怪物祭当日。様々な屋台が立ち並ぶどこのメインストリートも人々で賑わっていた。
村でも小規模ながら祭りを開いてポケモン達と楽しんだ記憶はあるものの、これほどまで大規模な催し物は初めて見るのでベルはとてもワクワクしていた。
ルノアと春姫も同様に楽し気にしており、同じくヘスティアも何度か怪物祭に来た事はあるものの誰かと一緒というのは初めてらしく大いに気分が盛り上がっている様子であった。
「春姫お姉ちゃん!あれ食べてみようよ!」
「クレープ、ですか?はい。私も気になりますので購入してみましょう」
「ヘスティア様。バナナに茶色い液体みたいなの掛けてるけど...あれ何?」
「え?チョコバナナだけど...それさえ無い村だったのかい?君達の村は...」
と、屋台で気になった食べ物や飲み物を買っては食べて飲んだりをして、メインイベントの調教が始まるまでの時間を楽しむ事に。
途中、ベルが迷子になった子供を見つけると、母親を一緒に探して幸いにもすぐに送り届けてあげる事ができた。
それからも飲食だけでなく輪投げやヨーヨー釣りを楽しみ、暫くして調教が始まるアナウンスが流れてきた。
場所は闘技場との事。それを聞いた人々はそこへ向かおうと歩き出した。
「やっと始まるみたいね。じゃあ、行ってみよっか、皆」
「うん!どんな風にモンスターと仲良くするのかな~」
「ん~、仲良くというよりも使役するように躾けるんだってガネーシャが言ってたけどね」
「そうなのですか...ポケモンの皆さんがもしもその場に連れていかれてしまっていたら...」
「間違いなくアルセウス様を筆頭に伝ポケ達がブチキレてやばい事になるわね」
「アルセウス...?」
ヘスティアはその名前に聞き覚えがあるように思えたが、何の事なのかハッキリと思い出せなかった。
天界では神殿に引き籠っていたらしいので、近所の神々を大体知ってはいても何なのかわからないためである。
歩きながら悩みに悩んだ結果、結局何も思い出せなかったのでヘスティアは思考を断ち切りベル達の後を追うのだった。
辿り着いた闘技場の前では人々が超満員でとても賑わっている。モンスターを調教する姿を一目見ようと大勢が集まっていたのだ。
「わぁ~、すごい人が集まってるね。入れるのかな...?」
「こればっかりは仕方ないか。大人しく並びましょ」
「そうですね。皆さんも楽しみにされているのですから...あら?」
「ん?春姫君、どうかしたのかい?」
「いえ、あちらで何か揉め事でも起きているのでしょうか...?」
春姫の視線の先では闘技場へ入ろうとはせず、更にその向こうを人々が不穏な様子で見ている姿があった。
ベルとルノア、ヘスティアも気になって何があったのか気に留めようとした、その瞬間。
ドガァアーン!と、何かが爆発したかの大轟音が鳴り響いてそれに怯えた人々は驚いて、その場で立ち止まってしまっている。
モクモクと舞い上がる砂埃から巨大な影がのっそりと起き上がり、砂埃が晴れるとその全容が明らかとなった。
銀色の毛を巨体に生やしたゴリラのような姿をしているモンスター シルバーバックだ。
列に並んでいた1人がモンスターだ!と叫び、それを合図に人々は慌てて悲鳴を上げながら我先にと逃げ始める。
グオオォォォォオオオオオオオオオッ!!
人々の悲鳴が癪に障ったのかシルバーバックはそれよりも大きな雄叫びを上げて、周囲に置かれていた木箱や樽を破壊し始める。
周辺にはガネーシャ・ファミリアの団員達が居るものの、整備係として動いていたため武器を所持していなかった。
このままでは被害が広がると判断し、ルノアはポケットから取り出したグローブを両手に嵌めた。
続いてベルも用心のためにブーツの側面に隠し入れていたナイフを手に取る。
そうして軽快なステップからルノアは走り出すと一気にシルバーバックへ接近し、真下へ入り込むと跳び上がる勢いを利用したアッパーカットで顎をかち上げる。
下顎が上顎にめり込んで上下の歯が粉々に砕け散りながら、シルバーバックの頭部が天を仰ぐ。
シルバーバックの視界には眩い程輝く太陽とその輝きを背に迫り来る白い影が映った。
「ハァァアッ!!」
ベルは両手で振るい上げたナイフを落下のタイミングに合わせてシルバーバックの胸部に深々と突き刺す。
ナイフの切っ先が魔石をその位置から動かし、更に肉体を切り裂いた事で確実に致命的なダメージを与えた。
バシュンッ!と弾けるような音がしてシルバーバックは黒い灰と化して消滅し、拘束具と一緒に銀の毛と牙、そして巨大な魔石が地面に落ちた。
着地したベルは息を整えて近寄ってきたルノアが拳を突き出してきたので、笑顔でそれに応える。
「っとと...やったね、ルノアお姉ちゃん!」
「うん。...にしても今の白い猿、外で出くわした蜥蜴よりは強いと思ったけどそうでもなかったわね」
「ベル君!ルノア君!だ、大丈夫かい...?」
「うん。全然どこも怪我なんてしていないよ、ヘスティア様」
ベルがそう答えるとホッとした様子でヘスティアは安堵する。
後から追ってきた春姫も心配はいらないだろうとは思っていたが、無事なようで微笑んでいた。
すると、騒ぎを聞きつけたらしいアーディが仲間を連れて駆け寄ってきた。
「ベル君!ルノア!シルバーバック...は、も、もしかして、倒した...の?」
「見ての通りね。で、これ貰っていい?代わりに討伐した報奨金って事で」
「あぁ、うん、いいけど...あのシルバーバック、結構手強かったりしなかった?」
「んー、ルノアお姉ちゃんのアシストがあったからだけど...
寧ろ体が大きい分、どこを攻撃しても当たるからそうでもなかったよ?」
そんなとんでもない事を発言するベルにアーディ以外のガネーシャ・ファミリアの団員達は呆気に取られる。
自分達でもダンジョンから地上へ運ぶのに少なからず苦闘したのだが、そんなモンスターをあっさりと倒してしまったのだからだ。
そんな気持ちを共感するアーディはそっか、と苦笑いを浮かべながら気落ちしていた。
そんな時、団員の1人がベル達に近寄って話しかけてきた。アーディと同じ青い髪をした彼女より年上っぽい女性だ。
「シルバーバックを倒す実力を持っているようなら、他にも脱走したモンスターの討伐を手伝ってもらえるだろうか?」
「え?で、でも、お姉ちゃん」
「わかっている。本来なら私達が対処すべき事態だが...
住民の避難もしなければならない今、協力してもらうのが最善だと判断するべきだろう?」
「...そうだね。3人とも、お願いしていいかな...?」
アーディは少し不安げに問いかけると、ベル達は顔を見合わせて笑みを浮かべると頷いてモンスターの討伐を了承した。
すると、ヘスティアも挙手をして協力を申し入れる。
「ボクも手伝わせておくれよ!ファミリアの主神としてベル君達だけに任せっきりにはできないからね!」
「感謝する。女神...失礼だが、お名前は?」
「炉の女神 ヘスティアさ。知らないのは色々と理由があるから仕方ないけど、今度ともよろしく頼むよ」
「わかりました。私はシャクティ・ヴァルマ、ガネーシャ・ファミリアの団長だ」
「ヘスティア様、お気を付けくださいね。何かあった際には...助けに向かいます」
「ありがとう、春姫君。皆もくれぐれも気を付けるようにね!」
シャクティとアーディはヘスティアと団員達を連れて周辺の避難勧告へ向かい、ベル達は悲鳴が聞こえる脱走さいたモンスターがいるらしき場所へと急いだ。
「デェエイッ!」
「ドリャァアアアアッ!」
最初に見つけたのはシルバーバックよりは小さいオークで、ベルがマクノシタ直伝のけだぐりで足を強く蹴って転ばせると即座にルノアが肘打ちで喉を潰す。
バキリと音を立てて脊椎は砕け、オークは絶命する。流石に魔石を取る暇もないので亡骸は放置し、次の場所へと急いだ。
西のメインストリートに到着すると、屋台に向かって突進しようとしていたソード・スタッグを見つける。
「どんそくだまを使います!」
春姫は袂からふしぎだまを取り出して握ったまま突き出すと、淡い青色の光が放出されてソード・スタッグを包み込む。
すると、ソード・スタッグの動きが遅くなって屋台へぶつかるまでの隙が生まれた。
すぐさまベルが動き出し、シルバーバックと同じ様な方法でナイフを脳天に突き刺してソード・スタッグを倒した。
西のメインストリートから少し離れて南西のメインストリートでは2体のコボルトが暴れていたのでベルとルノアは二手に分かれて対峙した。
コボルトが動く前にベルはともえなげで相手の体重を乗せながら地面に叩きつけ、激痛でコボルトが硬直した瞬間に胸部にナイフを突き立てた。
一方、ルノアはコボルトが鋭い爪を振るってくるのを狙い、カウンターで最初に腹部に拳を叩き込むと顔が下がった所でトドメにフックで顎諸共頭蓋を砕く。
次々とモンスターを倒していくも、脱走しているモンスターはまだいるようで悲鳴が止みならない。
「このままじゃ埒が明かないわね。どうする?バラバラになった方が効率良くない?」
「そうだね。どれくらい逃げ出したのかわからないけど、分かれて倒していった方がいいかも」
「...私もゾロアークさん達さえ出していただけたら、お2人と同じく戦えるのですが...」
そんな事をすれば、せっかく立ち上げたヘスティア・ファミリアがギルドの圧力によって潰されるのは明白であった。
尤も、ポケモン達を没収されてしまう方を危惧するべきであるのだが。
こればかりは仕方ないと思い、一緒に行動してサポートをお願いしようとベルが春姫に言おうとした時だった。
「これだけ大騒ぎになってるんだから、皆を出しても別に大丈夫でしょ」
ハッとしたベルは振り返って声の主を見る。春姫とルノアは目を見開き、驚愕していた。
ベルも息を呑んで思わず握り拳を作っていた。
「久しぶりだね、ベル。春姫とルノアも...元気にしてた?」
「...ダフネ、ちゃん...」
という訳で、ベル君の幼馴染はダフネでした。自分のお気に入りキャラですもので。