蒼き地平に星はまた昇る   作:暁真

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速めに仕上がったので。


引きこもりの転機

 

「無礼講ということなので前置きは省かせていただきます」

「……うん、昔もそうだったね」

「ルルさん、言った傍から微妙に目線を逸らしてクッキーを食べないでください。私を見てくださいと言ったはずですが」

「あ……ごめんごめん。無意識だとやっぱりこうなるみたい」

「はぁ……じゃあちゃんと意識してください、私の事」

「LOVE的な意味で?」

「全く違います……やはり貴方と話すとペースが乱されますね」

「誉め言葉と受け取っておこう」

「褒めてません!……ああもう、前置きは省くと言っておきながら全然本題に入れないじゃないですか!」

「だからごめんって」

 

 約1年ぶりのナギサとの談話は私が無意識に目を逸らしてしまったせいでぐだぐだな始まりを迎えた。正直これについては許してほしい。さっきの荒療治で多少はマシになったとはいえまだ多少なんだ。後割とプラシーボに近いから何かの切っ掛けで戻ったりとかもあり得るし……いや、これはただの言い訳だな。また怒られないように集中しよう、集中。

 

「改めて本題に入ります……ルルさん、まだトリニティを信じてくれますか?」

「いや全然前置きじゃん、もっと直球でいいなよ」

「……」

「あーっ!紅茶飲んで誤魔化した!私素直に謝ったのに!それがティーパーティーのやり方か!?」

「……こほん、では改めて」

「全然改まってない!ああもう昔のノリ戻ってきちゃったよ!怖いと楽しいが混じってすっごい複雑な気持ちだよ私!」

「楽しいなら別に良いのでは?」

「それはそうだけどさぁ!?」

 

……ペースが乱されるのは私もだった。懐かしいなぁ、昔はよくこんなしょーもない言い争いしてた……って、今は過去に浸る時間じゃないよ。

 

「……ひとまず、そのまま捉えるならトリニティを信じるってのは土台無理な話だよ。当時の先輩たちはほぼほぼ卒業してるとはいえ、トリニティって場所の体質が変わったわけじゃない。このままじゃ同じことの繰り返しになる」

「……やはり、ですか」

「うん、そのまま捉えた場合、だけど。ナギサもちょっとサクラコに似てきた?コミュニケーションの方向性が」

「それ褒めてます?」

「全然」

「じゃあ言わないでください、せっかくの紅茶が不味くなります」

「茶会するわけじゃないって言ったのそっちなのに」

「物の例えです……」

「はいはい」

 

うん、なんだかんだナギサと話すのは楽しいんだよな。なんというか、子気味良いっていうか……ただちょっと今は奥底に「怖い」っていうのがあるけど。

 

「……大方本題は「まだトリニティに居てくれるか」ってとこでしょ?私前科あるし、退学届の」

「……前科というほど気負うものでもないと思いますが……はい」

「物の例えだよ……まあ、いろいろ省いて言うけど」

 

「トリニティには、まだ残ろうと思ってるよ」

「……!」

 

あ、露骨に顔が明るくなった。

 

「まあその、少し前までは早く退学したいなーって感じだった。あそこにいたところで何か変わるわけでもなかったし、ただの時間稼ぎでしかなかったから。どうせ門前払いされるのがオチだったろうしやらなかったけどさ」

「……それは」

「まあ終わったことだしそれは置いておこう……なーんか図らずか図らずしもかわからないけど、考えを改めたのはあの子達が来てから」

「補習授業部……ヒフミさん達が……?」

「うん、ほぼ1年ぶりに接触してきた外部の人ってのもあるんだろうけど……久々に受けた刺激が兎に角眩しくてさ。最初こそうざったらしく感じてたけど段々あぁ、昔はこんなんだったなぁって懐かしんじゃって。多分そこが転機」

 

「まあ結果的にはナギサのおかげ……と言えなくもないのかな?ほんと久々だったよ、「誰かのため」に行動したのは。その過程であれも使っちゃったけど……「誰かのため」に使えたなら、多分間違った使い方じゃない……と思う」

「サクラコさんから貴方が前線に出ていたという話を聞いてはいましたが……やはり」

「うん。ただまぁ使うのはきっとあれで最後、やっぱりあれを使うなんてことはあっちゃいけないんだ……本当、恨んじゃうよ。なんで昔の人はあんな火種にしかならないものを後世に残したのかって」

「……」

 

少し沈んだ気分を戻すためにクッキーに手を付け、糖分の回り始める頭で「これから」について考える。どうせ過去を思い返しても何にもならない、私がどうにかできた場所なんてほぼなかったし、あの時調査に付き合わなければよかったはそれこそ結果論だ。それに誰も悪くなかったことなんて私が一番よく知ってる。あの時は本当に皆若くて、無鉄砲で、力がなかった。それだけのこと。

やろうと思えばナギサに八つ当たりはできるし、きっと彼女はそれを受け止めてくれる。けどそれで何かが変わる訳でもない。だから過去は見ない、過ぎたものは追いかけない。今私に残っているものでこれからどうしていくか、それの方がよっぽど大事だ。

 

「……ナギサ、私まだやり直せるかな」

「やり直せる、とは?」

「普通に授業受けて、普通に友達と駄弁って、普通に放課後遊んだりする。そういう普通の学園生活、できるかなって」

 

特別な力とかいらなかった。欲しかったのは友達と居場所、ただそれだけ。それだけだったのに……はあ、過去は見ないって誓ったばっかりじゃん私、ダメだなぁ。

 

「……完全に、とはいかないでしょう。少なくなったとはいえ、ルルさんの力を知る人、そして手に入れようとする人はまだ居ます……恐らくは私の派閥の中にも」

「だよねぇ……」

「ただ、あの時とは違うこともあります」

「ナギサの立場とか言ったらぶん殴るよ?私そういうの嫌だから」

「分かってます……だってほら、貴方は自分の力で立ち上がれたじゃないですか」

「……」

 

自分の力……というには少々他人頼りが過ぎる気がするけど。補習授業部の皆だったり、先生だったり。

 

「何を考えているかは大体想像が付きますが……少なくとも昔の貴方は誰かに頼ってそれでなんとかしようとしてたじゃないですか。私だったり、サクラコさんだったり」

「それはそうだけど……あれは私だけじゃどうにもできなかったからってだけで、結局それは今も同じだよ。私はずっと誰かに頼って生きてる」

「私が言いたいのは、今の貴方は誰かに頼ったうえで、自分の意思を通そうとしているということです。少々棘のある言葉になりますが……昔の貴方は私に何とかしてもらおうとして、それだけだったじゃないですか」

「うぐっ」

 

すごく耳が痛い。まあ事実だけ述べればそうなるけど!私だってどうにかしようとして、ダメだったからナギサやサクラコに任せようとしただけで……いや、それがダメだったかぁ。諦めて、心折れて、ヤケクソで他人に何とかしてもらおうとする……確かに箇条書きだけしてみると完全に親に泣きつくクソガキだなこれ。そりゃあダメか。

 

「何か凄く心当たりのある目をしていますね?」

「うん、それはもう凄く。主に課題と課題と課題」

「……確かにそれもそうでしたが……」

「頭抱えるレベル!?」

「当然でしょう……2回に1回は期限ギリギリで間に合いそうになくて私に泣きついてきたでしょうが……」

「そんなこと……いや、たしかにそのくらいだったかも」

「自覚はあるのが地味に腹立たしいですね……」

 

やばい、なんかナギサの顔に青筋が見える。これ以上話を続けると……なんかこう……なんでかわからないけどロールケーキをぶち込まれそうな気がする、どうにかして話題を変えなきゃ。

 

「……ま、まあそれはともかくとして……ナギサは今の私なら大丈夫だって言いたい訳?」

「ともかくでは済まされない問題な気がしますが……その通りです。きっと今の貴方は誰かに泣きつくことなく一人でやっていける……と思いたいですね」

「いやそこは言い切ってよ……」

「昔みたいにまた課題が間に合わなくて泣きつくなんてこともあり得そうですから」

「昔は昔の話だろ!?引きこもってた時はちゃんと課題もテストも終わらせてたからね!?」

「知ってます、だからあの時の問題児には戻らないで下さいと暗に釘を刺しているのですよ」

「やっぱりコミュニケーションの方向性がサクラコに似てきた!あっちはただ単に意図が伝わりにくいだけだけどナギサは分かってて率直に伝えないから余計タチ悪い!」

「ティーパーティ―たるもの腹芸の一つはできなければやっていけませんから」

「こんな個人の会談でやるもんじゃないでしょ……」

 

……私の中のナギサ像が崩れていく。今までこんな愉快……というかこちらを揶揄うようなことをしてきた記憶なんてなかったし。いやまぁ1年も会っていなければ変わるのは当たり前か。

 

「……ふふ、やはりあなたは表情豊かな方が似合いますね」

「豊かというかナギサに翻弄されまくってるというか……」

「昔は逆に振り回されてばかりでしたからね。意趣返しというやつです」

「久々に会う友人にやるのがそれって……ナギサ、君友達少ないタイプの人でしょ、間違いなく」

「否定はしません「いや否定しなよ」……ですが、こうでもしないとルルさんの表情が硬いままだと思いまして」

 

……意外、ナギサってそういうの気にするタイプだったんだ。まあ確かに揶揄われてなかったらほぼ鉄面皮だったろうけど。

 

「……まあ多分私のこと考えてだと思うから、それに関してはありがとうって言っとく」

「私の為でもありますよ。表情が優れない人が居る場所で飲む紅茶はあまり美味しくありませんから」

「茶会しに来たわけじゃないって言ってたのに?」

「茶会をしにきたわけではありませんがそれはそれとしてどうせなら美味しいものを頂きたいとは思いませんか?」

「それは……まあ、確かに。此処のクッキー美味しいし」

「そうでしょう?」

「……じゃ、早いとこ話纏めて、紅茶飲もうか」

 

……気づけば目線を逸らそうとすることはなくなって、自然と昔みたいにナギサと談笑してる。なんだ、やればできるじゃん私……って、んなわけないか。

多分普通に話せてるのはナギサが色々やってくれたからであって、まだ私が普通に他人と話せるようになったわけじゃないのは確かだ……これからちゃんと直していかないとな。

 

「私は退学しない、ナギサにも頼らない、あれはどんな事情があろうと二度と使わない、うんシンプル。まあ人付き合いはまだ不安だけど……なんとかやってみるよ」

「頼らないと言われた以上私からはこれ以上何かすることはありませんが……貴方が望むのなら、また、友達として、よろしいでしょうか?」

「むしろ拒む理由ある?……なんてね」

「そうですね……それじゃあ話も終わりましたし、後は茶と菓子を楽しみましょうか」

「うん……いやぁ随分と久々だね、ほんと」

「思えば私も公的な会談ならともかく個人でこうして人と茶を飲むのは久しぶりですね……」

「ホストさまは忙しい、と」

 

 

 

 

……そんなこんなでナギサとは無事仲直り、昔みたいに談笑した後は今度一緒に銃を買う約束をして別れた。話によればエデン条約って奴の締結のために重要な会議があるらしい、それが終わった後にゆっくり、なんて言われてしまった。

ナギサにも約束したことだし、いい加減屋根裏部屋から出てもう一回やり直そう。全部元通りにはならないけど、きっと残ってるものも、新たに得るものもある筈だから。

 

 

 

 

 

……そう、思ってた、けど。

 

 

 

 

 

 

「……そうか、君たちが、やったんだ」

 

「「また」だ、欲しかったものが、理不尽に奪われていく」

 

「……もう、加減なんてしてやらない、全員、消えろ」

 

 

 

 

Incredulus……

 

Sum……

 

Deo……!

 

 

 

 

 

……結局、ダメだったみたい、かな。




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次回よりエデン3章に突入。
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