ダンポケ   作:れいが

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7話 ブラッシングクリーナー

 ある日の事。春姫にお願いされて、ポケモン達のブラッシングをベルは手伝っていた。

 場所は勤め先であるポケモンセンター。診療、健康診断、躾けの矯正などをしている施設だ。

 

 この時期になると体毛が生え変わり始めるため、多くのポケモン達が預けられるそうなので、ベルの手を借りたいという事だった。

 春姫によれば、ポケモンの体毛は様々な毛並みとなっていて、手入れの仕方次第では見た目が大きく変わるらしい。

 

 そのためブラッシングの方法も何種類もあるブラシで整えたり、ケロマツの泡を使って艶を出したりする。

 そして、ブラシで毛並みを整えた後は丁寧にタオルで水気を拭き取って乾かしたりと1匹ずつ手入れを行うそうだ。 

 無毛のポケモンは同じくケロマツの泡でゴシゴシとスポンジで洗ってあげると喜ぶのだとか。

 

 余談だが、ブラッシングに伴って抜けたポケモンの体毛は処分されるが、メリープやチルット、エルフーンやウールーなどから抜けた柔らかな体毛は最高質の綿として商品価値が高いので大切に保管するという。

 

 ベルは教えられた通りにブラシを手に取って毛並みを綺麗に整えていく。

 特に長毛だったり、体毛がモコモコしているポケモンだとブラシが引っ掛かって中々苦戦していた。

 あまりこういった作業は得意ではないベルではあったが、ブラッシングの他に診察や卵の様子を見たりなど忙しそうにしている春姫を見て、めげないで頑張ろうと手を動かし続ける。 

 

 段々と慣れてきたのか、最初の時よりも毛並みがサラサラと、モフモフと綺麗になり始めてベル自身それが嬉しくなってどんどんブラッシングをしていく。

 

 「グルルルルッ」

 「あはは。気持ちいいの?ウインディ」

 

 そして、当のポケモン達はそんなベルに甘えて鳴き声を上げていた。

 わしゃわしゃとブラシで撫でられる感触が気持ち良いのか、お腹を見せたりとせがんでくる。

 そんな可愛らしい仕草に思わず笑ってしまうベル。

 

 やがて作業が終わると満足そうにしながらモンスターボールへと入っていくのだった。

 

 「おっ?ベル、頑張ってるみたいだね。どう?大変じゃない?」

 「ルノアお姉ちゃん。ううん、慣れてきたから楽しくなってきたよ」

 「へぇ~?...確かにこの触り心地は癖になりそうなくらい上手に出来てるね」

 

 ベルの返答にルノアはオオタチの体を撫でながら答える。

 本当に肌触りが病みつきになってしまい頬が緩みきっていた。オオタチも嬉しそうである。

 それからしばらく撫でていたのだが、いつまでもこうしている訳にもいかないので手を止める。

 

 「私のコジョンドとクチートもお願いしていいかな?あんまりに忙しかったら今度にするけど...」

 「えっと...大丈夫だよ、残ってるのはこれぐらいだから任せて!」

 「ありがと、ベル。コジョンド、クチート、良い子にして綺麗にしてもらいなよ?」

 

 予約順に棚に並べられたモンスターボールの最後尾にルノアはコジョンドが入っているボールを置く。

 そうして木こりの仕事へと向かい、ベルは手を軽く振りながらその背中を見送った。

 

 オオタチからリングマ、エネコロロ、エルフーンなど順番に終えて漸くルノアが預けたコジョンドとクチートにへと順番が回る。

 モンスターボールを軽く投げ、コジョンドを出したその瞬間...

 

 「コジョーッ!」

 「おわぁっ!?」

 

 コジョンドがベルへ飛びついて押し倒し、自身の体を擦り付け始めた。

 いきなりの事で戸惑うベルだが、いつもの熱愛的なスキンシップなので特に慌てる様子もなくコジョンドを撫でて落ち着くように促す。

 しかし、それでもコジョンドは止まる様子もなく寧ろ頬を舐めてきたりと余計にベルに甘えてきて、全く離れる気はないようだった。

 

 流石に困ったベルはどうしようかと思っていると、背後からクチートが現れてコジョンドを後頭部にあるおおあごで掴みながら引き離した。

 流石に甘噛み程度に留めているようで痛がってはいない様子である。

 

 「コジョ!コジョ~~~!」

 「クチ...クチクチ」

 「コジョ~...」

 

 ベルに迷惑をかけるのはやめなさい、と言い聞かせたようで暴れていたコジョンドは反省したのか大人しくなる。

 それを見てクチートはやれやれとため息をつきながらコジョンドをそっと下した。

 

 「あ、ありがとう、クチート。コジョンドも悪気がある訳じゃないから怒らないであげてね?」

 「クチ...」

 

 ベルの頼みなら仕方がない、とクチートはコジョンドの背中を小さな手で小突く程度で許してあげた。

 やめて、と鳴きながらコジョンドは渋々と両腕を前に出し、長い体毛を垂らしてベルがブラシで梳け易くするようにした。

 

 隙間が細めの櫛に交換してブラッシングを始める。

 少しだけご機嫌斜めになっていたコジョンドだったが、すぐに上機嫌となって気持ちよさそうに鼻歌を歌い始めて、クチートはボールに戻る事なく壁に凭れ掛かってその様子を見ているのだった。

 

 「コジョンド。ルノアお姉ちゃんから聞いてると思うけど、僕らはいつか遠くへ旅に出るんだ」

 「コジョ。コジョコジョン」

 「そうだよ。オラリオに行くためにも...強くなるために頑張らないといけないよね」

 「コジョン!」

 

 ベルの言葉に力強く頷くコジョンド。一方、興味なさそうに欠伸をするクチート。

 このブラッシングの時間中にベルはオラリオへ旅立つ日の事を思い描いていた。 

 新しい出会いや、迷宮での冒険...そんな新たな目標に向かって全力で突き進むために強くなる決意をより固めるのだった。

 

 「はい、終わったよ。お疲れ様」

 「コジョ~!」

 「ど、どういたしまして...あはは...」

 

 腕の体毛から全身の毛並みを綺麗にしてあげてコジョンドはお礼にとベルを抱き締める。

 先程のように執拗ではなく、数秒後には自ら離れてモンスターボールへ入っていった。

 それを見て、やっと順番が回ってきたクチートは戦闘時の構えをするように背を向けて、おおあごをベルに向けた。

 少し上向きにしながらカパァと牙と牙の間に糸を引きながら大口を開けると、ベルはそこに手を入れながらブラッシングを始める。

 ブラッシングというのも歯磨きの意味合いでだ。

 

 「クチート、痛くない?」

 「クチ~」

 「じゃあ、こっち側も...」

 

 シャコシャコと専用の大きな歯ブラシを動かしておおあごの牙や歯茎に詰まった汚れを取り除いていく。  

 そうしている内にクチートは目を細めてされるがままに身を任せていた。

 以前からルノアに歯磨きが好きだというのは聞いていたが、こうして喜んでいる姿を見ると本当に好きなのだと実感する。

 それから間もなく、水飲み場に連れて行ってバケツになみなみと注いだ水で口内を自分で濯いでもらい歯磨きは終わる。

 

 「クチ」

 「お疲れ様、クチート。先にボールに戻ってていいよ。

  僕は後片付けをしてるから」

 「クチ...」

 「え?手伝ってくれるの...?あ、ありがとう。じゃあ...」

  

 クチートは器用におおあごで雑巾を持つように挟んでバケツの底を拭いていく。

 使い終わった色んなブラシを洗うベルは、クチートが鼻歌を歌いながら綺麗にしているのを見て微笑む。

 それにクチートはハッと気付いて、恥ずかしさから頬を赤く染めつつプイっと顔を反らす。

 それでも、おおあごの動きは止めなかったが。

 

 クチートの協力もあって後片付けはすんなり終わり、モンスターボールへクチートが戻った頃、春姫が声をかけてきた。

 

 「ベル君。大分落ち着いてきましたから、お手伝いはこれでおしまいです。お疲れ様でした」

 「あ、うん。...くふぅ~~!疲れたぁ~...」

 「ふふっ...今度、お礼にヤドンのしっぽカレーをごちそうしてあげますね」

 「ホント!?やったぁ~!」

 

 春姫の言葉にベルは両手を上げて喜び、そんな微笑ましい姿に春姫はクスリと笑みを浮かべる。

 それから他愛もない話をしていると、春姫はふとベルの姿を見て何かに気付いた。

 以前までは非力で細かった腕や足に程よく筋肉が付いており、それなりにがっしりした体型になっているのを。

 ガラガラ道場での修行や仲間達との特訓の成果が少しだけ現れているのが、その変化で気付く事が出来たのだ

 

 「ベル君...これからも頑張ってくださいね」

 「え?あ、う、うん。頑張るよ」

 

 春姫はベルの成長を喜んで微笑み、それを見ていたベルはどうして微笑んでいるのか理解が及ばなず首を傾げるだけだった。

 夕暮れ時となり、春姫やポケモン達にさよならと手を振りながら祖父が待つ自宅へベルは帰っていった。

 

 

 「はぁ...はぁ...」

 

 ホーホーが鳴いている暗闇に包まれた森の中を、覚束ない足取りでフラフラと彷徨う人影。

 疲れ果てているが、それでも前へ前へと進んで行く...

 

 「ここは...一体、どこなんだ...?」




最後の方向音痴ポンコツエルフは一体何リオンなんだ!?
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