憑依の軌跡   作:雪風冬人 弐式

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いよいよ、閃Ⅱが今日発売!
楽しみで寝れないぜ!


第一章 ~交易都市ケルディック編~
第五話「新生活っぽい」


「アア、アアァァァァアアアアアアアアアアアアアアアァァァァアアアアアアアアアアアアア!!」

 

 真っ白な景色しか映らない荒野の中、その中心には一人の少年が横たわる人影の前で膝を付いて慟哭していた。

 

「泣くなよ、リィン。オレは、満足だ」

「嘘だろおい!クロスベルに行くのが夢なんだろ!!」

 

 つなぎを着て真っ白な地面に横たわる少年に、旅人のボロボロのマントを羽織る少年、リィンが肩を揺すりながら声をかける。

 

「ああ、だけど叶えられそうにない。なあ」

「代わりに行ってくれなんて、言うなよ。俺は行かないからな!お前がいなきゃ、意味がないだろ!」

「厳しいな。実はさ、オレってこんな恰好だけど女なんだ」

「そんなこと知ってたさ。ほら、帰るぞ」

「タハハハ。そうか、気づかれてたか。リィンには敵わないな」

「バカなこと言うな。俺はお前よりもノーザンブリアの地理を知らない」

 

 力無く笑う少年、否、少女の言葉を担ぎ上げ、リィンは移動しようとする。

 

「そうか……。やっと、リィンに勝てたよ。クロスベルに行けないのは、残念だけどな」

「おい!冗談は止めろって!目を閉じるな!!頼むからさ!!」

「……ありがとう」

 

 その言葉を最後に少女の目が閉じられ、腕や足が力が抜けたようにダラリと垂れる。

 

「シュリィィィィイイイイイイイ!!」

 

 空を睨みながら絶叫するリィンの瞳が紅く染まり、髪も銀色の輝きを放ち出す。

 

「チッ!間に合わなかったか」

「一足遅かったようだね」

「気を静めるんだ!リィン君!!」

 

 リィンの傍に駆け寄って来た三人の男性が、リィンの様子を見ると苦虫を噛み締めたような顔をする。

 

「マクバーン兄貴。俺、できなかった。俺には力があったのに……」

「それで、テメエはその力を何に向けるつもりだ」

「正義を気取るつもりはないけど、《盟主》様のためにも止めさせてもらうよ」

「然り。私もこれ以上、美が減るのを見たくない」

「カンパにブルブル。世話になった」

 

 炎を生み出し、アーツを起動させ、真っ白な杭を取り出して構える三人に対して、リィンは抜刀したものの、ダラリと腕を垂らした自然体のまま動かない。

 

「止めて、お兄ちゃん!」

「再考の余地はないのですか!?」

 

 いつの間に接近したのか、背後からスミレ色の髪の少女がリィンの首元に身の丈程の鎌を突き付け、メイド服の少女が鋼糸で太刀を持つ腕を縛っていた。

 

「あぁ、スマンな。レンにシャロ。上手い菓子を作る約束を破ることになって」

 

 儚い笑みを浮かべたリィンに一瞬呆気に取られた隙を逃さず、左手で鎌に触れ、右腕に力を込めただけで、鎌の刃は溶け出し、拘束していた鋼糸は溶け落ちた。

 

「この人数相手に勝てると思ってるの!?」

「ご自愛ください!!」

 

 必死に呼びかけるレンとシャロに対し、リィンは表情を消し、取り囲んでいる五人にグルリと視線を送る。

 

「どうした《蛇》?俺の勝機は、千に一つか?万に一つか?それとも、億か兆か?那由多の彼方かも知れない?それがどうした!?能書き垂れてないで、来いよ。俺はここに居るぞ?早く(ハリー)早く(ハリー)!!」

 

 リィンが自らの力を吐き出した瞬間、辺り一面が深紅の閃光に染められた。

 

「いい加減、働けぇぇぇえええ!!」

「働かざる者、食うべからずです!!」

「それが、俺に課せられた義務だとしても働きたくないでござるぅぅううう!!」

 

 

 

 

 

「何だ、夢か。……知らない天井だ」

「何言ってるのよ。学院に入って寮生活になったんだから、当然でしょ」

「そりゃそうか」

 

 色々と波乱万丈だった昨日のせいかなあ。

 懐かしい夢を見たもんだ。というか、死にたい。

 朝から何、恥ずかしい忘れ去りたい記憶を掘り起しちゃってるの俺!?

 頭の中の混乱を悟られぬよう、それでいて隣で寝ていたリィが落ちないように気を付けながらベッドの上から身を起こす。

 いや待て。ステイステイ。

 おかしいな。昨日、俺はこの部屋で寝る時、確かに一人でベッドに入った筈だ。

 それなのに、だ。

 

「何故、リィがいる!?」

「押しかけてきたからに決まってるじゃない」

「私もいる」

「のわッ!?」

 

 ふと声が聞こえた床を見ると、ベッドの下から寝袋に包まったフィーがゴロリと転がり出てくる。

 

「お前ら、ほんと逞しくなったよな。というわけで、出てけ」

「いいじゃない。あと一年このままにさせて~」

「どこぞの会う度に、殺し愛を囁く奴よりはマシだが、俺は平穏を満喫したいの」

「すでに侵略されているでゲソ」

「フィーすけ、お前はどこの娘だ」

 

 おそらくふざけてだろうが、看過できないことを言うリィとフィーの襟首を掴むとそのまま引きずって部屋の外へ放り出す。

 

「あ~れ~」

「いけずぅ」

 

 俺は抗議の声を上げる二人を無視して扉を閉め、これから始まる学校生活のための準備に取り掛かるのだった。

 

 そうして半月程経ったある日の放課後。

 教室でエリオットやガイウス達と談笑していると、教室にサラが入ってきた。

 

「良かった。まだ残ってたわね。リィン、頼みたいことがあるのだけどいいかしら?」

「選択権を与えているようで、そのボイスレコーダーをチラつかせて一択に絞る行為はどうかと思いますが」

「あら、これを流してもいいのね?」

 

〈邪王真眼!エターナルフォースブリザード!やみのま!!〉

 

「もうすでに流してるじゃないですか、ヤダー。やります!不肖、このリィン・シュバルツァー、全力で事に当たります!」

「じゃあ、生徒会室に行って、受け取ってきて欲しい物があるのよ」

「イエス、マム!」

 

 これ以上、この場にはいられるかッ!!

 一心不乱に学生会館にある生徒会室を目指す。

 途中で50ミラを詐欺によって失ったが、今の俺には黒歴史を暴かれた悲しみの方が勝っているから、全然気にならないぜ。ヘヘッ。

 余所見しながらの考え事がいけなかったのか。

 

「どいてどいてぇ~!!」

「ヘブッ!?」

 

 何か重量のある物によって、腹部に尋常ならざるダメージを受けることを許してしまう。

 

「わわっ!?私のバイクが!って、無事かい!?」

「無理」

「って、ダーリン!?」

 

 遠退く意識の中で、聞き覚えのある声の主が駆け寄って来るのを感じながら、俺の意識はブラックアウトした。


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