1匹は違うけど。
まだ少し肌寒く感じる早朝。
祖父を起こさないようにベルはこっそり家から抜け出して、村から少し離れた草原にやって来た。
モンスターボールを取り出すとポケモン達を外へ出し、挨拶を交わしていた。
「皆!おはよう!」
「サナ」
「スピッ!」
「ミミロ~~プッ!」
「バース!」
「バンバババンバン!」
じゃれつく挨拶を終えて早速特訓を始める。
まずはポケモン同士で戦わせて、次にベルが指示を出しての模擬戦だ。
ベルのパートナーとなったポケモン達は全て最終進化しており、それぞれ異なるものの自身の得意な事を活かした戦法で立ち回っている。
サーナイトは怪我をした際の治療をしてもらうため、外してもらっていた。
スピアーは唯一、飛行出来るので上空からの遠距離攻撃や近接攻撃を織り交ぜてのヒットアンドアウェイ戦法を。
バンギラスはその巨体に見合った近接戦闘が得意なので、ミミロップも同様に共に真正面からの格闘戦を繰り広げる。
エースバーンもスピアーと似た近接戦と遠距離戦が得意で更には、ほのおタイプのわざで火力が増しての攻撃が出来る。
続いて、ベルが指示を出してわざのコンボを上手く合わせられるかを試す事にした。
ルノアとの模擬戦を経て、指示を的確に出す事が出来るようになっていたため、ポケモン達はすぐに応えてわざを繰り出せている。
バンギラスが足元を踏み締めると、敵が居ると想定されている位置の地面からストーンエッジの尖った岩が突き出てきて、その上空からスピアーの鋭い針を発射するミサイルばりで土煙が舞う。
それをスピアーがきりばらいで吹き消すと、バンギラスのとっしんで突き飛ばすという攻撃と攻撃の合間を縫って、敵を翻弄するかのようなコンビネーションも完璧だ。
「よし...!次はエースバーン!かえんボール!」
「ファイニーッ!」
「ミミロップ!メガトンキックでシュートだ!」
「ミミッ!」
エースバーンが蹴り飛ばした炎のボールをものすごい力を込めたミミロップのメガトンキックで威力が倍増し、着弾地点で爆発が起こる。
これも見事な連携技として戦闘時に役立つとベルは確信した。
しかし、ダンジョンでは自分が戦わなければならなくなるため、ベル自身も戦えるようにならなければいけないと気付く。
特訓を終えてから、ベルはルノアにその事を相談するとあそこで教えてもらうといい、とアドバイスされた。
ベルはなるほど、とすんなり納得してルノアにお礼を言うのだった。
明くる日、ベルはある場所へやってきていた。
そこはガラガラ道場と呼ばれる、村人やポケモン達が厳しい修行に励む場所。
ベルがここに訪れたのは、言わずともここでモンスターと戦う術を学び、皆と強くなる事だった。
「よしっ...頑張るぞ~」
気合を入れてベルはガラガラ道場の入口へと入って行った。
長い階段を降りて少し進むと、広々とした円形空間となっている場所に着く。
そこがガラガラ道場の修行場であった。
地面を掘って地中を木材やモンスターの骨で補強した頑丈な作りとなっており、壁には木で作った対戦用の武器や盾が幾つも立てかけられている。
中央では門下生やポケモン達が気合を込めた掛け声を上げながら鍛錬に励んでおり、ベルは邪魔にならないよう端を歩いて行く。
そそくさと歩いているベルに気が付いた者達が次々と挨拶を返したり手を上げたりしてきたので、ベルはそれに応えつつ奥へと進んで行った。
やがて門下生やポケモン達の励む姿を見ていた3匹のポケモン達の前にベルはお辞儀をした。
「ガラ」
「マク」
「カモ」
「こんにちは、ガラガラ師匠、マクノシタさん師匠、カモネギ師匠。
あの、お願いがあって会いに来たんだけど...」
最高師範であるガラガラ、師範代のマクノシタ、そしてカモネギがこの道場を切り盛りしている主達だ。
「ガラ?」
「うん。僕...強くなりたいんだ。モンスターに負けないくらい強く。
だから、ここで修行をさせてください!」
ガラガラ達はベルの真っすぐに見つめてくる赤い瞳をジッと見つめ返した。
以前からベルの事を知る3匹にとって、その瞳から強い意志を感じ取るのは容易かった。
まだ未熟ながらも、自身の願いや目標の為に強くなりたいと願うベルを見て、ガラガラはマクノシタとカモネギに目を配らせる。
そのアイコンタクトを受けた2匹は静かに頷き、ガラガラはベルへと視線を戻す。
「ガラ。ガラガラ!」
「ほ、本当に?本当にいいの...?」
「マク!」
「カモ。カモ」
「う、うん!頑張るよ!絶対に強くなって...追い付いてみせる!」
「マクーーッ!」
「ごはぁっ!?」
マクノシタの手加減はされているが子供くらいなら簡単に突き飛ばせる張り手を受けてベルは床をゴロゴロと転がる。
壁際にまで転がったベルはその場で仰向けになって大の字で倒れた。
私服から新品の白い道着に着替えているようだが、既に茶色い染みが出来てしまっている。
何故、いきなり師範代であるマクノシタに張り手を喰らわされたのか...
その理由としてはモンスターとの戦いに備えるには実戦が一番と考え、マクノシタに手合わせをお願いしたのだ。
マクノシタはベルの心意気を無下にはさせまいと、全力で相手をし...ベルは開始5分で土埃まみれとなっている訳である。
門下生やポケモン達は無茶だとわかっていたとはいえ、あそこまでされては同情するしかなかった。
「カモ!」
「ごふっ!?」
次にカモネギとの剣道...カモネギはネギだが、ベルは竹刀を構えて頭上からの面を受け止めようとするも、いきなり軌道が変わって腹部にネギが叩き込まれる。
鳩尾ではないにしても、相当に痛い一撃でありベルは涙目になってしまう。ちなみに防具などはしていない。
何とか立ち上がって、竹刀を構え直すが容赦を知らないような面、胴、突き、小手を次々を受け続ける。
終わり頃には、頭にいくつものたん瘤、手の甲から腕、脇腹、胸部には大小中の青痣が出来ていて満身創痍となって、また大の字で倒れるのだった。
誰もが、号泣してもう帰る!と諦めて帰ってしまうだろうと思った...が
「まだまだぁ...!」
ベルは涙目にはなっているが決して泣かないで立ち上がってみせた。
その瞳に諦めの色は宿っておらず、寧ろより強くなってやるといわんばかりに燃えているではないか。
マクノシタやカモネギは感心し、ガラガラは必ず強くしてやろうと決めた。
その後、傷だらけになりながらも何とかベルはマクノシタ達と手合わせを続けていく。
肘や膝を擦り剝いて血が滲んでいようとも構う事なく、ベルはとことんぶつかって痛みに耐えなながら歯を食いしばり修行に挑み続けた。
門下生達やポケモン達はそんな頑張る姿に負けていられないと、いつも以上に張り切って鍛錬に励むのだった。
「はぁ...はぁ...ぁ、ぅ...」
「お、おい!?ベル!?」
「大丈夫か!?しっかりしろ!」
やがて、体力の限界が訪れたのは夕方に差し掛かる頃だった。
初日でここまでボロボロになった人物など居ないため、門下生は大慌てでまんたんの薬やオレンのみを手に手当てをしてあげようとした。
だが、モンスターボールから出てきたサーナイトが慌てる全員を止めて倒れているベルに両手を翳す。
両手から七色の光が溢れ出して、ベルの全身を包み込んでいく。いやしのはどう。
全身の傷が全て見る見るうちに消えていき、体力もみるみる回復していった。
治癒が終わると、ゆっくり目を目を開けて何事もなかったかのように起き上がるベル。
一斉にため息をついて安堵する門下生やポケモン達にベルは首を傾げていたが、先程まで感じていた痛みが全て消えているのに気付いて驚く。
そして、出したはずのないサーナイトの姿が視界に入り、傷を治してくれたのはサーナイトだと理解する。
「ありがとう、サーナイト。治してくれたんだね」
「サナ...」
ベルのお礼にサーナイトはニコリと微笑んで頷き、自分のモンスターボールの中へと戻っていった。
傷が癒え、体力も回復したベルが立ち上がると、周囲の門下生やポケモン達は心配して安否を気遣ってから大丈夫だとわかると拍手して称賛した。
「よく頑張ったな、ベル!最後まで根性見せたじゃないか」
「マクノシタ師匠の突っ張り受けて立ち上がるなんて大したもんだよ!」
「カモネギの突きを受けて最後まで戦意を失わずに戦うとは...見事でした」
「凄いわ、ベル君!これからもっと強くなれるはずよ」
「ガラ。ガラララララ!」
「マク!」
「カーモ!」
弟子達に混じってガラガラ達もベルがモンスターに負けないくらい強くなれる事を確信して、これからもっと励むように激励した。
嬉しさと恥ずかしさが混ざって顔を赤くしながらも頬を指で掻きながら笑うベル。
その日の鍛錬は終了という事で帰路について、サーナイト達が傍を歩いていた。
ベルがボロボロになるまで修行をしていた皆も気が気でなかったようで、無茶はしないようにと真面目なスピアーからお叱りを受ける。
気を付けるよ、と答えた一方でガラガラ達の実力を知ったベルは呟く。
「やっぱり師匠達はすごく強いなぁ...本当に僕も強くなれるのかな...」
「サナ。サナサナ」
「スピッ!」
「ミミロ~ップ」
「ファイニー!」
「バーンギラッ!ギララララ!」
「皆...ありがとう。そうだよね、負けられない勝負がいつか来るんだから...
絶対に強くなってみせるよ!」
ベルの言葉に同意して、皆は大いに気合を入れて拳...スピアーは針だが、それぞれ振り上げた。
負けられないと、決意を新たにベルも拳を作って大きく振り上げるのであった。
こうしてベル君はスーパーマサラ人へと成長していきます。