「……音色は効いているはずなんだけどな、ミカってそんな強かったんだ」
「言ったでしょ、舐めてるんじゃない?って」
「こっちも言ったはずだよ、『歌』は最終手段。こんな場所で使う訳にはいかないんだ」
「……それはルルちゃんの音色の変わり様と関係あったり?」
「どうだか……」
「……そっか。まあ全部終わった後で聞けばいいや」
「冗談、引き受けるって言ったからにはここで君を止める……!」
弓代わりの指揮棒を激しく動かしながらミカの銃撃を捌き音色による弱体化を図っているが……ダメだな、多少効いているがそれだけだ。引き受けると言ってしまったからにはどうにかあの子達がアリウス何某を制圧するまで彼女の相手をし続けなければならないがこの体たらくではしばらくしないうちに突破される。『歌』を使えばどうにかなるだろうが……あれは最終手段だ、むやみに使いたくない、なにより私が使いたく「考え事してる暇があるのかな?」……っ!
「……今のは危なかった」
「うーん、当たったと思ったんだけど……その音色のせいかな?」
「随分と嫌味が得意だね……本当は全然効いてないくせに」
「あ、バレちゃった?」
「そもそも隠す気もないでしょ」
「私の事よくわかってるじゃん。ルルちゃんこそ効かないってわかってるならやめればいいのに」
「生憎今の私にはこれしかできないからね……!」
指揮棒の力は攻防一体だが逆に言えばどちらもこれ一つで賄わなければならないということ。攻勢を強めれば防御が疎かになり、防御に回せば手数が足りなくなる。以前であれば何の苦も無く使いこなせていたのだろうが生憎今回は1年のブランク、それに真の力である『歌』は自分の意思で封印している。此処までのハンデを背負ってあのミカを足止めできているというのは誇るべきことなのだろうが、如何せん最後まで足止めしきれなければ意味がない。
ちらりとあの子達の方を見やればこちらとは違って何の苦も無くアリウス共を制圧していた、後方に居る先生が何やら端末を弄っているので恐らくはあれが先生の力、ということなのだろう……私の指揮棒と似たようなものなのだろうか。……いや、そんなことを考えている暇はないか。
「まーたよそ見、やっぱり舐めてるでしょ」
「余裕ができたと言って欲しいな……!」
気付けば周りのアリウス共は全員戦闘不能になり立っているのは私とミカだけ。銃弾の雨を死ぬ気で防いでいた最初に比べれば比較的楽になったと言えよう……問題は残った一人が今の私一人ではどうにもならない存在、ということだが。
「ならその余裕、崩しちゃおうかな!」
「っ、こっちに……!?」
「今のルルちゃん、それがなきゃなにも出来ないよね!」
「ガッ……」
一瞬で距離を詰めてきたミカに防御が間に合わず思いっきり蹴飛ばされ、指揮棒が飛んでいく。……なるほど、指揮棒が力の源であるのなら手放させればいいか。きわめて真っ当な判断だ、だけどね……!
「生憎これは、手放せないんだ……!」
「えっ……?」
弾き飛ばされた指揮棒が突然回転をやめたかと思えば軌道を描いて独りでに動き、私の右手に戻ってくる……一度これを捨てようと海に放り投げた時に確認した挙動だ。あの時は軽く絶望したものだが今だけは頼もしい。
「さあ、時間稼ぎにまだまだ付き合ってもらうよ、ミカ……!」
「……」
何処か苦い顔をしたミカから距離を取り、演奏を再開する。……もう少しだけ耐えればいいんだ、約束を破るんじゃないぞ、私……!
「ルルちゃん、いい加減諦めてくれないかな?そろそろ指揮棒を動かす手も限界でしょ」
「いいや……通さないよ……!」
「私としてはこれ以上痛めつけたくないんだけどなぁ……」
……指揮棒を奪うのは無理だと理解したミカはとにかく演奏をさせまいと接近戦に持ち込んだ。指揮棒を武器代わりに数分程は持ちこたえることができたがやはり1年のブランクは馬鹿にできないものらしく、徐々に体力を使わされた私は気づけば肩で息をしている状態。あの子達は大丈夫だろうか、あまり時間を稼ぐことはできなかったが……いや、もう少し持ちこたえて見せなきゃ先輩として立つ瀬がない、か。
「なんで歌わないの、ルルちゃん。そこまでして歌いたくないの?」
「……今更、それを聞く?」
「うん、だってこのままだと時間稼ぎすらできないよ?本気だっていうのなら……」
「だから言ったでしょ、さっきも、あの時も」
「私の「歌」は、あんなことをするために身に着けたんじゃない……!」
……こんな力、嫌いも嫌い、大っ嫌いだ。厄介事しか呼び込まないし、好きだったものは嫌いになった。正直今だって嫌悪感を必死に抑えてどうにか力を行使しているに過ぎない。捨てようにも捨てれず、呪いのように私に付き纏う。
……けれども、そんな力でも。やらなきゃ「友達」が危ないっていうんだったら、使える範囲に限るけど使うに決まってるでしょ……!
「……そっか」
「何度も言わせないでミカ。そもそもなんで私がこうなったのか忘れたわけじゃないよね、それとも本当にきれいさっぱり忘れた?」
「まさか……忘れるわけ、ないでしょ」
「だったら今更聞かれても同じ答えしか返ってこないってのは理解できるよね!」
……体力的にこれが最後の足掻きだ。ふらつく足取りをなんとか誤魔化しながら弓を弾き、せめて一撃くらいはお見舞いしてやろうとミカに意識を集中する。
「……うん、私もこれ以上ルルちゃんを傷つけたくないから、終わらせよっか?」
「……はは、やっぱりダメかぁ」
うん、ダメだった。結局ミカには大したダメージも与えられず、ミカの一撃で今度こそ吹っ飛ばされて壁に叩きつけられる……相変わらず、何処からそんな力が出てくるのやら。
……あー、ダメなやつだ、意識が段々薄れていく。あの子たちにああ言っておきながらこのザマだけど……まあ、時間稼ぎは……
「……シスターフッド!?」
……懐かしい、顔が見えた。
……よかった、時間稼ぎは……成功した……みた……い……
(やっほー、入学式から随分と浮かない顔してるけど体調でも悪い?)
(……どちら様です?)
(別にどちら様でも、ただ気になっただけのクラスメイトだよ)
……夢を、見ていた。
遠い昔……でもない、ほんの1~2年前の記憶。
(ねえナギサぁ~、教科書見せてぇ~)
(またですか……今週3回目ですよ?なんで忘れるんですか……)
(次は忘れないようにしようって努力はしてるんだけど……)
(だけど?)
(不思議なことに起きたら教科書の存在を忘れてる)
(鶏ですかあなたは!?)
授業の記憶。
(あーっ!?それ最後の1個だったのにぃ!)
(残念、私が貰っちゃった☆)
(ぐ、ぐぬぬ……納得行かない!勝負だ勝負!私が勝ったらそのケーキ貰う!)
(……そもそも何で勝負する気なの?)
(それは……今から考える!)
(えぇ……?)
出会いの記憶。
(ねえサクラコ、暇?)
(あ、その……暇といえば暇ではありますが……)
(ならちょうどいいや、付き合ってくれる?)
(へ?付き合うって……何を?)
(カラオケ)
(……カラオケ?)
楽しかった記憶。
(はあ……なんか嫌だねトリニティって。なんというか……よく見ると空気がすごい悪い)
(こればっかりは派閥もありますし仕方ないことかと……)
(もういっそ私がトリニティの頂点、立ちに行っちゃおうかな?)
(ティーパーティーに?そもそも派閥に所属してないルルさんが所属するのは無理だと思いますが……)
(そこはまあ……ノリとパフォーマンスでなんとか?)
(それでどうにかなるなら今頃貴方は派閥の一つでも乗っ取ってるのではないでしょうか)
(にゃにおう!?)
日常の記憶。
(……ナギサ、これ出しておいて。次期ティーパーティー候補なんだしある程度融通は効くでしょ?)
(急に改まって何、を……え?)
(先に行っておくけど、これはいつもの冗談じゃないよ、本気)
(待ってくださいルルさん、確かに今起きていることは知っています。貴方の置かれた状況だって理解しています!)
(……)
(でも、だからって、なんですかこれは!?)
(
……離別の記憶。
困ったなぁ、最後のは除くけど、やっぱり私は皆にそこそこ未練でもあるのだろうか。今更こんなのを思い出すだなんて……でも、やっぱり過去は過去なんだ。友達って呼んでた皆は然るべき立場についてしまった。私もこんな力の所為であちこち振り回されて人を信じる気を無くした。砕けたガラスが元に戻らないように、きっと私たちの関係も二度と元には戻らない。
だからこの話はこれで終わり、文字通りの夢物語。どこから軋み始めたんだろうな……やっぱり、私があの指揮棒を手に入れた日から、なんだろうか。
……正直補習授業部の皆が羨ましい、あんなにもまっすぐで、互いを信じぬけて。
……私も、もう一度、信じたいなぁ。
信じさせて、ほしいなぁ……
「……ん」
目が覚めた。確か私は……ああそうか、時間稼ぎは成功して……あれ、此処何処?屋根裏部屋じゃないけど……
「あ、起きましたか!?」
「……君は?……見た感じシスターフッドの子みたいだけど……」
「サクラコさまから頼まれまして……」
「……サクラコが?」
……と、なると。此処は保健室か。サクラコがどういう意図で此処に運んできたかはわからないけど、早く戻らなきゃな……
「傷は特段酷いものはありませんが念のため……ってあの!?何処に行くつもりですか!?」
「何って……傷は特に問題ないんでしょ、だったら戻るよ」
「戻るって……あっちょっと!?待ってください!?」
シスターフッドの子が止めるのを意にも介さず、フードを被って保健室を後にする。
……正直ごめんとは思ってる。けど、ダメなんだ。校舎から1秒でも早く去ってしまいたい。なんというかこう、生理的な嫌悪感が……拭えない。
今が何時かもわからないし、フードを深く被っているせいでどれだけ人がいるかもわからない、とにかく一心不乱に走って別館への帰路を辿る。
「すいません、今ここは現場検証中で……って、貴方は……!?」
「悪いけどここに自分の部屋あるから!」
急いで階段を駆け上がり、隠し扉を開いて自室へ……うん、何も変わってない、よかった。
特に荒らされた様子もないし、ナギサも目を覚ましたらしくいない。いつも通りの、平穏な……うん?
「……手紙?」
よくよく見れば机の上に手紙が一通、「ルルさんへ」と簡潔に添えられている。この筆跡は……ナギサ?
……メッセージは未だに嫌悪感で開けないし、手紙ならなんとか、って気遣いだろうか。
個人的にも未だにナギサと何一つ話していないのは気がかりではあったし、中身を確認するくらいなら……いいかな?
そして今回の件に巻き込んでしまったことに謝罪を。私のしたことは貴方を撒き餌として使う許されざる物でした。別室に補習授業部を合宿させたのもその一環です。
貴方やトリニティを危険に晒さないための処置でしたが……結果としてアリウスの襲撃を招き、貴方やあの子たちを前線に出してしまいました、わが身の不徳によるところです。
サクラコさんから貴方が保健室に運ばれたと聞いたときはまた卒倒しかけました。ただでさえ私の我儘で残ってもらっているというのに、その上で私はまた貴方を危険に晒したのです。
……今の私には貴方を引き留める資格などないでしょう。ただ、もし許されるのであれば……
もう一度だけ、面と向かって話がしたいのです。
「……話、か」
……正直、まだ皆への悪感情と嫌悪感は消えていないし、本校舎に近づくだけで吐き気もする。……けど、此処を逃したら、取り返しのつかないことになるような、そんな気もする。
「……どうしようかなぁ……」
照りつける太陽に少し目を窄めながら、少しばかり考えることにした。
他の作品はある程度書ききったので今後はこちらをメインに更新していこうと思います。
遅筆の身でありますが、感想、評価など頂けると大変励みになります。