「前にも思ったけど、数だけは無駄に多いねほんと……!」
「……敵にするとこれほど厄介な相手もいない」
「無理に倒そうとしないで!今は旧校舎への道を開くこと優先!」
先生の横で指揮棒を振るい聖歌隊1部隊をアリウスの援護に回し、先生を守るために展開した残り2部隊に適時指示を出す……あれだけ勇ましく啖呵を切ったものの、情けないことに指示を出すのに手いっぱいで周りを見る余裕が全然ない。おまけにさっきから右手が熱くなりっぱなしなのもあってかなりコンディションも悪い、だからお前は一体何を伝えたいのさ……でもある程度聖徒会の数は削れてきている。このままいけば……!
「今!このまま突破する!」
「了解……!」
ようやく穴が開いた包囲網を突破しサオリ先導の元旧校舎への道筋を急ぐ。タイムリミットはもう僅からしい、急がなきゃ……って、うん?
「サオリ、前!」
「前……?っ、あいつは!」
ようやく突破できると思ったのに唐突に乱入してきた闖入者……おかしい、なんでまだ此処に?
「……帰りなさいって言われたのになんで此処に居るのかなぁ……ほんと」
「別に強制されたわけじゃないし、いいでしょ?」
「小学生の言い訳じゃないんだから……」
現実逃避はほどほどにしてある意味この状況では最悪の相手……ミカに対してどうするかを急いで考える。やみくもに聖歌隊を投入しても一瞬で蹴散らされるだけ。かといって指揮棒を演奏にシフトしても彼女にはほぼ効果がない。残った手段は奥の手しかないが……此処で消耗するわけには……
「……ルル、ひとまず今はミカをどうにかしよう。時間がない」
「分かってる、後ミカとは一回やりあったから迷ってるとかそういうんじゃない。どうした……ら……」
「ルル?」
……あれ、なんだろう。
急に、意識が……
「ルル!?」
おかしいな、ちゃんと休憩、取った筈なのに……
……あれ。
誰かが、勝手に私の身体、動かして……?
……それは
ちょっと、困るな……
「ルル、大丈夫!?疲れとか……」
「……」
「……どうしたのルルちゃん、いきなり立ち眩みなんて起こしちゃって。現実逃避でもしてる?」
何故かはわからないけど、ルルが突然立ち眩みを起こしてしまった。幸い意識はすぐに戻ったみたいだけど……
「……」
「あれ、その子達しまっちゃうんだ、まあ私にはあんまり通用しないもんね」
何故かルルは指揮棒を掲げ、展開していた聖歌隊を消してしまった……心なしか雰囲気も違って見える。なにかが……変だ。
「ルル、無理はしなくていい。今は……」
「少し彼女に話がある。疾く終わらせよう」
「え?」
……ようやく喋った彼女の声は、雰囲気からして別人になっていた。彼女……少なくともルルでは、ない。
何かの詠唱と共にルルの掲げた指揮棒が砕け、同時に衣装が変わっていく……あれは、ドレス?
「……あれ、ルルちゃん?それは……封印したって……」
「確かに今代の指揮者は一度この力を恐れ、自ら封じた。その選択を我らは否定するつもりはない。だが……再びこの力を使うと決めた以上、彼女には一つ教えなければならぬことがある。お前の相手はそのついでだ」
「……貴方、誰?ルルちゃんを何処にやったの?」
「その答えは行動で示すとしよう」
……確かにミカの言う通りルルの身体を使っている「何か」は気になる、けれどもそれを探る暇は少なくとも今はない。まずはミカを……
「少し耳障りに感じるかもしれんが許せよ?何せ自ら歌うのは久方ぶりでな」
「え?」
……「彼女」は、それだけ告げると右手を掲げ、ルルのように聖歌隊を召喚した。さっきまでとの違いは……その手に持つのが銃ではなく、楽器と楽譜であること。
「……」
聖歌隊が奏でる音楽とともに「彼女」は甲高いコーラスを奏で、それに応じるように次々と聖歌隊が召喚されていく。その数は先ほどの比ではない。
「これは……」
「……あの時の」
「こ、此処で使っちゃうんですか……?」
どうもスクワッドの皆は既に知っているらしい。
……多分これが、ルルの言ってた「隠したかった」力。
「……歌だけで、私に勝てると思っているの?」
「勝てるさ、歌は我らの誇りと自由を守るための武器であり、同時に我らを象徴する魂」
「援護は頼むぞ?スクワッドの諸君」
「……どっちかと言えばそっちが援護する側でしょ」
「心外だな、歌い手とは自らが主役でなければ気が済まないのだよ」
恐らく前奏が終わったのだろう、大量の聖歌隊を展開しきった彼女はポーズを取って。
「You know how to get eternal life……In the center of the lightning-speed waltz」
始まった歌唱を号令に、聖歌隊は一斉にミカにその銃口を向けた。
……あれ。私、寝てた?
今寝るのは結構マズいんだけどなぁ……お荷物になるのは勘弁だし、時間もないし……あれ、寝起きなのに妙に意識がはっきりしてる。というか此処……何処?
「……何ここ、聖堂?」
意識がはっきりしているのを確認して飛び起きたら其処は如何にもな神々しい雰囲気の場所。寝ている間に拉致された……ってわけでもなさそうだし、何処だろう、此処。
ひとまず聖歌隊を使って探りを……あ、あれ?
「指揮棒が……出てこない……?」
何度念じても、何度出ろー、なんて言ってみても指揮棒が出てこない。今までこんなことはなかったはず、それにあいつ自己主張が激しいし呼びかけに答えないなんてこともないだろうし……まさか。
「もう……取られちゃった?」
「君はそこまで軟弱ではないはずだ、指揮棒は今でも君と共にある」
「よかったぁ……って、誰!?」
ひとまず指揮棒が無事なことにほっとすると同時に唐突に表れた何かにビビッて反射的に声のした方向へと振り向く。
「……おや、驚かせてしまったかな」
「あの……どちら様で?」
其処に居たのは大層派手なドレスを着た同年代の子、態度を見るに少なくとも敵って訳じゃなさそうだ。
「そうだな、本来であれば私たちは名もなき亡霊。しかし敢えて名乗るのであれば……」
「指揮棒が記録したかつての「指揮者」たちの記憶、その残滓とでも言っておくよ」
「……ごめんもう一回言って?」
「かつてあの指揮棒を使い誇りと自由を守るべく行動した者達の残り火……つまりは幽霊みたいなもの」
「1回目と2回目で微妙に表現変えるのやめようよ」
もしかしてこの子、割と面白い子?……って、ちょっと待って。
「幽霊って……どういうこと?」
「文字通りだ、我らにもう実体はない、というかそもそも本人ですらない。あくまで私たちは指揮棒が記録したかつての指揮者たちを再現したものだ。此処は我らの待機場所……とでも言えばいいかな」
「……待って、じゃあ此処現実じゃないの?いきなりそんなオカルト言われても信じられないんだけど」
「信じてくれとは言わないが、此処は指揮棒の内部のようなもの。君の精神を一時的に来訪させたのさ。ああ安心していい、今君の身体は残滓が一人……始まりの指揮者が代わりに扱っている」
「全然安心できないんだけど!?早く身体返してよ!?」
「それに関してはすまない。けれど……君を呼んだのにも相応の理由がある。指揮棒と右手を通しての干渉ではとてもじゃないが伝えきれないことがね」
「……えーっとつまり、今まで右手が熱くなってたのは……」
「私たちの干渉だ」
「……今明かされる衝撃の事実……ってやつ?」
「伝えようとしても君と指揮棒があまり馴染んでなかったが故にそうするしかできなかった、というわけさ。今頃は始まりの指揮者も同じような説明をしているだろう」
……色々と聞きたいことはあるし、早く先生とスクワッドの所にも帰りたい……けど、なにかやらなきゃ帰れないっていうんだったら。
「……ひとまず教えてくれないかな、なんで貴方達が私を呼んだのか」
「そうだね、それが本題だ」
「指揮者」の一人であろう彼女は私と向かいあうように立ち、眼の形を変えた。
至極真剣な眼差しで伝えられたのは……
「……君は「歌」が、好きかい?」
「……」
……目を背けて逃げていた、最後の課題だった。
「……好き「だった」って言うべきかな。たしかに昔はそうだったよ、誰にでもなく、自分のために好き勝手自由に。誰も邪魔しない、誰にも邪魔できない。歌は私だけの世界だった。必要とされなくても、ただ自分だけの世界を紡ぐのが好きだった」
「そうか」
「……変わったのは、指揮棒を手に入れて、ヘルメット団相手に歌った時から」
「今まで自分が紡いできたものが……世界が、丸ごと否定された気分だった。私の歌は他人を傷つけるためにあるものじゃないって言いたかった。けど、事実であることは変えられない。私にとって歌は「自分だけの世界」から、「他人を傷つける力」になってしまった」
「それに、あれから誰かが歌うのを邪魔するようになった。誰かが「歌」じゃなくて、「歌に付随する力」を私に求めるようになった。私の歌からは「自由」さえ消えてしまった」
「だから私は歌が嫌いになった。今まで作り上げてきたものが全部否定されて、滅茶苦茶になって、その上で周りはその滅茶苦茶になったものを私に使えと言ってくる……とてもじゃないけど、耐えられない」
「……随分と、正直だね」
「だって人間じゃないんでしょ?下手に隠し事をしてもバレるでしょそういうの」
寧ろこういう状況だからこそ素直に話せたのかもしれない、とも思う。普段なら結局最終的に逃げてしまうだろうから。
「……過去を振り返るのも、引き摺るのもやめた。けどこればっかりは無理」
「私の歌が「他人を傷つける力」であることも、「求められる力」であることも二度と変わらない。私にとっての歌は……大好きだった歌は、もう二度と帰ってこないんだ」
「……」
「もう割り切っていいよね。好きじゃなくても、求められるなら応える、それでいいでしょ?」
……私の告白を聞いた彼女は少し黙りこんでしまった、想定外だったのだろうか?
「……ああ、きっと君ならそう言うと思っていた」
「え?」
ちょっと待って、最初から想定済みだったのこれ?
「時代の変化と共に聖歌隊はその存在意義を無くし、消滅していった。確かにこの力はもう必要とされないのかもしれないし、君が指揮者になったのは完全な偶然」
「聖歌隊が忘れ去られたこの時代に指揮棒という存在の意味を知る者は少ない、力を求められた君が歌を嫌いになってしまうのも無理はないさ」
「じゃあ、なんで聞いたの?」
「確認さ、いきなり詮索されたっていい気はしないだろう?」
「それは……確かに」
「話を続けよう」
「君が指揮棒を封印するという選択肢も我々は尊重する気だった。ただの生徒一人に背負わせるには荷が重すぎる力だということは否定できない……あの襲撃は君の身を守るために咄嗟に出てしまったけど」
「だが、君の友達が言った「力はどう使うか」という一言。それに君は応え、指揮棒を使うことを良しとした」
「それを否定する気は私たちにはない。だが……その様子では真に扱うことは不可能だし、君は指揮棒を使うたび苦しむことになる」
……どうも説教くさいけど……
「……結局、何が言いたいの?」
「何、簡単なことさ。時間もあまりかからない」
「えっ?」
一体何をする気なんだろうと考えていると目の前の彼女の身体がブレて、4人に増えた。同一人物ってわけじゃないけど……これも全員歴代の「指揮者」?おそろいのドレス着てるし。
「ただ紡ぐだけの言葉では心は動かせない」
「力だけでは根本から変えることはできない」
「歌い、繋がることで他人を理解し、変えることができる」
「そうとも、歌とは単なる力でも言葉でも、自分が閉じ籠るための殻でもなく、人と繋がるための神秘」
「……まあ、全員カッコつけてるけど端的に言おう」
「最も新しき「指揮者」の君。一度だけ、私たちと共に歌ってくれないか?」
「……は、はい?」
……歌、う?
評価、感想等頂けると大変励みになります。