入学式の時間が迫ってきたため、散策を切り上げ校舎に向かっていると、リムジンのような導力車と何台もすれ違う。
「やっぱ金持ちは違うねえ。俺んとこと比べたら雲泥の差だな」
「他の貴族や平民への示威行動ってとこじゃない?昔みたいに、貴族は偉い、って風潮が薄れてきたからしね」
「世知辛いねぇ。うちみたいに、皆で仲良く暮らせばいいのに」
「アンタのとこは、例外中の例外よ。ん?あれは……」
リィの足が止まり、とある女子生徒に視線が固定される。
釣られて見ると、制服は俺らと同じ真紅で、群青の長髪をポニーテールで結んでいる少女だった。
「ではお嬢様、ご武運を」
「爺やも壮健でな」
執事らしき人物と別れた少女から、視線を外さず歩き出すリィ。
「はいストーップ」
「グエッ」
そのリィの襟首を掴んで止めると、気管が詰まったのか咳き込む。
「何すんのよ!?」
「こっちこそ、何しようとしてた?剣なんか抜いて」
「別に何もしないわよ!あいつ、アルゼイドの人間だから、痛め付けようなんて思ってないんだからね!!思ってないんだからね!!」
「はい、どうどう。落ち着け」
忍び寄って後ろからブスリ、とでもやるつもりだったのか。
「放しなさい!」
「入学式早々に、殺人事件なんて起こさせねえよ。あの嬢さんは関係ないだろ。八つ当たり、カッコ悪いぞ」
大方、アリアンロード関連で何か因縁があるのだろうが、今日から学友になる人が一人減って、俺の彼女が殺人犯なんてシャレにならん。
そうこうしている内に、青髪の少女はいなくなって大人しくなったので手を離す。
「さっさと行くぞ、リィ。遅刻は勘弁だからな」
「あいこらさっさー」
少し歩くと、学院の校門を潜り抜け、校舎の全容が見えてきた。
「でかいなー。うちの屋敷以上の大きさだな」
「だから、アンタの比べる対象は例外物件よ」
「えーと、新入生のリィン・シュバルツァー君とデュバリィ・シュバルツァーちゃんかな?」
リィと校舎を見上げていると、正面から茶髪の小柄な少女と黄色いつなぎを来た少年が近づいてきて声を掛けられた。
「ええ、如何にも私はデュバリィ・シュバルツァーです」
「おい待て。いつからお前は我が家の養子になった!?」
「養子じゃないわ!めかk…愛人よ!!」
「予想を斜め上行く回答だった!?」
「ちなみに、本妻はアルf」
「それ以上は言うな!!」
何か出てはいけない名前が出そうになるが、リィの口を塞いで強制的にカットする。
よし、俺は何も聞いてない。何かの弾みで義妹がポロッと漏らした、ハーレム計画のことなんて思い出してないんだからな!!
目の前の小柄な少女は、突然の展開に困惑しているのかオロオロしている。何この天使、一家に一人欲しいんですけど。
「まあ、俺達が件のリィンとデュバリィで間違いないですよ。で、何か用があったのでは?」
「はっ!?ご、ごめんね。私はトワ・ハーシェル。えーと、荷物を預かりに来たんだけど」
「僕はジョルジュ・ノーム。入学の説明書に書いてあったよね?」
「ああ、了解しました。お願いします」
「モガーモガー」
「えと、そろそろ放してあげたら」
おっと、いけない。リィの口を塞いだままだった。
「さて、今は時間が惜しいから見逃すが、今夜は覚悟しておけ」
「寝かせないつもりで来なさい!」
「止めようねー。まだ純粋な人がいる前で、その発言は」
リィの言葉からナニを想像したのか、顔を真っ赤にしてアワアワするトワさんに荷物を預けて講堂へ移動する。
「若者よ、―――世の『礎』たれ!!」
ハッ!?気が付いたら、もう始業式が終わってた。
まあ、どの世界でもお偉いさんのスピーチが長ったらしくて子守唄になるのは、共通事項らしい。
「ほら、リィ。起きろ!」
「止めて!乱暴にするつもりでしょ!?ウス=異本みたいに!あ、お早う」
「どんな夢か非常に気になる寝言だね」
互いに寄りかかって寝てたらしく、周囲の視線、特に男子から棘が含まれているように感じる。
「あははは。なんか難しいこと言われちゃったね。僕はエリオット・クレイグ。同じ色の制服ってことは、一緒のクラスだよね?よろしく」
「こちらこそ頼む。リィン・シュバルツァーだ」
「デュバリィ・シュバルツァーよ。よろしく」
ヤバイ。リィが本気で外堀を埋めにかかってる。しかも、おそらく義妹だけでなく両親も懐柔済みと見る。
そうなると、ガチでアルの計画が成功することになっちまう。
嗚呼、また平穏が遠ざかる。
「リィン、行くわよ」
「へ?」
「話聞いてた?私達は、他のクラスとは別でオリエンテーリングがあるんだって」
「移動するって、さっき僕らの担任だって言ってたサラ教官が」
見ると、俺達と同じ真紅の制服の生徒が入口に移動していて、講堂に残っているのは俺達だけになっていた。
考え事をしていたから、聞き逃したのか。
「…リィン、早くしないとサラが鉄拳だって」
「それは困る、ってフィー!?」
「ん。久しぶり、デュバリィも」
後ろからボソリと声を掛けられ、振りぬくとそこには眠たげな目をした銀髪の少女、フィー・クラウゼルがいた。
「もしやと思ったけど、サラってあのエクレアかしら?」
「ん、その通り。元気そうでなにより」
「フィーもね」
「げっ。エクレアもいるのか」
同名の別人だと思っていたが、あのエクレアが担任というか、教師になるとは。世の中どうなるか分からんな。
ってことはだな、俺の平穏がさらに遠ざかるじゃないか。
「サラ教官を知ってるの?」
「一応な」
他のメンツを追いかけながら、エリオットと話す。
しばらく前の生徒の後を着いていくと、やがて本校舎から少し離れたところにある旧校舎へと到着した。
というか、すごい見覚えのある建物だなぁ。具体的には半年ほど前に、《怪盗》から、お宝の匂いがする、と教えられてスネークした建物に。
「リィン、リィン」
「なんだ?」
「現実は非常」
「受け入れるしかないわ」
俺を諭そうとする二人だが、目の焦点が合ってないので全然説得力がない。
ジッとしていても仕方ないので、中に入ると増々もって見たことあるような錯覚に陥る。
そうこうしている内に、檀上にこれまた見覚えのある女性が立っていた。
「それじゃあ、聞き逃した人もいるから改めて、自己紹介といきましょうか。私はサラ・バレスタイン、あなた達《Ⅶ組》の担任を勤めさせてもらうわ」
その女性、サラはそう言ってウインクをした。
《Ⅶ組》という言葉に何人かの生徒が戸惑っている中、
「へぇ~、あの酒乱が出世したもんだ。アデッ」
声に出ていたのか、イイ笑顔のサラから額にゴム弾をくらった。
ほんと、俺の青春は一筋縄でいきそうにない。
おそらく、次回から戦闘入る予定。
駄文で申し訳ない。