蒼き地平に星はまた昇る   作:暁真

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何を摂取してこの作品を書いたかがバレそうな内容です。


第三楽章

 

「何、難しいことじゃないだろう?私たちは君が共に歌うことを求めている。それに応えてほしいというだけの話だ」

「い、いやでも、私多分皆の歌に合わせられないし……」

「何を謳うかは貴方が決めればいいことです、我々はそれに合わせるまで」

「……というか、これに何の意味が?」

「やってみればわかるさ、生演奏で気分もあがる」

「……わ、わかった。歌えば帰してくれるんだね?」

「勿論」

 

 唐突に指揮者の皆が増えたかと思えば「一緒に歌って欲しい」なんて言われて……正直そんな余裕もないのに随分と変なことを言うなぁって思った。けど多分そうしないと帰してくれないだろうし、一応は従うことにした。

 

「さて、君がリーダーである以上、私たちは主役ではいけない。衣替えだな」

「えっ……ええっ!?」

 

最初に話した子が指を鳴らしたかと思えば一瞬で私の衣服は彼女たちの来ていたドレスになり、彼女たちは聖歌隊が来ていた白い装束に変わった。ただ歌うだけなのにそこまでやる……?

 

「さあ始めよう、君が歌いたいと願えば聖歌隊は勝手に演奏を始める」

「何その便利機能……じゃあとりあえず……」

 

歌いたい歌……って言われてもなぁ。昔好きだった歌なんてほぼ忘却の彼方だし、合わせるったって一人用の歌くらいしか……あ。

 

「……うん、これかな」

 

あった、ささっとは終わらないけど多分これなら歌えるだろうし、特段早い曲ってわけでもないから彼女たちも合わせてくれるはず……歌詞はわかんないけど。

 

「じゃあ、始めるよ」

「ああ、やろうか」

 

私をセンターにして隊列が組まれる。本当に私の好きにしていいってことなんだろう。あんまり気は進まないけど早く帰るためだ、歌おう。無論不真面目にやったら怒られるだろうし真面目に。

 

「……」

 

イメージして右手を掲げれば、いつの間に召喚されていたのか聖歌隊たちが現れて伴奏を始める。同時に誰も居なかった聖堂の椅子が満席になって……え、どなた様達?

 

「彼女たちも同じ歴代の「指揮者」、心配せずに叩きつけてやればいい、君の歌を」

「叩きつけるって……戦ってる訳じゃないんだけど」

「物の例えさ」

 

……なんか釈然としないけど、いいや。

 

 

 

Ha Ha……Ha ah!Ha Ha ……

 

凄い、最初からしっかり付いてきてる。きっとこの人達なら全部歌えてしまえるのだろう。

……こんなにいっぱい観客がいるんだ、帰るためとはいえ、自分だけ失敗はできない。歌おう、自分の全力を。

 

こぼれる闇の中を また一粒 光が集まった 長い旅の果てに 疲れ果てた歌声抱いて

 

奇跡を起こす度に浮かぶメロディー 固く結ばれた

 

……全部一人で歌おうとしたんだけど、彼女たちの手で勝手にパート分けをされていた。でも歌えないなんて不快感はない、寧ろ奇妙な一体感すら感じる。

 

黒い重力さえ搔き消せるほど強く

 

一度他の3人のパートが終わり、一緒に前に出てきたのは最初に話したあの子。心なしか楽しそうだ。

 

借り物の空 5つで無限に変わる

 

答えは それだけでいいはずさ 早く

 

……本当に、皆楽しそうに歌ってる。ちょっと羨ましい。

 

「ほら一人だけしょげないの、主役は貴方」

「あっええ!?ちょ、こっからサビ!?」

 

急に後ろから抱き着かれて思わず振りほどいてしまった。そこまで顔に出てるとは思えないけど……って、いけない、こっからが重要なんだ。

 

見上げたら?

 

解けて散るのなら 全てが終わった後にして

 

枯れそうな手の平に世界を 届けるため

 

……彼女たちの雰囲気に呑まれたのだろうか、不思議と歌うことに忌避感がなくなっていく。昔感じた自由な感じ、いや、それ以上に……

 

砕け始めてる音像 絆で織り上げて

 

皆が私を引き立てるために場を盛り上げてくれる。それに応えなきゃ……って気持ちも勿論あるんだけど。

 

重ね合わせ 

 

最高の歌になれ!

 

……この初めての感覚を、誰かと一緒に歌う歌の楽しさを、もっと感じていたい。

久し振りに、歌いたいって、そう思えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうだった?私たちも結構やるでしょ」

「結構っていうか……完璧だった。もしかして練習してた?」

「指揮棒の特性のようなものだ。我ら残滓は記憶を共有する、経験こそしないが、我らに「初めての歌」は存在しないと言っていいだろう」

「……さらっと凄いこと言うね」

 

 途中……というか1番が終わるあたりからかなり盛り上がってつい歌うことに熱中してしまった。彼女たちのコーラスと一体になって作り上げる歌は初めての感覚で……なんといえばいいのだろうか。昔ずっと一人で歌っていた時の歌よりも、すごく楽しかった。歌への忌避感があった筈なのに、それもすっかり消えている。

 

「……始まりの指揮者の受け売りだけどね」

 

「私たちは確かに「歌」を武器として戦う。その歌は誰かを傷つけるし、誰かに求められてしまう力だ」

 

「でも、それでも戦うのはそうしてまで守りたいものがあるから」

 

「それは「歌」そのもの、誰かへ届けるための歌、誰かと共に歌うための歌」

 

「だって、何かのために歌う歌程虚しいものはないから」

 

「……」

 

……そうだ、私は「戦うため」に歌う歌が、「求められて」戦うための歌が嫌で、歌が嫌いになった。これからも力を使うためだけに歌うのならばまた歌を好きになることはないだろうと、そう思っていた。

 

「歌は想い、歌は命、歌は世界」

 

「自分のために歌って、誰かに歌を届けることで、誰かと共に歌うことで、世界は広がっていく」

 

「私たちはそれが楽しい。楽しくて、好きで、やめられなかった」

 

「例え虚しくても戦い続けれたのは、その「歌が好き」という思いが根底にあったから」

 

「だから君にも思い出してほしかったんだ。歌の楽しさを」

 

戦うための歌が、必要とされる歌だけが全てじゃない。きっと彼女たちが私に伝えたいのはそういうことなんだろう。戦うための歌を歌ったその先に、世界を広げるための歌がまた別にあるのだと。

……何故彼女たちが指揮棒を次に託していったのか、少し理解できた気がした。

 

「……本当にそれだけだったんだ」

「そうだよ?まどろっこしい理由なんかない、私たちは歌が好きで、君にもその楽しさを思い出してほしかった。本当にそれだけ」

「我らは聖歌隊という大層な名前だが、言ってしまえば歌が好きな奴らが集まっただけの集団だからな。「自由に好き勝手歌いたい」、それ以上の活動意義はない」

「なんか後から色々言われて神聖化されていっちゃったけどね……」

 

なるほど、つまりはサークルの自衛活動だったのか、指揮棒のこの力は。

 

「んでどうだい、歌、また好きになれた?」

「……正直よくわからないけど、「嫌い」って感情はきれいさっぱり」

 

凄く楽しかった。誰かと一緒に歌う歌、誰かに届けるための歌。

 

「だからさ、「好き」になれるよう努力はする。また歌えるかはわからないけど……もし次があるのなら、皆に失礼だからさ」

「嬉しいこと言ってくれるじゃん、暇だったらいつでも歓迎さ」

「……であるのならば、歌を好きになるためにまずやることがあるな?」

 

うん?

 

「そーそー、今は始まりの指揮者が頑張ってるけどさ。本当は君がぶっ飛ばしたいだろ?あのベアトリーチェって奴」

「あ」

 

そうだ、私はそもそもさっさと現実に帰ってあいつをぶっとばしたかったんだ。

 

「あいつには我々も腸煮えくり返っていてな、何が有効活用だ。歌を兵器としか考えていない下郎が」

「そんな虚しい歌に協力するなど言語道断、全会一致で敵認定(ギルティ)

「だけど今の君じゃあいつに敵うかわからなかったからさ、もう一度「歌」を好きになってもらうために此処に来てもらったって訳」

「ええと……この力と歌が好きってことに何の関係が?」

「大ありよ、歌が好きで好きでたまらない奴らが作ったこの力。当然歌が好きな奴が使わないと真の力は発揮できない」

 

あ、そうなんだ……てことは今まで使っていたのはお試し版ってこと?

 

「ま、今の君なら問題ないかな。この指揮棒の真の力、存分に使ってくれ」

「私たちは自由な歌を守るために戦う、それを忘れるな」

「まあ自由とは言ってもある程度節度は守らなきゃだけどね!」

 

……こんなにも背を押されているんだ、応えなきゃだめだよね。歌を守るために、そして私が自由に歌うために。

 

「……ありがとう皆……ところでこれ、どうやって帰るの?」

「始まりの指揮者もこっちの状況は把握してる、余裕ができれば元に戻るだろうけど……あ」

「あ?……あっ」

 

気付けば体が透け始めていた。多分帰れるんだろうけど……

 

「……そんな悲しい顔しないでよ、また一緒に歌うんでしょ?」

「私たちは指揮棒とその指揮者と共にあります。一緒に歌いたいというのであれば、またここへ誘うこともあるでしょう」

「行け、最も新しき指揮者よ」

 

「……うん!」

 

背を押されるどころか笑顔で手を振られてしまった。そこまでされちゃあ仕方がない。

もう一度あの子達と歌うため、ひいては皆に歌を届けるため……やってやろうじゃない!

 

 

 

 

 

 

 

 

「なりません!!生徒は憎悪を軽蔑を……呪いを謳わなければなりません!」

 

「お互いを騙し傷つけ合う地獄の中で、私たちに搾取されるべき存在であるのです!」

 

「黙れ」

「……何?」

 

「まったくだ、貴様は歌を穢している、侮辱している」

 

「歌は想い、歌は命、歌は世界!」

 

「我らは自分の為、誰かの為、思いを乗せて歌う!憎悪や呪いなど言語道断!」

 

「故に我らは自由な歌を守るため貴様と戦うのだ……おっと、此処から先は私ではない方が良いな」

 

「先生とやら、私の用事は済んだ……此処から先我らは彼女……最も新しき指揮者と共にある」

「……ありがとう、●●●」

「礼を言うことはない。むしろ礼を言いたいのはこちらなのだ」

 

「彼女を……最も新しき指揮者に再び光を与えてくれたこと、深く感謝しよう、先生」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ん」

 

 ……どうやら意識が現実に戻ったらしい。そういや外の状況を全く聞かされてなかったけど……って、えぇ!?

 

「な、何あの化け物ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!?」

「ルル!」

「あ、先生……?あの意識戻って早々で悪いんだけどこれどういう状況!?」

「ベアトリーチェの悪あがき!最終決戦ってとこかな!」

「オッケー理解した!」

 

目が覚めたらそこはラスボス戦でしたって感じ?結構ビビったけど……

 

「……ルル、あの子から大体は聞いた。歌、また好きになれたんだね」

「まだ好きまでは戻れてないけど……少なくとも嫌いではなくなったかな」

「わかった。それじゃあ私からリクエスト」

「うん?」

 

なんだろ。

 

「聞かせてほしいんだ、ルルの歌。きっと凄い良いんだろうなぁ」

「それ今言う?まあいいけどさ!」

 

先生にサムズアップで答え、目の前でスクワッドと戦っている化け物……ベアトリーチェに向き直る。

あの子達……いや、先代たちって言った方がいいのかな。彼女たちの怒りも、私の怒りも、全部込めて、あいつを倒した後自由に歌うんだって意思を決めて、力に変える。

 

「……!」

 

 

Incredulus Sum Deo(神様には頼らない)

 

 

一度深呼吸し呼吸を整えた後、再び自分の意思で呪文を唱えた。

 

指揮棒が砕け、衣装が変わっていく。今までの指揮者の服ではなく、彼女たちと同じドレスへ。

 

「熱いリクエストももらったことだし、最初から全力で行くよ!」

 

右手を掲げ聖歌隊を召喚、今までと違うのは何も持たない聖歌隊が4体新たに出現したところ。きっとこれは彼女たちなのだろう、背中を押される感覚がする。

 

「目障りな歌を……歌うなァ!」

 

「目障りかどうか決めるのはお前じゃない、皆だ!歌を単なる力としか見ないお前はオーディエンスじゃない、演出用の背景に過ぎないんだよ!」

 

「ふざけるなァァァァァ!!!」

 

覚悟を決めて4体の聖歌隊と共に走り出す。閉じ籠ってるだけじゃ、届かない歌があるから。

 

Listen to my song!

 

思い出してきた好きな歌たちを、もう一度口ずさんだ。

 




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