エアコア・ドリーム   作:甲乙

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ルビコン美少女キャラメイク

 

 レイヴンの周りの人たちは、いろんな姿をしている。

 

「621、幻聴は治まったか。まだなら調整を……しなくて良い? そうか……」

 

 レイヴンの主、ウォルターは鉄のような表情をした初老の男性だ。深い瞳は常に凪いでいて、時折そこに火のように苛烈な意思を覗かせる。脚が悪いらしく杖をついていても、引き締まった身体からは老いを感じさせない。

 

「ビジター、(おつむ)はともかく腕は良いみたいだね。逃げ回るコヨーテ共は笑えたよ」

「ビジター、ボスが笑っている姿は笑えるものだ。用件はそれだけだ、じゃあな」

 

 RaDの頭目、カーラはいつも不敵な笑みを浮かべた女性で、ドーザーを纏めあげる若きカリスマ。でも愛用の眼鏡ごしに見える瞳からは深い知性と、年齢にそぐわない老獪さも感じさせる。

 彼女の補佐をしているチャティという人物は、まだその姿を見せてくれない。

 

「戦友、調子はどうかな。知っての通り、近々アーキバスとベイラムは一時休戦する予定だ。また戦場で機体を並べる日も近いかもしれないな」

 

 アーキバスのV.Ⅳ、ラスティは狼のように鋭い相貌に柔らかい笑みを浮かべた美丈夫で、紳士的な性格とは裏腹に野性的な魅力も感じさせる。そのエンブレムと同じで、何かを抑えつけているのかもしれない。

 

「G13! 反省文と日記の区別もつかんのか貴様! 言い訳を並べる暇があったらレッドガンの詰所まで来い! 役立たず共と一緒に鍛え直してやるッ!」

 

 ベイラムの軍人、ミシガンはウォルターと同年代かそれ以上の老人で、だというのにいつも覇気に満ち溢れている。あの強面で怒鳴られれば、どんな荒くれでも従順になるに違いない。彼が多くの部下を率いている理由は、きっとそれだけではないのだろうけれど。

 

「野良犬、俺はいい加減トサカにきたぜ……。基地まで来いよ、拳骨でケリつけてやる」

 

 レッドガンの5番手、イグアスはいかにも粗野な印象の男性。その顔中に刻まれた傷が戦いによるものなのか、それとも強化手術によるものなのかは分からない。

 

『登録番号Rb23、識別名レイヴン……。高等傭兵検定を何回クリアしても、もう景品はあげませんと申し上げた筈です。いったい何を考えて……!?』

 

 傭兵支援システム、オールマインドの代理像(アバター)はうら若い女性で、なんだかいつも困った顔をしている。きっとポンコツなのだろう。

 

 エアには一つ悩みがある。このルビコンで生まれた時から、決して消えない大きな悩み(コンプレックス)が。

 だから、見てみたいと思ったのだ。

 

 

 

 ▼△▼△

 

 

 

『レイヴン、昔の地球(ホーム)では、感謝している相手に似顔絵を送るという風習があったそうです』

 

 オールマインドから何とか景品(パーツ)を貰えないか要望のメッセージを何通も送りつけていた時、だしぬけにエアはそう交信してきた。この人が何でも突然なのはもはや慣れたものである。

 とはいえ、621はまともに体を動かせない有様だ。手指に関しても物を掴むのが精一杯で、まして絵を描くなどという精密作業を行える気は到底しない。そんな内心を見て取ったのかあるいは予想していたのか、コクピットのモニターに見慣れないツールが表示された。

 

『何も手で描く必要はありません、レイヴンの為にこれを用意してみました』

 

 聞けば、621に似顔絵を描かせる為だけに夜なべして組み上げたツールなのだそうな。変異波形は睡眠の必要も無い為、621が休眠モードの際は暇を持て余しているとか何とか。羨ましい話である。強化人間であっても休眠は必要で、もしそれが不要なら常に出撃し続けてお金を……いや、それではウォルターが過労死してしまう。

 新たに考えつきそうだった金策は却下し、気を取り直してツールを起動する。表示されたのは、特徴に欠ける男性の顔と、その横に並ぶいくつもの数値。顔や目の形など、これらの数値を弄ることで顔の造形を変える仕組みのようだ。

 

『年齢や髪型だけでなく、更に細かい変更も可能です。まずは触ってみてください!』

 

 いつものようにテンションの高いエアに促されるまま、ツールを弄ってみる。項目の数は非常に多く、目・鼻・口の大まかな部位から、眉骨や小鼻といった細かな部位まで様々。下手をすれば機体のアセンブルより複雑かもしれず、本格的に触りだせば時間がかかりそうだ。

 だが今日は仕事も無く、暇だった事は確かである。オールマインドの仮想戦闘(アリーナ)でイグアスに八つ当たりする事にも飽きてきたところで、次の仕事までの暇つぶしには悪くない。

 

『我ながら良い出来ですね。さあレイヴン、()()()()()()()()()()()の顔を作りましょう!』

 

 感謝している相手……それが誰かなど考えるまでもない。小さく息を吐いてから、621は本腰を入れてツールに向き合った。

 

 

 

 数時間後。

 なんという事だろう。モニターには完全再現と言って良い、()()()()()()()が表示されていた。我ながら良い出来だ。会心の作である。脳深部デバイスに記録されていた映像まで引っ張り出し、微調整に微調整を重ねた甲斐があった。

 どっと押し寄せてくる疲労感と満足感に浸っていると、いつ頃からか黙っていたエアから交信が飛んでくる。何故か、ひどく不満げな響きで。

 

『……レイヴン? これは、ウォルターの顔では?』

 

 その通りである。誰がどう見てもウォルターの顔で、実際エアから見てもそうだったのだから、再現度は申し分ないのだろう。

 だというのに何故だろうか。徐々に不穏な気配が漂ってくるのは。苛立たしげな溜め息にも似た声が長々と続いた後、ようやくエアは言葉を発した。

 

『……いいでしょう、今回は私にも落ち度があったようです。許してあげますとも、えぇ』

 

 なんだかよく分からないが、今回は怒られずに済んだ。何も悪い事はしていないのだから当然ではあるのだが。

 とりあえずこの画像はウォルターに送っておこう。何だったらエンブレムにしても良いかもしれない。

 

 

 

「621……そうか、お前にも趣味ができた……」

 

 ウォルターは喜んでくれたらしい。いつも鉄のような表情が、すこしだけ柔らんだように見える。というか目頭を押さえていた。まさか泣いているのだろうか。泣かせてしまったのだろうか。

 

「だがその、なんだ。エンブレムにするのは……やめておけ」

 

 それは非常に残念である。

 

 

 

 ▼△▼△

 

 

 

『レイヴン、昔の地球(ホーム)では、感謝している相手に似顔絵を送るという風習があったそうです』

 

 オールマインドから何とか景品(パーツ)を貰えないか、今日も要望のメッセージを何通も送りつけていた時、だしぬけにエアはそう交信してきた。

 ……つい昨日に、まったく同じやり取りをしなかっただろうか?

 

『そういう訳で、はいこれを!

 今度こそ! あなたが! いちばん感謝している相手の! 顔を作りましょう!』

 

 モニターに表示されたのは昨日とは異なるツールだった。まさか、また夜なべして組み上げたのだろうか。そんなに暇なら、一度カーラあたりに相談してみても良いかもしれない。何かこう、プログラムを組む内職のような仕事を貰ってくるとか……。

 

『レイヴン聞いていますか? はやく起動してください』

 

 今日のエアは機嫌が悪い。また余計な事を考えて怒られない内に、621はツールを起動した。

 起動してはみたが、今度のそれはまったくの別物のようだ。まず表示されているのは特徴に欠ける男性ではなく、非常に整った顔の女性……いや少女と言って良い。更に数値で顔の造形を弄るのではなく、目や鼻のパーツを組み合わせていくことで顔を作る仕様のようだ。その点ではACに近いか。

 

『パーツはたくさん用意しましたから、あなたの思うように作れますよ、レイヴン』

『あなたが思い描く、わた……恩人の顔をイメージしてください』

『イメージが重要ですよレイヴン! イメージです!』

 

 それはそれとして、エアが非常によく喋る。どうせ作るなら集中したいのだが。まるで自分の存在をアピールするかの如く、片時も黙ってくれない。自身の聴覚を調整しようにも、彼女の声は脳内に響くのだから意味がない。

 気を取り直してツールと向き合うも、更に困ったことがある。確かにパーツは多いが、そのどれもが女性としか思えない形をしているのだ。それも若く、端正な女性の。これではウォルターの顔はまったく再現できない。

 ならばいっそカーラの顔でも作ってみようかと思ったが……なんというか、その。カーラは確かに若々しい女性だが、そこまで若いかと言われると……。

 その瞬間、突如として入る通信。それが621には、熱源感知のアラートに聞こえた。

 

「ビジター、ボスが急に不機嫌になったんだが、何か知らないか」

 

 断じて何も知らない。

 

 

 

 ああでもない、こうでもないとパーツを組み合わせること数十分、未だ画面の中からは美しい少女が621に視線を向け続けていた。ずっと見られているようで少し怖い。

 

『レイヴン、どうですか? 出来そうですか?』

 

 出来るも何も、これで何を作れば良いというのか。621の周りに少女と呼べるような人物など一人もおらず、強いて言えばオールマインドの代理像(アバター)が年若い女性というぐらいか。確かにオールマインドには世話になっているものの、あれは人ではなくシステムだ。故に彼女(?)が女性という訳では……。

 そういえば、もう一人いた。女性なのかどうかも不明瞭な、そもそも人ですらない存在が。

 

――エア、相談なのだが

『はい?』

 

 エアに姿と呼べるようなものは無い。彼女は彼女が言うように実体のないルビコニアンであり、その在り方はAIに近い。同じくAIであろうオールマインドが対外用の代理像(アバター)を用いているように、エアにもそんな仮初めの姿があっても良いのかもしれない。問題は、それを作るのがこんな旧世代型の強化人間であって良いのかという事だが。

 だがそれをエアに相談した瞬間、621の視界はパッと紅く染まった。

 

『ぜひ! 是非お願いします! レイヴン!』

 

 ピカピカキラキラ。視界の端どころか全てが煌いている。よほど嬉しいのだろうか。

 よく考えてみれば、エアにはミッションの最中に何度もサポートしてもらっている。あまりの破天荒さから忘れがちではあるが、彼女もまた世話になっている者の一人なのだ。

 ならば全力を尽くそう。より美しく、よりエアらしい姿を作ってみせるのだ。

 

 

 

 たとえ621自身が、こんな醜い姿をしていても。

 

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