「それじゃあみんな、バイバイ~!!」
元気な声が隣の部屋から聞こえてくる。
俺の彼女はVTuberだ。名前は天音かなた。かなたそ、PP天使などの愛称で親しまれている大人気VTuberだ。
彼女は天使の羽が背中から生えていて、頭には忍者の手裏剣のような輪っかがついている。
「もう配信は終わったの?」
「ちょっと!部屋に入る時はノックしてって言ってるじゃん!」
「ごめんごめん...」
「ほんとにも~。付き合ってるのがへい民にバレたら[VTuber活動終わり!の段]になっちゃうんだから」
どこぞの忍者アニメの真似をしながら、俺に向かって少し怒ってみせた。と言っても軽い注意くらいだが。そんな姿すら愛おしく見えるほど、俺はかなたにメロメロだ。
「はいはい、次から気をつけますよ~っと」
「ほんとかな~?」
ベタ惚れな感情を表に出さないように、俺はいつもできる限り平静を装っている。
「配信終わったなら次は何する?ご飯も温めればすぐ食べれるし、お風呂だって沸かしてあるぞ」
「うーん...そうだなぁ...」
そう言ってかなたは如何にも考えてますよ、というような仕草をしながら俺に近づいてきた。
「今は君がいいかな」
かなたはそう言って俺の胸に飛び込んできた。
「なっ!!///」
予想外の出来事に思わず変な声が出る。やり場の無い手が俺の感情を表に出すかのように慌てふためく。それと同時に女子特有の甘い匂いが俺の鼻腔をくすぐる。
「君に甘えたいの段、だよ?」
そう言ってかなたは俺の方を見上げた。身長差も相まって必然的に上目遣いになっている。この言葉に出来ないくらいの可愛い姿をへい民達にもおすそ分けしたいが、ここは彼氏のメン限ってことでお預けだ。
「嬉しいけど、明日もダンスとか配信とかあるんだから」
「ちぇー」
残念そうな姿が俺の心を傷つけているが仕方があるまい。明日にも備えて欲しい気持ちがギリギリかったので、まずは先にお風呂に入らせることにした。
「かなたそ、上がったよ~~~」
絶妙に伸びきった声が聞こえた。そんな声に思わず笑ってしまう。風呂上がりのかなたは少し火照っていて色気があった。普段の配信では握力50kg台故ゴリラキャラが定着し色気は微塵も感じられないが。低身長ながらスラッと伸びる綺麗な足に短いハーフパンツから見える太ももが俺の視線を釘付けにした。
「随分ノリノリだったね。ソーラン節、こっちまで聞こえてきてたよ」
「今日のかなたそはどっこいしょ~どっこいしょしたい気分だったんだ~」
可愛い見た目とは裏腹に、かなたはソーラン節が好きだ。初の歌配信でソーラン節を歌ったり、全部かなたの声でソーラン節を歌ったり、ソーラン節というものをこよなく愛している。
「今日のご飯は何~?」
「今日はかなたの好きな唐揚げにしてみた」
「ほんと!!君の作る唐揚げ美味しいから嬉しいな~」
「喜んでいただけたなら何よりだ。じゃあ早速食べよう」
「「いただきます!」」
「うん!今日も君のご飯は美味しいね!」
「ありがとう、作ったかいがあるよ」
満面の笑みで俺の方をむく姿に、思わずキュンとしてしまう。ハムスターのようにもぐもぐ頬張っている姿がたまらなく愛おしい。今すぐにでも写真に収めたいところだ。
「これなら何個でも食べれちゃうな~」
彼女の職業柄、家事をする時間がほとんどないため、そういう仕事は俺が受け持っている。そんな彼女だが、時たま俺のために料理を振舞ってくれる。この前はオムライスを作ってくれたが、少し形が崩れてしまっていた。
【なんで君はそんなに料理が上手なの?】
【なんでだろうなー】
その時ははぐらかしたが、かなたのために料理を日々練習しているからである。自分で言うのは恥ずかしいので毎回のらりくらりと真相を明かさないでいる。これも全て頑張っている彼女を傍で支えたいという俺の想いだ。
夕飯を食べ終えた俺らは次の配信でマリオカートをする予定のため、その練習をしていた。
「おらっ!赤甲羅行け!」
「あぶぅ!」
ゲームをやっている時のかなたは言葉に表せない悲鳴をよく上げている。
「ちょっと!なんでボクばっかり負けて君ばっかり一位取るの!神様の忖度だよ!!」
「そんなんじゃ視聴者にボコられるぞ~」
目まぐるしく表情が変わるかなたとは裏腹に俺は淡々と順位を上げていくっていうのがいつものパターンだ。かなたの表情を見ながらやるゲームはとても楽しい。
そんなこんなでしばらくゲームをしていると、かなたがウトウトし始めてきた。
「今日はこれくらいにしとこ」
「うん...」
「俺はまだやることが少しあるから、先にベット行って寝てていいよ」
「...」
「かなた?」
かなたは俺の服の裾を掴んだ
「今日言ったこと覚えてないの?」
彼女はウトウトしながらも俺に訴えかけてきた。
「甘えたい、の段だよ。まだ今日、全然甘えられてない」
そう言って彼女は配信終わりと同じ様に俺の胸に飛び込んできた。さっきとは違って、しっかりと俺のことをホールドしている。
「一緒に寝たいな」
誘いを断りきれなかった俺は一緒に寝ることにした。今は互いにベットで向かい合って抱きしめあっている。甘い匂いが俺の理性を刺激してくる。今のかなたは俺の胸にうずくまり、まるで赤ん坊の様に俺に甘えている。それに応えるように俺はかなたの頭を撫でたり、額にキスを落としたりして愛情を表現した。
「ボクはね、いつも君に感謝してるんだ~」
トロンとした目で俺に語りかけてくる。今にも寝てしまいそうだ
「いっつもボクのためにご飯作ってくれたり、洗濯してくれたり、ボクのわがままいっぱい叶えてくれる」
「俺がしたいからそうしてるだけ」
改めて言葉にされると嬉しいがものすごく恥ずかしくなった。
「配信とかダンスの練習とかで疲れても、君が傍にいてくれるだけで疲れが吹き飛ぶんだ。いつもありがとうね。大好きだよ」
不意に言われた俺は思わずドキッとしてしまう。
「かなた...」
「俺も好きだよ。いつも楽しませてくれてありがとう。かなたといたら毎日がとっても楽しいよ。これからもこんな俺だけど、ずっと傍にいて欲しいな 。」
「すう...すう...」
どうやら寝てしまったらしい。眠気も疲れからとうとう限界を迎えたのだろう。俺の言葉、届いてるといいな。かなたの頭を撫で続けながら俺も、瞼を下ろした。
「どっこいしょ~どっこいしょ~」
「ソーランソーラン」
朝からご機嫌の彼女が、ソーラン節を口ずさみながら準備をしていた。
「随分ご機嫌だね。何かあったの?」
「そうだね~」
彼女はニヤニヤしながら俺の方を向いて言う
「大好きな彼氏が嬉しいことを言ってくれた!の段!!」
次話、何期生で書けばいいでしょうか?
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