「他の子からルルが此処に戻ったきり出てこないって話を聞いてさ、ちょっと様子を見に」
「……」
いきてた。先生、生きてた。なのに……何を言えば良いのか、思いつかない。
「ヒナから聞いたよ、頑張ってくれたんだね」
「……頑張った、わけじゃ、ない」
「私、戦ったの、ナギサ、生きてるか、不安になって。そんな時に、先生、撃たれて、それで……」
「ルル……」
「もっと、違うことも、できた。違うことした方が、ずっとマシになってた」
「私……何もできてない。何も守れてない、何も助けられてない!」
「やっとやり直せるって、そう思ったのに!結局、結局これ!勝手な都合で約束破って、助けに行くべき人を見捨てて!自分勝手に力を使って……最低だ、私……」
……先生と目線を合わせられない。怖いんだ、やっぱり。でもこれは今までの気持ち悪い物を見たくないとはまた違う。
責められるのが怖いんだ、できる力があったのにできることをしないで、勝手なことをして後始末もせずにまた引きこもって。
そんな恥知らずな生徒、責めるに決まってる。それに先生にはこの前今後について相談だってした。その結果がこの振出しに戻る状態じゃ……もう責めるを通り越して軽蔑されたって仕方ない。
いっそもう諦めて裁きを待とう。言い訳なんてできない。皆できることを必死でやってるはずなのに、私だけ……
「……ルルがどう思っているのかは分からないけど」
「少なくとも、私はルルの事、よく頑張ってくれたんだねって言うよ」
「……え?」
気付けば近づいてきた先生にフードを剥がされる。
優しい顔だった。失望も、侮蔑も、怒りもない。
「怖かったでしょ?」
「……うん」
「でも、勇気を出してくれたんでしょ?」
「……勇気、とは、ちょっと違う。あれは……色々ぐちゃぐちゃになって……待って、聞いた、の?」
「聞いたって?」
「……」
先生は「歌」については聞かされていないらしい。正直……ちょっとだけ助かった。
「なら、いいや……それで、結局何もできなかった。私のした事は無駄だった、私……は……」
「無駄なんかじゃないよ」
「え……?」
「ルルはさ、結果はどうあれ、ナギサや私のために行動してくれたんでしょ?」
「……うん。でもやったことは……その……」
「動いただけでルルは充分頑張ったよ」
「ずっと閉じこもってたのを「誰かのため」で前に出たんでしょ?結果はどうあれ、私は凄いことだと思うよ」
「……ちょっと子供扱いされてるみたいでムカつく」
「そ、そんなぁ……」
あれこれやるだけで適当にすごーいって言われてるような感覚。でも、何故だろう、少し心地良い。
「ひとまず後は任せてほしい。ルルが繋いだ物はしっかりと受け取ったから」
「だからそんな大層なことはしてないって……」
「私にとっては大層なことだから」
「……いつか刺されても知らないよ?」
「なんで!?」
「そういうところ」
無自覚たらしってこういうのを言うんだろうか、いつか本当に刺されても……撃たれは、したか、やめておこう。
「……あ、そうだ」
「どうしたの?」
「ナギサが起きたら……伝えておいて、約束、破っちゃったって」
「約束?」
「うん……この前話した時にした約束。きっとナギサならそれだけで分かってくれる筈。私は……その、合わせる顔がないから……」
「……」
……多分ナギサが聞いたら「また他人に頼ってるだけ」とか言ってくるだろう。事実その通りだし、頼ってるのは外部の人間である先生だ。
でもやっぱり怖いんだ、他人と顔を合わせるのが、他人に会うのが。特にナギサとはよりにもよって一番大事な約束を最初に破ってしまったし、余計に……
「……それは無理かな」
「……どうして?」
「それは私とナギサの約束じゃなくて、ルルとナギサの約束だからね。当事者じゃない私が行っても何にもならないでしょ?」
「……」
……つまり、その、先生は、私がナギサに会いに行けって言ってるの?
「で、でも私、大事な約束、破って、絶対ナギサ、怒って……」
「その約束が何かは知らないけどさ」
「約束っていうのはわざと破るものじゃないし、進んでそういうことをするとも思えないから。きっとそうせざるを得なかった事情があるんでしょ?」
「……ただの癇癪かもしれないよ」
「ルルが我慢強い子っていうのはよーく知ってる、それにあの時はいろいろあったから……パニックになっても仕方ない」
「……今度こそ、ナギサと仲違いするかも」
「それこそないよ、この前わざわざ話がしたいって言ってきたのはナギサの方なんでしょ?素直に謝ればきっと元鞘に戻れるよ」
「……」
どんどん逃げ道を塞がれていく……私だって逃げちゃダメなのはわかってる。ナギサがそんな薄情者じゃないこともわかってる。
怖いのは多分、私自身。逃げ道を塞がれれば塞がれるほど、自分の方こそ薄情者で、忌み嫌うべき人間であることを自覚してしまう。
「怖いのはわかるよ、私も昔はそういうこと結構あったから」
「……それはダメな大人の見本例なんじゃないの?」
「昔のことだから水に流してくれると嬉しいかなぁ……」
ダメだ、やらなきゃいけないのははっきりしてるのに口を開けば出てくるのは皮肉と自己弁護。一体どの面下げてなんだか、話せば話すほど自分が嫌になる。
「やっぱりさ、後ろめたい物を抱え込んだままはい終わり、じゃダメだと思うし、それは悲しいことだって思うんだ」
「前にも似たようなこと、言ってたね」
「うん、だから私は話せるときに話しておこうって何回でも言うよ」
「……」
「折角仲直りできたのに今度は何も話せないまま疎遠になるのは、皆不幸にしかならないからさ。私も全部終わった後なら助けてあげれる。だからもう一度、歩み寄ってみない?」
「ぁ……」
……眩しすぎる。遠くから見れば明るい程度だけど、今の私には触れれば燃えてしまいそうで、手を出すのを躊躇してしまう。
「怖がらなくていいよ、間違いは誰だってする、むしろ間違いを起こさない人なんていないから」
「……いい、の?」
「勿論、間違えたって転んだって尻込みしたって、何回でもやり直せる」
「私の仕事はそれを助けること。だから怖がらずに手を取っていいんだよ、ルル」
「……うん」
やっぱりこの人はずるいや、遠くで留めておきたいのに、自分から近づいてくる。
結局私は燃え尽きるのを覚悟で、眩しいその手を掴んだ。
……またナギサと会えたのは、言葉の通り先生が全てを終わらせてから。
途中何回も右手が熱くなったけど無視した。何回も約束を破るほど薄情な人間にはなりたくなかったし、やっぱり私が出てもどうにもならなかっただろうから。事実、先生は私がいなくてもどうにかしてみせたわけだし。
「……ひとまず無事でよかった、ナギサ」
「あまり無事とは言い難いですが……ありがとうございます、ルルさん」
今回の面会場所は病院だった。幸いナギサの容態はそこまで酷くなかったからなんとか平静を保てたけど、もっと酷かったら最初から躓いてしまっていたかもしれない。
「……今回は最初から目線を合わせてくれるのですね」
「先生のお節介、ほんとあの人は生徒のことよく見てるよ」
今日は久しぶりにフードを外して昔の衣服で来た。これに関しては先生の提案で「逃げる場所があると無意識に頼ってしまうから」だとか言われて最初から着ないことにした。周りの目線がいつも以上に怖かったけど……どうにか耐えて、なんとかここまで来た。
「貴方こそ無事でよかった。もしアリウスに狙われでもしていたら……」
「あー……それ、なんだけど」
……しまった、いきなり告白することになってしまう……ううん、弱気になっちゃダメだ。逃げずに進まなきゃ。
「……狙われたんだ、あの時。捕獲対象だとかなんとかで」
「では……」
「……どうにか対処はできたけど」
「……ごめ、ん。約束、破った。あの力、また、使っちゃった……」
……あぁ、だめだな。言い淀むし、涙は出てるし。
「……」
「結果的にどうにかは、なったけど、先生、守れなくて、時間稼ぎにも、ならないし、私、力怖くて、にげ……」
「……ルルさん」
「二度と使わないって言ったのに……はは、合わせる顔ないや……」
「……はぁ、何を言っているかと思えばそんなことですか」
「え?」
そんなこと?
「少なくとも私は貴方と一緒に銃を買いに行く以外約束らしい約束をした覚えはありませんよ?」
「え、でも、あの時」
「あれは貴方が勝手に決めたことです。別に私は破ったところで気にしませんし、関係を変えもしませんよ」
「……よ"がっだぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"……」
「ちょっ、泣きつかないでください!?私は一応病人なのですよ!?後服が濡れます!」
「あっ……ご、ごめん」
「気持ちはわかりますが……」
……いけない。なんか最近気持ちを制御できてない気がする。
「というより、私は別に使っても構わないと思うのですが」
「……理由は?」
「力に良い悪いもありません、大事なのは「どう使うか」だと私は考えます」
「どう、使うか……」
「ええ、話を聞く限りその時も、補習授業部の時の一件も、私はそれを「悪い使い方」だとは思えません。良い使い方をしているのに貴方が勝手に「使ってはいけない」と思い込んでしまっているだけでは?」
「……それは」
……少し考えてみる。
私がこの力を使いたがらない理由……多分、使うことで日常から遠ざかるから。
1回、たった1回使っただけで私の立場は一変して、日常とは遠く離れた政治の世界に巻き込まれた。元々政治に関わる気もなかったし頼れる人がいなかった私は嫌気がさして、引きこもった。
じゃあ、今なら?
今は……薄暗い場所に手を入れる覚悟は、多少なりともある。頼れる人も……いる。なら……
「……使って、いいの?この力を?」
「少なくとも私はそう思います。しかし最終的に決めるのは貴方です」
「……私は……」
……少なくとも、
誰のため、誰のため?
……うん、そうだね、私自分で言ってたじゃん。
「……ありがとう、目が覚めた」
「答えは、出ましたか?」
「うん、この力は好きになれそうにないし、かといって手放すこともできない」
「だったらせめて、困ってる誰かのためにこの力を使う。多分これからも使わざるを得ない状況はやってくるから、せめてその時に理由を作りたい」
「……ふふっ、変わりましたね、貴方も」
「変わったって何がさ」
「少しは物事を考えることになったということです」
「それ絶対褒めてないよね?」
「成長したという意味では褒めていますよ?」
「別の意味では貶してるだろ絶対!」
「さて、どうでしょうね……」
「お茶を濁すなぁ!」
……すっと、心が楽になった気がした。話を聞いてくれる、受け止めてくれる。そんな人が一人いるだけで心はこんなにも軽くなるんだって、初めて気づいた。
「……まあ、ありがとう、ナギサ。多分、やっていけそう」
「応援していますよ……ああ、そういえば謝らなければいけないことが一つ」
「何?」
「銃の件ですが……事後処理が少し長引きそうでして、もう少し後になってしまいそうです、ごめんなさい」
「大丈夫、ナギサの立場は理解してるつもりだし」
「ありがとうございます……」
……そういうことならせめてあれを……
「あっ」
「どうしました?」
「いやその、ナギサに渡したいものがあったんだけど……忘れちゃって」
「渡したいもの?」
「うん……今から取りに戻るわけにもいかないし、また今度かなぁ?」
「そうですね……じゃあ、買い物の時にどうです?」
「あ、それいいね、了解!」
ナギサともう一つ約束をしてしまった。次は絶対に忘れない。
「それじゃあ私はこの辺で。早めに治してよ?」
「無論です。ではまた」
心なしか上機嫌でナギサの病室を後にする。もう厄介事は片付いた、後は……どうにでも、なる筈。
久しぶりに希望が持てた。ナギサとの約束を楽しみに、生きれる。
それだけで、何か満たされた気がした。
……何か一つ、欠けている物から目を背けて。
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