「いやぁ、楽しめたよ。本当に面白かった」
ズゥン
音を立てて巨大な片腕が千切れ落ちた。血のようにオイルが吹き出す。へし折れた巨大なフライングVが機械油に染まっていく。
「呪力生成、結界術、反転術式、術式の模倣、領域展開。呪術の科学技術再現に偏ってたけど、どれもこれもイカしてたね」
膝をつく巨人の足元には同型の傀儡が残骸となって広がる。動くものは一つとしてない。
「特にあの領域展開の再現! ……あれはすごかった。コアにしたのは呪骸化させたAIだろう? 物質の魂は観測されたけど、情報構造の魂を生み出したのは君が初だ。誇るべきだよ」
そして巨人もまた最期を迎えようとしていた。残された力を振り絞り反転術式演算機を無理矢理動かす。操縦者……幸吉の致命傷を少しでも癒すために。
「さて、改めて聞かせてほしい。この技術が失われるのはあまりにも惜しい。私と来ないかい?」
「前に、答えた、通りだ……断る」
フロ丸を砕かれて薬液を失い、致命の傷を負って尚、幸吉の目は生きていた。日差しに灼かれながら爛れた中指を突き立てる。
「……残念だ、本当に残念だよ」
「でも心配しないでくれ。君を干し首にした後に、この技術は責任を持って世界に広めるよ」
「君の作った呪いの科学は、必ずや全世界に混沌の渦を巻き起こしてくれる筈だ」
「ではさような「お約束を知ってるか」……そりゃ世間並みには知ってるけど」
時間稼ぎの類だろう。羂索でなくとも簡単に推測できる。お喋りで一秒でも長く留めるつもりなのだろう。
だが羂索は会話を選んだ。新技術の興奮と勝利者の余裕がそれを選ばせた。
「それを縛りにしたんだろう? インパクトはともかく儀式や呪詩の類とそう変わらない。そこまで興味をそそられるようなものじゃないね」
「お約束は登場と必殺技以外にも退場時にもあるんだよ」
羂索は忘れている。幸吉の技術が自分の想像を超えてみせたことを。自らの余裕と慢心が幸吉を取り逃したことを。
「まさか『バイバイキン』とか言うつもりかい? 末期のセリフまでそのセンスとは恐れ入るよ」
「いいや、違うね。こう言うのさ……『あばよ! とっつあん!』」
『
「!? 上か!」
上空の警戒を怠ってはいなかった。だがそのさらに上を警戒してはいなかった。
いや、呪詛師呪術師のだれが衛星軌道からの攻撃を想定するのか。
ドドドドドドドドッ!
神の杖。不遜極まりないネーミングの質量弾が羂索目掛けて降り注ぐ。呪力を帯びない流星は、それ故に1000年を超える呪いの不意を打つ。
「なるほど! 飛行船型のカタパルトは衛星打ち上げ用だったか! 宙対地攻撃とは想像外だよ! 次は宇宙工学にも手を出そうかな!」
だがそれで死ぬようなら1000年を生き抜ける筈もない。タングステン弾芯の雨を、呪霊の傘で受け止める。
「来い!
キィィィンッ!
それでいい。必要なのは数秒の死角だ。呪霊に視界を塞がれる間に神の杖に紛れた傀儡艇は幸吉の元に届く。
「だが甘い。領域展開『胎蔵遍野』」
呪いを孕んだ肉の大樹が聳り立つ。羂索が練り上げた結界術と呪術の極み。外殻を持たない領域が超重力で何もかもを押しつぶす。
『それでいイ』
『
『
『彼方飛ぶ夢』
だから耐えない。
死んだふりで潜ませた傀儡たちが呪詞を謳う。両面宿儺をもって本物と言わしめる1000年の秘奥を、72億が積み上げた叡智が打ち祓う。
『『『領域干渉』』』
その術は領域展開のように抵抗しない。領域展延のように中和しない。同調し、干渉し、改竄する。
それはいうなれば領域に対するハッキング。電子計算機科学が可能にした10^12回/秒の数理学的術式干渉は、電子経絡の自壊と引き換えに呪術の牙城を打ち崩す。
「ッ!?」
空に直接描かれるはずの絵画が、キャンパスの上に引き摺り下ろされる。改竄された『領域外殻の追加』により、胎蔵遍野が持つ圧倒的な範囲と火力、その源泉である『閉じ込めない縛り』は失われた。
「やられた……」
故に追いつけない。10Gで加速する傀儡艇は既に領域展開のはるか先にいる。幸吉を乗せて大気圏を飛び出した流星を、眩しそうに羂索は眺める。
「……出来れば『また会おう、明智くん』にして欲しかったかな」
だがいずれまた出会うだろう。日本国民総呪霊化の計画はまだ始まったばかりなのだ。幸吉が呪術師として立つなら必ずぶつかる事になる。
「次は何をみせてくれるのかなぁ……楽しみだなぁ……!」
プレゼントを待つ子供のように、獲物を待つ肉食獣のように、幸せな顔で羂索は笑った。
終わり
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オマケの裏設定
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>複合術式「メカ丸・オン・ステージ」:楽厳寺と歌姫の術式の合わせ技。「単独禁区」の儀式をライブステージと解釈し音芸の術式を混ぜ込んでいる。単独禁区により120%の出力となった音芸の術式が全方位から襲い続ける。
呪詞は『
>疑似領域展開「
呪骸化させたAIを傀儡群の分散コンピューティングで展開し、傀儡をノードとして結界を構築。結界を呪骸化AIの内部として解釈して術式を展開することで、領域展開と同等の効果を生む。術式を自覚できるレベルのAIが必須なのが欠点。
>呪骸化AI「
>領域干渉:結界術に同調、干渉、改竄する術式ハッキング技術。対領域展開技術の新しい選択肢である。ただし同調させるには「一切の固有呪力パターンを持たない」、干渉と改竄には「領域展開者を越える結界構築速度を持つ」必要があるので、事実上呪骸化AIのみの技術である。
呪詞は『
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