憑依の軌跡   作:雪風冬人 弐式

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昨日の夜に投稿しましたが、個人的に不完全燃焼だったので加筆したため、投稿し直しました。
閃Ⅱはまだ、第二部の終盤です。


第六話「再会っぽい」

 とある昼下がり。ある林の中で二つの木箱が蠢いていた。

 

「こちらスネーク。目標まであと僅か」

「というか、人がいないんだから普通に行けばいいでしょ?あとリィン、スネークって、何?」

「バッキャロ、リィ。お宝のある屋敷の敷地に強制転移させられたんだぞ?万が一警備員にでも見つかれば、ブタ箱行きになるのは確実だぞ?それに、鉄道憲兵隊に引き取られてでも見ろ」

 

木箱の中に入って移動していたのは、リィンとデュバリィであり、会話しながらも音を立てずに進んでいた。

 

「あー、絶対あの嫁き遅れの耳に入るわね。っと、あれ?」

「どした?あらら?」

 

 突然、木箱が何かに引っ掛かったのか動かなくなったことに困惑の声を上げる二人。

 

「突然現れた気配の正体が、まさかしゃべる木箱ですとは」

「新種の魔獣かな?」

「ゲェッ!?フィーにシャロ!?」

「な、何故二人がここにいるのですの!?」

 

 リィンとデュバリィは、木箱の隙間から覗いた声の主が知り合いであったことに驚愕する。

 

「それはこちらの台詞ですわ」

「リィンとデュバリィこそ、何でここに?」

 

 二人の奇行に呆れたようにため息とつくメイド服の女性、シャロンと、眠そうな眼で睨む少女、フィーがいた。

 

 ブオオォォォン!

 

「あれは……」

「あー!!そこの人達どいてぇー!!」

 

 すると、今度はエンジン音が響き、悲鳴も聞こえてきた。

 その発生源が近づき、このままだとぶつかると判断したシャロンとフィーは飛び退く。

 

「え、ちょ!私達は!?」

「ヘールプ!!」

 

 拘束されたままでうごけない二人が抗議の声を上げるが、我が身が第一なシャロンとフィーの耳には届かなかった。

 咄嗟にデュバリィは、迫り来るモノを木箱は壊れたが、取り出した盾で受け流す。

 

「グッフゥ!?」

「「「リィン(様)!?」」」

 

 だがリィンは受け止めようと構えていたが、タイミングが合わずに腹部に直撃し、乗っていた少女と共に宙を舞う。

 

「アタタタ。無事か」

「ああ。すまな…い。アッ……」

「ん?……」

 

 駆け付けたデュバリィ達が見たのは、少女の下敷きになったリィンの手が少女の胸に当たっている場面だった。

 

「ヒャアァァアアア!!」

「ふ、不幸だぁぁあああ!!」

 

 パァン、と乾いた音が林の中に響いた。

 

 これが、後にかけがえのない盟友となる少年と少女の出会いであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ぅう。……ここは?」

 

 懐かしい記憶を夢で見ていて、気が付けば知らない部屋のソファの上で寝ていた。

 

「あっ!アンちゃん、気が付いたみたいだよ!」

「だから言っただろ?私のダーリンは柔じゃないって」

 

 声がした方に顔を動かすと、入学式の日に会った天使、トワさんとライダースーツの少女がいた。

 

「こ、ここは誰だ!?俺はどこだァア!?」

「はわわわわ!?ど、どうしようアンちゃん!記憶喪失になっちゃってるよ!!」

 

 予想通りに天使は可愛らしく、はわはわ言いながら動揺してくれた。

 ヤベェ。マジ天使なんですけど。

 

「ふむ。ダーリン、これは何か分かるか?」

 

 天使に見とれていると、ライダースーツの少女が、パン、と柏手を打ち、人差し指と中指を立て、両手で大きな円を作り、額に手を当てて覗き込むような動作をした。

 

「パン、ツー、まる、見え」

「YES!ロリータ?」

「NO!タッチ!」

「「同朋(とも)よ!!」」

 

 この反応、間違いなくアンこと、アンゼリカ・ログナーだ。

 半年ぶりの盟友との再会に感極まったのは、向こうも同じらしく力強く抱擁を交わす。

 

「ああそうだ、ダーリン。父から伝言があった」

「え?何故?」

「『娘が欲しくば、私の屍を超えるがいい!!』だってさ。というわけで、今度の休みの日にルーレ行こう」

「拒否します」

「残念。皇室からの命令だ」

「チクショウ!アルの仕業か!?いや、ギリーか!……クッ、こうなったら早急に手を打たないと」

 

 アンから差し出された手紙を読むと、皇室の紋章が入った封とアルとギリーのサインが書かれていた。

 やべえ。妹やリィがポロッと漏らした計画が実行されつつある。俺の平穏が脅かされている。

 卒業後は、ユミルに引きこもって悠々自適な領地経営をしてのんびり暮らそうとしていた人生設計が崩れつつある。

 取り敢えず、脳内に浮かんだ、アラアラウフフと微笑むアルと、激辛麻婆を食った後のような愉悦の表情をしたギリーにシャイニングウィザードをかまして消し去る。

 

「えーと、アンちゃんはリィン君と知り合いだったの?」

「半年前に出逢ってね。私の運命の相手さ」

 

 天使が可愛らしく小首を傾げるのに対し、我が盟友はドヤ顔で腕を絡ませてくる。

 

「良いのか?公爵家の令嬢が、地方領主の義理息子に熱を上げてて。まあ、積もる話はあるが、俺はサラから用事を頼まれて来たんだ」

「今更だな。あの時、言ったじゃないか。私は君の《芯》になりたいと。彼女達も同じ想いだと思うよ。おっと、私も用事があるから、そろそろ失礼しよう」

 

 頬に口づけをしようとしてきたので、額にチョップすることで阻止した。

 アンは恨めしそうに睨んだが、時間が圧しているのは本当らしく退室して行った。

 

「ふぇえええ。お、大人だね!でも、校内で不純異性交遊はダメなんだからねッ!!」

 

 顔を真っ赤にして恥ずかしがりながらも、注意する天使。

 

「大丈夫ッス。俺はそんなことしないですから。ところで、サラから頼まれて来たんですけど」

「そうだった。えーと、はい!Ⅶ組の生徒手帳だよ!」

 

 Ⅶ組の人数分の生徒手帳があることを確認し、受け取る。

 サラの奴め、これを全員に渡せと言うことか。

 

「確かに受け取りました」

「ごめんねー。君達、Ⅶ組は特殊なカリキュラムだから作るのに時間が掛かっちゃった」

「いえいえ。問題ないですよ」

 

 申し訳なさそうに手を合わせるトワ先輩が、マジ天使だと確信する。

 

「ところで、口ぶりからすると、これはトワ先輩が作ったのですか?」

「すごいね!その通りだよ。他の先生達、特にⅦ組の担任になったサラ教官は忙しそうにしているから、生徒会長としては手伝わないわけにはいかないよ!それに、これからは、リィン君も手伝ってくれるんでしょ?」

「ヘッ!?」

 

 トワ先輩の言葉に、一瞬固まる俺。

 

「なんでも、Ⅶ組のカリキュラムの一環としてリィン君は生徒会に出向扱いになってるんだって。それで、生徒会に来る色んな依頼の解決を手伝ってくれるんだよね!」

「ちなみに、それは誰から?」

「サラ教官だよ」

 

 あの女狐ぇぇええええ!!

 今度会ったら、波紋流して浄化したろうかッ!

 

「ふえええ!?どうしたのリィン君!?突然、悪い顔になって!」

「いえ、大丈夫です」

 

 おっと、顔に出てたか。平常心、平常心。

 さて、断りたいが無理だろうな。俺の黒歴史が暴かれるな、絶対。

 何より、こんな天使に重労働されるとか、天や法が許しても俺が、許゛さ゛ん゛!

 この天使の笑顔が見れるなら、俺は戦える!!

 

「リィン・シュバルツァー、生徒会の一員として全力で挑ませてもらいます」

「ありがとう!早速これなんだけど……」

 

 こうして、遅くまで残り、トワ先輩と主に書類を片づけていった。

 その後、夕食をごちそうしてもらい、寮へと帰るとサラが入口の前で立っていた。

 

「おかえり。遅かったじゃない」

「誰かさんのせいで、やることが増えたので」

「ひどいことをする人もいたもんねー」

 

 それはアンタだよ、とツッコミたいが、痛い目を見るのは勘弁なので黙っておく。

 

「で、何で俺を生徒会なんかに入れたんだよ」

「偶にはさ、仕事に忙殺されるってのも悪くないでしょ」

「悪いわ!俺のプライバシーは!?」

 

 抗議の声は、ケラケラ笑われて流された。解せぬ。

 

「ま、私なりのお節介よ。どう?アンタはまだ、悩んでるの?」

「さあな」

「あ、ちょっ!!」

 

 サラを振り切り、自室に引きこもる。

 そのまま着替えて布団を被り、俺は意識を絶った。サラからの疑問の答えを見つけないよう、逃げるように。

 

 

―――サラside

 

「やれやれ、行ってしまいましたわね」

「サラ、直球過ぎ」

 

 さっきのやり取りを見られていたのか、厨房からフィーとデュバリィが顔を覗かせた。

 

「うっさいわよ。私は策士には向いてないのよ」

 

 二人から非難がましい視線を受けるが、私にとっては知ったこっちゃないので無視する。

 

「しかし、先程の態度から見ると……」

「そうねぇ。まだ踏ん切りが付いてないっぽいわよねぇ」

 

 私の言葉に、二人は顔を曇らせる。

 全く、どれだけ愛されているのかやら。ま、私も人のことは言えないけどね。

 

「ほら、今日はもう遅いからアンタ達も寝なさい。アイツが悩んでるのは今に始まったことじゃないでしょ?」

「そう、でしたわね。彼の《芯》になれるよう、アピールしていくしかありませんわね」

「ん。やっぱり、リィンには幸せになってもらわないとね。私達だけじゃ、不公平だし」

 

 決意を新たにし直した二人が、それぞれの自室に帰って行く。

 それを見届けた私は、厨房からジョッキを拝借し、自室に戻ると樽を開けてビールを注ぎ込んで喉を潤す。

 

「プハー!」

 

 この一杯のために、仕事していると言っても過言じゃないわね。

 さあ、リィン。覚悟なさい。

 私を含めた、女を舐めないことね。




 

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