「...」
「こ、これって...何かの冗談ですよね...?」
アイズがレベル6へランクアップしたと公表されて2日後。
公表当日は冒険者達はもちろん一般市民も感嘆や驚きの声が上がっていたのだが、本日数時間前に4枚の似顔絵が情報と共に掲示板に貼られる。
最初の1人が面白い記事でも掲載されたのかと思い何となく足を止めて...そのまま動かなくなる。
それに気付いた友人か仲間が声をかけるも反応はない。どうしたものかと視線の先を見て、同じように動かなくなってしまった。
そこから続々と掲示板に人だかりが形成されてていき...ギルドへやって来たアイズとレフィーヤが一番後ろから、その似顔絵を見ていた。
今から遠征へ向かうのだが、多忙であったラウルがうっかり提出する書類を出し忘れていたため代行として届けに来ていたのだ。
すぐに戻らなければならないものの、そこに書かれている内容に釘付けとなってしまっている。
『ベル・クラネル LV5』
『サンジョウノ・春姫 LV5』
『ルノア・ファウスト LV10』
『ダフネ・ラウロス LV8』
一番下のダフネに関しては暗黒期時代からアイズも知っている。
数回程度、会った事があるくらいで親しくもなければ交友関係もないものの...自分よりも先にフィン達と同じレベル6へ到達していた冒険者だ。
【猛者】のレベル7という領域をあっさりと越えたのには信じられないが、まだ上の3人よりは信憑性がある。
もう一度よく確認して...3人の冒険者達の情報を見てアイズは愕然とした。特にベルと春姫については。
レベル10となったルノアは何度も改宗を続けている中堅の冒険者ではあるが、ベルと春姫は冒険者になってまだの数日程度しか経っていないにも関わらず上級冒険者へ昇格した。
アイズや隣に立っているレフィーヤ、更には誰もが思った。【神の力】による能力強化で不正行為を働いていたのだと。
しかし、特記事項には不正行為の痕跡は一切無し、とギルド長及びウラノスのサインがデカデカと書かれている。
それによって疑いの目は少なからず減ったものの...当然、信じない冒険者は不機嫌そうにその場を去って行った。
「...レフィーヤ、これを届けて早く戻ろう」
「あ、そ、そうですね...あの、アイズさん...」
「今は...遠征に集中しないと」
「...はい」
レフィーヤは掛ける言葉が見つからず、途中で言葉を詰まらせるとアイズは敢えて遮るようにそう告げる。
静まらない胸の鼓動。これは興味が湧いてきた事への興奮か、或いは嫉妬心なのか...
アイズ自身もそれが何なのかわからないまま、書類を担当者であるミィシャに書類を渡して早足にバベルの広場へ向かった。
その頃、ギルドが騒然としているともいざ知らず、ベル達は今日もまたリリルカをパーティに加えてダンジョンへ潜っていた。
エイナから本日よりステイタスを公表されるとは聞かされているものの、当人達は特に気にしていなかった。尚、リリルカはそれを聞いて驚きはせず、寧ろレベルの事を聞いて納得したそうだ。
「では、エイナ様からの許可を得たので18階層を目指すという事ですね。
...こうも簡単に言ってますけど、本来ならもっと万全な準備などが必要なんですが」
「もしもの時はあなぬけのたまがありますので、ご安心ください」
「これからもっと稼げるようになるんだから、リリルカもちょっとは喜びなさいよ」
「じゃあ、皆で冒険の一歩を踏み出してみよう!」
目標到達階層を決めた3人は意気揚々と、若干不安そうなリリルカと共に歩みを進め始めた。
初めて向かう事になる、最初の死線と呼ばれている階層域の中層。ベルはもちろんルノアと春姫も普段より心を躍らせていた。
やがて9階層まで潜っていき、10階層へ降りる階段まで続くルートを順調に進んで行く。しかし、広間に入ったその直後...
「っ!危ない!」
「キャッ...!?」
「うわぁっ!?」
「ベル!」
突然、地響きが聞こえたかと思えば天井が崩れ、巨大な落石が降り注いでくる。
咄嗟にベルは春姫とリリルカを後方へと押し退け、自身は進もうとしていた方向へとバックステップをして後退した。
何とか落石に飲み込まれなかったものの、広間の入口を塞がり春姫達と引き離されてしまった。
ベルはサーナイトに向こう側へテレポートさせてもらうか、春姫があつまれだまを使用して向こう側へ移動してもらうか悩んでいた。
すると、背後から聞こえてくる足音に気付いてすぐさま振り向くと白いナイフを引き抜く。
ドスンと地面を割る様に段々と近付いてきてきたのは...片方の角が折れた赤いミノタウロスだった。
ヴォオオオオオオオオオッ!!
「あれってミノタウロス...?また上層まで来るなんて...でも、あの時の個体よりずっと大きいな...」
咆哮による威圧を一切感じていないようで、先制攻撃を仕掛けるベル。対して片角のミノタウロスは大剣を振り下ろして斬り裂こうとした。
「こんな時にあつまれだまもつうかたまも忘れるなんて!」
「も、申し訳ございません~~!」
「こ、こちらの別ルートから広間へ入れます!急ぎましょう!」
一方で、ベルと引き離されてしまった春姫達は別ルートから広間へ入ろうと試みてでんこうせっかの如く走っている。
春姫に背負われているリリルカは複雑な経路を的確に案内しており、段々とぶつかり合う音が聞こえ始めた。
ルノアはいち早く、ベルがモンスターと戦っているのだと察知して加速しようとする。
「止まれ」
「うわっとぉ...!?危っぶないわね!そんな所で何突っ立ってんのよ!」
転びそうになりながらも足を止めて、ルノアの前に現れた人物に文句を言い放つ。春姫とリリルカも遅れて何が起きたのか少し混乱する。
しかし、リリルカすぐに絶句した。そこに立っているのは【猛者】ことオッタルだったからだ。
眉1つ動かさないオッタルに苛立ちを感じて、ルノアは益々喧嘩腰になっていると気付き、すぐさま春姫に下ろしてもらうとルノアの足にしがみついた。
「落ち着いてくださいルノア様ぁ!あ、あの方に喧嘩を売っては絶対にいけません!」
「はぁ?どうしてよ、アイツが邪魔してきたんだからこっちは買う側でしょ!」
「そ~~ういう問題じゃないんですってば~!というかあの方を知らないんですね!?
【猛者】の二つ名を与えられたフレイヤ・ファミリアの団長ことオッタル様ですよ!」
リリルカに素性を明かされたオッタルは名前を名乗る手間が省けたと思いつつ、肩に掛けている大剣を突き出した。
それを見てルノアは、リリルカを背後に移してファイティングポーズを取る。
「この先へ通す事は許されん。しばしの間、待っていろ」
その言葉にルノアは拍子抜けといった様子で、呆れたようにため息をつきながら前髪を手櫛で弄った。
「...はぁ...アンタに指図される筋合いも無ければ聞く耳も持たないわよ」
「ダメですってばルノア様!喧嘩だけは本当にダメです!どう足掻いても相手が悪過ぎますから!」
「何よ、リリルカ。私が負けるとでも思ってんの?」
「微塵も思ってませんよ!ですが、ファミリア同士の抗争なんてギルドに知られたら...!」
「そんなの...知ったこっちゃないわよっ!」
絶対に離さまいとするリリルカを春姫に投げ飛ばし、ルノアはオッタル目掛けて拳を突き出す。
凄まじい風圧を交えた一撃によりオッタルが防御しようと構えた大剣は粉々に砕ける。
それを見越していたのか、オッタルは死角からルノアの顔面に裏拳で殴り付けた。
メキョッという骨が軋む音が響き、激痛に顔を僅かに歪めた...オッタルの方が。
ルノアから距離を取り、手の甲を見てみると皮がズル剥けていて白い骨が薄っすらと浮かんでいる。
「...これが、レベル10との差か。面白い」
「さっさと退きなさいよ、この猪野郎がぁぁああ!」
カサンドラ「ダ、ダフネちゃん。どこに行ってたの...?」
ダフネ「ちょっとゴライアスとかアンフィス・バエナとかバロールを討伐に行ってた」
カサンドラ「...ふ、2日間で?」
ダフネ「ううん、その日の内に。調子が良かったから」
カサンドラ「...そっか。えっと...お疲れさま」