村人達との話し合いの末、ひこうタイプのポケモンにオラリオ付近まで運んでもらって、そこからは自力で向かうという事になった。
僅か、数十分で辿り着くそうなのでリューは是非とも、と快諾した。
...しかし、その話し合いをし終えて、ベルの代わりにルノアが村を案内してくれた時だった。
「...参りました...」
「ムウ...」
ガラガラ道場でリューはポケモンとの一本勝負をしたのだが...結果は惨敗。
勝負開始直後に攻撃を避けられ、先手を取って攻めようにも意表を突かれて対応出来ず。
逆に隙だらけになった所を狙われてしまい、七度目の敗北を喫する。
エルフ同士による対戦で片膝をついた事など一度もないリューにとっては初めての経験で酷く落ち込んでしまう。
対戦した相手は、熨斗と折り紙を組み合わせた式神のような姿をした、ばっとうポケモン カミツルギ。
薄く鋭く研ぎ澄まされた鋭利な身体には誤ってリューと彼女が持つ木刀を斬ってしまわないよう、かたいいしやくろいてっきゅうなどの特殊な素材で作られた鎧が装着されている。
重さは両手で持つのでもやっとなのだが、それでもカミツルギは着ていないかのように、リューの木刀による攻撃をいなし、躱していたのだ。
「ケガミヲデウトッモダリズケラアダマダマガダカシタハデウ」
「腕は確かだがまだまだ粗削りだ。もっと腕を磨け、だって」
「...では、是非ともご指導してください。お願いします...!」
そう言いながらリューは片膝をついていた体勢から正座し、深く頭を下げた。
突然の事にギョッとするルノアだが、リューは構わずに続ける。
エルフにとって礼儀の一つであり、懇願するための姿勢なのだとか。
詰まる所、土下座をしてリューは教えを乞おうとしている。
その必死な様子にルノアはため息をつきながら苦笑いを浮かべ、了承の旨を伝えた。
その誠意が通じたのか、それとも雰囲気に押されてなのか定かではないが...カミツルギは承諾してくれた。
そのため、結果的に言えば彼女はこの村で1年間過ごす事になるのだった。
あくる日、ベルに連れられてリューは小川のほとりを歩いていた。
リューに助けてくれたポケモン達にお礼を言いたいと申し出がなされたので、ケルディオ達に会いに来たそうだ。
「あっ!ベル!それに...」
「こんにちは、ケルディオ!この人はリューお姉ちゃんっていうんだよ」
「初めまして。ケルディオ、でよろしいでしょうか?
私はリュー・リオン。この度は助けて頂きありがとうございました」
「どういたしまして!何ともなさそうでよかったよ」
ケルディオは尻尾を左右にフリフリしながら応える。
すっかりポケモンの愛らしさにあてられてしまったリューは、ついつい頭を撫でてあげてしまう癖がついてしまっていた。
しかし、目を細めて撫でさせてくれるケルディオには、やはりポケモンの可愛さを再確認させられてしまう。
今まで感情らしい感情を表に出さず、時折見せる笑みも冷笑に近く、物静かで何を考えているのかわからないと故郷の仲間にさえ言われた彼女。
そんなリューが今では目尻が垂れさがってデレデレと完全にポケモンの魅力に骨抜きにされてしまっているのは間違いない。
それを見ているベルも笑みを零しながらリューとケルディオとのやり取りを眺めていた。
まるで初対面ではないかのような、そんな雰囲気だ。
すると、頭上を通過する影が一瞬過ぎり、ベル達は見上げてその正体を確認する。
デオキシスだ。ゆっくり降下してくると、木陰からダークライも現れる。
「っ!?」
「あ、デオキシス、ダークライ」
リューは一瞬、ポケモンではなく普通のモンスターだと思い、腰に携えている剣に手を伸ばしそうになる。
だが、ケルディオが近寄って親し気に挨拶をしているのを目にして、モンスターではないと判断して警戒を解いた。
デオキシスとダークライもリューに対して警戒している様子もなく、ケルディオと同じように近寄って来る。
「リュー。デオキシスとダークライも君を助ける手助けをしてくれたんだよ」
「そうだったのですか...お二方、ありがとうございます」
先程の非を改めるべく素直にお礼を言うと、デオキシスとダークライは頷く。
せせらぎが心地よく耳に残る中、ケルディオ達と楽しくベルとリューは持参したポフィンを食べながら談笑をしていた。
その会話の中でリューはケルディオの目標である聖剣士について問いかけた。
「聖剣士は力を合わせて邪悪と戦う正義の味方の事だよ。
ボクはその聖剣士になるためにデオキシスやダークライに協力してもらってるんだ」
「...そうなのですか...あなたなら、きっとなれますよ。これからも励んでください」
「うん!」
誇らしげに語るケルディオに、リューは穏やかな気持ちになる反面、複雑そうな心境となる。
何故なら、自身も目的を持ってオラリオを目指していたが、それを実現するために必要な事を見出せずにいた。
そんな時に聞かされたケルディオの目標には羨ましくもあったのだ。
「(これほど立派な志を持っているとは...やはり、私はまだまだ未熟なのですね)」
最後の一口を食べ、リューは一息つく。ふと自分の分のポフィンが無くなっていた事に気付く。
食べ過ぎないように気を付けていたつもりだったのだが、無意識の内に食べていたのだろう。
本当に未熟だと自分に呆れながらガックリと落ち込むリュー。
その様子に気付いたベルは食べ足りなかったのかと思い、優しく微笑むと持っていたポフィンを半分に割って差し出した。
「あ、い、いえ、食べ足りなかった訳ではなりませんので」
「いいよ、遠慮しなくて。また春姫お姉ちゃんに作ってもらえるから」
「...では、いただきましょう」
リューは差し出されたポフィンを受け取り、ベルと一緒に食べ始める。
未熟だと思ってはいるもののやはり美味しかったのか、表情が少し明るくなっていた。
「リューには夢ってあるの?」
「夢、ですか...ケルディオ程、大したものではありませんが...他種族の仲間を得る事です」
「それって、僕やルノアお姉ちゃんみたいなヒューマンとか春姫お姉ちゃんみたいな獣人とって事?」
頷いて、リューはあまり思い出したくない、故郷の様子を思い浮かべながら答えた。
「はい。...私の故郷、リュミルアの森に住まう同胞達は他種族を見下す選民意識が過ぎていました。
それが嫌になって...私はリュミルアの森を抜け出し、オラリオへ向かっていたのです」
「あ...そっか、オラリオには色んな種族の人達が集まってるもんね」
「そうです。多種族など関係なく尊敬出来る仲間を求めて...」
そう語るリューの表情はやはりどこか曇っている。
故郷を飛び出し、迷子になり、実力は不十分であり、食欲を抑えられないという、これまでの自分を情けなく思い、夢を実現するのは無理なのかと思い始めたのだろうか。
そんなリューの心情を汲み取ったのか、ベルとケルディオは目の前に立つと明るい笑みを浮かべながら励ました。
「そんな事はないよ!ボクはとっても素敵な夢だって思ったから」
「うん。僕もポケモンマスターを目指して皆と強くなるために頑張ってるんだ
だから、笑ってほしいんだ。リューお姉ちゃんも沢山の仲間が出来るように」
「それだけで仲間が出来るとは思えませんが...」
「それでもだよ。笑顔には皆と仲良くなれる、おまじないなんだから」
ベルはそう言うとリューに笑顔を向ける。
屈託のない、純粋な笑顔を向けてくるベルに、自然と口角が上がり、暖かい気持ちになっていくのをリューは感じた。
ルノア達もそうだが、この少年も純粋に笑えているのだと再認識する。
リューの心が晴れやかな空のように澄んでいく中、リューはベルとケルディオに優しく微笑みかけながらお礼を述べた。
「ありがとうございます、ベル、ケルディオ。少しだけ...肩の荷が下りた気がします」
「それならよかったよ、リューお姉ちゃん。...うん、やっぱり笑ってる方が素敵だね」
唐突にそう言われたリューは恥ずかしそうに顔を反らして、口元を手で隠そうとする。
「...そ、そう言われると少し恥ずかしいのですが...」
「恥ずかしがる事なんてないよ?楽しかったり嬉しかったら笑っていいんだから」
「...は、はい。努力はしてみます」
頬が熱を帯びている事を感じ取りながらリューは頷く。
ベルとケルディオはまだぎこちなさそうだが、大丈夫そうだと思い、笑みを浮かべた。
そうして談笑を再開し、穏やかに時は過ぎていく。
気が付けば陽は沈みかけており、辺りが夕暮れ時を迎えていた頃になってベル達は村へ、ケルディオ達は住処へと帰って行った。
Q、クロエさん。ケルディオ君は許容範囲ですか?
A、擬人化してるならありにゃ。流石にそのままだと抵抗があるから。