ダンポケ   作:れいが

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今回はルノアさんと春姫さんが何故、ベルの村に居るのかという回答話です。


12話 我が故郷

 「では、その方はポケモンと一緒にオラリオへ向かったのですか」

 「そう。まぁ、厄介な事になるだろうから絶対に人目には付かないようするって」

 「それがいいでしょうね。冒険者は確実にモンスターだと殺しにかかり、神々からも弄ばれるだけです」

  

 昼下がりのウバメの森にある炭公房でルノアとリューはお茶をしていた。

 伐採した木をここへ届け、職人達がもくたんにしている間に休息を摂っていたのだ。

 

 話しているのは先にオラリオへ旅立った、ベルの幼馴染についてだった。

 リューの言う通り、危険視される事や異端児扱いされるのは目に見えているのでポケモンを公にしないという考えにルノアは共感していた。 

 人間は都合の良い解釈で敵と決めれば容赦しないのが大半なのだ。尤もポケモンをモンスターと判別する事すらしないだろう。

 

 「ベルやルノアさん達もポケモンを連れて行くのですか?」

 「もちろん。パートナーを置いて行くなんて事、カイリキー達が許す訳がないでしょ?」

 

 お茶請けのクッキーを食べ、モンスターボールから出した手持ちのポケモン達が遊んでいるのを見る。

 

 ルノアがこの村へ訪れたのは目的があってではない。

 

 戦火で両親も家も何もかもを失い、当てのない旅に出ていて偶然辿り着いたのだ。

 当初はモンスターがうろつくこんなド田舎に居座る気なんてないと思っていて、食べるために金銭を得るべく働くだけだった。

 しかし、優しく接してくれる村人達や親しくなろうと手伝ってくれたカイリキー達といつしか仲良くなり、今ではこの村を故郷に思って暮らしているのだ

 

 「...リューは自分の故郷を捨ててきたって言ったけど...

  いつかは戻ったりしないの?」

 「...戻ったとしても追い返されるだけだと思いますから、今はそう考えていません」

 「そっか。でも、これだけは言っとく。

  ...帰る家がある幸せを忘れちゃダメだからね?」

 

 真剣な声音でそう言うと、リューは目を伏せて少し考えた後、ルノアの瞳を見つめて首を縦に振る。

 それにルノアも見つめ返して暫くすると、緊張が抜けたようにため息をついてテーブルへ突っ伏した。

 どうやら、否定されたらどうしようかと悩んでいたに違いない。

 その態度をルノアらしくなくてリューは思わずクスッと微笑む。

 

 そういった事にはうるさい彼女だが、どうやら...本心で自分を心配してくれているのだと、お茶を啜りながらリューは思う。

 ふとルノアと目が合い、そして、リューに見られていた事に気付いたルノアは起き上がると少し頬を指で掻いて照れ臭そうにするのだった。

 

 「まぁ、先にリューも向こうへ行くんだし...

  私達の名前を言えばアイツから色々教えてもらえると思うから、頼ってみて」

 「はい。...ちなみに、その方のお名前は...?」

 「あ、言ってなかったっけ?名前は...」

 

 

 「ゾロアークさん!こうそくいどうからじごくづき!」

 「ロアークッ...!」

 

 こうそくいどうで案山子に急接近し、赤黒いオーラを纏った3本の爪をゾロアークは喉元に突き入れる。

 案山子の首となっていた木の棒が粉々になって、本体も崩れ落ちてバラバラになる。

 

 「キュウコンさん!あなをほるからほのおのうず!」

 「コォーンッ!」

  

 あなをほるで地中に素早く潜り込むキュウコン。

 数秒後に案山子が置かれている目の前の地面がボコッと盛り上がって、キュウコンが飛び出してきた。

 口からの渦を巻く炎を噴き、案山子は消し炭となる。

 

 「わぁ...!やっぱり春姫お姉ちゃんもポケバトが上手いね!」 

 「いえいえ、私は戦う事が出来ませんから...

  こうしてゾロアークさん達を頼る事になりますので、これだけはしっかり出来るようになっていませんと」

 

 春姫は自分の所に戻って来たゾロアークとキュウコンの頭を撫でて褒めてやった後、揃って嬉しげに笑う。

 その笑みを見たベルはどうしてか、胸の内がキュッと締め付けられた感覚がして首を傾げるのも、気にしない事にした。

  

 春姫との出会いはベルが今よりも幼い頃。

 ポケモン達と追いかけっこをしている際に転んでしまい、膝を擦り剝いて痛みのあまり泣き出しそうになった時にすぐ声をかけてくれたのが彼女だった。

 落ち着けるようにベルの背中を軽く叩きながら、遊んでいたみずタイプのポケモンから水を出してもらい、綺麗な布で傷口を優しく拭いてくれたのだ。

 少しして泣き止んだベルに春姫は、今と同じ笑みを浮かべていた。

 それ以来、ベルは春姫を優しいお姉ちゃんと慕って仲良く過ごしているのだ。

 

 そう思い返していて、ふとベルは春姫自身のあまり知らないような、と気付く。

 

 「ねぇ。春姫お姉ちゃんは極東から来たって言ってたけど...

  お母さんやお父さん達とは一緒に来ていないのは、どうしてなの?」

 「え?...あぁ、そういえば...ベル君にはお話しした事がありませんでしたね...」

 

 問いかけられた春姫は少し悲し気な表情となり、着物の裾をギュッと握り締めた。

 ベルは聞いては不味かったのかと慌てて謝ろうとしたが、ゾロアークが爪を1本立てて静かに、という素振りを見せる。

 それに気付いて両手で口を塞ぐベル。春姫は気付いていないのか、ゆっくりと口を開いた。

 

 曰く、生まれは極東の何不自由なく暮らせる貴族の娘だったそうだ。

 しかし、数年前、父を激怒させる程の失態を犯してしまった春姫は勘当を言い渡され、極東から追い出される事になったという。

 使用人を連れていたが山を越えようとしている最中、モンスターに襲われた際、使用人は春姫を置き去りにして逃げ出した。

 残された春姫は殺されると恐怖に震え、最後に親しくしてくれた友を思いながら目を瞑ったのだが...

 突如として、モンスターは崩れ落ちる。驚く春姫の目の前に立つ黒い影。

 それは今のパートナーであるゾロアークだった。当時、村を離れて極東にまで赴いていたのだ。

 

 「そうして私はゾロアークさんに連れられて、この村にへとやって来たのです」

 「そうだったんだ...大変だったんだね、春姫お姉ちゃん...」

 「はい。ですが、事情をお話しして村人の皆様は暖かく迎え入れてくださりました。

  こうして充実した日々を送らせていただき、ゾロアークさんを含めて皆様にはとても感謝しております」

 

 春姫はそう過去を振り返って笑いながら語ると、ゾロアークも頷いて嬉しそうに喉を鳴らした。

 両親が居ないベルにとっては、家族に捨てられたも同然の春姫を心の底から同情していたが、今の様子を見て安心した。

 こんなにも幸せそうにしているのだから、前を向いてこれからも一緒に頑張っていけると。

 

 

 月日は経ち、村に寒い時期が訪れた。息を吐く度に白いモヤモヤが宙を舞うのを眺めるベル。

 連日雪が降り続いたために、村は真っ白に染まっていた。

 見ているだけでベルは楽しい気分になって、ポケモン達と集まって遊び始める。

 小さな雪玉を作ったり、それを固めて落としたりと皆と笑顔で楽しんだ。

 ...のだが、溶けた雪のせいで体が濡れているのに気付かず、食事に誘われてルノアの自宅へ来た時にはブルブルと寒さで震えていた。

 

 「くっしゅんっ!うぅ...」

 「アンタね、遊ぶのはいいけどそんなになるまで気付かないのはどうなのよ...」

 「こちらをどうぞ。温めたモーモーミルクです」

 「あ、あ、ありがとう、リューお姉ちゃん...」

 

 震える手でカップを受け取り、数回息を吹きかけてから飲もうとする。

 しかし、あちっ!とベルは舌を出して悶絶してしまう。苦笑いを浮かべるリューにやれやれと肩を竦めるルノア。

 今度は十分に冷ましてから、改めてモーモーミルクを飲むと体の芯から温まってくるのを感じて、はぁー、と息を吐く。

 

 ベルから飲み終えたのを見計らって、キッチンから春姫が鍋を持って来る。

 中には、たっぷりとヤドンのしっぽシチューが入っている。濃厚なチーズの良い匂いが鼻腔をくすぐった。

 既に食卓に並べられた食器に、トレーの上に乗せた人数分の小皿もテーブルに用意されていて何時でも食事が出来る様だ。

 付け合わせのサラダやパンも並べて準備が整うと、それぞれ手を合わせて食事開始となる。

 

 「美味しい!春姫お姉ちゃん、とっても美味しいよ!」

 「ホント、春姫の作るご飯はそこらの料理屋よりも一味も二味も違うわね」

 「ふぁい、はふ...んぐっ、オラリオに行ってから食べられなくなるのが惜しいくらいです。あむっ」

 「私達もオラリオへ着いた時に、お祝いとして作って差し上げます」

 

 口の周りに白い髭を作りながら言っているベルにルノアが賛同する。リューはシチューを浸したパンを味わいながら頬張る。

 照れ笑いを浮かべながらもパンを一口齧る春姫。 

 手持ちのポケモン達もポフィンと一緒にシチューを飲んで、体が温まるのに心地よさを覚えていた。

 

 そして、食べ終わった後...食後のお茶を飲みながら、ふと思い出したかのようにリューが言った事に皆が驚く事になる。

 

 「カミツルギさんやカモネギ師匠のおかげで今まで以上に力を身に着けたと実感が湧いてきました。

  ですから...そろそろオラリオへ出発しようと思います」

 「そっか...でも、オラリオに行けばまた会えるんだから、寂しがらなくてもいいわよね」

 「ええ。貴女との約束のためにも、行くべきだと決めたのですから」

 

 ベルは約束とは何の事なのかわからなかったが、リューを引き留める訳にはいかないとグッと口を紡いで堪える。

 それに春姫は気付いたが、どう声をかけていいのかわからず見て見ぬふりをするしかなかった。

 

 深深と雪が降る夜。

 何もできない自分の不甲斐なさに...少女は心が冷たくなったのに少し肩を震わせるのだった。

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