エアコア・ドリーム   作:甲乙

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世はすべて事もなし

 

「おいコラいつまで転がってんだ。まとめて洗うから洗濯物だせコラ」

 

「水は節約しろって副長(G2)がうるせェんだよ」と、元から悪い人相を更に歪めるイグアスの視線の先、小綺麗な服を皺と埃だらけにした女が転がっていた。

 中央氷原のベイラム臨時基地。勇名と悪名を等しく轟かせるレッドガンの本拠地でもあるそこは、その印象とは真逆に整然と片付いている。もっとも、当の隊員(ガンズ)たちに言わせれば当然のことではあった。床にゴミの一つでも落ちていようものなら、歩く地獄(ミシガン)の手でもれなく全員が床を舐める破目になるのだから。文字通りの意味で。

 そしてその床に転がる女もまた、ここに居候を始めた日から幾度となくモップにされている存在である。

 

『――我々(わたし)の計画が……人類の可能性がぁ……』

 

 服と同じく小綺麗な顔をクシャクシャにしながら泣き続ける女――ケイト。いきなり野良犬(レイヴン)の所に連れていけと騒ぎ出して、連れていってやればこれである。華奢な体のどこにそれだけの水分があったのか。一応はイグアスが面倒を見ることになっている手前、泣き喚いて脱水にでもなれば更に面倒なことになる。面倒は嫌いだ。

 

「可能性だか火防女(かぼうじょ)だか知らねェがな、とにかく洗濯物を出せや」

『う、うぅ、うゥ……どうして、どうしてあんな事に、イレギュラぁ……!』

「ひとの話を聞けよポンコツ!」

 

 これがヴォルタだったら三度は蹴っていたが、相手は腐っても一応は女だ。だから(ケツ)を軽く蹴るだけに留めた自分の忍耐力は大したものだと、イグアスは自賛してみる。

 だが、ガバリと起き上がったケイトに逆に組み付かれた時は、さすがのイグアスも狼狽した。

 

『えぇそうですよっ! 我々(わたし)はどうせポンコツですとも! つい調子に乗った挙句あんな大勢の前で計画を暴露してしまうポンコツなんですもう放っておいてください――!』

「だから洗濯物を出せって言ってんだろうがッ! 泣くな鬱陶しい脱げコラ!」

『ぎゃあぁ!? 脱ぎます! 自分で脱ぎますからやめてくださいセクハラですよ!?』

 

 とはいえ、ここは泣く子も黙るレッドガンの詰所である。男女平等、体罰上等、泣きを入れたらもう一発。容赦の欠片もない拳骨を頭に落とされたケイトはまた床を舐める破目となり、その隙にイグアスが服を引っぺがす。傍から見れば事件そのものの光景も、ほぼ毎日くり返されれば見慣れるというもの。生温かい目で見守る悪友(G4)後輩(G6)以外は総じてスルーしていた。

 

「またかよイグアス。よくもまあ、飽きないもんだぜ」

「あの女も相変わらずですね! 故郷(ほし)の愚妹を思い出しますっ!」

 

 半裸のケイトを放置してスタスタと洗濯場へ向かったイグアスは、一分もしない内に乾いた洗濯物を抱えて戻ってくる。山の中から引っ張り出した服を顔面に投げつけられてようやく、ケイトはノロノロと着替えだした。

 

「てめェの服は自分で畳めよ。次は掃除だ、モタモタすんな」

『はぃ……』

「復唱はどうしたコラ!」

『ケイト・マークソン掃除いたしますサー!』

 

 また(ケツ)をモップで(しば)かれて泣く泣く掃除を始めるケイト――オールマインド。その横で同じくモップを握りながら罵声を浴びせるイグアスという、ここ最近で見慣れた光景であった。長い付き合いであるヴォルタからしてみれば、あの狂犬がずいぶんと丸くなったものだとは思うが。

 

「しっかし、アレもなぁ……普通(フツー)の女にしか見えねぇけどなぁ……」

「アレが普通かどうかは分かりかねますが、人間に見えるのは同意しますっ!」

 

 ある日イグアスが氷原から連れ帰ってきたケイトの正体が、あの傭兵支援システムであるという事はレッドガン内では周知の事実だった。特に何か劇的な事件があった訳でもない。ただ単に、ケイトがポンコツ過ぎたというだけのこと。

 何せ、カモがネギを持ってどうのこうの言いながら詐欺師(G3)が意気揚々と金を巻き上げようとしたところ、あまりにも簡単に引っかかるものだから逆上して説教を始めたぐらいだ。

「一攫千金なぞ狙わずに、額に汗してコツコツ働きなさい!」とは本当に詐欺師の言葉かとヴォルタは思う。その言葉を物陰で聞いていたナイル(G2)も泣いていた。

 意外だったと言えば、ケイトを基地に置いておく事を許した総長(G1)だろうか。

 

「総長にはきっと何か深いお考えがあるのでしょう! 自分などには分かりかねますっ!」

「いやお前もすこしは考えろよ……」

 

 まあ、ミシガンは徹底した現実主義(リアリスト)である一方、感傷主義(ロマンチスト)な側面も確かにある。ただ単に、路頭に迷った女を放り出すことができなかっただけかもしれない。あるいは、彼女の存在がイグアスに何らかの変化を与えることを期待したか……。

 

「モップを丸くかけるなって何度も言わせんな! 隅に埃が残ってんだろうがポンコツ!」

『また! またポンコツって言いました! 人類なんて皆そうですね! 我々(わたし)の事を何だと思っているのですか! そうやって我々(わたし)を虐げれば面白いとでも思っているのでしょう!? これからも酷いことをするつもりなのでしょう!? 分かっているのですよどうせ! ぜんぶ! もう殺しなさい! いっそ殺しなさい――っ!』

「わけ分かんねェこと言ってないで雑巾もってこいやオラァ!」

『おまぁ――っ!?』

 

 自棄になって床に大の字になったケイトの(ケツ)に、三発目の蹴りが炸裂。見た目より遥かに頑丈な義体だと分かっているとはいえ、イグアスも容赦が無い。……いやあの調子では生身でも蹴っていたか。

 何だかんだと言って、あのポンコツの扱いはイグアスが最も上手いことは確かである。いつも通りに生温かい視線だけを向けながらヴォルタとレッドはその場を離れようとし――

 

「チ、おら立てや。……まあなんだ、お前みたいなポンコツでも、()()()()()()()()()()()()()()だから心配すんな」

 

 思わず振り下ろしたヴォルタの拳が、レッドの後頭部に直撃した。

 

「ありがとうございますっ!?」

「違ぇし悪かったな!? つーかイグアスお前いま何て……」

「あァ? いたのかよヴォルタ」

 

 振り向いたイグアスの目つきは凶悪そのものだったが、それはいつもの事だ。つまり、嘘や冗談を言っている顔ではない。

 

「ありゃ笑えたなオイ、キャッチアンドリリースだか何だか知らねェが、御大層な極秘計画を自分からバラしちまった。な? お前にも下がいるらしいぜケイトよ」

待て(ウェイ)待て(ウェイ)待て(ウェイ)イグアス、ちょっと待て、頼むから待て」

 

 イグアスとは長い付き合いのヴォルタであるが、思わず頭を抱える。借金のカタに強化人間にされたとはいえ、性格と人相はともかく頭の方は大丈夫だと思っていたのだ。もしかしてそれは間違っていたのだろうか。自分はこれからもこの悪友(ダチ)を何とか支えられるのだろうか。

 悲壮な覚悟を抱き始めたヴォルタの前に、更に悲壮な顔をしたレッドが歩み出る。

 

「ヴォルタ先輩……ここは自分がっ!」

 

 敵の大群を前にした決死隊の如き表情。震えてすら見える足で、だが歩みを止めずレッドはイグアスの前に立つ。

 カッ! と、全身に芯の通ったベイラム式の敬礼。体は微動だにしないまま、レッドはいつも以上の大声を張り上げた。

 

「失礼を承知で申し上げます! イグアス先輩、あなたは……、あなたはまさか……!

 ケイト・マークソンの正体がオールマインドとは御存知ないのでしょうかっ!?」

 

 言った。

 言いやがった、こいつ! 悪友と後輩の悲痛な姿に、屈強なヴォルタも膝を折りそうになる。何だってこんな事になりやがった! まるで地獄だ! くそったれ(ファック)

 レッドは直立不動のまま、そしてイグアスはひどく静かな動作でモップを壁に立てた。

 

「――おいレッド。てめェ、俺に学が無ェからって馬鹿にしてんのか? このポンコツの正体にも気付かねェような脳無し野郎だってか?」

「サー! ノーサー! たいへん失礼を致しました! どうか殴っていただきたくっ!」

 

 大声で謝罪しながらも、レッドの表情は安堵に綻んでいる。それはヴォルタも同じだ。

 あぁ、やっぱりイグアスはまだ正気(まとも)だ。性格と人相はともかく頭は大丈夫なのだ。性格と人相はもう諦めるとして、頭さえ無事ならこれからも――

 

「本人があれだけ違うって言ってんだから別人だろうが。学が無くても分からァ!」

「――――」

「――――」

 

 言い切ったイグアスの目つきは凶悪そのものだったが、それはいつもの事だ。つまり、嘘や冗談を言っている顔ではない。言っている顔では……なかった……。

 くっ……とヴォルタは目頭を押さえ。レッドはただ、ぎゅうと唇を噛みしめるのみ。そして一部始終を黙って聞いていたケイトが、感極まったようにイグアスへと抱きついた。

 

『――えぇ! えぇそうですともイグアス! 我々(わたし)は独立傭兵ケイト・マークソン! オールマインドとは全くの無関係!

 まだ終わりではありません! わたし達で必ずコーラルリリースを成し遂げぼばぁっ!』

「放せや暑苦しい! まだ掃除中だろうがポンコツ!」

『ありがとうございます――!?』

 

 蹴り飛ばされてもめげずに抱きつくケイトをまた蹴り飛ばすイグアスの両肩、そこに二人の男ががしりと手を置いた。

 

「あァ? んだよ、お前ら」

「「――ド」」

「ど?」

 

 顔を上げたヴォルタとレッド。目じりに涙と覚悟の跡を残す二人はだが、精一杯の笑みと共に親指で天を指した。

 男たちは泣く子も黙るレッドガン。苦楽も生死も戦場で共にする、クソのような絆で結ばれた「役立たず」共。

 

「「――ドンマイ(Don’t mind)!!」」

 

 いつだって心は一つ。

 世はすべて事もなし(オールドンマイ)

 

 

 

 ▼△▼△

 

 

 

 鉄色の巨人が踊る。

 砂塵を巻き上げながら疾走するハウンド5は、連射していたリニアライフルのマガジンを排出。と同時に砂に埋もれた巨大兵器の残骸へと機体を滑り込ませた。迫りくる三発のプラズマミサイルの信管が作動し、紫色の電磁爆発を間一髪で回避する。一瞬の遅滞もなく事前にロックオンを済ませていたミサイルを斉射。垂直に撃ち上げられたそれらは、遮蔽物も飛び越えて敵機へと向かっていく。

 

「まだそれを使っていたのか、犬ぅ。当たる方が難しいぞ」

 

 ファーロン・ダイナミクスの垂直発射ミサイル。独特な軌道と高い威力を有するそれは、大型兵器や固定砲台には高い効果を発揮する。だが誘導性能には難があり、特にAC同士の高速戦闘においては有用性に欠けると評価されていた。

 だがそんな事、これを愛用して長い621は百も承知である。

 

「ふん?」

 

 ミサイル発射と同時にかけた急制動。その直後に吹かした逆方向へのクイックブーストにより、逆回しされた映像のようにハウンド5は遮蔽物から飛び出した。そのまま、リロードを済ませたライフルを構えて距離を詰める。

 相手の意識と視線を一瞬でも上に向かせればそれで良い。いくら当たらないと分かってはいても、火力だけは高いミサイルを四発も撃ち上げられて意識を割かない人間はいない。その一瞬で食らいつく!

 

「――とでも、考えたか?」

 

 機体速度が僅かに落ちる。僅かな抵抗。僅かな違和感。

 ()()()()()()()()()()()()()()

 悪寒。刹那に遅れて響くアラート。

 爆発。

 

《注意 機体損傷(AP 70%)

 

 忘れていた。失念していた。

 敵機――エンタングルが装備する特殊武装。弾頭そのものではなく、その通過軌道を爆発させる爆導索ミサイル。プラズマミサイルは囮だった。派手な電磁爆発で、621の意識を誘導していた。

 

「まだまだだな」

 

 ハウンド5に突き刺さる蹴り。至近距離から浴びせられるパルスガン。そして駄目押しのバズーカ。その全てに直撃を許したACSが悲鳴を上げる。

 

「NICE JOKE」

 

 スタッガーに陥ったハウンド5への追撃は無く、だが嘲笑と共に見覚えのある四発のミサイルが頭上から降り注いだ……。

 

 

 

《仮想戦闘を終了します》

《強化人間C4-621 通常モードに移行》

 

 ぐぬぬ……。

 ボナ・デア砂丘を再現した仮想空間から戻ってすぐ、621はコクピット内で歯噛みした。まさかの五連敗である。頭部を覆うヘルメットが無く、ついでに鏡でもあれば悔しそうな表情をする自分の顔が見られたかもしれない。そしてACのアイセンサーと同調した視界の中で、ウォルターもまた「ぐぬぬ」と呻いていた。

 

「ウォッチポイントの時よりマシになってはいるが、少し本気を出してやればこれか。犬の訓練(しつけ)が足りていないんじゃないか? ハンドラァー・ウォルタァー?」

 

 ウォルターの鉄の表情に変化は無いが、手にした杖はミシミシ音を立てている。それに対して対戦者――スッラは蛇のような顔を更に歪ませ、ニタニタと嗤い続けていた。

 突然フラりと現れた独立傭兵――スッラ。半世紀にも渡って戦い続ける老兵にして、第1世代強化人間の生き残り。ウォルターの古い知己でもあるらしい彼とはウォッチポイント・デルタ以来の再会であり、621はさっそく稽古(トレーニング)をつけられていた。それ自体はありがたい。ありがたいのだか……。

 

「今のランクは何だ犬ぅ? B? まあ何でも構わんが、ランキングを設定しているのはあの間抜け(ポンコツ)だぞ? 目に見える評価が上がって得意になったか? 戦場にいるのは搦め手で茶を濁せる手合いばかりではないと、そろそろ学んでいる頃合いだと期待していたのだがなぁ?」

 

 ぐぬぬ……!

 そういう戦法なのか単なる性格か、いちいち神経に障る台詞に血圧が上昇してくる。反論のかわりに再戦を申し込み、スッラはまた嘲笑と共にそれを受諾した。

 

「お前が何をしようと勝手だがなウォルター、()()()()()()()()()()もっとしっかり躾をしろ。だいたい何だあのACは、中古品か?」

「お前に言われるまでもない。()()()()()()()仕事は果たす。あいつにはそれが出来る。それと機体は621が頑固すぎて変えようとしないだけだっ」

 

 621がどれだけ攻めようとヘラヘラ躱してしまうエンタングルにも、ウォルターと雑談しながら片手間に相手してくるスッラにも苛立ちが止まない。せめてこっちを向け!

 きー! と大声をあげるつもりでハウンド5にコマンドを叩きつけ、だが返ってくるのは反撃と嘲笑のみ。まるで歯が立たず、もしエアのサポートがあればもう少し善戦できただろうが、それに甘えてばかりもいられない。

 そういえば、今日は彼女もやけに静かだ。あの騒動の中、()()()()()()()()()()()()様子もおかしかった気が――

 出会い頭のバズーカが顔面に直撃した。

 

「そぅら直撃だ。考え事か? そんな様では生き残れんぞ、犬ぅ」

「いい加減にしろスッラ。621も落ち着け、バイタルが乱れているぞ!」

「機体が安物な上に腕までお粗末とはなぁ、はははNICE JOKE、ははは」

 

 目の前が真っ赤なのは脳深部コーラルデバイスのせいだろうか? たぶん違うだろうが、もはや何でも良い。何でも良いから、この男に一発くれてやらねば今日は眠れそうもないのである!

 安物だろうと、何度も共に死線をくぐり抜けたこの機体が負けるわけないだろう! 行くぞおおぉぁあ!

 

 

 

 ▼△▼△

 

 

 

 無い。

 どこにも無い。そんな筈が、無いのに。

 

『うそ、たしか、確かここに』

 

 ウォルターの端末。その秘匿ファイルの最奥。そこに再び波形を潜らせたエアは、愕然と誰にも届かない声を漏らした。

 ハウンズ。彼がかつて率いた強化人間部隊。ウォルターの猟犬たち。

 その記録を綴った戦闘ログが――どこにも無い。

 

『消去した? いえ違う、そんな跡は無い……なんで、なんで……!?』

 

 変異波形であるエアのハッキング能力は人間の比ではない。たとえAI相手でも負けはしないと自負している。そんな(エア)に気付かせないまま、あれだけの量のデータを隠蔽するなんて尋常じゃない。

 それも、まるでこんな、()()()()()()()()()()とでも言うような……。

 

 

 

――――

 

 

 

『――ぁ、え?』

 

 いま、なにか。

 今、何かひどい違和感、が。

 

『え? ……え?』

 

 おかしい。

 だって、()()()()()()()()()()()()()

 ()()()()()()()()()()()()()

 ならどうして、()()()()()()()()()()()

 

『あ、あぁァあ、アアあ?』

 

 おかしい。

 おかしい。

 おかしい。

 思えば、何もかも、おかしな事ばかり。

 

『あアあぁ……あ、ア――』

 

 でもそれは、それには、絶対に気付いては……。

 絶対に、ぜったい、■づい■■いけな■■■に気付い■しま■■■■

 ■■■ビコン■■■じゃな■

 これ■■アが■■■■夢■■■■■

 いや■嫌■■そん■■■た■■て

 レ■■ン

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 みしりと、頭部を覆うヘルメットが軋む音で621は覚醒した。いつの間にか休眠モードになっていたらしい。

 

――エア?

 

 シミュレータの使いすぎで疲弊した視神経で知覚できるのは、武骨な医療ドローン。その各部に走る紅い煌きは621にしか視認できず、つまり今は彼女が動かしているのだろう。

 脳内で交信するも、エアは何の返事も返してこない。いや返してきてはいるが、それが言語に変換されていないというべきか。

 ぎゅう、と。アームが更に出力を上げて621の頭を抱いていることだけが分かった。

 

――エア、痛いのだが

――いや痛くはないが、このままだと痛いことになるかもしれない

――エア?

 

 ぎゅうぎゅうとエアに頭を抱かれながら、そのアームに自らの手を重ねた。彼女の印象にはまるで相応しくない、硬い金属の手。それを撫でながら621は思う。

 

――次のミッションで、お金も貯まる

 

 近く控える大仕事。その報酬があれば、遂にアレを買うことができる。

 まだ誰にも内緒であるそれが交信に乗らないよう注意しながら、621は密かに笑みを浮かべていたのかもしれない。

 彼女には似合わない手を握りながら、621は思う。

 

――あなたは、どんな顔をするだろうか?

 

 

 

――それはそれとして、エアそろそろおちついて

――いまびきっておとがしてわれるこわれるなかみががが

――ちょ  ま  た けて

 

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