リリルカは受け取った段ボールから食料や飲料水のボトルを冷蔵庫へ入れていく。初めて見るハイテクな機械にはちょっとだけ驚いていた。
別の世界へ来ているという事実の方が衝撃的過ぎて少しの事なら受け入れられているようだ。
一通り整理を終えると、ティオナ達が待ってるをリビングへと戻った。改めて見ても自身が知っている3人と少し見た目は違うが似ていると思った。
立ち尽くす彼女に、吊り下げ式の椅子に座って寛ぐルアンが問いかける。
「リリルカ。ここへ来た理由はもちろんわかってるな?」
「...パートナーを見つけるため、ですね。しかし、わざわざ別の世界に来る必要はあったんでしょうか...?」
「時間の余裕が出来るからだよ。その方がリリルカもじっくりパートナーを探しやすいからな」
ルアンによれば、元の世界からウルトラホールを通ってこの世界や他の世界に行っている間は時間の流れが遅くなっているとの事。
こちらで1日過ごしても元の世界の時間は数分程度しか経過しないらしい。つまり、リリルカはいつでもこの地方からオラリオへ帰る事が可能なのだ。
また、アローラにはリージョンフォームという元の世界で発見された姿とは異なるポケモンが生息しており、もし仲良くなれたらゲットしてみるのも良しと勧められた。
「ポケモンを覚えさせてやったとはいえ、咄嗟に思い出せない時のためだ。これ持って行っとけ」
「わっとっと!?これは...なんですか?」
ルアンから投げ渡されたのは、正方形をした表面がオレンジ色で裏面が黒い鏡のような物体だった。
初めて見るため、この世界特有の魔道具かとリリルカは興味津々に色々な角度から観察している。
すると、オレンジ色の表面に浮かぶ楕円形の目と笑っている口がある顔のような模様が目線を合わせてきた。
わたわたと驚きながらも、なんとか落とさずにキャッチする。
「そいつはスマホロトム。ポケモンの生態について教えてくれたり高所から落下した時に上下のトゲを掴んだら浮遊してゆっくり降ろしてくれる安全機能と落下した地点へ戻れるおたすけ機能が搭載されているから大いに役立つはずだ」
「ロトムって...プラズマポケモン のロトムですか?」
「そう。そのスマホっていうデバイスと融合してるから、あんまり粗末に扱ったりしたらダメだよ?」
「えぇ!?」
まさかポケモンを渡されるとは思っていなかったリリルカは、このロトムが2番目のパートナーになるのか、と思ったが...
どうやら、その状態のロトムはゲットをしている扱いとはなっていないため、飽くまでもサポーターと似た関係になるそうだ。
少し残念そうな気持になるリリルカだが、今後仲良くしたいと思い話しかけた。
「ロトムさん、これからリリの事をよろしくお願いしますね」
『任せロト!』
「それじゃ...アローラガールズ。この後予定がないなら、リリルカに付き合ってやってくれないか?」
「パートナーを探すにしても、まだこの島がどんな所か全然知らないもんね」
「もっちろんいいよ!リリにこのアローラの事を教えてあげるね!」
「島を見て回りながら釣りをするのもすごく楽しいですよ」
リリルカは内心2人は付いて来ないのかと少し不安そうな面持ちとなる。
それを察したようでダフネはその不安を取り除くために言葉を添えた。
「そんな顔しなくても大丈夫だって。皆、頼りになるって保障してあげるよ」
ウチらは夕飯の支度をしておくから、夕暮れまで遊んで来なよ」
「自分で行動してポケモンの事を学ぶのも勉強だ。頑張って来い」
「リリルカさん、初対面なので少々不安かもしれませんが...わたくし達を信じてくださいませんか?」
レフィーヤにそう真っ直ぐ見つめられたリリルカは彼女達が信頼に値する人物だと感じ取り、不安な気持ちはなくなった。
いずれ2人からの教授してもらう事もなくなる。それなら、その前に少しでも自力で多くの事を知るチャンスだと捉えるとリリルカは快諾する。
「わかりました、皆さん。よろしくお願いします」
「こちらこそ!よーし!じゃあ、どこに行ってみよっか?」
「ここはメレメレ海やカーラエわんに行くべきです。アローラの綺麗な海をもっと見せてあげましょう」
「確かに論理的結論としては納得です!リリルカさん、よろしいでしょうか?」
「はい。このアローラに詳しい皆様にお任せします」
そうしてリリルカはアローラの気温に適した服へと着替えた。
天辺に花が付いた赤いニット帽、中に白いシャツを着用した花柄のカットソー、緑のホットパンツ、そして赤と黒のスニーカーだ。
万が一トラブルがあった時のために、この世界の通貨である二万円もルアンから手渡される。
準備が整い、コテージを出たリリルカはティオナ達と一緒に出発した。
「ダフネ様達とは、いつ出会ったのですか?」
「まだポケモンスクールに入学する前の頃だから5年くらい前かな。
遊びに出かけた森の中で迷ってたら、偶然出会って助けてくれたの」
「あの時、ヤングースの縄張りに入ってしまって...2人が居なかったらどうなってたか...」
「それから交流を続けていまして、ポケモンについての勉強やバトルの練習を見てもらっています」
ちなみにあのコテージは、レフィーヤが助けてもらった事を両親に伝えたところお礼として提供しされたらしい。
その話を聞いてリリルカはもしかすると、レフィーヤは裕福な家庭のお嬢様では?と思った。
今、こうして話してる際の歩き方や仕草から高貴な雰囲気を漂わせているのが何よりも証拠だ。
服装もティオナとアーディとを見比べてみると高級感を感じる。
そうして話している内に一番道路へ入る。ここにもポケモンは棲んでいるが、目的地を目指すため見るだけに留めた。
木の枝に きつつきポケモン ツツケラ達が休んでいて、道を横断する こねずみポケモン コラッタは立ち止まってこちらを見るもすぐに草むらへと姿を消した。
ツリアブポケモン アブリーが花から蜜を吸い取る仕草に愛らしさを感じて、自然と笑みが零れた。
ダフネの故郷である村にはまだ訪れた事はないが、きっとこのような風景がごく自然な場所なのだろうと思った。
一番道路を通過し、歩き続けていたリリルカはふと鼻の奥がすっとするような感覚がして、アーディがもうすぐメレメレ海の砂浜に到着すると伝えてくれた。
一般道路から脇道へ入り、少し進むと今度は木々に挟まれた小道へと入る。どこへ向かうのかわからないが、リリルカは先導するアーディに付いて行く。
やがて小道の終わりとなる曲がり角を抜けた途端...
キャモメの鳴き声と波音が響き渡る青い海が視界に飛び込んできた。
先程のコテージから一望した時と違い、直接砂浜から見る事でより一層その美しい光景を際立たせている。
「わぁ...」
リリルカは思わず感嘆の声をあげながら、メレメレ海の砂浜へと足を踏み入れた。
先程のコテージから一望した時と違い、透き通った水面が陽の光で宝石を散りばめたように輝いて、直接砂浜から見る事でより一層その美しい光景を際立たせている。
「綺麗でしょう。ここは所謂隠れスポットなんです」
「あそこに洞窟があって日陰に入ったら、風が吹いて気持ちいいんだよ!」
アーディが指さす方向を見ると海と砂浜の境目に洞窟があり、その入口からティオナが言った通り日陰になっている。
涼むのには快適そうな場所だ。
せっかくですから入ってみては?とレフィーヤに勧められたので、スニーカーと靴下を脱いで濡れないようにその場に置いた。
波打ち際まで近寄り、押し寄せてきた海水がリリルカの足を包み込む。最初は背中がゾクゾクとしたが、次第に慣れきてゆっくりとホットパンツが濡れない膝下まで進んだ。
「はぁ~...ひんやりとしていて気持ちいい...」
ひんやりとした冷たさ、さざ波の心地いい音、そして潮風が頬を撫でる感覚にリリルカは自身が海の一部となっていくように思えた。
オラリオでは決して味わう事の出来ない、自然に溢れたアローラ地方ならではの清々しさに心が満たされていく。
しばらく波と戯れていたが、突然前方から大きな波が押し寄せてきてザッパァーン!とリリルカが飲み込まれた。
「リリ!?」
「た、たた、大変です!」
大慌てでティオナ達は波打ち際に倒れているリリルカへ駆け寄る。
濡らさないよう気を付けていたホットパンツどころか全身びしょ濡れとなり、海水を飲み込んでしまったようで咳き込んでいた。
服を脱いで水着姿となっているアーディが背中を擦ってあげた。
「ぶへあっ!ゲホッ!ゲホッ!」
「大丈夫ですか?」
「な、なんとか...うぅ、下着までぐっしょりです...」
顔の水滴を拭き取り、帽子を絞っていると...ごめんなさい、と誰かが謝ってきた。
リリルカは3人の誰かが言ったのかと思ったが、違うようでラティアスと似たように直接頭の中に響く感覚だった。
帽子を被り直して前を向くと、その声の主が視界に入った。
「ラ~プ」
のりものポケモン ラプラスだ。その巨体で海面から飛び出した結果、リリルカを波に巻き込んでしまったようだ。
「ラ~プ...」
「あぁ、いえ。わざとではなくて偶然こうなってしまったのですから、気にしないでください」
リリルカがラプラスを宥めると、それに安堵したのか短く鳴いて頭を下げる。
人語を理解出来る高い知能を有しており、無駄な争いを好まない優しい性格なので改めて謝罪したようだった。