蒼き地平に星はまた昇る   作:暁真

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難産でした。


閑話
引きこもりの過去


 

 ……結論から言えば、私には覚悟が足りなかった。ナギサと話したくない、といえば嘘になるし、かといってわざわざトリニティに足を運びたくもない。じゃあナギサに連絡をしてこっちに来てもらえばいいじゃんと言われるだろうが相も変わらずメッセージは開くだけで吐き気がする、電話帳も同様だ。

確かに私はあの時補習授業部の皆のためにミカと戦った、それは嘘じゃないし、あの子達について悪く思っているわけでもない、寧ろ感謝している。

だからといって変われた訳じゃない。あの子達が例外なだけでトリニティは嫌いだ、「友達」も右に同じ。信じようと思い始めた人間が少し増えただけで、私の刻は未だに止まったまま……情けない話だ、とっとと踏ん切りをつけてしまえばいいのに、子供じみた理屈でそれを拒んでいる。ただ、いつまでもそうしている訳にもいかないと、わかってもいる。

 

 

 

 

「……まあ、そういうわけで、相談に乗ってもらおうと思って」

「事情は理解したけど……私で良かったの?」

「正直トリニティ生ってだけで無意識に色眼鏡掛けちゃうからさ。どうせ相談するならあの子達より貴方のほうがいいよ、先生。それに……生徒の味方、なんでしょ?」

「そうだね、私は生徒の味方だよ、今までも、これからも」

「ふーん……よく一言多いとか言われたりしない?」

 

そういうわけで私は相も変わらず引きこもっている自室に初めて人を招いた。つい先日まで補習授業部の顧問だった人、シャーレなる組織からきた「先生」。今のナギサをよく知るあの子……ヒフミに相談するという選択肢もあったが彼女は今ドタバタしているらしいし、恐らく相談したとて私は彼女の意見をアテにしない……とまでは行かないが、あまり信用できないだろう。トリニティ嫌いもここまで拗らせると自分の歪さに乾いた笑いが出る、最早同族嫌悪を通り越した何かだ。……この相談で少しは改善できればいいんだけど。

 

「まあ、相談と言っても特に難しいものじゃないし、最悪ただ聞いてくれるだけでいいよ」

「できる限りは答えようと思うよ……それでどういう相談?」

「まあその……ナギサから「1回話をしたい」って手紙が来てさ……」

「ナギサから?」

「うん、私が今度こそ退学すると思ったらしい。それでまあ最後に「ちょちょちょちょっと待って」……どうしたの?」

「今度こそって……前にもそんなことあったの!?」

「ああそっか、先生は外部の人だし知らないのも無理ない、というか知らなくて当然」

 

……話しておくべきなんだろうか、これは。先生の人となりは把握しているし、信用しようとは思っている。けど……いや、あれの詳細について話さなければいいだけか。

 

「つまんない話だけど、聞く?」

「勿論、知っておかないと後で後悔しそうだから」

「聞いて後悔しても知らないよ?」

「聞かないで後悔するよりはマシだよ」

 

どうもこの先生という人間は存外お人好しらしい。どっちの方がマシだなんてまだわからないくせにやらないよりやって後悔なんて言い出すんだから……まあ、そこまで言うのなら、私もそれに応えるとしよう。

 

「……おっけー、それじゃ、ちょっと昔話に付き合ってもらおうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

始めに聞いておくけど、ミカやナギサから私のことについては聞いてたりする?

 

少しは……ただまあ、あんまり詮索しないようにとか、昔はあんな子じゃなかったとかしか言われなかったけど。

 

そっか、あの二人らしいや。まあ私も詮索しに来てたら今先生を呼ぶことはなかっただろうし。

 

おおう……

 

何勝手に打ちひしがれてるのさ……まあいいや、話すよ。

 

 

 

「古聖堂の調査……?」

「はい、正確にはその地下、ですが」

「いやいやいやいやなんで私!?シスターフッドだけでやればいいじゃん!」

「……少し事情がありまして……」

 

 

始まりはシスターフッド……サクラコに頼みごとをされたこと。

 

サクラコが?

 

うん、自慢じゃないけど今のトリニティの派閥トップとは仲よかったんだよ私。

 

 

「……なるほど、つまりは修理ついでに調査がしたい、でもシスターフッドとして調査をするのは派閥的にまずい」

「ええ、廃墟同然の場所ではありますが元は古聖堂。むやみに立ち入ればいらぬ誤解を招きます」

「つまりはどの派閥にも属してない私を経由することで何かあっても「シスターフッドは関わっていませんよー」ってアピールができるわけね?」

「いえ、そういう意図は……」

「わかってる。別にサクラコがそこまで悪知恵が働く人だとは思ってないし」

「それ褒めてるんですか!?」

「どーだか、まあ行ってくるよ。程々で帰ってくると思うけど」

 

 

通功だったか痛風だったか……ともかく、そんな名前の古聖堂の調査に駆り出されてさ、一人で。

 

一人で!?

 

うん、一人で。派閥争いとか色々あってさ……何処にも属していない私に白羽の矢が立ったわけ。

 

……思ったよりトリニティのあれこれって根が深いんだね。

 

むしろ根が深くなきゃティーパーティーなんて歪な生徒会になる訳ないじゃん。

 

 

 

「……うわぁ、本当に廃墟だ。これ修理するより解体した方が早いんじゃないの?」

「なにやら込み入った事情もあるようで」

「あー……うん、凄くいつものって感じ……じゃ、行ってくる」

「はい、お気をつけて」

 

そういうわけで私は単身地下へ。ぶっちゃけ途中までサクラコに同行してもらってたのも少しマズい気がするけど今は考えないことにする。

 

大丈夫だったの?

 

いや?

 

「廃墟の地下って話だったけど、これどっちかと言えば洞窟じゃないかなぁ……ていうかめっちゃ広いし」

 

「ねえこれどこまで調査すればいいのさぁサクラコぉ……私このままだと2~3日此処にいる羽目になるよ?」

 

「……念のため間食持ってきてよかった……」

 

「……やっぱ一回サクラコに連絡を……圏外!?」

 

思った以上に地下は広いし、電話しようにも圏外だしで踏んだり蹴ったり、2~3日はあそこで過ごすかもしれないってちょっと絶望してた。

 

……無事に戻れたの?

 

うーん……無事と言えば、無事……かな……?

 

「……えーっと、この通路が……で、来た通路が……ああもう!通路多すぎだって!?こんなに通路作って何がしたかったのさ昔の人はぁ!」

 

簡単に言えば迷ったんだよね、道。

 

……地下、なんだよね?

 

うん、地下。

 

「……景色が変わらないせいで何処から来たのかすらわかんなくなってきた……」

 

「……とにかく一旦帰らないとま、ずぅ!?」

 

「お、落ちてるぅぅぅぅぅぅぅぅ!?」

 

んで迷ったところで道が崩れてさらに下へ真っ逆さま。

 

絶対さらっと流しちゃダメなやつだ……

 

 

「い、いてて……いや、深すぎでしょ此処……上、戻れるのかなぁ……ってあれ、じ、銃がない!?」

 

「やっぱりない……何処に落としたんだろう?と、ともかく階段なり梯子なり探さなきゃ……」

 

銃ない土地感ない階段も梯子も見つからないで割と絶体絶命だったね、うん。

 

それをさらっと流せちゃうんだ……

 

うん、終わったことだし。

 

「どうしよ、このままここで飢え死にとかやだなぁ……」

 

「いや、諦めちゃだめだ、何でもいいから脱出に役立つものを……って、うん?」

 

そんな感じで無我夢中で何かないか探し回ってた時だよ、「これ」を見つけたのは。

 

あ、普通に出すんだ……あれ、なんか今無から現れなかった?

 

だって先生はもう知ってるでしょ?隠す理由もないよ。あとどういう原理で出てきてるのかは私も知らない。

 

「……なにこれ、指揮棒?こんな如何にもなところに安置されてるってことは……かなりマズい代物?」

 

「まあサクラコから頼まれたのは調査だし……一応持ち帰って……あれ気のせいかな、なんか光って……うえぇ!?」

 

「……あ、あれ?どっか行っちゃった……って、虚空から出てきた!?」

 

これを見つけて持ち帰ろうかなーとか思ってたら急に光ってさ。気づいたらこうやってこれが欲しいって時かこれが自分を使えって時になると勝手に出てくるようになった。

 

なんでルルが選ばれたんだろうとかは思わなかったの?

 

全然、正直近くに居たなら誰でもよかったんじゃない?まあともかく、これの力を使って私は無事脱出に成功したわけ。あ、詳細は話さないよ?

 

わかってる、言いたくないことなんでしょ?

 

わかってくれてるならいいや……まあ、ナギサやミカから聞いたと思うけど問題はその後……いや、もうちょっと先かな。

 

「た、ただいま……」

「お帰りなさいルルさん……地下はどうでした?帰るのがこんなに遅くなるとは思いませんでしたが……」

「あーそれなんだけど……ちょっと見てほしいものがあって」

 

ひとまずこれをサクラコに見せた、地下の報告は別にしてね。

 

「……これどうしよっかなぁ、なんか渡そうにも距離が離れたらすぐ手元に戻ってくるんだけど」

「本来ならばこちらで保管すべきなのでしょうが……そうですね、しばらくはルルさんが持っていてくれませんか?」

「別にいいけど。正直気味悪いしサクラコの方でも資料とか漁ってもらえないかな?」

「勿論です」

 

他人に渡そうにも気づけば私の所に戻ってくるしってことで一旦私の預かりになった、一旦どころかほぼほぼ私の私物みたいになってるけど。

 

今でも?

 

今でも、じゃなきゃこんなものとっくに手放してる……そういうわけで前置きここまで、問題はここから。

 

「今日のおやつは~♪モンブラーン♪……って、五月蠅いなもう!」

 

切っ掛けは偶然買い物帰りにヘルメット団と遭遇したこと。結局銃は古聖堂で落としたまま行方不明になっちゃってさ、逃げようにもケーキを持ってたからそんなに走れないしどうしようって。

 

「あれ、もしかしてマズい……っ、あっつ!?」

 

「……え、なんで?もしかして……これを使えって、言ってる?」

 

そんな時急に右手が熱くなったかと思ったらこれが出てきてさ。判断が鈍ってたのもあるんだろうけど……使っちゃったんだ、これを。

 

「……はは、嘘、でしょ?」

 

結果は……正実が来る前に一人で全部終わっちゃった、それくらいこれの力は凄まじいものだった。

 

あんな場所に置かれていたものが普通なわけないって感じてはいたけど、これはそんなレベルじゃない。間違いなく、あってはいけないもの。

 

けどそれ以上に……どういえば伝わるかわからないけど……

 

「……こんなことに使うためじゃないのに……私は……」

 

好きだったものが、ひどく醜く見え始めたんだ。今思い返せばこれだったかもしれないし、自分自身だったかもしれないけど。

 

あの日のことはよく覚えてるよ、楽しみにしてたケーキすら食べる気がなくなって、ずっとベッドに横たわってた。

 

ここで終わってればまだ私がこれを封印することで済んだ話……ただ、目撃されちゃったんだ。

 

……トリニティの子に?

 

うん、噂はすぐに広がったよ。具体的にどんなのかは言わないけど……それからすぐあっちこっちから勧誘されるようになった。

 

 

「壊羽さんは確か無所属でしたよね?もしよろしければ是非我々パテル派に……」

「我々と共に来ませんか?その力があれば必ずやティーパーティーにも……」

「あなたほどの才能、このままにしておくにはあまりにも……」

「……申し出はありがたいんですが……少し、考える時間をください」

 

……酷い話、今まで見向きもしないどころか有力者と仲が良い私を鼻つまみ者扱いしてたのに、利用価値があると判断した途端こうだよ。捨てる神あれば拾う神ありとでも思ってたのかな。

 

「「彼女」は我々の側に居た方が……」

「いえ、そちらよりも……」

「……失礼します」

 

次第にアピールも激しくなってきてね、本人がいる前で取り合いの口論とかも平気で起こるようになった。放っておいてくれとは思っていたけど個人の意思なんてあいつらの前では軽すぎた。

 

「ねぇナギサ、どうにかならないかな、あの人たち」

「難しい、と言わざるを得ません。次期ティーパーティー候補とはいえ、まだ私には何の権限も力もないのです……すみません」

「そっか」

 

「サクラコ、何かわかった?」

「……いえ、それらしき記述があればすぐにでも復元して解読してもらうのですが……」

「流石にかぁ……ああそうだ、ちょーっと最近上の人たちがしつこくてさ……どうにか、ならないかな?」

「……ごめんなさい」

「そっか」

 

今でこそティーパーティーとかシスターフッドとかの重鎮さんだけどさ、当時はまだ皆候補止まりだった。理想はあっても力がなかった。私が言うと恨み節みたいに聞こえるけど……友達一人助けられなかったのさ、皆。

 

……今でも、恨んでるの?

 

恨み節「みたいに」って言ったでしょ。私だって皆が悪くないのはわかってる、事情も理解してる。けど、たまに思っちゃうんだ……

 

「どうして助けてくれなかったの?」って。

 

……

 

「……もう、いいや」

 

「此処に居たくない、皆私を見ない、私の力しか見ない」

 

「私一人じゃ何もできない、友達も助けてくれない、何も、変わらない」

 

「……何処か、遠い場所にでも行こうかな」

 

……思えば、退学して全部終わらせようとしたのはまだ理性で踏みとどまってたんだと思う。本当に限界ならトリニティを滅茶苦茶にすることだってできたんだから、これにはそれをできるだけの力がある。

 

「お願いです、ルルさん……どうにか、思いとどまってもらえませんか?」

「……理由は?」

「……貴方はこの学園でできた最初の「友達」なんです。それに、貴方となら一緒にこの学園を変えていけると思って!」

「それは最初から思ってたこと?それとも……「これ」の話を聞いてから?」

「っ……最初からです、そんなものがなくたって、私は貴方を……!」

「……ああそう」

 

でも退学届はナギサに止められた。友達として残ってほしいって言われたけど、多分本心だったと思う。

 

「……ハハ、アハハ、ハハッ」

「……ルル、さん?」

「そっか、ナギサはさ、最初から私を「使える」って思ってたんだ」

「っちが、そういう訳では!」

「わかってるわかってる、お嬢様だもんね、取捨選択が上手いや」

 

……あの時の私は限界だったし、ナギサも心労を抱えてる様子だった。ようやく気持ちを整理できた今だから言えるけど、お互いにかける言葉を間違えたんだと思う。

 

「……あーあ、残念だなぁ、うん」

「そっか、今までの私とナギサの関係も、結局……」

 

「……はは、ただの()()()()()()だったんだね」

「ぁ……」

「ナギサの好きにしなよ、もう、何もかもどうでもいい」

 

……そうやって最後は喧嘩別れ……じゃないな、こっちから絶縁宣言。後は先生も知っての通りどうやったかは知らないけれどナギサが裏から手をまわして、私は此処に引き籠った。これが今までの話。

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういうわけでこれと今までの事を踏まえてなんだけど。私は……どうすればいいんだろうね」

「……」

 

話を聞き終わった先生は神妙な顔をして考えこんでいる。たかが1生徒のためにご苦労なことだ。

 

「ナギサと話をしたいは本音、けどもう二度と話をしたくないってのも本音。どっちつかずの半端者、って言えばいいのかな」

「そんなに自分を卑下することはないよ、私だってそうなる時もあった」

「先生も?意外」

 

……多分、理性と本能ってところなんだろう。ケリをつけて終わらせたい理性と、関わりたくもない本能。喧嘩しあってちゃいつまでたっても決まらない、だからこうして先生を呼んだ。

 

「言っておくけど乗ってくれた以上自分の心に従おうなんて無責任なのはやめてね?それができてたら私先生呼んでないわけだし」

「分かってるよ……それじゃ、言っていいかな?」

「うん、お願い」

 

さて、どんな言葉が出てくるのやら。

 

「……私は」

 

 

 




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