蒼き地平に星はまた昇る   作:暁真

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気付けば最終章です。


終章 エデン条約編4章
序曲


 

 ……あれからそこそこ時間が経って。

調印式のゴタゴタはだいぶどうにかなったみたい。少し気になったので聞いたらナギサが教えてくれた、詳しくは教えてくれなかったけど。まあ当然っちゃ当然か、私ほぼ部外者だし。

ナギサの方もかなりドタバタしてるらしく銃を見に行くのはもう少し先になりそうだ。こっちもこっちで引っ越し作業が忙しいし、そもそも私は仕事で忙しい人に私的な事情を優先させるほど我儘でもない。全部終わった後のご褒美程度に考えておくのがいいだろう……髪飾りもまだ渡せてないし。

 

「さて、どうしようかな。流石にこんな時間に引っ越し作業の続きをする気も起きないし……」

 

時刻は夜、晩御飯を食べるにしてもちょっと遅い時間。今日の引っ越し作業を再開する気もないし、早めに部屋に戻って寝ようかな、なんて思ってたんだ。

 

「まあ早めに部屋に戻ろう……っ、あっつ!?」

 

……唐突に右手が熱くなった。こういう時はいつも指揮棒が自分を使えって合図なんだけど、今回は今までと違うことが一つあった。

 

「な、なんでこんな時間にって、聖歌隊!?」

 

思わず伸ばした右手から飛び出るように聖歌隊が1体召喚された……おかしい、今までこんなことはなかったはず。大体右手が熱くなるか指揮棒が勝手に飛び出てくるだけでそれ以外の干渉は皆無だった。

つまり今回は……前のアリウスより深刻な事態という可能性が高い。

 

「にしてもなんで飛び出て……って、えぇ……?」

 

飛び出てきた聖歌隊はついてこいとでも言うように何処かへと移動を始めた。正直今から何処か行くってのも困るんだけど……此処まで指揮棒の自己主張が強いのは初めてだ。

 

……行かなきゃ確実に後悔する、そんな気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ああもう……一体どこまで連れて行く気だよ……トリニティだいぶ離れてるし……」

 

 丁寧なことに聖歌隊は私が見失わないギリギリの距離で道案内をしてくれた。ただ行く先はどんどん街を抜けて路地裏の方に入っていくし、最悪なことに通り雨に遭遇したりもした。まあすぐに止んだからいいけど、服も最悪歌を使う時に変わるから多分乾くだろうし。にしたって一体どこへ連れて行こうとしてるんだか。

 

「うへぇ……泥んこ、跳ねなきゃいいんだけど……」

 

途中舗装されていない道路を抜けて、如何にも治安が悪そうな通りに突入する。歌を使うかはまだ思考に入れないでおこう、何が起きるかわからない。とはいえただのチンピラ如きに指揮棒が反応するとも思えないし……ってあれ?

 

「止まった?」

 

気付けばギリギリの場所を先導していた聖歌隊は急に止まって立ち尽くしていた。道案内が終わったってことは多分目的地に着いたんだろうけど……こんなところに一体何が?

ひとまずは聖歌隊が止まっている場所まで追いついて辺りを見回してみる。とはいえ薄暗くてあんまり見えないけど……うん、銃撃音?一体どこから……

 

「……あれ、先生?」

 

目を凝らして音がする方向を見やれば何やら指揮を執る先生の姿が見えた。一体こんなところで何と戦って……

……

 

「……アリ、ウス?」

 

音を立てないように近づけば、先生の咆哮に銃を向けているのはこれで3回目になる見たことのある顔……アリウス。

なんでこんなところに居るのか、なんで先生と戦っているのか、疑問は尽きないけど……

 

「……やれるね?」

 

熱を帯びた右手に確認し、肯定するように目の前に現れた指揮棒を乱雑に握る。今やるべきは……奴らをどうにかして先生を助けることだ。

 

Sequere Meam Voluntatem(我が意に従え)!」

 

この前使ってしまった奥の手とはまた別、聖歌隊を操ることに特化した呪文。力を使うこと肯定こそしたが、まだ歌うことに少し忌避感が拭えない以上、こっちの方が色々と温存できると判断した。奥の手は……正直、使わずに済むことを祈ろう。

 

「この声……ルル!?なんで此処に!?」

「それはこっちが聞きたいな!ひとまず援護するからさっさとやっちゃって!」

 

指揮棒でアリウスの背後を指し、そこを起点として聖歌隊を数体召喚。先生の指揮下で戦っている誰かに援護を入れる。歌わなくてすむのはこれの良いところだが、一々指揮棒を振らないと指示を出したり召喚できないのが難儀なところだ。改めて奥の手が本当に奥の手であることを実感する。

 

「……なんで、あいつが……」

 

……何処かで聞いたことのあるような、まあいいか。終わった後で確認すればいい。

 

「あいつらを無力化すればいいんだね先生!?」

「そうだけど……終わったらそっちの事情も聞かせてもらうからね?」

「わかってる」

 

私が参戦した時には多分大半を片付けていたんだろう、先ほど召喚した聖歌隊に指示を出し、先生が指揮している誰かとクロスファイアの陣形。数秒後には呆気なくアリウスの奴らは全滅した。

……あれ、私特に何もしてない?まあいいか。

 

「……終わったかな」

 

指揮棒を振り上げ、一旦召喚した聖歌隊を消滅させる。先生が指揮していた誰かに少し不安はあるが、こっちに敵意がないことを示せないと話にもならないだろう。

 

「先にこっちから聞いていいかな、ルル」

「なーんか右手が熱くなったと思ったら道案内されてさ、従ったら此処に到着して先生が居た、それだけだよ。そういう先生は?」

「……悪いことは言わない、早く帰った方がいい」

「私が聞きたいのは警告じゃなくて理由。私だって簡単に帰る訳にはいかないの、此処までこれの自己主張が激しいの初めてだし」

 

それとなく指揮棒を弾いてみれば、なんと宙をくるくる回転し始めた。なーんかこいつ時折勝手に動くんだよね……自我でもあるんだろうか。

 

「……それについては、私から説明する」

「……先生の指揮で戦ってた子?なーんか聞き覚え、が……」

 

顔くらいは見ておこうと思って振り向いた先にあった姿で、言葉が途切れる。

 

「先生、余計説明してくれなきゃ理解できないよ、こんなの」

「ルル!?」

「……こうなるであろうことは、想定済みだ」

 

其処にあったのはあの時先生を撃ったアリウス生徒の姿。咄嗟に距離を取り、指揮棒を握って周囲に聖歌隊を展開する。

 

「やっぱりこうなりますよね……まあそうなって当然なんですけど……」

「先生……強引にでも帰らせた方がいいんじゃない?」

 

一人、二人、三人……あれ。

 

「一人足りない?どこかに隠れてる?」

「どうか話だけでも聞いてほしい。私たちは……彼女を助けるまでは、止まる訳にはいかないんだ」

「……わかった、どうやら欺瞞って訳でもないみたいだし一応は聞くよ」

 

正直言って信用は皆無だけど、だからと言って対話を放棄してしまえばまたこの前の繰り返しだ。聞かないわけには行かないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「理解はした、納得もした。確かに先生なら付き合ってくれるだろうね、そういう人だし」

「……姫を助け出した後であれば、どんな咎でも受ける。無理に協力してくれとは言わない、だが……少しの間だけ目を瞑ってはもらえないだろうか?」

 

 要するに彼女ら……アリウススクワッドは「姫」と呼ばれる子を助け出したいと、そういうわけらしい。そして期限は明日の明朝まで、と。先生が協力しているのも納得だ、どうもあの人は生徒に対して献身的……というか過保護すぎる節があるし。

 

「……君たちはナギサたちを爆撃し、先生を撃って、トリニティを混乱に陥れた。それはまだ許せない」

「……」

「……でもそれはそれ、これはこれ。過去の因縁をずっと引き摺ることほど無価値なこともない。だから別に考えることにする」

「では……」

「……手伝ってあげるよ、君たちの大事な人を助けるの。失う痛みは知っているつもりだから」

 

私だって私情を優先するほど馬鹿じゃない。先生が協力しているってことはこれは欺瞞でもなんでもなく彼女らの切実な願いで、それを邪魔することは人の善性を否定すること、ひいては先生の理念を否定することになる。それは私だって望んじゃいない。

 

「そういうわけで私も付き合わせてもらうよ先生。心配しなくても自衛くらいはできるから安心して」

「……本当にいいの?」

「うん、まあ私情もあるけど……先生への借り、まだ返しきれてないからね。ツケの清算とでも思ってくれれば」

「……わかった。でも無理はしないようにね」

「それは私が一番わかってる。余程の事がない限り全力は出せないけどそれは許してほしいかな」

「勿論」

 

交渉成立。警戒して展開してしまった聖歌隊を消滅させ、彼女たち……アリウススクワッドの面々に向き直る。目線はフードを被っているから合ってないけど。

 

「そういうわけで多分短い間になるけどよろしく。足手まといには多分ならないから安心してもらっていいよ、まあ銃ないんだけどね」

「……なんで来たのって言いたくなるけど、あれを見せられちゃね……」

「数の暴力……やっぱり恐ろしいです……」

「あれ、もしかして怖がられてる?」

 

少し心外なんだが……いや、確かあの時奥の手使ったの彼女たちだったな。割と自業自得だった。

 

「……まあいいや、それで何をすればいい?」

「我々はこれから地下通路に入り、アリウス自治区までの進路を確保する。先生と……」

「ルルでいい、学園も違うんだから無礼講で行こう」

「了解した。ルルと先生は安全が確保され次第後ろからついてきてくれ、恐らく待ち構えているのはアリウスのエリート兵たちだ」

「なるほど、手癖をよく理解している相手だからこそまずは自分たちが……ってこと?」

「そういうことになる」

「了解、先生は……まあ納得してるよね。私と違って貧弱だし」

「貧弱は余計だと思うんだけど……」

「事実の確認……んじゃ、任せたよ」

「わかった……行くぞ」

 

やるべきことの確認を終えた後彼女たちはすぐに統率の取れた動きで通路に侵入した。何分くらいかかるかはわからないけど……あれだけやる気を見せてたんだ、きっと戻ってくると信じよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういえば先生は良かったの?」

「良かったって、何が?」

「確か彼女たち、指名手配されてたよね。それを助けるって言うのはちょっとまずい気もするんだけど……」

「まあ否定はできないかな……でもさ」

「うん?」

「私は困ってる生徒に寄り添うのが仕事だからさ、どうしてもほっとけなくて」

「いい加減その常套句も聞き飽きてきたかも」

「事実の確認だよ」

「もしかしてやり返されてる?」

 

 アリウススクワッドを待っている間、先生と少し雑談してみる。というか本当に任せてよかったのだろうか、聖歌隊1部隊くらいは付けて行った方がよかったかもしれない。おかげで戻ってくるまでこうして先生と雑談するくらいしかやることがないよ。

 

「……にしてもちょっと遅いね、様子見に行く?銃声が聞こえるからドンパチしてるのは確かなんだけど」

「それはやまやまなんだけど……待ってろって言われた以上は……!?」

 

少し不安になり追いかけようか、などと言っていたら地下通路が爆発の衝撃か何かで少し揺れた……うん、時間はなさそうだ。

 

「先生、私が先に行くよ。後からついてきて」

「わかった、急ごう」

 

先生を守るように聖歌隊を展開し、先行している筈のアリウスを追いかける。道中には多数のアリウス生徒が倒れていたし、思っているほど軟じゃないはずだけど……

 

……

 

「……先生、私の見間違いかな?」

「多分……違うと思う」

「だよねぇ……なんで此処に……いや、今はそれどころじゃない」

「止めてくるよ」

「分かった、聖歌隊はそのまま付けておく」

 

何故ここに居るのか私以上にわからない見知った顔。彼女を止めるべく先生は彼女とスクワッドの間に割って入って―――――

 

 

 

「ちょっと待った!!」

 

「えっ……せ、せ、先生……!?それに、ルルちゃんも、なんで……? 」

「先生……」

 

「……それはこっちが聞きたいかな……ミカ」

「そうだね、ミカ……一体ここで何をしてるの?」

 

 

……正直、事情を聞いている時間はこれ以上なさそうなんだけど、どうしたものかな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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