エアコア・ドリーム   作:甲乙

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継承

 

 雨の降る中で、621はひとり佇んでいた。

 佇む。そう、自身の両脚でしっかりと立っていた。手術前の記憶を失くしている621にとっては初めての経験で、まるで二脚型ACのようだなと、真逆のことを考える。視線を下ろし、両手を上げれば濡れた掌が。保護材を巻かれていないそれには、ちゃんと十本の指が揃っていた。

 

――ここは、何処だ?

 

 最初の困惑が収まれば次の疑問が湧いてくる。ルビコンに似ているようにも見えるが、どうもルビコンではなさそうだ。雑草すらまともに生えていない地面と、寒々しい雨空。ルビコンとはまた違う、荒れた地だと思った。

 

 621

 

 やおら背後から呼ばれた名前に振り返る。621の事をそう呼ぶ人物は一人しかおらず、故に安堵と共になんの躊躇いもなく一歩を踏み出そうとし、だがそこにいたのは「彼」ではなかった。

 

――誰だ……?

 

 まるで見覚えのない人物だった。だが年齢というものを感じさせない、どこか非人間的な雰囲気に既視感を覚える。

 強化人間。それも旧世代型の。

 

 起きろ、621

 

 既に起きているというのに、起きろとその人は言う。窘めるような響きには有無を言わせない柔らかな圧があり、もし621に兄か姉がいればこのような声だったかもしれない。何の根拠もなく、そう思った。

 答えることも頷くこともできずにいると、その人物は静かに踵を返す。向かう先には、更に三つの人影が。

 

 与えられた意味を忘れてはいけない

 ハンドラーが待っている

 さあ、もう行け

 

 最後にもう一度だけ振り返ったその瞳、それは何度も見た「彼」の深い瞳と同じ光をしていて。その瞳と621は、声もなく会話をした。

 忘れたことなどない。

 あの時、あの人に与えられた意味。そして、初めて聞いたその言葉を。

 あの時、あの人は、たしかそう――

 

 621、仕事の時間だ

 

 

 

 

 

 

 強化人間の覚醒は早い。特に脳深部デバイスを埋め込まれた旧世代型はそれが顕著で、故にまず621の視界にはウォルターの顔がしっかりと映っていた。

 

――ウォ

「ぅ……ぉ?」

「! 気が付いたか、621……」

 

 久しぶり……でもないが、ウォルターの顔は何歳か老けこんだようにすら見えた。深い瞳には安堵の色をはっきりと浮かべ、ひどく冷えるコクピットの中で額の汗を拭う。

 シートに横たわる621の体には彼の上着がかけられ、ずり落ちそうなそれを首元まで戻された。

 

「どこか悪いところは……問題はないか?」

《脳深部デバイス、各種バイタル共に問題はありません》

《強化人間C4-621 通常モードに移行》

「よし……」

 

 621の代わりにCOMが答えた。ようやく落ち着いて視線を周囲に向ければ、狭苦しいコクピットの中に見慣れない機材や薬品らしき物が散乱していた。

 コクピット。そう、コクピットだ。

 

――なぜ、ここにウォルターが?

「な……ん」

 

 デバイスは正常だそうだが、いつものようにメッセージが思考入力できない。その代わりというには不明瞭に過ぎる音声が漏れるが、まさかこれが自分(621)の声なのだろうか。

 621が喋ったことに驚いたのはウォルターも同じだったのか、目を見開く。その表情はどこか少年のようだな、と。何故かそう思った。

 

「まだ意識が混濁しているか……。621、お前は――」

 

 曰く、暴走状態に陥ったアイスワームは大量のコーラルを撒き散らし、おそらくそれが脳のデバイスに悪影響を与えた。攻撃を受けたハウンド5も中破し、621からの応答も途絶えた。だから彼はこうして、コクピットの中で621の蘇生を試みていたのだと。

 ……ちょっと待ってほしい。

 

――まだ作戦中なのでは?

「ま、だ……」

 

 つまり何だ? ウォルターは? まだアイスワームが暴れ回っているこの状況で? ヘリから降りて? A()C()()()()()()()()()()()()と?

 ……。

 

――馬鹿じゃないのか!?

「ば……か……っ」

「……返す言葉も無いな」

 

 自覚はあったらしい。いや自覚があるならもっと馬鹿だが、少しずつしか喋られない身がもどかしい。今この時ほどまともな声帯が欲しくなった事があっただろうか。

 こんな時、エアがいてくれれば……。

 

――エア……?

 

 だが彼女は一向に返事をしてくれず、それどころか常に傍にあった気配すら感じられない。放出されたコーラルのせいで何かあったのだろうか? ならば尚のこと早くアイスワームを止めなければ!

 だというのに、ウォルターからは戦う意思が感じられなかった。

 

「一時はどうなる事かと……621、()()()()()()()

「――――」

 

 その瞬間、己の内で沸き上がった衝動を言語化する術を621は持たなかった。正常な声帯も、人並みの感情も失っているのだから。いや、それらがあったとしても同じだったかもしれない。

 それでも、だからこそ、621は彼の腕を掴んだ。

 

()……」

「っ、ま……だ……!」

 

 まだだ。まだ何も終わっていないではないか。だってこの仕事(ミッション)の目標はアイスワームの撃破で、まだアイスワームは止まっていないではないか。

 ランチャーは失くしてしまったが、もうシールドは無いのだろう? なら倒せるのだろう? なら私が、私たちがここで休んでいる理由など無いではないか。

 仕事はまだ、終わっていないではないか!

 

「621……」

 

 不良品そのものな声帯では半分も伝わらなかっただろう。それでもウォルターは621の話を遮ることはせず、だが聞き入れることもしてはくれなかった。

 

「……お前がやらなくても、他の奴らでやるさ。優先順位をはき違えるな。俺達の仕事はコーラルを手に入れることだ。化物退治じゃない」

 

 きっと彼の理屈が正しいのだろう。アイスワームの撃破は手段であって目的ではない。今ここで621が出張らずとも、他の者たちで倒せるかもしれない。傭兵としての名前も充分すぎる程に売った。今更ひとつの失敗で評価が地に落ちる訳でもなく、これからも企業は621を使おうとするだろう。

 きっと彼が正しい。そして621の懸念も。

 

――ウォルター、()()()()()()()

 

 彼の鉄の表情が、かつてない程に崩れた。

 

 

 

 きっと、彼は恐れている。

 自身の猟犬を、621を失うことを。

 自惚れでも何でもなく確信している。

 きっと彼は621をひどく大切に思っていて、それは「家族」と呼べるような何かなのだろうと。

 あぁ、素晴らしい。

 まるで夢のよう。

 皮肉でも何でもなく、本心からそう思い、そして621自身もそう願わずにはいられない。

 ()()()()()()()()()()

 

 

 

――私は、あなたの猟犬だ

――あなたがそう言って、そう意味を与えた

――私は猟犬だ

――あなたの息子でも娘でもない

――今はまだ

 

 夢のような未来を得るのは、未来の話だ。

 なら今は、飼い主と猟犬に戻ろう。

 あなたと出会った、あの時のように。

 

――私は、()()()なのだろう?

 

レイヴン(Raven)

 意思の表象。その資格と称号。

 ブランチは、私にレイヴンの資格は無いと言った。

 エアは、私にレイヴンであってほしいと言った。

 そして私は、レイヴンの名前を自ら返そう。

 だから、だから。

 

――命令しろ、()()()()()

 

 

 

 

 

 

 ▼△▼△

 

 

 

 バズーカ、グレネード、ミサイル。リロードを挟んでバズーカ、グレネード、ミサイル。グレネードはこれで弾切れ。

 倒れ伏すアイスワームの顔面に全兵装を撃ち込みながら、チャティは思考に走るノイズを検知していた。

 

「これは、やはり厳しいか……フ、」

 

 音声に無意味な呼気が出力される。タンクACとしては軽装なサーカスではアイスワームを倒し切れないこの状況、「笑えない」はずなのに笑えてくる。これは本当に(ボス)の言う「笑い」なのか。それとも、こんな思考自体が何らかのバグなのか。バズーカも弾切れした。

 

「! チャティ、離れな!」

 

 ギョロリと、アイスワームが最後の破砕機でチャティを睨む。化け物が遂に動き出したのだ。そしてサーカスにはまともな武装が残っておらず、アイスワームの頭部に再びコーラルの盾が形成され始めていた。

 

「シールドを再展開してやがる……ここまで来てっ!」

 

 レールキャノンは砲身が焼き切れ、もうシールドを破る手段は無い。ミサイルもほぼ撃ち尽くし、火力を失ったサーカスにはシールドの形成を止める手段も無い。つまり詰みだ。

 やはりどう考えても、これは笑えな――

 

 一発の銃弾が、アイスワームの眼窩に突き刺さった。

 

 痛みに悶えるようにのたうつアイスワーム。レーダーに新たな反応。友軍。AC。時間と共に期待値を下げていた不確定要素の登場に、チャティは演算速度の向上を感知した。

 

「待ちわびたぞ、ビジ……」

「よくやってくれた、チャティ・スティック」

「……タ?」

 

 聴覚センサーにバグ。いやバグだろうか? ビジター(C4-621)はこんな声をしていたか? いやそもそも発声できないのではなかったか?

 そもそも、今の声は知っている。記録にある。ハンドラー・ウォルターの声紋と一致している。なら何故、()()()()()()()()()()()()()()

 

「――は、ハ……ハハは」

「チャティ……?」

 

 事態を理解してすぐ、チャティ・スティックは初めて「笑った」

 そしてそれらを理解した(ボス)も、もっと大きな声で笑ってくれたのだった。

 

 

 

 ▼△▼△

 

 

 

 ベイラムの大型ヘリ、その中の管制室では目まぐるしく変わる戦況が映し出されていた。

 レールキャノンのリミッターを解除するという荒業でアイスワームを追い詰めたが、AC部隊はほぼ全滅。唯一の戦力となったサーカスでは火力が不足し、アイスワームは再起動。作戦の続行は不可能と判断されそうになった時、その反応は現れたのだ。

 

「ACが一機! 識別は、えぇと……ハウンド5!」

 

 オールバニーの不慣れなオペレートを聞きながら、ミシガンは無意識に両手を振り上げていた。やはりあのG13は只者ではない。不吉なナンバーなどものともせずに、この土壇場で這いあがってきやがった!

 

「ようやくお目覚めかG13! 時間もない、さっさと化け物にトドメを刺せッ!」

「待たせたなミシガン。今すぐ行おう」

「……なに?」

 

 通信に答えた声はウォルターの物。それ自体は何らおかしくない。重度の強化人間であるG13には発声機能が無く、今までも意思疎通は代理人であるウォルターを通していたのだから。

 だが何だ、この違和感は?

 

「621、敵が動き出した。迂回するぞ」

「……おい、ハンドラー・ウォルター」

「っ、回避する! 右だ、右から狙い撃て!」

「ウォルター貴様……おまえ、()()()()()()!?」

 

 ノイズまじりの通信と荒い息遣い。前線で指揮を執っていた時も、後方から指揮を執っている時も、常に何度も聞いた声だった。

 

A()C()()()()()? 悪いが戦闘中だ、話は後にしてくれ」

「――…………」

 

 ミシガンは沈黙し、程なくして通信からRaDの女頭目が大笑いする声が漏れ始めた。

「総長のあんな顔は初めて見た」と、オールバニーは後にそう語ったという。

 

 

 

 ▼△▼△

 

 

 

 コクピットの中で621の体がガタガタ震える。それは暴れ始めたアイスワームが氷原を揺らしているせいであり、破損したタンク脚部を無理矢理走らせているハウンド5のせいであり、そしてシートに体を固定していないせいであった。

 何故か? このコクピットは複座式ではないからだ。

 

――「ヘリに戻れ? 何故だ?」

――「お前こそ一人でどうするつもりだ。その体で手動操縦は無理だろう」

――「心配するな、俺はお前が思っているほどヤワじゃない」

――「それに、言っていなかったが……実は俺もACには乗れる」

 

 そんなやり取りがあったのがほんの数分前。そして今はウォルターと二人がかりで機体を操縦していた。

 

「追ってきている! 速度を上げろ!」

「ぐ、ん……!」

 

 だが621ではまともに操縦桿を動かすことは出来ず、脚を悪くしているウォルターもペダルを満足に踏み抜けない。故にこうして狭いシートで奮闘している訳だが、以前エアから見せられた「二人羽織り」とかいう遊びに似ているかもしれない。もっとも、これは遊びなどでなく621もウォルターも真剣そのものであったが。

 全体重をかけるようにしてペダルを踏み、ハウンド5の脚部が更に速度を上げた。

 

「ぐぅ……っ!」

 

 すぐ傍のウォルターから噛みしめた呻きが漏れる。強化人間ではなく耐Gスーツも着ていないウォルターにとっては、タンクACの機動ですら相当な負荷だ。そう時間はかけられない。

 リニアライフルのチャージが完了。ウォルターが引き金を弾き、電磁加速された弾丸がアイスワームの顔部に突き刺さる。見事な腕前だが、当然それだけではあの化け物は止められない。火力が足りない!

 突進を辛くも回避して再び間合いを離すハウンド5に、別のタンクACが並走してきた。

 

「援護する、ビジター」

「くっふへへはははあははっ! あっはっはこの少年(キッド)! 良い歳して何やってんだよウォルターはっはっは!」

「……笑うか喋るかどちらかにしろ」

 

 チャティの平坦な声をかき消すカーラの大爆笑。ひーひーと息も絶え絶えになりながらも、ようやく調子を整えて彼女は喋り出した。

 

「ふー……、さて大詰めだ。説明してやる時間は無いから合わせな!」

 

 適当極まりないブリーフィングを終えてサーカスが加速する。殆どの武装をパージした軽量タンクが見せる速度は弾丸のようで、それでいて機動は正確そのもの。

 氷を突き破るアイスワーム。それとすれ違うようにして、サーカスは最後の武装の最後の一発を放った。

 

命中(ヒット)

 

 誇らしげな合成音声。アイスワームの眼窩に突き刺さるクラスタミサイル。内臓されたミサイル全てが誘爆し、即席の花火が氷原に咲いた。

 

「今だよ、ビジター!」

 

 両脚でペダルを踏みつける。氷塵を巻き上げてハウンド5を走らせる。

 

「決めろ、G13!」

 

 頭を地に伏せるアイスワーム。消えかけのコーラル防壁がチカチカ煌いている。

 

「しくじるなよ、野良犬!」

 

 リニアライフルを構える。撃つのではなく、槍のように。彼女が見せてくれた馬上槍のように。

 

「終わらせなさい、駄犬!」

 

 アイスワームと目が合う。殺す殺すと、ただそれだけを嘆いている。

 

「やれ、戦友!」

 

 眼前に迫る巨体。このままぶつかれば、621はもちろんウォルターも――

 

 

行け(いくぞ)、621!」

 

 

 が、き、いぃん。

 氷を震わせる金属音。フレームがひしゃげる音。誰かの骨が割れる音。

 コアの重装甲を通してもその衝撃は凄まじく、だが最後まで621とウォルターを守ってくれた。

 動き出すアイスワーム。その頭を押さえるハウンド5。履帯が巻き上げた氷塵を、アサルトブーストの炎が焼き熔かしていった。

 壊れかけの操縦桿を二人で握る。ハウンド5も折れかけの右腕で、ライフルを。

 

 

 恐れるな、621

 

 

 ライフルを、アイスワームの眼窩に捻じ込む。

 声もなく叫び、叫びのままトリガーを弾いた。

 火花と共に耳を劈く金属音。砕け散り焼け落ちていく断末魔。

 遠吠えが聞こえた。

 そして、最後の一発を。

 

 

――()()

 

 

 バチリ、と。

 リニアライフルの銃身が紅い煌きを纏わせた。

 

 

 

『――レイヴン!』

 

 

 

 最後のトリガーは誰が弾いたのか。

 爆散する銃身を飛び出した弾丸が、流星のようにアイスワームを貫き。

 

 

 

 ――――――

 

 

 

 巨蟲が、(そら)を仰ぐようにして頭を擡げる。

 そうして、そのまま動かなくなった。

 

 

 

 ▼△▼△

 

 

 

『目標、システムダウン。……ミッション、完了です』

 

 コクピット内は燦々たる有様だった。いつにも増してボロボロなレイヴンと、そして同じぐらいボロボロになったウォルターが、何故かシート上でぐったりとしている。エアが意識を失くしている間にいったい何がどうなってこのような事になったのか、是非とも問い詰めたい。特にウォルターに。

 

『レイヴン、レイヴン返事を……いえ、えぇと、そうだ救難信号を……っ』

 

 上手く働かない波形(あたま)でモタモタとシステムに侵入して緊急ビーコンを発信。すぐに通信要請がいくつも鳴り響いて、でもその前に聞き慣れた声が交信に乗った。

 

――……エア

『! レイヴン起きましたか怪我は!? どうしてウォルターが乗っているのですか何て無茶を!』

 

 もしエアに体があればレイヴンの体をガクガク揺さぶっていただろう。実際にレイヴンの体はガクガク揺れてはいたが、それはエアの交信が激しすぎただけかもしれない。

 寝起きの人に対する仕打ちではないけれど、無茶は無茶なのだから仕方ない。目覚めた瞬間、咄嗟にリニアライフルのリミッターを解除できたことは今思っても奇跡のようなもの。そもそも、なぜ自分(エア)は意識を失くしていたのだったか。

 確かそう、アイスワームから噴き出した大量のコーラルが――

 

「っ、……む……、大丈夫か、621……」

 

 ウォルターも目覚めたようだった。でもまず彼本人が大丈夫には見えない。頭を打ったのか、額からも血が流れている。

 

「ぁだぃ……ぞぶ」

「そうか……」

『……レイヴン?』

 

 今のはもしかしてもしかしなくてもレイヴンの肉声(こえ)だろうか? いつの間に喋られるようになったのか? いや声質が不明瞭すぎて喋られる内には入らないかもしれないけれど、というか何故ウォルターにばかり!

 ぎりぎりと歯噛みするつもりでいるエアの前で、通信要請に気付いたウォルターが回線を繋げる。

 

「さすがだな戦友、君ならやってくれると信じていた」

「よくやったG13! そこにいる小僧にも伝えておけ、大馬鹿野郎となッ!」

「久々に面白いものを見せてもらったよ、本当に笑えるねビジター」

「けっ、野良犬も一緒にくたばれば清々したのによ」

「まあ結果さえ出したなら良しとしましょう。駄犬にしては上出来です」

 

 やいのやいのと一気に騒がしくなるコクピット内。通信を切断しようかとも思ったけれど、ウォルターのいつになく晴れやかな表情にそれも出来なくなる。そうこうしている内に、何機かのACがハウンド5の周りに集まってきていた。

 

「終わりか? なら()るぞレイヴン。今なら感度も良さそうだ」

「やるじゃねえか、俺も一発ぐらい撃て(かませ)ば良かったぜ」

「派手な花火だったぞビジター、実に笑えた。……フ、ふ」

 

 AIである筈のチャティを皮切りに、次々と皆が笑い出す。凄惨な戦痕が残る氷原で、皆がボロボロの機体に乗りながらも朗らかに笑っていた。皆で掴んだ、勝利だったから。

 

『――フ、ふふ』

 

 エアも、「笑い」というものは理解しているつもりだ。可笑しい時、嬉しい時に人は笑顔を見せ、そして笑うのだと。

 エアのそれはきっと真似事に過ぎないのだとしても、それでも今は。

 

「……っ、……っ」

 

 レイヴンの体が小刻みに揺れている。

 あぁ、この人もきっと。

 

『は、アはは……っ』

 

 この人もきっと、この勝利を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『は――――』

 

 紅い火が、すべての機体を焼き払った。

 

『え』

 

 燃えていく。燃えていく。

 ロックスミスも、キャノンヘッドもサーカスも。ヘッドブリンガー、オープンフェイス、スティールヘイズまで。

 紅いコーラルの火を噴き出して、ボロボロと焼け崩れていく。

 

『なん、で』

『なんで?』

 

 声が、した。

 聞き慣れたその声は、でもエア自身が聞く筈もない声で。

 

『そんなこと、分かっているでしょう?』

 

 その声は、アイスワームから。全ての目を潰された巨蟲の残骸(しがい)が、エアをじっと見下ろしている。

 見下ろして、エアと同じ声で。

 

『だって』

 

 火が。火が!

 みんな焼けてしまう! みんな燃えてしまう!

 なんで! どうして!

 こんなの、まるで――

 

『すべては幻なのだから』

 

 

 

 (Dream)が焼け落ち、現実(Real)が燃え落ちる。

 紅いコーラルの火に包まれて、エアは全てを思い出そうとしていた。

 

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