「……昨日妙に帰ってくるのが遅かったと思ったらそういうことだったんだ。……よく無事だったね君たち」
水着パーティーとやらの翌日。妙に帰りが遅かったのが気になり時間を見繕って補習授業部の部長らしい子……たしかヒフミだったか、に接触してみた。……まさかトリニティ自治区内でゲヘナの生徒が騒ぎを起こすとは……どうやら事なきを得たらしいけど、随分と物騒になってるなぁ。
「あはは……まさかあんなことになるとは思ってなくて……」
「君たちとしても正義実現委員会に貸しを作れたんだし悪くないんじゃない?もしものことがあったらいつでも取り立てればいい、いやもしかして最初からそういう魂胆だったりした?」
「そんなこと微塵も考えてませんよ!?」
「じょーだん。君たちがそこまで頭が回るとは思ってないし、補習授業部って言うくらいだしね」
「あうぅ……あれ、そういえば……」
「どうしたんだい?」
「いや、こうやってルルさんからこっちに話しかけてきたのって初めてだなって……」
「……確かにそうだな。今まではずっと君たちから私にちょっかいかけてきてたし」
「ちょっかいというか……一応同居人になるわけですし人となりを知っておきたかったというか……」
「……ああそういうこと?関わらないでくれって言ったはずなんだけど……やっぱり気になっちゃった?」
「ご、ごめんなさい……でも全く知らない人が一緒に過ごしてるっていうのはやっぱり怖かったので……」
「別に怒ってるわけじゃないって。それに……」
「それに……?」
「君たちは私を正義実現員会やシスターフッドに通報するでもなく、信用して此処にいることを許してくれた。なら私もそれに少しは応えないと不公平だろう?」
「……私達を、信じてくれるんですか?」
「少しはね。……君たちがあいつらと違うことを願うけど」
「あいつら……?」
「……ん、聞こえてた?気にしないで、こっちの話」
「……すいません。聞かれたくない事だったんですね」
「だから謝らなくていいっての。……それじゃあ、聞きたいことも聞けたし私は屋根裏に戻ってるよ、それじゃあ「ま、待ってください!」……うん、どうしたの?」
聞きたいことは聞いたし、あっちが知りたいであろうことも大体話した。これ以上何かあったっけな?
「そ、その……いつまでもインスタント食品ばっかりはやっぱり栄養バランスが悪いと思います、なので!」
「なので?」
「よかったらなんですが……食堂で一緒にご飯、食べませんか?」
「……」
ああうん、確かにここ一週間ほぼほぼインスタント食品だったけどさ。最近のインスタントって侮れなくて栄養バランスもしっかりとれてるんだよね。ただまあ、この子達のことだから目的とかもなくただ親切心で提案してくれているんだよな。……どうしたものか、身の安全を優先するなら断るのが最善の策なんだが……ただ、気持ちを無下にするのも違うんだよな……んー……
「……それならまあ、昼は行こうか。朝と夜は生活リズムがちょっとね……」
「……むしろ朝の方が良いんじゃないですか、それ?」
「別にテスト以外で本校舎に行くこともないし勘弁してくれ、ここで暮らして長いからもうこの生活リズムが染みついてるんだ」
「……やっぱりダメな気がしますが、そこまで言うのなら……」
嘘である、ほぼほぼ不登校生活とはいえ生活リズムはここに引きこもる前と極力同じだ。……ふぅ、少し訝しまれたがまあなんとか切り抜けたと言っていいだろう、少し心を許したとはいえ流石にそこまでプライベートを共有する気は毛頭ない。それに彼女たちは試験に合格すればここからいなくなるんだ、あまり一緒に過ごしてしまえば別れが惜しくなってしまう可能性だってある……はあ、何を気にしてるんだろうな私は。
「……ありがとう、それじゃあ今度こそ屋根裏で惰眠を貪るとするよ」
「今から……!?」
「うん、今から。今日はなんか本を読む気分じゃなくてね……」
「そ、外に出て運動とかそういうのは……」
「……あんまり外に出たくないんだ。色々と事情があってね」
「……何があったのかは、聞かない方が?」
「そうしてくれた方が助かる……それじゃあね、君たちも試験頑張りなよ」
「あっ……はい!」
ヒフミの元気良い返事を聞きながら手を振ってその場を後にする。……しかしまあ補習授業部って補習という割には人数が少ないよな、私の知る限りトリニティは馬鹿ばっかり、というわけではないが補習を受ける羽目になった生徒は毎年それなりの数居たはずだし……留年してた子だって一定数居たはずだ。……やっぱりきなくさい。聞けばナギサが作ったらしいが……うん、詮索するのはやめておこう。
ナギサとは、もう二度と話したくもないんだ。
「……承知しました。どうか頑張ってください、先生。私は、私なりに頑張りますので」
「うん、あまり気を張らないようにね……っと、そうだ」
「……どうかしましたか?」
合宿の様子を聞きに私を呼び出したナギサと話をし、裏切者を探す気はないこと、あくまで自分のやることは補習授業部の皆を合格させることなどを伝えた後、ふと気になったことがあって彼女に一つ質問をしてみることにした。
「……ナギサはあの子と……ルルと、友人だったんだよね?」
「っ……会ったのですか、ルルさんと?」
「うん、会ったというよりは発見したって感じだったけどね」
ルルの話をした途端、ミカの時と同じようにナギサの表情が明らかに変わった。……ただ、真面目な顔になったミカとは違い、ナギサは何処か後ろめたそうな表情をしている。
「……ええ、確かに、私はルルさんとは友人でした。……信じられないかと思いますが、以前の彼女は自由奔放で明るくて……何度も助けられました」
「じゃあナギサは合宿所にルルが居るのを知ったうえで補習授業部の皆を?」
「はい。そもそも彼女が合宿所で生活することを認めたのは私です。一応メッセージも送ったのですが……恐らく読んではいないでしょう」
「……合宿所で生活させた理由は生徒達をよく観察できるようにって話だったけど……もしかしてルルとも何か関係があるの?」
「……ルルさんのことを知っているのなら話しましょうか。確かに彼女は関係あります」
「あの中に裏切者が居るのならば確実にルルさんを探すか接触する、合宿にはそういう狙いもありました……尤も、先生が接触していたのは想定外でしたが」
「……わざわざルルを探す理由があるの?」
「……ええ、詳しくは先生にも話すことはできませんが……ルルさんはかつて彼女の所属を巡ってトリニティの派閥同士で諍いが起こるほどの存在でした」
「……じゃあ」
「合宿所で生活させているのはルルさんをトリニティの勢力争いから遠ざける意味合いもありました。……ええ、先生の思っていることはわかります。事実その通りなのですから」
「私は彼女を……ルルさんを、餌として利用しました。彼女が知れば軽蔑するでしょうが……『トリニティの裏切者』を探すことは、何よりも優先すべきことです。私情は挟んでいられません、使えるものは全て使わなければ」
「……そっか」
……やっぱり、何処か目が泳いでいる。ナギサはやっぱり本心では他人を信じてあげたいのだろう、こんな状況だから疑心暗鬼になっているだけで。
「……じゃあ早く補習授業部の皆を合格させて、ナギサとルルを仲直りさせなきゃね」
「……なか、なおり?」
「うん、困った生徒を助けるのがシャーレの仕事だからね」
「……そうですか、頑張ってくださいね」
少し苦い顔をしたナギサに見送られながらその場を後にする。……ミカからは知ろうとするな、とは言われたけども、やっぱりルルとナギサの過去を知らない事には何ともならないようだ。
……一体彼女たちの過去に、何があったのだろう?
| ルルさん | |
| 調子は如何ですか? | |
| 何か合宿所で不備などがあればいつでも言ってくださいね | |
| 大丈夫ですか、風邪など引いていませんか? | |
| 定期試験から帰るとき、少し体調が優れないように感じたのですが…… | |
| 来週からしばらくの間補習授業部という部活動の部員とシャーレの先生が合宿所で生活することになります | |
| 変わらず何か問題などあれば私に連絡をお願いしますね | |
「……仲直り、ですか」
「そんなもの、できるわけがないでしょう」
(……ハハ、アハハ、ハハッ……)
(……そっか、今までの私とナギサの関係も、結局……)
「彼女がああなった原因は、他ならぬこの私なんですから……」
「……は?突然ナギサが試験会場を変えた挙句その場所にテロリスト共が現れて試験用紙紛失で全員不合格?」
「あはは……すいませんルルさん。合格できていればルルさんの邪魔になることももうなかったんですけど……」
「……なるほどそういうことか。いいよ、君が謝ることじゃない」
「え、あの、そういうことって……?」
「こっちの話、気にしなくていいよ」
「……はあぁ、あの時のこと、私の勘違いだと考えれるくらいにはなってたんだけど……」
「たかが生徒数人の邪魔をするためだけにそこまでやるのか」
「……ナギサ、やっぱり君もあいつらと同じだったんだな」
ものすごい勢いで原作を消化していくスタイル