「Yeah everybody, it’s showtime ここで Hey go now 破壊へ Rock!Rock!」
声を張り上げ、歌を通して私の思うがままに聖歌隊を動かす。それだけならば数で圧せば崩れるだけの脆い軍隊、その程度ならばわざわざ封印することもなかった。
「狼狽えるな、所詮数だけだ。ならばこちらの方が……いや、なんだ、これは……?」
「あ、頭が……割れそうです……」
「何……この歌……」
指揮棒と完全に一体化した私の歌は聖歌隊に指示を出すと同時に敵に耐えがたい不快感や脱力感を与え続ける、真の意味での攻防一体の力。私が歌を嫌いになった原因である力。
「Yeah いつでも Just be cool, I know that maybe you’re right I’m gonna… No No No No!」
「ルル……」
どうもあのシスターフッドもどきにもデバフは効くらしい。頭を押さえて悶える奴らにそれぞれ聖歌隊をぶつけ、標的をアリウスの奴らに絞る。
「この程度……聖徒会に兵力を割いたのならその分奴の防御は手薄になる、どっちにしろこちらの優位は揺るがない」
「……問題は、あの見えない壁をどうやって突破するか」
「さ、流石に無敵って訳じゃありませんよね……?」
何やら作戦会議でもしてるようだが、待ってはやらないよ。
「What the hell is going on? You’re right So crazy, break it down, break it down, break it down!」
「っ、後ろ!?」
「なっ、何処から……いや、これも、あいつの力か……!?」
警戒が手薄になっている後方に新たに8体程度召喚し奇襲、同時に眼前に壁のように部隊を再展開。あれで全部出し切ったわけがないだろう?
「どうも聖徒会と似てる、あれが歌い続けてる限り無尽蔵に湧いて出る。キリがない……」
「こ、こんなのどうにかなるんですか……?とてもじゃないですけど今勝てる相手じゃ……」
「……そう遠くない内にトリニティとゲヘナの増援も来るはずだ、一時撤退する……!」
だからさ、逃がすわけないじゃん。ナギサやサクラコ、先生。まさか私の友達達に手を出しておいてただで済むと思ってるの?
「Are you serious? Maybe, maybe… Oh!Just make it a reality So crazy, crazy, get out!What do you say?I know what you want!」
アリウスの奴らを囲うように聖歌隊を召喚。集中砲火を仕掛ける……チッ、避けたか。歌のデバフは効いている筈なのに……いや、ガスマスクの奴だけ効いていない?まあいいや、他を処理してからどうにでもすればいい。
「You’re the only one, take me highertell me, what’s the meaning of darkness! darkness?」
どうにか穴をみつけて撤退しようとするやつらを追撃するように聖歌隊を追わせる。あのシスターフッドもどき達の数も増えてきたし、此処を逃せばチャンスは……
「No way out, let me tell youOh!Oh!Show me the way, oh n」
「やめろ……やめてくれ、ルル!」
「……どういうつもり、アズサ」
……追撃を仕掛けようとした瞬間、突然アズサに腕を掴まれ思わず歌唱が中断した。聖歌隊は歌で私の意思を伝達する、歌が中断した場合あれは最後に下した命令から更新されないまま同じことを繰り返す。このままじゃあいつらはただ奴らを追うだけで攻撃ができない。
「これ以上は……ダメだ、ルルが戻れなくなる」
「だから離してよ、早く終わらせたいんだ」
「いやだ!だってそれは「使いたくない」力なんだろ!?」
「……」
……それ、は。
「そんなのを平気で使っちゃダメだ!本当に戻れなくなる!」
「……これ、は。ナギサ、の……先生、も……」
「……私が、私が代わりにやる!だから正気に戻ってくれ!」
……頭が、急に冷えた。思考がバラバラにほどけて、また一つに纏まる。
全て理解した瞬間、召喚した聖歌隊は出てきた時と同じように紫の靄に包まれて姿を消した。衣服も元に戻って、手には再び指揮棒が握られる。
「ルル……?」
「あ……あぁ……」
アズサの手を振り払い、覚束ない足取りで後ろへと歩を進める。
……私は、何を、した?
「ちが、わた、わたし、約束、でも、歌」
「落ち着け!深呼吸して」
「っ、来ないで!」
こちらに近づいて来るアズサを衝動的に指揮棒を投げつけて拒否する。そう、私は約束したのに、またこれを握った。
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
衝動的に叫んで、アズサに背を向けて走り出す。どこか、どこでもいい、誰もいない場所へ。
「待って……っ、指揮棒が!?」
「ひっ……やだ、やだぁ!」
投げつけた指揮棒が弧を描いて飛来し、眼前に突き刺さる。逃げるなと暗に示唆しているようで、酷く気味が悪い。
「消えろ、消えろ!お前なんてもういらない!使う物か、使ってたまるか!」
1秒でもそれを見ていたくなかった。指揮棒を消し、また走り出す。何処へ、なんて考えていない。ただひたすらに、一心不乱に。
アズサを振り切って、混乱する人混みを抜け、とにかく、何処かへ……ああ、そうだ、帰ろう。
あそこなら誰も来ない、一人でいられる、人と関わらないでいられる。
逃げるように自分の部屋に飛び込んで、縮こまって、そのあとのことは、よく覚えていない。
初めに力を使ったのは生きるため、次に力を使ったのは無知だったから。無知なまま使った結果取り返しのないことになって、私は指揮棒の真の力……「歌」を自らの意志で封印した。二度と間違いを起こさないため、これ以上歌を嫌いにならないため。
……ミカの時に使ったのはそれ以外でどうにかなる光景が思い浮かばなかったから。考えた上で最大限妥協して、指揮棒の最低限の能力でやりきった。あの時「歌」を使わなかったのは私が躊躇ったのと、確実に被害が拡大するから。
……結果として、「歌」は最初に使ったあの1回を最後に、何とか今まで封印できていた。できていたからこそ必要ないと判断してナギサと約束し、指揮棒の力を未来永劫使うことはないと、そう宣言した筈だった。
……なのについさっき私は「歌」の力を躊躇うことなく使った。生きるためでもなく、無知だったからでもなく、その詳細を知った上で、自分の意志で。
言い訳を作るのならいくらだってできる。先生が目の前で撃たれて錯乱していた、とか。ナギサやサクラコのいる場所を爆撃されたせいで実行犯であるアリウスへの殺意が凄かった、とか。でも重要なのは過程じゃない、結果だ。
どんな理由であれ、私はまた「歌」を使った。また使えばどうなるのかわかっていて、だからこそ使わなくても自分にできることをやろうとしたのに。
たった1度激情に駆られただけで簡単に友達との約束を破って、己の欲を満たすために使ってはいけないものを、躊躇なく。
……最低だ、私。
そうして使った結果がこれだ。何も状況が改善することはなく、アリウスを取り逃がし、先生の行方も知れず、私はまた自分の部屋に閉じこもった。
部屋に閉じこもった瞬間に耐え切れず吐きだしたものもそのままで、嫌な臭いが漂うのに体が震えて何もできない。
ようやくまともに使えるようになってきたモモトークも開こうとするだけで吐き気がこみ上げてくる……はは、これじゃあまた振り出しだ。
「どう、すれば……?なにが、できた……?」
過去を振り返ってもどうにもならない、それがナギサと話した時に結論付けたことの筈。なのに今浮かぶのは過去の事ばかり。
……最悪だ、こうなったのは過去、というかさっきの選択のせい。なのに違う選択肢を選んでいたのならやっぱり私は友達や恩人一人助ける気のない最低な人間なのだと、暗に突きつけられる。
友達を見捨てたくなかったから、約束を破った。
約束を破ろうとしなかったら、ただの薄情者になってた。
じゃあ、私はどうすればよかった?
応えてくれる人は、誰もいない。私はまた、独りぼっちだ。
それじゃあせめて今から何かできることをしようとしても、今の私に何ができるのだろうか。
ナギサは……多分他の誰かが助けに行っている筈、私が最初に駆け付けられればよかったのに、衝動に身を委ねたせいで最悪の結果になった。
先生を探す……これも、無理。あの時先生を乗せたゲヘナの救急車を私は見失った。追うべきではない状況だったのはわかっている、……でも、あの時追っていれば先生の無事を皆に知らせることくらいできたのではないか?
アリウスを探して、襲撃する……論外。銃のない私には歌でしか奴らに対抗できない。また激情に駆られれば躊躇なく歌を歌うだろうけど、そう簡単に血の気は昇らない。それに歌うのはまたナギサとの約束を破ることになる。既に1度破っているのに何を今更とも思うが、1度破ったから、で簡単に約束を反故にする最低な人間に私はなりたくない……もう、その最低な人間になってしまっているのかもしれないのだけど。
……現実から逃げるように、考えて、考えて。
何か私にできることはないかと、考え続けた。誰かに頼って頼られてだけじゃだめだってのは、ナギサとも話したから。
でも、ダメだった。
地位もない、カリスマもない、力は使いたくない。
何もない私にできることは……なにも、ない。
「はは……やっぱ、私……最低だ」
やっと立ち上がれたと、そう思ったのに。立ちふさがる現実は、簡単に私の進む道を閉ざしていく。
できることと言えば……また、この部屋で引きこもることだけ。
「……なんで私、生きてるんだろ」
踏み出せたと思った場所は奈落で、再び底まで落ちていく。
私はまた、天井を眺めるだけの抜け殻になり果てた。
「ルル、いる?」
「……せん、せい?」
……先生がまたこの部屋を訪れたのは、それから約2日後のことだった。
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