ダンポケ   作:れいが

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37話 祝会

 元々予約していたテーブルにダフネは追加料金を支払って、全員が座れる席を用意してもらっていた。

 尤も、ラティアスは見えていないだけで浮遊したままなのだが。

 

 「ごめんねクロエ。急にテーブルと椅子を追加してもらって」

 「ノープロブレムニャ!お得意様なんだからサービスは当然ニャ!」

 「ありがと。じゃあ、とあえず...皆、ジュースでいい?」

 「ボク、オレンジジュース!」 

 「私は炭酸ならなんでも」

 「ラティアスさんはお水でいいそうです。私はお茶をお願い致します」

 

 それぞれが注文をしてクロエはメモを取るとすぐさま厨房へ向かった。

 ものの数秒で全員分に飲み物が行き渡り、祝会の主催者としてダフネが最初に自己紹介を始める。

 名乗った後にベル達の幼馴染である事やステイタス、それから所属してるアポロン・ファミリアの嫌味をこれでもかと吐いた。

 

 ラティアスを除いて、自身の主神や仲間に対してそこまで言うか?と思ってしまう程、全員その嫌味にはドン引していたのは言うまでもない。

 

 次にヴェルフ、リリルカ、リューと順番に自己紹介をしていき...ラティアスは本人ではなくベルが代わりに教えた。

 最後に命も改めて桜花と千草が自己紹介をすると、3人揃ってベルとルノアに深々と頭を下げながら春姫の助けになっていた事に感謝した。

 

 ベルがどういたしまして、とその気持ちを受け取って3人が座った時だった。ふと、波導で周囲から視線を感じたりヒソヒソと小声で話しているのに気付く。

 

 「アイツらか?イカサマしてレベル10になったヘスティア・ファミリアってのは」

 「ああ。白髪と狐人の女がいるんだ、間違いねえよ。ちっ...冒険者として恥ずかしくないのかよ」

 「ギルド長に大金を寄こしたって胸糞悪い話だ。マジで狡い連中だぜ」

 

 ミシリ、と何かが潰される音が聞こえた。ハッとなったリリルカが隣を見れば、テーブルの端が掴まれている指によって圧迫されながら歪んでいる。

 その指の持ち主であるルノアも怒りで表情を歪ませていた。誰かどう見てもブチ切れる寸前である。

 

 「ルノアお姉ちゃん、深呼吸して深呼吸!」

 「ど、どうか、どうか怒りをお鎮めください...!」

 

 ヴェルフ達が圧倒される気迫に慣れているベルと春姫は何とか抑えようとするも、周囲からの根も葉もないデマは止まらず...このまま店が木端微塵に吹き飛ばしかねなかった。

 

 リューはすぐにでも客達を黙らせなければと思い、立ち上がろうとしたが...ダフネに肩をポンッと手を置かれて制止させられる。

 ジッと自分を見つめて何かを訴える彼女に何か最良の手段があるのか、とリューは立つのを止める。

 

 それを確認してダフネは軽く手を挙げた。すると、トコトコと鈍色の髪を靡かせてシルが注文を承った。

 

 「ダフネさん、ご注文は?」

 「シル。水を1杯お願い」

 「はい。かしこまりました!」

 

 そう注文するだけで、運ばれてくる間も止めようとしない彼女にリリルカやヴェルフ、命達も面喰っていた。

 やがて、シルが持って来たグラスを受け取ると徐に手を乗せる。すると、みるみるうちに透き通っていた水が紫色へ変色していくのにヴェルフは目を見開いた。

 

 それを気にせず、ダフネは再びシルを手招きして呼んだ。丁度良くトレーを持っていたので、それに紫色に染まった水を乗せる。

 

 「これをあちらのお客様に差し上げて。私じゃなくてシルからのサービスって事で」

 「え?はぁ...わかりました。では、お持ちしてきますね」

  

 ダフネがよろしく、と言うとシルは紫色の水を持って男達の元へ。

 未だに怒りが収まらないルノアを止めようとしているベル達を余所に、ヴェルフはあれが何なのか問いかけるも、すぐにわかるとはぐらかされてしまい彼女を訝った。

 

 しかし、次の瞬間...バリンッ!という硝子が割れるような音が店内に響き渡り、次にガタン!と椅子が倒れる音も聞こえてきた。

 それにはヴェルフだけでなく、ベルや他の客も全員が驚いた様子で振り向いていた。

 

 「がはっ...!が、がぁああっ、あ、がぁあぁ...!」

 「お、おい、モルド!?しっかりしろ!どうしたんだよ!?」

 

 見れば、モルドと呼ばれた男が白目を剥いたまま全身を痙攣させて泡を吹いているではないか。

 明らかに異常反応を起こしており、一緒に酒を煽っていた仲間の2人はもちろんの事、店内の客達も混乱し始める。

 

 だが、そこへダフネが近付いて行くと...冷徹に見下しながら倒れてるモルドに聞こえていようがいまいが関係無しに話しかけた。

 

 「アンタが飲んだのはウチ特性の毒だよ。薄めておいたけど...もう後5分ぐらいで死ぬかな」

 「なっ...!?何言ってやがるんだテメェ!?こいつに何の恨みがあって」

 「しぇからしか!!」

 

 仲間の1人がダフネの胸倉を掴んで食って掛かろうとするも、どこから出しているのかと言わんばかりの大声でピシャリと黙らせつつ、その場に座り込ませた。

 キーンと響く耳鳴りにその男だけでなく客達も悶絶して...振動で揺れていた窓ガラスや天井に吊らされている魔石灯からの物音が止まるとダフネは周囲を見渡してから店内の客達へ告げた。

 

 「アンタら、随分と好き勝手言うてウチの友達ば馬鹿にしとったわね。

  イカサマしてレベル10になったと?冒険者として恥ずかしゅうなか?ギルド長に大金を寄こした?

  はんっ...全部嘘っぱちだって決まっとーにまんまとアンタらはそれば信じると?呆れて呆れて物も言えんわね。

  そげん不正行為ばしとったら、まずあん太っちょエルフでも尋問してオラリオから追放するに決まっとーやなかね。」

 

 最初こそ我慢していたが、心の昂りによって素の喋り方でダフネは捲し立てる。

 それには誰も彼女の言葉を遮ろうとも出来ず...いや、出来る訳もなくただ黙って聞いている。

 

 「今1分?だったらまだまだ言うちゃるわ。アンタらはヘドロよりも汚か口ば塞いで耳ん穴ばかっぽじってよう聞きんしゃい

  人間として疑うんは仕方ない事やて思うばってん、誰かがああ言うてこう言うて根拠もなか嘘を馬鹿正直に信用して話題にする方が恥ずかしゅうなかと?

  どうと?どうと思うとると?...答えられもしないくせに、よくもまぁベル達の覚悟も努力ば踏み躙るような悪口ばぺちゃくちゃぬけぬけと...

  ウチはアンタらよりも誰よりも、ベルもルノアも春姫もリューだってちかっぱに頑張ったけんランクアップしたっちゃわかるとーよ。

  何も知らないアンタらにベル達の事をとやかく言われる筋合いはこれっぽっちもなかよ。あるて思うならウチの前に出てきて答えてみりぃ。そん時は称賛しながら永久に眠らしぇちゃるけん。」

 

 ギラリと琥珀色の瞳から放つ眼光で全員を にらみつける。誰一人として反論も異論も唱えず、黙り込むだけった。

 

 「...今4分過ぎたと?じゃあ、締めにこう言っておくわ。アンタらみたいなのが胸糞悪かって自覚しときんしゃい!

  二度とベル達ん事ば悪う言いなんな!もしもウチの言う事ば破ったら...わかっとーよね?」

 

 ダフネは全員の顔を見てから、フンっと鼻を鳴らし...モルドに掌を向けて淡い緑色の光を振りかけた。

 すると、呼吸も浅くなって顔が青白くなっていたはずのモルドは呼吸が安定し始め、意識も戻っていった。

 

 「うぶっ...!ゲヘッ!ゲハッ...!こ、この、よくも毒なんざ盛ってくれたな...!」

 「ふーん?全然反省しとらんとーね?だったら...」

 「そこまでにしな。いくらお得意様と言っても、限度ってのはあるんだからね」

 「...命拾いしたわね。とっとと金払って失せなよ」

 

 ダフネが指を3本立てて何か繰り出そうとする前に傍観していたミアが止めに入る。

 それにダフネも大人しく従うと、モルドを睨んでからクルリと背を向けてベル達が居る席へと戻っていった。

 しかし、モルドはやられたままで終わる男ではない。引き抜いたナイフで背中から突き刺そうとしたが...

 

 「いい加減にしろぉっ!」

 「ぐへぇっ...!?」

 

 ベルは即座に接近し、ハリテヤマ直伝のばくれつパンチがモルドの顔面を捉えて何度も床を転がりながら壁に激突する。

 後頭部を強く打ち付けたのかピクリとも動かなくなり、ズルリと手足を伸ばして気絶してしまった。

 モルドの仲間が駆け寄って呼び掛けるも何の反応も示さない。このままでは死んでしまうと焦り、適当に支払って大急ぎで治療院へと運んで行くのだった。

 

 「...ベル。あれぐらいウチでもどうにか出来たんだからさぁ」  

 「そ、それでも、あんな卑怯な手を使おうとしてたんだし...ダフネちゃんが傷付くなんて、僕は嫌だよ」

 「...まぁ、ありがとーね。それじゃ...ミアさん。悪いんだけど、これ」

 

 ミアが立っているカウンターへ近付き、懐からダフネは何かを取り出して差し出す。小切手だ。

 眉間に皺を寄せたままそれを受け取ったミアは...眉を上下に動かしてやれやれと言った様子でため息をついた。

 

 「アホンダラ共!今から店ごと貸し切りにする事になったらさっさと出ていきな!金は置いてくんだよ!」

 

 

 

 「あっははははっ!いやぁホントにスカッたわ!見た?アイツらの顔!」

 「ああ。思い出すだけでもざまぁみろって気分になるな」

 「あれだけ言い負かされたからには主神にも言える訳ありませんからね」

 「顔は覚えたから次に来店した時は、お得意様に無礼を働いたって事で割増しにしてやるニャ!」

 

 夜も更けてきた頃...何千万ヴァリス分の小切手によって貸し切られた豊饒の女主人では高笑いが響き渡っていた。

 それは勿論、ルノアやヴェルフ、更にはリリルカとダフネの要望で貸してもらう事になったクロエのものだ。加えてシルも同席している。

 

 先程の出来事を面白おかしく話していて、客達を言い負かしたダフネとモルドを制裁したベルを称えている。

 

 「ダフネ殿。貴女の友を想う気持ち、この命...誠に感銘を受けました!」 

 「と、とってもカッコよかったです...!」

 「別に...友達を馬鹿にされたら許さないのが普通でしょ」

 「それでも、春姫の事まで馬鹿にしていたからには俺も思わず手を出しそうになっていたからな...

  クラネル、おかげで清々したぞ。感謝する!」

 「う、ううん。僕も咄嗟に手が出ちゃったから...あの人、大丈夫かな...」

 

 指に残る潰れる皮膚と鼻の骨が折れる感触。それにベルは罪悪感を覚えていたが、ヴェルフが肩を寄せて気にすんなと労いの言葉をかける。

 

 「あの野郎の自業自得って事にしとけよ。女相手に刃を突き立てようとしたクズ野郎なんだからな」 

 「彼の言う通りです。本来なら留置場送りにするところですが...ベルが鉄拳制裁をしましたので今回は見逃しましょう」

 「ミャーは見惚れてたニャ!少年が踏み来んで、拳を突き出した時に見た尻のライン...とても素晴らしかったニャ!」

 「あ、あはは...クロエお姉ちゃんのそれって褒めてもらえてるのかよくわからないけど、ありがとう」

 

 苦笑いを浮かべつつ、ベルは気持ちを落ち着かせようとオレンジジュースを一口飲んだ。

 貸し切りにしているので注文をすればどんどん料理が運ばれてきて、ベル達は舌鼓を打ちながら大いに楽しむ。

 春姫の料理と同じぐらい美味しいと思っていると、シルが取り分けてくれた他の料理を渡してくれた。

 

 「ベルさんはレベル10とダフネさんより上という事ですが...何かすごい魔法を使えたりするんですか?」

 「え?あ、えっと...まだ神様から誰にも言わないようにって言われてるから、2つだけって言っておくね」

 「そうですか。ちょっと残念ですけど...いつか教えてくださいね。私はシル・フローヴァと言います」

 「ベル・クラネルだよ。よろしくね、シルお姉ちゃん」

 「はい。さっ、まだまだ料理が運ばれて来ますから、どんどん食べちゃってください」

 

 シルに勧められるがままに、ベルは取り分けてもらった料理を味わいながら平らげていく。

 時折、ラティアスに食べさせてもらったりお返しに食べさせてあげて...お互いに食べている光景を微笑ましく思いながらシルも自分の取り分を食べていた。

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