その日、バベルの30階の大広間にて神会が開かれていた。各ファミリアの主神が集い、自神が持つ情報の交換や最近起きた話題を面白おかしく語り合っている。
内容としてはアレスを主神とするラキア王国がオラリオへ恒例の進軍、眷族が大勢失踪してソーマ・ファミリアが解散、【猛者】超えの冒険者が2人も現れる、2日前にダンジョンで起きた新種の巨大なモンスターによる大騒動などだ。
どの話題も神々にとっては興味を持つものばかりだが、1番に目を付けているのがオッタルのレベルを超えた冒険者2人の存在である。
オッタルと同等の力を持つレオン・ヴァーデンベルクでさえ到達していない未知なる領域。それをあっさりと乗り越えたとなれば、神々は何が何でも弄り倒したいはずだ。
だが、その前に他にもランクアップした眷族に授けるための二つ名を考えなければならない。
「ほんなら、まずはセトんトコから始めよかー。セティ・セルティやな」
「た、頼む、どうかお手柔らかに...!」
「断る!」
セトの悲痛な叫びを聞き、今回初めて出席するヘスティアでさえこう思った。
こんなおふざけで眷族の二つ名を決められていいのか、と。
隣に座っている、ヘスティアが天界にいた頃から親しい間柄のタケミカヅチもそう思っているが...零細ファミリアが等級の高いファミリアの神々に敵う訳がないので悉く変な二つ名を決定されていく。
やがて、デュオニソスが提案した【絶†影】という二つ名を命に授けられる事が決定されてしまい、タケミカヅチは大いに嘆くのだった。
「さーて、次はーっと...ドチビんトコの話題で持ちきりになっとる眷族やな」
「言っておくけど、ボクがズルをしたと思っているのなら大間違いだよ。ベル君達は自分の力でランクアップしたんだからね」
「ほ~~ん?そない言うなら、どうやってこんなデタラメに強うなったんや?」
「それは...ベル君達がポケモンと一緒に頑張ってたからだよ」
「...なんやて?ポケモン?」
神々は聞き慣れないヘスティアの言葉に顔を見合わせて、知っているか尋ね合う。しかし、誰も聞いた事もない言葉であった。
ヘスティアはそれが当たり前の反応と受け取り、簡単にではあるが説明した。
ダンジョンはもとい、どこの国や地域にもいない人間と友好的な生物である事を強く主張して。
その話を聞いても神々の興味は失われず、更に詳しく知りたいが為に身を乗り出して話の先を促した。
「なら、その村に行けばポケモンを手に入れられるんだな?」
「手に入れられるだって?はぁー...君はこの間の騒動、ロキの眷族がポケモンを傷付けた事に原因があるんだぞ。
それなのに、なんて私利私欲且つ傲慢な考えをしているんだ君は」
「は?ちょい待ち、何のこっちゃそれ。ウチの眷族がって...誰のせいっちゅうんや?」
「アイズ・ヴァレンシュタイン。その子がレックウザっていう黒い龍の姿をしたポケモンに斬りかかって...ロキ?聞いてるのかい?」
ロキは話の途中で頭を抱え、呼びかけるヘスティアに返事をする気力が失せていた。
黒い龍という言葉が出た時点で間違いなくアイズが犯してしまった過ちだと理解してしまったからだ。
「...その場にはアイズたん以外にも、ウチの眷族も居ったんか?」
「うん。ベル君達が事態を収めてくれたのを最後まで見ていたそうだよ」
「そやか...せやけど、そのポケモンっちゅう生きモンの存在がホンマなんか証明してもらわんと」
その瞬間、頭上から何かが響き渡るような振動が降り注いできた。
神々にはそれが神威であるとすぐに察知したが、同時にこれほどまでに神威を開放してしまえば強制送還される程の圧倒的な力だと。
最初に見上げたのはフレイヤだった。白い光が渦を巻き、どこかと繋がっているように思えた。
ヘスティアやロキ、他の神々もその光の渦を凝視した。何が起きているのか、このような現象を今までに見た事がないからだ。
しばらくして、光の渦の中から先端の尖った棒状のものが4本現れ、少しずつ全容が明らかとなっていく。
鬣を靡かせるような純白の体。頭部の一部と身体の下部はラインが入った灰色で額と四肢の先端は金色。
胴体中央部にはX字型と三日月が合わさったような形状の黄金の装飾を持ち、Xと弧形が重なる位置には翡翠色の宝玉が備わっている。
そうぞうポケモン アルセウスが降臨したのであった。
「我こそが、そのポケモン...名はアルセウス」
「アルセウス、やと...!?この世の全部を...いや、それどころか天界創造したっちゅう原初の神...!?」
「全てではない。時間と空間を創造し、物の概念を生み出したディアルガ、パルキア、ギラティナ。
意志、知識、感情を司り、心の概念を生み出したユクシー、エムリット、アグノムのてだすけによって世界は形作られたのだ」
アルセウスが語る言葉に誰しもが嘘ではないと感じ取った。それは神威が溢れ出ている事でより鮮明に示され、信憑性を強くしている。
すると、体の向きを変えると見下ろすようにロキを見た。表情こそ読み取れないものの...明らかに敵意を向けられているとロキは直感する。
神威を開放しながら降臨した原初の神、逆らう事が大罪に当たる行為だと判断し、固く握りしめた拳を解いているとアルセウスが言葉を発した。
「ヘスティアから聞いての通り、お前の眷族は我が愛しきポケモンを傷付けた。
たとえ過去に抱いた心の傷による衝動で犯してしまったとしても...裁きを受けさせなければならない」
「...そこまで知ってるんやったら、ちょっとぐらい大目に見てくれてええやんっが...!?」
「ロ、ロキ!?」
その場に倒れ込んだロキを見てヘスティアは声を上げる。両隣に座っていた神々も困惑していた。
普段細めている目が見開いたまま赤い瞳孔が揺れ動いており、口からは涎を垂らして肺の空気を吐き出して悶え苦しんでいる。
ヘスティアはアルセウスに視線を移すと、その目が紫色に光っていて何かしらの力でロキを苦しめているのだと察する。
「ア、アルセウス、様!止すんだ!ロキを解放してあげなよ!」
「口の利き方がなっていなかった、それを躾けているだけの事...ロキ、次は無いと思え」
「がはっ!ぐえっ...!っ...やって、くれるやないかい...で?その裁っちゅうんは...どないなもんなんや...?」
「その眷族に直接申し付ける。案じなくてもよい、命を奪う事はしない」
そう答えるアルセウスにロキは呼吸を整えてから立ち上がると、浮遊しているアルセウスを見据える。
やはり表情を読み取れない。しかし、ロキはアルセウスの怒りは未だに収まっていない事だけは理解していた。
その言葉を信じる他ないと、無言でため息をつきながら頷いて倒れていた椅子を立たせて座り直す。
すると、ヘファイストスが立ち上がり、それに気付いたアルセウスは体の向きを反対側へと向けた。
「述べるがいい、ヘファイストスよ」
「...1ついいかしら、アルセウス様。あなたを含めて...何故、ポケモンは人間と共存する道を選んだの?」
「私の摂理だ。生きとし生ける者が手を取り合う...ただ、それだけの事に過ぎない。故にポケモンが人間に危害を加える事はないと思え」
「...わかったわ。ありがとう」
全てお見通しとばかりにアルセウスは、ヘファイストスが問いかけようとしていた事を先に答えてしまう。
その答えに最初こそ眉間を顰めたヘファイストスだがこれ以上聞いても同じだと思ったのか、頷くと再び椅子へと腰を下ろした。
「では、私は一度天界へ戻るとしよう。だが、もう1つ...フレイヤよ」
「...何かしら」
「お前もロキの眷族と同様の罪を犯したその時は...眷族共々、裁きを受けるがいい。
フレイヤのみではない。お前達もポケモンを道具のように利用しようと思い立てば...容赦はせぬぞ」
先程よりも神威を開放し、警告するアルセウス。神々はそれを黙って聞き入れる他なかった。
一方で指をそっと添えるように腕を組んで平静を装っているフレイヤ...だが、その瞳には動揺の色が見て取れた。
間違いなく本気で自神とオッタル達に神罰を下すつもりでいるのだと。フレイヤは返事も頷きもせず、誰にも勘付かれないように無言の肯定をするのだった。
そうして、アルセウスは上昇していきながら光の渦の中へと姿を消した。
「...あんなん脅迫と同じやないかい。危害を加えない言うときながらウチにあれはどういうこっちゃねん!」
「人間は、って言っていたし...同じ神だから躊躇いなくやったんだろうね。今更だけど、大丈夫かい?」
「...フンッ、お前に心配されんでも平気や。ほな、二つ名を考えるの再開しよかー」
パンパンッと手を鳴らしてから資料を持ち、ロキはいつもの様子で進行し始める。
しかし、その手は僅かに震えているよに見えたが...フレイヤ以外、誰もそれに気付く事はなかった。
「ちなみにや、ドチビ。こういうのがって要望とかはあるんか?」
「え?あ、あぁ...」
次回も神会の続きです