「サーナイト!スピードスターからサイケこうせん!」
「サナ...!」
ベルの指示を受け、周囲に星型の光線を無数に発射して標的となる樹木に命中させる。
次にサイケこうせんを直撃させると樹木は薙ぎ倒された。
ポケモンバトルの腕は着実に磨きがかかり、今では村の子供でも相手にならない程強くなっていた。
いくら最終進化を遂げているサーナイトだからとはいえ、毒、ゴースト、はがねタイプなどのポケモンを相手にしても勝つというのはサーナイトだけの力ではない。
ベル自身の学習能力や努力、特訓の成果が成せるものだ。
サーナイトも、そんなベルに対して日頃の感謝を込めて鍛えているのだから当然の結果と言えるだろう。
一緒になって喜んだり褒めてくれる事もあってベルの自信にも繋がっていて、これからも訓練を続けていくつもりであると決心していた。
木材にするための樹木を集める目的での特訓を終えたベルとサーナイトは休憩を取ろうとした。
その時、近くの茂みが揺れる。
誰かが森を抜けようとしてきたのか、将又ポケモンが通りかかったのかと思ったベルだったが、そこから現れたのは...
グルルルルルッ!
「っ!モンスターだ!」
「サナッ...!」
それもあの時と同種の熊型だった。モンスターは既に興奮状態で息を荒くしながら牙を剥いており、敵意がありありと感じ取れる。
即座にベルとサーナイトが身構えるや否や、モンスターは雄叫びを上げて襲い掛かって来た。
鋭い爪を振りかざして襲い掛かってきたモンスターにサーナイトはベルの指示を待たずして、でんじはを指先から放電する。
でんじはを浴びた熊型のモンスターはまひ状態となり、その場で痺れて動けなくなる。
「サーナイト!ねんりきで浮かせて!」
その指示に従い、サーナイトはねんりきでモンスターの巨体を宙に浮かせる。
藻掻きながら抵抗しようとするモンスターにベルは懐に潜り込むと、モンスターの胸部に向かってエースバーン直伝の強烈な飛び膝蹴りを叩き込んだ。
ドゴォッ!と鈍く重い音が鳴り響き、モンスターは口から唾液を吐き出し悶絶。
ベルが着地するとサーナイトはモンスターを更に高く上げて、叩き付ける様に地面へ落下させる。
土埃が舞い上がり、モンスターはまともに動けなくなっていた。
トドメを刺そうとベルは腰の革鞘からナイフを取り出した。
あの日以来、また万が一があってはならないと祖父に言われていたので、寝る時以外は常に持ち歩いているのだ。
グオォオオ...!
「僕はもう...臆病なんかじゃないッ!」
ナイフを手に持ち、ベルは素早く接近するとモンスターの背中の中央目掛けてナイフを突き出す。
ザシュッ!と肉を突き刺す感覚が手に伝わり、ベルはその嫌悪感に眉を顰めた。
モンスターが最後の悪あがきで首だけを激しく振り始めて、背中に乗っているベルを振り落とそうとする。
しかし、ベルは踏ん張って絶対に離すまいとナイフの柄を握り締める。
突き刺した腹部からは大量の鮮血が噴き出してベルの顔や服に飛び散り、地面に広がっていく。
モンスターは命の灯火が消えそうになる寸前まで暴れていたが、やがてガクリと首が横たえてそのまま動かなくなった。
「...っぶはぁーーっ!!はぁ...!はぁ...!」
絶命したの確認し、ベルは息を止めていたのか肺の空気を吐き出すと思いっきり息を吸い込み、新しい酸素を肺に送り込んだ。
咳き込む程に呼吸を荒くしつつ、ナイフを抜いて血を振り払うと鞘に戻す。
「サナ...」
「あ...サーナイト...僕...僕、勝ったよ...!」
そして...ベルがモンスターを倒したのを見届けたサーナイトは駆け寄ってきて抱き着いた。
勝った喜び、もう大丈夫だという安堵もあってか、自然と涙が出てきてしまい、サーナイトを抱き締め返しながら嗚咽を漏らす。
そんなベルをサーナイトは背中を摩ったり頭を撫でたりして慰めるのだった。
暫くして、ベルが涙を拭い落ち着いた所で、また茂みが揺れ動くのに気付くベルとサーナイト。
またモンスターが出てくるのかと思い、サーナイトは掌に冷気を収束させてれいとうビームを放つ準備をする。
そして、茂みから飛び出してきたのは...
「逃がさないぞ!...ん...?」
「え...?」
アクアブルーの長髪を金の髪留めで束ねた女性だった。
敏捷性を重視している、飾りの少ない白い腰布をぶら下げた軽装。腰の左側に片手剣、背中側にナイフを装備している。
茂みから出てきた際に弓を番えていたが、ベルを見つけると矢を引き絞っていた弓を下げた。
そして、モンスターの返り血で赤く染まったベルとそのすぐそばにうつ伏せに倒れているモンスターの死体に視線を移す。
ハッと何かに気付いたように再びベルへと視線を向けると、弓を片手に近寄って来た。
サーナイトは何か仕掛けてくるという可能性を考慮し、少しだけベルの前に出た。
「君が...あのモンスターを倒したのか?」
女性は一歩距離を置いたまま少し屈んで、ベルと目線を合わせながら問い掛ける。
ベルは戸惑いつつ頷いて肯定の意を示した。
すると、女性は目を見開いて驚いた表情を見せ、ベルに対して頭を下げる。
モンスターの返り血で赤く染まっていた事も気にせずに、ベルは女性の突然の行動に首を傾げた。
「君を危険な目に合わせてしまったのは、逃した私の責任だ。すまなかった」
「え?あ...う、ううん。僕は大丈夫だったから、気にしてないよ?だから、顔を上げて?」
「そうか...優しいんだな。ありがとう」
女性はベルを見つめて微笑みを浮かべる。すると、前に出ていたサーナイトが一歩後退する。
どうやら感情を感じ取って、この女性は危害を加えないと判断したいようだった。
テレポートで替えの服をサーナイトに自宅から持ってきてもらい、ベルは着替える。
ついでにと、サーナイトは水を汲んだバケツにタオルを浸して持ってきたので、固まりかけている血を女性が濡れたタオルで拭き取ってくれていた。
自分で出来るとベルは言ったのだが、頑なにこれくらいはさせてほしいと女性から要望されてベルはされるがまま返り血で汚れた箇所を綺麗にしてもらうのだった。
そうしてひと段落し、倒木に並んで座ると女性が経緯を話し始める。
彼女のファミリアは本来、拠点としている所でモンスターを狩猟する生業を営んでいるらしく、数日前から遠征を兼ねて遠方のこの地へ来たのだと言う。
ベルは以前に見かけない女性が買い物をしに来ていたと、近所の青果店の青年から聞いたのを思い出し、この女性の仲間なのでは?と思った。
「ここから少し離れた場所であのモンスターの群れを見つけ、上手く全部を仕留められたと思ったのだが...
1匹逃がしてしまったんだ。それが、君を襲ったあのモンスターだ」
「そうだったんだ...」
「...怖くなかったのか?隣に座っている...確かポケモンだったな?」
「うん。名前はサーナイトって言うんだよ」
「サナ...」
「サーナイト...良い名前だな。サーナイトと一緒に戦って勝ったようだが...」
ベルは膝の上で拳を握り、モンスターに襲われた時の事を思い出して一瞬恐怖が芽生えるも...
それを払拭しようと首を振りながら口を開いた。
あの日以来、特訓に特訓を続けた成果を発揮してリベンジを成し遂げた事を話すと女性は感心したように頷いていた。
嘘はついていない、それがわかっていたからだ。
「それで、サーナイトに慰めてもらって...ポケモンマスターを目指してるのに、そんなんじゃダメだよね...」
「そんな事はないさ。人間は何度も泣いて本当の勇気を持つ事が出来るのだから。
情けない事なんてない。自分を、仲間を信じてもっと強くなりなさい」
「...うん、そうだね。ありがとう...って、あれ?何か周りが暗い気が...」
「ん?...あ」
モンスターと遭遇してからの連携について詳しく聞かれるままに答えていった結果、すっかり暗くなってしまっていた。
しまった!と2人は同時に思い、片やルノアに頼まれていた伐採した木の運搬、片やファミリアの全員を待たせている事に冷や汗が蟀谷に垂れる。
慌てて、それぞれ持ち帰るべき物を手にすると別々の方へ向かおうとする。
「そ、それじゃあ、私達は今日でここを離れるから...くれぐれも気を付けるように」
「う、うん!...あ、そういえば名前言ってなかったね。僕はベル・クラネルだよ!」
「ベル・クラネルか...君も良い名前をしているな。では、私も名乗っておこう」
そう言って、彼女は空に浮かぶ三日月を背にしながら名乗る。
「私はアルテミス!月の女神だ!ベル・クラネル。君の勇気は本物だ。
これからの君に期待していよう!」
アルテミスはそう言い残すと、颯爽と去って行ってしまった。
残されたベルは呆然としてしまい、暫くその場に立ち尽くす。それも当然だろう、まさか女神だったとは思ってもいなかったのだから。
しかし、サーナイトに急かされて考えをまとめる暇もなく帰路に就いたのだった。
尚、戻って来るのが遅いとルノアにこっぴどく怒られ、春姫もモンスターに襲われたと聞かされて心配していたので足の感覚が無くなるまで正座をさせられた。
リューは2人の気迫に負けてしまい、見て見ぬふりをするしかなかったという...
かくとうタイプの技をベル君とルノアさんはいくつか取得しています。