ダンポケ   作:れいが

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33話 トラウマ

 状況が落ち着いてきて、ベルは黒いレックウザをゲットしたモンスターボールを見つめる。

 体力や外傷は何とでもなるにしても、人間に斬り付けられたという精神的な傷は暫くの間消えないはずだ。

 このまま黒いレックウザを村へ送り返したとしても、また傷付けられてしまうと人間不信になるのは明白であった。

 

 そこでベルはメガシンカから戻ったミュウツーに申し出をした。 

 

 「ミュウツー、このままだとレックウザが人間を信じないままになっちゃうから...

  僕に預からせてもらえないかな。心の傷を治してあげるには、人間が責任と持って傍にいてあげないと」

 「...少しお待ちください」

 

 それを聞いたュウツーは瞑目して考えた後...誰かと じんつうりき で話している様子だった。ベルは相手が誰なのか大方の予想はついていた。

 やがて結論を出したのか、目を開きベルと向き合う。その目は険しいものではなく寧ろ温かみすら感じ取れた。

 

 「ベル。アルセウス様からの伝言ですが...貴方にならレックウザを任せられるので、是非そうしてほしいとの事です」

 「ホントに?よかったぁ...」

 「私としても、春姫同様に貴方を信頼しています。どうか...レックウザをよろしくお願いします」

 「うん!」

 

 ベルとミュウツーの会話が終わってすぐにリリルカが急いでこちらへ走って来る気付く。その後ろからはロキ・ファミリアの面々も向かって来ていた。

 近付くにつれて走る速度を落としていき、ベルの目の前で立ち止まって両膝に手を置きながら呼吸を整える。

 

 「はぁ...だ、大丈夫ですか?皆さん、お怪我はありませんか?」

 「僕も皆も大丈夫だよ。ありがとう、それから...ごめんね?リリちゃんに心配かけちゃって」

 「い、いえ、リリは...信じていましたから、サーナイトさん達が止めてくれると」

 「サナ...」

 

 サーナイトはリリルカの頭を撫でて微笑む。絆を深めた喜びとしてのスキンシップだ。

 リリルカは頬を赤らめつつ照れくさそうにしている中...ふと、ルノアがフィンの目の前に立って腕組をしながら高圧的な態度を取っているのに気付く。

 

 「後ろにいる金髪金眼のせいで最悪な事態になってたわかってるわよね?」

 「ああ、もちろんだ。ロキ・ファミリアの団長として深くお詫びする。本当に申し訳ない」

 「私からも、すまなかった...言い訳にしかならないが、アイズは黒い龍に対して強いトラウマを抱えていている。

  レックウザを傷付けてしまったのもそれが原因だ...謝罪だけで済む話ではないが、どうかそれだけは知ってもらいたい」

 

 リヴェリアのアイズを擁護する言葉。ルノアはルノアは腕を組みつつ黙って聞いていた。

 ポケモンの事を知らなかったとはいえ、黒いレックウザを傷付けたアイズを許す気は毛頭無かったのだが...見た目に対するトラウマがあるとなれば、ルノアも無闇に責め立てるのは良くないと判断する。

 

 しかし...当の本人は俯いたまま近付こうともせず、話が終わるまで待っている...まるで聞き分けのない子供のようであった。

 

 「...まぁ、全部アンタ達のせいじゃないでしょ。自分でやったあの金髪...アイズって子がそもそも謝罪しないのはどういう了見な訳?

  チビガキが悪さをして謝るのが当たり前だってのに、アンタはそうして2人に任せっぱなしでいいと思ってんの?」

 「っ...」

 「ポケモンを知らなかったにしても傷付けたからには相応のペナルティがあるって覚悟しておきなよ。

  それで評判ガタ落ちになろうが、下に見られようが...自分がしでかした事なんだから責任は取る事ね」

 

 グサグサと正論が突き刺さり、アイズは更に顔を逸らして口を紡いだ。少し離れてた所に立っているレフィーヤは止めようにもルノアの勢いに気圧されて何も言えずにいる。

 ルノアはアイズが何かを言うまで腕を組んで仁王立ちしていると...ベートが近付いて来た。

 

 「図に乗るんじゃねぇぞ!テメェがアイズにどうこう言う権利があると思ってんのか!?」 

 「オラリオの危機を救っただけじゃ足りないっての?はっ...キャンキャン喚くだけでの負け犬なんて、あの猪野郎の方がまた骨があったわよ」

 「この、クソアマ...!」

 「やめるんだベート!図に乗っているのはお前の方だぞ!」

 

 拳を握り締めてベートは殴り掛かろうとするも、リヴェリアに止められる。その言葉にますます怒りが込み上げてくるベートを他所に、フィンはルノアが言った人物の蔑称に引っ掛かった

 

 「猪野郎とは...まさか、オッタルの事を言ってるじゃ...」

 「そいつよ。ベルを助けに行くのを邪魔してきたから壁に埋めてここに来たのよ」

 「あの【猛者】をか...レベル10と7の差がそこまで大きいという事だな」

 「じゃが、何故奴はそんな真似を?らしくもないと言えばそうなんじゃが...」

 「そんなの知ったこっちゃないし、大勢引き連れて文句を言いに来たらまとめてボコってやるわよ」

 

 血管が浮かぶ拳をメキメキと鳴らし、全身から滲み出るルノアの殺気がロキ・ファミリアを襲う。

 その迫力に幹部であるフィン達は冷や汗をかく中...漸くアイズが歩み寄ってきて、ルノアに何かを言おうとしていた。

 

 「...私は...あの子が黒い龍に...食べられると思った、から...」

 「...レックウザはお空に浮かぶ塵と水分を食べて生きているんだけど?」

 「っ...ごめん、なさい...」

 「...ベル」

 

 ちょいちょいと手招きをしているルノアに呼ばれて駆け寄って来るベル。

 ルノアの意図を読んで、黒いレックウザが中にいるモンスターボールを差し出した。

 

 「僕を助けようとしてくれたんだね?それは...間違っていないけど、レックウザが可哀想だよ。

  だから、ちゃんと謝ろうね。アイズちゃん」

 「...あぁ!?何馴れ馴れしく呼ん、ぶがっ...!?」

 「ほら、クソ駄犬がまた鬱陶しくなる前に謝る」

 

 力をセーブしてルノアは裏拳をベートの顔面に叩き込む。地面に蹲って鼻や額を抑えているベートに躊躇いながらも...アイズは頭を下げた。

 

 「...ごめんなさい。あなたを傷付けて...」

 「...うん。僕もまだちょっと許せない気持ちがあるにしても...もうしないでね?」

 「...はい」

 

 モンスターボールを縮小させてポケットに仕舞い込むと、ベルは他のパートナー達もボールへ戻そうとする。

 ルノアと春姫も改めてねぎらいの言葉を掛けてから、戻していった。

 

 一方、ミュウツーはアイズの前に立って今回の件について厳粛な面持ちで話し始めた。

 

 「我々ポケモンの神、アルセウス様もそう簡単にはお許しにならないはず...下されるその罰を貴女も覚悟しておきなさい」

 「...私が...間違っていたの...?」

 「...誰かを助けようとした気持ちは間違いではありません。ただ、物事をもっと見極めるべきだったのです」

 

 ミュウツーは彼女を諭すように優しく語り掛ける。リヴェリアもその言葉に共感して頷いていた。

 物事を見極める。アイズにとっては難しいという事に尽きる言葉だった。

 彼女の中にあるモンスターという概念をポケモンに当てはめてはならない...それだけでも理解に苦しむのだから。

 

 「今日の出来事を決して忘れないようにしてください。それが貴女に残された唯一の贖罪なのです」

 

 ミュウツーはアイズにそう伝えて、春姫にボールへ戻すように促した。最後にアイズだけでなくロキ・ファミリアを一瞥してから赤い光に包まれてボールの中へと入っていく。

 

 

 

 「フィン団長。実は先程の事態に伴ってアリーゼ達にガネーシャ・ファミリアと...」

 

 リューからバベルの入口を封鎖しているという状況を聞き、フィンはどうするべきか口元に手を添えて思考を巡らせる。

 恐らくレフィーヤ達第三班以降のラウルやアナキティといった団員達が立ち御往生していると予想し、広間と繋がっているルートでその第三班も待機させているのを思い出した。

 

 直ちにガレスを向かわせて広間へ入るよう指示を出し、ここに居る誰をバベルの入口へ送ろうか悩んでいると...

 

 「これで皆さんがボールへ戻りましたね。では...地上へ戻りましょうか」

 「じゃあ、ちゃちゃっと あなぬけのたま で外に出ますか」

 「あのダンジョンから抜け出せるチートアイテムですか。初めてなのでちょっと緊張しますね...」

 

 リリルカが不意に呟いた あなぬけのたま についての効果をフィンの耳は聞き逃さず、咄嗟に聞き返した。

 

 「リリルカ。ダンジョンから抜け出せるとは、どういう意味だい?」

 「あっ、えっと...こちらの ふしぎだま というアイテムでダンジョンから脱出が出来るそうなんです。

  リリも今回が初めてなので、どうなるのかわかりませんが...」

 

 正しく衝撃的だった。仕組みこそわからないが、ダンジョンから脱出が出来るアイテムなど存在するものなのかと。

 それが本当であれば、何故売り出されていないのか...フィンは疑問を抱くものの、今はそれどころではないと切り替えて要望した。

 

 「烏滸がましいと思われるかもしれないが、僕も同行させてもらえないかな?

  仲間がバベルの外で困っているかもしれないんだ」

 「私もお願いします。アリーゼ達に報告しなくてはなりませんから」

 「...まぁ、自分の足で行けってイジワル言うのも後味の悪いか」

 「わかりました。では、こちらへお寄りください」

 

 リューはともかくフィンに対してルノアが難色を示すも、ため息をつきながらそう答えて春姫は手招きをする。

 それに少しホッとしたフィンはリヴェリアへ次のように指示を伝えた。その様子は、どこか初めて遊ぶおもちゃに興奮している子供のように見えていた。

 

 「リヴェリア。ガレス達が来たらここで待機するように伝えてくれ」

 「ああ。是非とも感想を聞かせてもらうぞ...まったく」

 

 やれやれといったように苦笑いを浮かべるリヴェリアはため息をつきつつも、任せたと背負向けるフィンを見送った。

 

 春姫が あなぬけのたま を使用する準備をしている間に...ベルは未だに俯いているアイズへ近寄る。

 ベルの気配に気付いてはいるものの、顔を上げず只々立ち尽くしていた。

 そんなアイズに、嫌な顔一つもせずベルは微笑みながら優しく伝える。

 

 「アイズちゃん、アルセウス様もちゃんと反省すれば許してくれるはずだよ。

  だから、元気を出して自分の事もポケモンの事も嫌いにならないでね?」

 

 ベルがアイズに手を差し伸べるも...その手を見つめるだけでアイズは握ろうとしない。まだ自分の中で整理がつかないのだろうと察し、ベルは手を握り締めながら引っ込めた。

 そうして春姫達の元へと戻り、あなぬけのたま が発動した事でそこに立っている全員を包み込む光柱が頭上から降り注ぐ。

 

 すると、体が浮かび上がっていった。ベル達は慣れているのか姿勢を保っているが、慌てるリリルカをフィンは支える。

 そのまま上昇していき、全員が天井を通過するように消えていくのをリヴェリア達は見送った。

 

 

 

 ベル達が あなぬけのたま によって転移された場所は、バベルから少し離れた建物の影だった。

 位置座標に狂いがなかった事に安堵する春姫と、同じく春姫がドジらなかった事にベルとルノアはため息をついてリリルカはよくわかっていないので首を傾げる。

 周囲を見渡してフィンは本当にダンジョンから脱出した事に驚いて言葉も出なかった。

 

 そんなフィンに耳元でヒソヒソと3人に聞こえない程度の声量でリリルカは問いかける。

 

 「あの あなぬけのたま は春姫様だけにしか作れない代物でして...販売どころか商標登録すらしていません」

 「...なるほど。出回っていない理由はそういう事かい」

 「しかも、皆さん一切その気がなくてですね...もしも買い取るとすれば、いくら払いますか?」

 「...これくらいかな。3万ヴァリスの1000倍でなら是非とも」

 

 あっけらかんとフィンが提示した金額はリリルカにとって破格なものだったため、思わず目を剥いて声にならない叫びを上げる。

 フラフラと蹌踉めきながら後退して背後の外壁に手を付いたリリルカ。心の底から大儲け出来るのにと只管叫ぶのを抑えるのに必死だった。

 その様子を察してか、フィンはリリルカの肩にポンと手を置いた。

 

 「無理にとは言わないが...もしも交渉が出来そうであれば、お願いするよ」

 「...リリも流石にその話を捨てるという選択肢はありませんのでお任せください」

 

 振り向いた、その目は燃え上がっていた。滾る炎はリリルカのプライドを表しているのかもしれない。

 ベートに反論していた時とは違う気迫にフィンは苦笑いを浮かべた。

 

 「ははは...ありがとう。それじゃあ、僕はバベルへ向かうよ。【疾風】もだろう?」

 「はい。では...皆さんご苦労様でした。後の事はこちらで対処しますから」

 「わかった。リューお姉ちゃん、お願いするね」

 「頼んだわ。私らはヘスティア様の所に帰って休むから」

 「大変かと思われますが...ファミリアの皆様にもよろしくお願い致します」

 

 建物の影から出て、フィンとリューは反対方向へ向かう。ベル達を手を振ってその背を見送り、本拠への帰路に着くのだった。




ダフネ「あっ、皆。バベルん方でばり騒ぎが起きとったけど...何か知っとー?」

ダフネ「...はぁ?そんで?...うわー...ふーん。じゃあ、皆もメガシンカが出来るごとなったんや?」

ダフネ「【剣姫】がどげんなるとか気になるばってん、まぁ自業自得やけんね」

ダフネ「まぁ、そげな事やったら無事でよかった。あ、そうそう。明日しゃ、ウチんお気に入りんお店で祝会やらん?」

ダフネ「ウチんランクアップ記念。それなりに稼いだけん奢っちゃるし」

ダフネ「ん、わかった。そんじゃあ、明日ん夕方頃に豊饒の女主人ってお店の前で待ち合わしぇしよ」
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