ハクタイの森を抜けて、今度は村の裏側にある険峻を登り始めた。
村人達にとってはちょっと高い岩山と思われているが、実際にはその地域の最高峰となるテンガン山。
寒い季節になると猛烈な吹雪が吹き荒れ、防寒具無しでは登山不可能な雪山と化す。
今は暖かい季節なので登山は可能なのだが、そもそも山を登るには険しい道を通らなければならず、そこに生息するポケモン達の協力がなければ登頂は出来ない。
そんな事はいざ知らず、ベルはトコトコと急な坂道を登っていった。
すると、坂道が忽然と消えて山の一部が削られた様な整地が現れる。
そこに足を踏み入れたベルは辺りを見渡して、一度息を吐き出してから深く吸い込む。
「おぉぉお~~~い!」
木霊するベルの声。徐々に遠退いて消えていくと、代わりにドスンドスンという足音が近付いてきた。
地面に足跡を残しながら現れたのは、この山に棲むポケモン達の大将と呼ばれる、よろいポケモン バンギラス。珍しくオス。
と、そのバンギラスの肩に乗っているストライカーポケモン エースバーン。やはりメス。
ここはバンギラスとエースバーンの縄張りなのである。
「バーンギラァ!」
「バースッ!バスバスッ!」
「こんにちは!エースバーンも一緒で丁度よかった。実はね...」
バンギラスとエースバーンに事の経緯を話すベル。2匹はその話に耳を傾けた。
エースバーンはともかくとして何故、村人でも手を焼かせているバンギラスとベルに面識があるのか。
それはまた1年前に遡る。ミミロップの巣作りが終わった頃だ。
幼馴染の少女と一緒にテンガン山を冒険者になった気分で登っていると、突如として頭上から落石が降ってきた。
ベルは少女を守るべく咄嗟に押し退けて、彼女の無事を祈りつつ目を強く瞑った。
だが、落石と同じ大きさの岩と火炎球がそれぞれの落石に直撃して粉砕され、ベルは九死に一生を得たのだった。
助かったとわかった途端に号泣するベルに少女が近寄って慰めていると、巨大な影が2人を覆い隠す。
その正体はバンギラスとエースバーンだった。
最初は2人とも襲われると思っていたものの、気さくにエースバーンが敵意はない事を伝えて2人を安全な場所まで案内してくれた。そこは、まだ2匹の縄張り且つ整地となる前の洞穴だった。
洞穴の中でモモンのみとマゴのみを貰い、甘い味を口にした事で落ち着く事が出来た。
...ところが、隣に座っていた少女からベルは強めに頬を引っ叩かれた。
守ろうとしてくれたのに感謝してもしきれないけれど、それ以前に自分の命をもっと大切にしなさい、と幼馴染の少女は泣きながら叱りつけた。
少女の涙を見て痛みがすぐに消えたベルは、ごめんなさい、と少女に心の底から反省して謝った。
その様子を見ていたバンギラスとエースバーンは突拍子もなく変顔を披露して2人を笑わせてあげた。
2匹は落石から少女を守ろうとしたベルの勇敢さを気に入っていたらしく、手助けをしてあげたかったのだろう。
この事でベルと少女はより一層仲良くなり、バンギラスとエースバーンも山で会う度に交流する仲となって今に至るという訳だ。
「どうかな?バンギラス、エースバーン」
「バーンギララララララッ!ギラァッ!」
「バスバス!ファイニー!」
「い、いいの!?ありがとう!じゃあ...ここを触ってみて?」
2つのモンスターボールを差し出すと、バンギラスとエースバーンは同時にそれぞれ軽く金具に触れた。
赤い光に包まれた2匹は吸い込まれるようにモンスターボールの中へ収納される。
あんなに大きいポケモンが入ったのに全然重くないのをベルは不思議に思いながらも、仲間となってくれた事に改めて感謝するのだった。
下山後、村に戻って来たベルは祖父にサーナイト以外の4匹ものポケモンが仲間になってくれた事を報告するべく帰宅しようとしていた。
その道中、1人の少女に声をかけられた。
「あ、ベル君。どこかへお出かけしていたんですか?」
「あ、春姫お姉ちゃん!」
一目でわかる可憐で美しい容貌、金髪長髪と翠の瞳をしている狐人。
和服が似合いそうなのに対して何故だかメイド服を着用して、洗濯物を取り込んでいた。
足を止めたベルは嬉しそうな笑みを浮かべながら春姫にサーナイト、スピアー、ミミロップ、バンギラス、エースバーンが入っているモンスターボールを見せた。
「見て見て!サーナイトやスピアー、ミミロップにバンギラスとエースバーンが仲間になってくれたんだよ!」
「まぁ...!ベル君、とうとうポケモンさん達をお仲間に迎える事にしたのですね」
「うん!これから...ポケモンマスターを目指して頑張るよ!」
モンスターボールの中にいるポケモン達を見てから、そう宣言するベルに春姫はニコリと笑みを浮かべた。
その笑顔は天使そのもので照れくさそうにベルは目を反らして、頬を指で掻く。
すると、頬に手が添えられて前を向けられると春姫の顔が間近に近付いてきているのに秒差遅れで気付いたベルは慌て始める。
「は、春姫お姉ちゃん!?な、何してっ!?」
「わ、私ではありません!こんな事をするはずがないでしょう!」
「...って、え?...あっ」
と、顔を赤くしながら自分自身を引っ張る春姫を見てベルは察した。本物ではなく偽物だと。
引っ張られている方の春姫もベルが自分の正体に勘付いたとわかり、不敵な笑みを浮かべるや否やバッとその場から飛び上がって宙返りをする。
紫色の光に包まれ、同色のエフェクトを潜り抜けるようにして着地したその姿は、春姫ではなくなっていた。
赤に黒色が混ざったボリュームのある鬣を揺らしながら、その影は悪戯な笑みを浮かべてゆっくりと振り返る。
「クルルルルルッ...」
「もう...ベル君をからかうのも程々に...というよりも私の姿でしないでほしいです!」
「ロアァ...ロア、ロアーク」
「わ、私までからかうなんて酷いですよ!ゾロアークさん!」
「まぁまぁ、春姫お姉ちゃん落ち着いて...」
ばけぎつねポケモン ゾロアーク。メス
春姫をからかうのが余程楽しいのかクスクスと妖艶な笑みを浮かべていた。
一方で春姫は恥ずかしさのあまり顔を真っ赤に染めており、苦笑交じりのベルに宥められる。
頬を膨らませてやはり許せません、と春姫が言おうとした時、背後からおーい、と誰かに呼びかけられた。
声がした方を振り返ってみると、薄い茶髪をセンターに分けた少女が筋骨隆々なポケモンを連れて向かって来ているのが見えた。
「なんか楽しそうにしてるけど、まーたゾロアークにからかわれてるの?」
「あっ、ル、ルノアさん、カイリキーさん。お帰りなさい...」
「カーイリキー」
「木こりのお仕事お疲れ様、ルノアお姉ちゃん、カイリキー。
やっぱりいつ見ても、そんなに大きいのを持てるなんてすごいね!」
自身よりも太く、長い丸太を幾つも担いでいるルノアとかいりきポケモン カイリキーにベルは驚きの声をあげた。
木こりを営んでいるルノア達にとっては日課であるので大した事ではないと思っており、純粋に褒められて照れくさそうにするルノア。
それに対してカイリキーは胸を張って得意げに鼻息を鳴らす。
先程までのやり取りをそれをすっかり忘れたのか、春姫はその様子を見て心を和ませていた。
「あれ?ベル、そのモンスターボールは...」
「あ、うん!今日から僕のパートナーになってくれるポケモン達だよ」
「へぇ~。じゃあ、いよいよポケモンマスターのスタートラインに立つって訳ね」
「とてもワクワクしますが...怪我をなさらないように気を付けてくださいね?」
「もちろんわかってるよ。でも...怪我ぐらいでもう泣かないようにもなっておかないと」
そう答えるベルに、春姫は不安げではあるがどこか嬉しそうな微笑みを浮かべ、ルノアは少しだけ成長した彼の
姿を見て、ただ頷いて笑みを浮かべる。
ゾロアークはあまり話を理解していないようだが、ベルが強くなろうとしているのを感じ取って喉を鳴らしていた。
ふと、ルノアは何かを思いついたかのように手と手をポンッと叩いた。
「ベル、私と軽くポケバトしてみない?」
「え?でも、ルノアお姉ちゃんまだそれ運ばないといけないんじゃ...」
「これくらいすぐ済むって。それに...アイツに追いつくために力を貸してあげたいからさ」
「アイツって...。...うん、じゃあお願いしていいかな?」
「そうこなくっちゃね。春姫といつもの空き地で待っててもらえる?」
場所を指定したルノアに頷くベル。唐突な話の流れにオロオロしていた春姫も思わずはい、と答えてしまっていた。
ルノアはカイリキーと木材加工場へと向かい、残されたベルは早速空地へ向かおうとしたが、春姫に呼び止められる。
「ベ、ベル君、いきなりポケモンバトルをするのはやはり危険なのではないでしょうか...?
ルノアさんも手加減はしてくださると思いますが...」
「うん...ちょっと緊張してるし怖そうって思うけど...
...約束を守りたいから、挑戦してみたいんだ」
ポケモンマスターになる事を決心した時から、その夢が叶うまで絶対に挫けないと誓った。
約束を
少しだけ頼りなく思う返答でもベルの強い意志を春姫は感じ取り、そこまで言うのであれば、と真剣な表情で頷いた。
あの頃の泣き虫で知られていた幼い少年は、もういない。
それなら自分がその約束を成し遂げるのを見届けるべきだと春姫は思ったからだ。
そして、ベルと春姫はルノアが待つ空き地へと足を運ぶのだった。
元気ハツラツ活発系エースバーン と 唾付けときゃ治るぜオラオラ様系バンギラス が仲間に加わりました
春姫とルノアが何故居るのかは、いずれ判明します。