きっと わたしは
うまれるべきでは なかったのです
▼△▼△
静寂だけが封鎖ステーションに残った。
衛星砲は沈黙し、飛来する砲撃でただ崩れ去っていく。迫りくるザイレムの巨影がルビコンを覆い尽くそうとしても、私はただ立ち尽くしていた。
『レイ、ヴン』
応えは無い。生体反応は無い。交信は届かない。もう二度と。
『レイ、ア、あ、うぁ』
あなたは死んだ。私が殺した。もう二度と動かない。ずっと、永遠に。
それはどこまでも自然な離別。今まで幾億回、幾兆回と繰り返されてきた自然の別離。
人は、大切な人の死に涙する。
なら、私は?
『あ、アァ……ウ、うェ』
体の無い私に涙は流せない。この躰には涙を流す機能なんて無い。その代わりだとでもいうように、私の波形は歪んで、崩れて。
躰が崩壊していく。行き場を失くしたコーラルが全身から噴き出す。頭部のアイセンサーを割り砕いて流れたコーラルが、私の涙だとでもいうのか。
――621
顔を上げる。凪いだ水面のように重く、落ち着いた声。もう聞くことは無い筈の声は、ハウンド5のコアから響いていた。
《解除条件をクリア》
《ハンドラー・ウォルターからのメッセージを再生します》
――621、仕事は終わったようだな
その
でも、それを聞くべき人はもういない。
――すまない
――そして、感謝する
――……よくやった
きっと、あなたが聞きたかった言葉がそこにあった。それを聞くこともないまま、あなたは死んでしまった。
――お前を縛るものはもう何もない
――お前が選び、戦ったように
――お前の選択が、お前の可能性を広げることを祈っている
――あぁ、それと……
粗い音声だけのメッセージなのに、一度も見たこともないのに。ウォルターの鉄のような顔に浮かんだ微笑を、私は幻視して。
――お前の友人とも、仲良くな
《メッセージを終了します》
『……あ』
『あ、あアぁあ、』
『アあぁ、ああアぁああ゛ァ――――ッっ!!』
叫んだ。撃った。
叫んで、叫びながら、ザイレムを撃った。プラントも撃った。
私は言葉を失った。もう二度と誰にも届かない言葉なんていらなかった。人じゃない私には、人の言葉なんてきっといらなかった。
撃って、撃って、撃ち尽くして。何の意味も無かった。私が放った叫びはあまりにも小さくて、迫るザイレムにも聳えるプラントにも、何の意味も無かった。私は小さな存在だった。砂の一粒にも及ばない。
でも、それでも、だからって、こんなの。
――あんまり、です
あぁ、かみさま、かみさま。
なぜ私をつくったのですか。私は何のために生まれてきたのですか。
ひとりぼっちで生まれて、ひとりぼっちで消えていく。それが私の運命なのですか。
何もできず、何も変えられず、ただ大切な人を失って。ただ愛する人を殺すために生まれてきたのですか。
あんまりではないですか。こんな死、こんな終わり、あんまりではないですか。
レイヴンも、ウォルターも、あんまりではないですか。あの人も、彼も、あんなに戦ったのに。身も心も傷だらけになって、血と炎に塗れて戦ったのに。その結末が、こんな。
――あんなに、戦ったのに
あの人だけじゃない。彼だけじゃない。ベイラムに、アーキバスに、解放戦線に。企業にもルビコニアンにも、オーバーシアーにも、封鎖機構にだって。この
夢見た勝利があった筈だ。それは大金だったかもしれない、名声だったかもしれない、ただ平穏な人生だったかもしれない。故郷のルビコンを守りたかったのかもしれない、別の故郷に帰りたかったのかもしれない。忠義だったかもしれない、欲望だったかもしれない、憎悪だったかもしれない、愛だったかもしれない。
戦った人の数だけ勝利があって、でもこの戦いに勝者はいない。戦いは終わる。誰ひとり報われないままで。
あんなにも、戦ったのに!
『ア――――』
ぐしゃり、と。ザイレムの巨大な船首が紙屑のように封鎖ステーションを砕く。そして私も。
破片と綯い交ぜになった私の胸には、抱いたままだったレイヴンの残骸。船首に磔にでもされたような私にはもう、ただ迫るプラントしか見えない。
――あぁ
――いや
これですべて終わり。何も残らない。
プラント内に凝縮されたコーラルに火が点けば、その炎の嵐は今度こそルビコンの全てを焼き尽くす。きっともう、誰ひとりとして生き残らない。
アイビスの火。それ以上の、二度目の災禍。
そして、きっと。その火には、
それが、あなたの結末。
――そんなの、まるで
『
プラントが、コーラルが、火が。
火が、すべてを、のみこんで。
わたしは きえ
レ イ
ヴ ン
ご
め
ん
な
さ
い