「ぐっ、ぬぅぅ...!」
「...まさか、貴方と知っておきながら打ちのめすなんてね。予想外だったとはいえ、無事でよかったわ」
「っ...申、し、訳...あり、ま、がふっ...!」
「まだ喋るな。エリクサーでさえ完治に時間が掛かっている傷だ」
謝罪しようと口を動かすオッタルにヘディンは制止させようとする。それでも頭を下げるオッタルだが、余程全ての内臓に負った深い傷が響いているらしく呻き声を零した。
その様子にヘディンは呆れた表情を浮かべて眼鏡のブリッジ部分を指の腹で押した。
彼が抱くフレイヤへの忠誠心は尋常ではないため...本来ならすぐにでもディアンケヒト・ファミリアへ送り込まなければならない重症であるにも関わらず、まず報告を優先する程だ。
「ヘディンの言う通りよ。オッタル、今は傷を癒す事に専念してちょうだい。傷付いたままの貴方を見たくないわ」
「...はっ...」
「それにしても...あの黒い龍のモンスターやあの少年に付き従っていたモンスター...ポケモンだったかしら?
貴方が育て上げたミノタウロスが手も足も出せないまま消し炭にする程強いなんて...」
フレイヤの脳裏には、黒いレックウザが片角のミノタウロスを一撃で葬った光景が鮮明に浮かび上がっていた。
更に、その黒いレックウザと熾烈を極めた戦いを繰り広げ...死闘の末に勝利したサーナイト達。
少なくともオラリオには存在しない生物であるとフレイヤは睨むが...最も気になったのは、そのポケモン達と戦っていたベルの魂の輝きだった。
片角のミノタウロスとの戦いでは少しだけ変化が見られたぐらいだったが、黒いレックウザにポケモンと一緒に立ち向かっていた時はこれ以上にない輝きを見せていたのだ。
それが何を意味しているのか...フレイヤに確証は無いものの、新たな面白さを知れたと微笑むのだった。
あのポケモンを利用して、もっと輝かせられれば...そう画作している最中に扉がバタンと音を立てて開かれる。
普段ならそこまで乱雑に音を立てないはずなのだが、妙に慌ただしく思ったフレイヤが振り返ると...アルフリッグ、ドヴァリン、ベーリング、グレールの5人が気を失っているアレンを担いで、その上息を切らしながら雪崩れ込んでいたのだ。
よく見れば、それぞれ顔だけでなく破れた服から火傷や切り傷、青痣や腫れなどを覗かせて満身創痍となっているではないか。
フレイヤはもちろん、自身も重症を負っているオッタルとヘディンも眉間に皺を寄せて訝る面持ちとなる。
フィンに並んで【炎金の四戦士】と小人族においては最強とされるガリバー兄弟が...ここまでの仕打ちをされたというのは只事ではない。
「...何があったの?アレンは眠らされているようだけど」
「ポ、
「回収するために追い払おうとしたのですが...」
「先制を許さぬ攻撃を始め、渦巻く炎、刃の如く鋭い葉、濁流のように水流を放ってきて...」
「我々が返り討ちにあってしまい撤退を余儀なくされました...」
4人は何が起きたのかを交互に話した。若干手間が掛かると思うが、これが彼らの会話なのだ。
それはともかくとして...フレイヤは傷付いたアルフレッグの頬を撫でて、慈悲深く主神として彼らへ労りの言葉を掛けた。
「アレンと一緒に戻って来てくれて嬉しいわ。あなた達が1人でも欠けてしまったら虚しいもの...」
「フ、フレイヤ様...お手が汚れてしまいますから、どうか...」
頬を染めて恥ずかしながらも気遣うアルフレッグに微笑みを浮かべるフレイヤ。
純粋に嬉しく思ったからだが...手を離して、後ろを振り向くと冷ややかなその眼で地上を見下ろした。
「アレンの事でしょうから、オッタルと同様に口を割ってはいないにしても...神会でヘスティアとアポロンに問い詰められるのは目に見えているわね」
「【不思議獣制覇者】の尾行はともかくとして...オッタルの方は小人族のサポーターからの制止振り切り、あちらから先に手を出しました。
こちらに非は無いと突き返せば、ペナルティの回避は可能かと...」
「...まぁ、その時までに考えておくわ。オッタルやあなた達は暫くの間、身を潜めて傷を癒していなさい」
夕暮れに照らされてキラキラと輝く銀の髪を揺らしながら、振り向くフレイヤ。その命に従ってオッタル達は首を垂れると彼女を残して室内を後にする。
残されたフレイヤは、改めてベルの魂の輝きをもっと見てみたいと思いを馳せるのだった。
リューとアリーゼが先導するその後ろで、ヘトヘトになっているアストレア・ファミリアのメンバーが漸く本拠の星屑の庭へと帰還していた。
あの後、フィンと共にバベルの入り口へ赴くと、彼は突然の事態に混乱している団員達の元へと向かい自身はアリーゼ達の元へ向かう。
アーディもタイミング良く居たので、リューは彼女達に事の真相を知らせた...のだが伝説のポケモン、メガシンカなどイマイチ説明が上手くいかなくて、どちらも困惑する会話となってしまったのだった。
結局、アリーゼ達には理解が及ばなかったものの封鎖を解除していいという旨を伝えて、アーディには討伐に成功して事態は終息したと冒険者達に伝えてもらう事にした。
設置したバリケードを撤去していく作業が済んだ頃には夜となっていた。
バベルの前に出来ていた人集りは既に散り散りとなっていて、先程までの出来事を話している者やファミリアの本拠へ帰る者もいた。
「あっ、そうでした。皆さん、是非とも紹介したいポケモンがいるんです」
「え!?どんな子が来たの!?ねぇねぇリュー、早く見せてほしいわ!」
「待て待ておい...早く風呂に入ってベッドでぐっすりしたいってのにお前らホント空気読めよ」
「せめて体を清めてから紹介してもらえませんでしょうかね?こちとら汗塗れでイライラがいい加減爆発しそうでして」
リューが新たなポケモンを連れてきた事に大はしゃぎするアリーゼ。それを尻目にライラはうんざりした様子となり、輝夜も口元を袖に包まれた手で隠して殺気立っていた。
「ちょ、輝夜落ち着きなってば!こっちまでとばっちり受けるなんてゴメンだよ」
「そうそう、ネーゼの言う通り。せめてあの2人だけに矛先を向けてよね...」
「ノイン、矛だと攻撃範囲が広いでしょうから...短剣にしてほしいわね」
「まぁ、それを言ったところで輝夜が留まるとは思えないけど?」
慌てて落ち着かせようとするネーゼに同調してノインも聞く耳を持っていない2人にため息をつく。
リャーナが冗談交じりにそう答えると、アスタは肩を竦めながら困ったような表情を浮かべた。
「だよねー。この間なんてリューのポンコツ加減にブチ切れてさ」
「あ、あの、イスカさん...私、その話がちょっとしたトラウマになっているので...うぅ...」
「あぁ、よしよし。セルティは必死に止めようとしていたものね...」
イスカは面白おかしく話そうとしたが、輝夜の肘打ちによって眼鏡を割られたセルティはシクシクと涙を流してそれをマリューは優しく慰めてあげてた。
結局、リューはアリーゼに催促されてモンスターボールを取り出した。
軽く頭上へ放り投げると、ポンッという音の後に光が溢れ出す。
光が身体を形成していき...やがてケルディオの姿が現れる。瞑っていた目を開くと、ケルディオは周りに立っているアリーゼ達と目を合わせる。
「では、自己紹介をお願いできますか?」
「うん!僕はケルディオ。聖剣士の1匹でリューとは友達なんだ」
「あぁ!前から話に出てたケルディオね!初めまして、私はアリーゼ・ローヴェルよ!
リューからは色々と聞いているし、仲良くしましょうね」
「こちらこそ、よろしくねアリーゼ!」
流石というべきか初対面にも関わらず...アリーゼはケルディオとすぐに打ち解けて手と蹄で握手を交わしていた。
握手を終えるとケルディオは自らアストレア・ファミリアのメンバーに近寄っていき、名前を教えてもらっていく。
「あー...アタシの事はライラって覚えてくれ」
「ゴジョウノ・輝夜と申します。輝夜とお呼びくださって構いませんので、以後よろしくお願いいたします」
ライラの素っ気なくぶっきらぼうな態度とは対照的に、輝夜は丁寧且つ礼儀作法に習った挨拶を交わした。
リュー、アリーゼ、一応マリュー以外はあからさまなその猫被りにジト目で彼女を見ていた。
「ほら、皆さんもケルディオさんに自己紹介をしなくては」
「はいはい...えっと、私はノイン・ユニックっていうの。見ての通り普通の人間だけど、実力はある方だからよろしくね」
「ネーゼ・ランケット。どこぞの口が悪~い灰色の狼人とは違うから気軽にネーゼって呼んでね」
「アスタ・ノックスだよ。ドワーフで小さいけど力持ちなんだよ」
「リャーナ・リーツよ。ノインと同じくヒューマンで、もし相談事があったら話してくれていいわよ」
「イスカ・ブラだよ。アマゾネスだけど、そう簡単には男に靡かないって覚えといてほしいなーって」
「マリュー・レアージュです。どうぞよろしくお願いねぇ、ケルディオちゃん」
「セルティ・スロアです。えっと...そ、その角ってもしかしてユニコーンの仲間だったりしますか...?」
最後に自己紹介をしたセルティの質問にケルディオは首を横に振って違うと答えた。
今更ながら、ケルディオが喋っている事にアリーゼは気付くも敢えて聞かない事にした。
すると、賑わっている声を聞きつけたアストレアが階段を降りてきた。
「あら、また可愛らしいポケモンが仲間に加わったみたいなのね。リュー」
「アストレア様。ケルディオ、こちらが私達の主神である女神アストレア様ですよ」
「そうなんだ。初めまして、僕はケルディオだよ!よろしくね、アストレア様」
「ええ、こちらこそ。あなたをアストレア・ファミリアの一員として迎え入れるわ」
ケルディオのオレンジ色に染まっている鬣をそっと撫でてアストレアは微笑む。それにケルディオも笑みを返して喜んでいた。
その後、唐突にケルディオの歓迎会をしようとアリーゼが言い出すも輝夜がキレてしまい、全員で必死に止める羽目になったのは別の話。
【不思議獣制覇者】と書いて「ポケマス」。ポケモンマスターの略です。
それを考えたのはダフネ自身です。
これにて第三章は終了となります。
次章からもお楽しみに。