ギルドにある個室にてヘスティア・ファミリアはエイナから質問攻めを受けていた。
というよりも主神であるヘスティアが。
「本当の本当にヘスティア様はズルをしていないのですね?」
「してないってば~!ボクもいきなりこんな風になってるのか困惑してるんだもん!」
「...ベル君、春姫さん。本当に恩恵を刻んだ時、何か変わった事はなかったの?」
「うーん...特に何もなかったと思うんだけど...」
「は、はい。何分、初めての事ですので、わからないとしか...」
2人の言葉にエイナは深くため息をつきながら、改めてステイタスを確認する。
現役最強のLv7を超えているルノアは以前まで別のファミリアに所属していたという経緯で苦し紛れな理由付けは出来る。
だが、ベルと春姫は最早どう理由付けをしても無理がある程に規格外なステイタスなのである。
既にオールSという数値を叩き出している時点で異常事態であるのだ。
当然ながら魔法、スキルなども発現しているが...どれも今までに類を見ないようなものばかり。レアスキルしかないという。
発展アビリティに関してはギルドでも記録されていないものだった。下手をしなくても他ファミリアが潰しにかかるのは明白である。
エイナは頭を抱えたくなってしまうも、なんとか堪えて話を進める事にした。
まずはファミリアの設立は許可する事、次に冒険者登録の手続きを済ませてもらう事、そして3人のステイタスを公開するのはギルド側で会議を行ってからという流れにする事を伝える。
現段階ではこれがエイナに出来る精一杯の最善策なのだ。ベル達はその提案に納得して、エイナから手続きを済ませてもらう。
ファミリアの主神であるというサインをヘスティアがして全ての手続きは終了。
早速、ルノアがダンジョンへ向かおうと切り出したがエイナに慌てて止められる。
まだ何かやらなければならない事があるのかと思ったベルだが、一呼吸置いてからエイナは自信が決めている信念を言い放った。
「確かに3人は冒険者となりました。でも...これだけは覚えておいてください。
冒険者は冒険をしてはいけないって」
「え...?」
「そ、それでは矛盾があるのでは...?」
ベルと春姫はその言葉の意味がわからず、困惑していたがルノアだけは違っていた。
真剣な眼差しを向けているエイナに対して微笑みながら頷く。
「無理をして死んだら元も子もないからって意味でしょ?
...これでも戦争から命辛々生き延びた身だから、それはよくわかってるつもりだよ。
「えっ。あっ...そうとは知らずにごめんなさい、ルノアさん...!」
「気にしなくていいよ。もう過ぎた事だし...エイナが私達を想ってくれてるって嬉しいからさ。
これから担当アドバイザーとして背中を預けさせてもらうよ」
「...うん。僕もエイナお姉ちゃんを信じて頑張ってみるよ」
「はい。私も精一杯頑張ります...あ、ぼ、冒険はしない程度に、です」
「...っ。ありがとう、皆」
エイナは自分を信じてくれる事を伝えたベル達の言葉に感動して涙目になる。ヘスティアもしみじみと涙を拭っていた。
本来であれば座学などを行うものの、後日に回す事にしてダンジョンへ潜るのは2階層から5階層までと話し合った。
そうして話が終わって退室しようとした際にふと、エイナはベルからお姉ちゃんと呼ばれていた事に気付く。
特に気にしなかったのだが、一応ベルにその理由を聞いてみた。
曰く、少し年上の男女にはお姉ちゃん及びお兄ちゃんと付けるのが癖になっているとの事。30代や女神は別らしいが。
照れながら話すベルに、エイナは純粋な理由とわかるとほっこりしてこれからもそう呼ばせてあげる事にしたのだった。
ギルドを後にしたベル達は広場の中央付近でこれからの事を話した。
「それじゃあ、早速ダンジョンに行ってみよっか。冒険はしないように、だよ」
「皆、気を付けて行ってくるんだよ。ボクもこれからバイトへ行くからお互いに頑張ろうぜ!」
「うん!行ってきます、ヘスティア様」
ヘスティアと別れてベル達は冒険者通りを進んで行き、遠くに聳え立つバベルへと向かった。
早々にゴブリンやコボルトを見つけ、瞬殺するベルとルノア。春姫は後方で待機する。
倒し終えて春姫と一緒にゴブリンやコボルトの魔石とドロップアイテムを回収すると再び探索を再開。
それからも遭遇するモンスターは瞬殺していき、あっという間に5階層まで辿り着くベル達。
6階層からは降りてはいけないため、5階層で時間のある限りモンスターを倒して魔石とドロップアイテムを集める事にした。
だが、魔石はどれも小さくてドロップアイテムも然程落とされず回収用の袋は全く膨らまない。
...実の所、袋は半分まで膨れているため零細や中堅の他ファミリアからすれば現時点で十分な収穫である。
しかし、そんな事はいざ知らず、これではホームの修復どころか生活の収入源を確保できない思って焦るベル達。
「...ベル、春姫。ここは黙って降りてみる?」
「ダメだよ、ルノアお姉ちゃん。エイナお姉ちゃんとの約束をもう破る気なの?」
「ベル君の言う通りです。なるべく節約をしていけば...あら?」
春姫が耳を動かして何かが近付いてくるのに気付いた。ルノアとベルもその音に気付いて立ち上がる。
目を凝らして洞窟の奥から姿を現したのは...ミノタウロスだった。それも3体。
ヴオォオオオオオオオオオオオオッ!!
鋭い2本の角を持ち、引き締まった筋肉に覆われている巨体は生半可な力では太刀打ちできないと誇張しているようだった。
その咆哮は威圧して対象を怯ませる。ましてや3体となれば動けなくなるはずだが...ベル達は意気揚々と向かって行く。
「よっしゃ稼ぐよベル!春姫!」
「うん!」
「は、はいっ!」
怯まないベル達に驚くミノタウロス達を他所にルノアの拳が顔面を捉え、壁に巨体をめり込ませた。
同類がやられたのを見て1体がルノアに襲い掛かろうとするも、マクノシタ仕込みのはっけいでベルに押し返されてしまいそのまま首をナイフで斬り付けられる。
残る1体は勝ち目がないと逃げ出す。その前方には春姫が立っており、避けようとしていないので鋭い角で突き飛ばそうとする。
...しかし、ぶつかる直前に突き飛ばそうとしていたはずのミノタウロスが吹っ飛んで天井に頭をぶつけた事で角がボキッと折れて気絶する。
バラバラと天井の破片が舞い散る中で立っている春姫の差し出している手には、ふしぎだまが握られていてそれを使いミノタウロスを吹っ飛ばしたのだ。
「春姫お姉ちゃん大丈夫?怪我はない?」
「はい。ふっとびだまでお引き取りいただきました」
「まだ気絶させただけだよね?それならトドメを刺しておかないと」
ルノアはミノタウロスの首辺りを殴りつけて脊椎をへし折った。それによりミノタウロスは絶命する。
それを見て、ベルは祖父や近所に住んでいる青年達が調子に乗ってルノアの胸に触ろうと殴られている光景を思い出し、よく無事でいられたなぁと苦笑いを浮かべた。
その時、また足音が聞こえて別の個体かと警戒するベルと春姫。
しかし、そこに立っていたのはライトアーマーに身を包んだ1人の少女だった。手には剣を携えている。
「...そのミノタウロスは、君達がやったの...?」
「え?あ、はい...そうですけど...?」
「何?横取りしたって言いたいの?先に手をつけたのはこっちなんだから文句は受け付けないよ」
突然、現れた少女に驚くベル。だが、ルノアは喧嘩腰で話すと少女は首を横に振った。
話によると、どうやらミノタウロス達は下層から逃げてきていたらしく、それを追っていたのだそう。
なので、代わりに討伐してくれた事を少女は感謝した。ベル達はなるほど、と納得してルノアは先程の発言を謝罪する。
「謝るのはこっちの方。迷惑をかけてごめんなさい...」
「ううん、気にしなくていいよ。それより、仲間の人達に伝えに行った方がいいんじゃないかな?」
「はい。こちらは大丈夫ですから、早く行ってあげてください」
「うん。ありがとう」
ベルと春姫がそう促すと、少女はお礼を言ってその場を後にして仲間の元へ急いだ。
少女を見送ってからミノタウロスの魔石とドロップアイテムを回収し、十分な収穫を得たと喜ぶベル達は地上へと戻って行くのだった。
余談だが、ギルドに到着して包み隠さず経緯を話した結果、エイナのかみなりが落ちたのは言うまでもない。
1体だとリンチだから3体にしました。まぁ御覧の通りでしたけれど。