砲してくる。回避……間に合う訳がない。

 

「いた……くない……?」

 

……ただ、不思議なことに銃弾の痛みを感じることはなかった。どういう訳かと咄嗟に顔を覆うように構えた腕をどけ、前を確認してみる……あれ、右手の熱が、消えてる……?

 

「……は?お前、なん、で?」

 

そこにあったのは高速で回転しシスターフッドもどきの銃弾を弾く指揮棒の姿。まさか、勝手に出てきた?今までそんなこと、なかったのに?

 

「……つか、いや、あれが勝手に……っ、今はそんなこと言ってる場合じゃない!」

 

どういうわけかわからないけど、指揮棒が銃弾を防いでいる内に奴らの間をすり抜け、古聖堂へと急ぐ。約束は……まだ、力は使ってないから、破っては……

 

 

「この通りを、後は……先、生?」

 

あと少し走れば古聖堂という所で、視界に入ったのは何故此処にいるのかわからない先生の姿、前にいるのはシスターフッドもどきたち、と……

 

「アリウス、やっぱり……!」

 

……推定アリウスの制服を着た生徒達。やっぱり今回の主犯はあいつら……でもごめん先生、私は今ナギサの方を……

 

「……え?」

 

ナギサの安否を優先して駆けだそうとした私の目に映ったのは。

 

……銃弾に貫かれる先生の姿だった。

 

「あ……あぁ……」

 

私には、どうにもできなかった。遠かったし、銃もなかった。でも、結果的に私はナギサを優先して、恩人の先生を見捨てたも同然だ。

目の前ではアリウスの生徒が追撃しようとするのをゲヘナの風紀委員長が止め、その隙に救急車が先生を確保して逃げていく。

私は何もしなかった、何もできなかった。先生の身を案じて駆け寄ることも、あいつらの注意を引くことも。

何故、何もしなかった?確かにナギサは大切な友達だ、けど、それを優先して目の前の恩人を見捨てるのは、許されないことじゃないのか?

 

思考が高速で巡っていく。何故とどうしてが積みあがっていく。

 

「おまえ、たち、が」

「……誰かと思えば、お前は調査対象の……」

 

気付けば、一歩踏み出していた。

 

「はぁ、はぁ……」

「……お前も出てくるのか、アズサ」

 

いつからいたのか知らないけど、少し後ろにアズサが居る。けど、今はそんなこと、どうでもいい。

 

「おまえたちが、やった、のか?」

「そうだ、これは我らに課せられた義務であり、使命」

「使命……?町を滅茶苦茶にして、ナギサにいる場所にミサイルを撃って、挙句の果ては先生まで……!こんなのが使命であるものか!ただのテロだ!」

「黙れ、今までのうのうと生きてきたトリニティ風情が……」

「……」

 

頭がクリアになる、思考が一点に集中する。

 

「……まあいい、お前はできれば捕獲してこいという命令が出ている、一緒に来てもらおうか」

「……」

「そんなこと……ルル……?」

 

右手を掲げる、周囲を飛んでいた指揮棒は私の右手にすっぽり収まった。

 

 

「……そうか、また君たちがやったんだ。復讐なんて、くだらないことのために」

「くだらないだと……?」

「ああ、「また」だ、欲しかったものが理不尽に奪われていく、誰かの所為で奪われていく」

「……な、なんか様子がおかしくないですか……?」

 

指揮棒が私と同調し、妖しく光る。最初に力を使った時と、同じ。

 

「……ごめんナギサ、約束、いきなり破る」

「コケ脅しが……時間稼ぎのつもりか?」

「黙れ、テロリスト共が」

 

酷く冷たい声色だった。体は熱いのに、何をすべきかは分かっている。

 

「……絶対に許さない、もう加減なんてしてやらない」

 

「全員、消えろ!」

 

 

 

 

Incredulus Sum Deo(神様なんて信じない)

 

 

 

それは禁忌、指揮棒の真の力を引き出す呪文。

詠唱と共に指揮棒は砕け、私の衣服も、その力を扱うための姿に変わる。

 

 

「姿が……変わった……?」

「お……おしゃれですね……うらやましいです……」

「その程度……なんだ?」

 

両手を広げる、ただそれだけ。

それに呼応して、私の周囲には紫色の靄と共に無数の人影が出現する。

 

「これは……」

「聖徒会……いや、違う……!」

 

白い礼服を着た、顔を隠した集団。その手に持つのは、楽器と楽譜。

本来の名前は知らないけど……私は彼らを「聖歌隊」と名付けた。

 

「……なるほど、マダムから命令が出るわけだ、この力……」

「今だけは、躊躇いはない」

 

聖歌隊を操るのは指揮でも、指示でもない。

 

「ルル……?」

「アズサ、君は逃げな、巻き込まれるから」

「巻き込まれるって……」

 

 

 

 

Shining eyes……fall into the dark side……I can’t go back again…… 破滅の道……

 

 

「これは……」

「歌……?」

 

 

Wait to see what’s going on 静かに 破壊のしらべが So don’t look back 革命と息ひそめた

 

身体が命じるままに、歌を響かせる。音色を響かせる者たちとは別に、また新たな聖歌隊が紫の靄と共に現れる。

 

その手に、銃を持って。

 

「っ!」

 

シスターフッドもどきが私に向け銃撃してくるが、見えない壁がそれを弾く、ライブの邪魔は許されない。それがだれであっても。

 

Maybe…Only you can, only you can rock me!I know you can, I know you can!

 

歌が進むにつれ召喚される聖歌隊も増え、兵隊のように構えを取る。まるで誰かの指示を待つかのように。

 

「……まだ動かないけど、本人への銃撃は無理、弾かれる」

「見、見てるしかできないってことですか……!?」

 

「ルル……ダメだ、そんな悲しい顔、ダメだ……!」

 

 

 

Ready to rock, get ready to rock!破滅のCountdown そう!

 

止めようとするアズサに、歌い続けることで答える。だから逃げろって言ったのに。

 

Ready to rock, get ready to rock!解き放てい ま!Gonna be ready to rock……

 

これは使っちゃいけない力、使えばバランスを歪める力。

 

Into you……Gonna be ready to rock……

 

けど、きっとこれを使わないと、ダメなんだと、そう自分に言い聞かせ、歌い続ける。何かから、逃げるように。

 

 

 

 

 

 

Gonna be ready to……be ready to rock!

 

長いイントロを終え振り上げた腕を合図に、私が召喚した数十体の聖歌隊は一斉に砲撃を開始した。

 

 

 




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