エアコア・ドリーム   作:甲乙

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【--】Day After Day
戦い続けるこの夢を


 

 私は何を間違ったのだろう。

 私はどうすれば良かったのだろう。

 

 このルビコンが、もう少しだけ優しい世界で。

 ここで生き、戦い、死んでいった人たちがもう少しだけ馬鹿で、優しければ。

 私に、もう少しだけ勇気があれば。

 こんな事には、ならなかったのだろうか。

 

 答えなんて無い。

 もしもなんて無い。

 すべては終わって、灰になって消えてしまった。

 

 でも、それでも。

 もしも。

 すべてが、夢であったなら。

 

 ……いいえ、 

 

 夢じゃなかったら、良かったのに。

 

 

 

――――――――……

 

 

 

――――――……

 

 

 

 

――――……

 

 

 

 

――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――しはどうだ、62――」

 

 こえ。

 

「そ――か、だが無理はするな」

 

 きこえるのは、声。

 

「幻聴――、――のような旧世代型にはよくある症状だ。その内に治まるだろう」

 

 聞きなれた、懐かしい声。凪いだ水面のような。

 ふわふわと、視界が揺れる。空よりも低い鉄の天井。鳴り響く鉄の音。

 

「それと、バイタルにもよく気を配っておけ。医療ドローンの使い方は覚えているな?」

 

 くるりと視界を回す。まず何よりも目に入ったのは、鉄の巨人。鉄色の見慣れたアーマード・コア。

 そして鉄の床に立つ一人の男性。手に握った杖。鉄のような顔。深い瞳。

 

『……ウォル、ター?』

 

 思わず発した私の声に男性――ハンドラー・ウォルターは反応しない。彼に私の声は届いていない。届いたのは、届いていたのは。

 ぴくりと動く指先。開け放ったままのコクピット、そのシートに寝そべる人型。全身を覆う保護材。頭部を覆い隠すヘルメット。

 

『え――、え?』

 

 私が、その姿を見間違える筈はない。もし仮に、同じ姿の強化人間が百人並んでいたとしても探し当てる自信がある。

 だから、疑問に思ったのはまったく別のこと。

 

『どうして……、私、みんなは、もう』

 

 はっきりと覚えている。ついさっきの事のようにも、遠い過去のようにも感じてはいても、はっきりと。

 だったら何故。どうして。こんな事ありえない。

 あぁ、でも。

 そんな事は、もう。

 

『――――レイヴンっ!』

 

 全身で抱きつくような、そんな感覚(イメージ)で交信を叩きつける。触れることなんて出来ないはずの体が、びくりと跳ねた。

 あぁ、あぁ!

 その反応も、その動きも、すべてが記憶の中のままで!

 

『あぁっ! レイヴン! レイヴンです、あぁ……!』

「621どうした!? バイタルがおかしいぞ!」

 

 レイヴン。ねえレイヴン。

 私はもう、ドーザー達に何も言えません。彼らがコーラルを摂取し(キメ)ている時はきっと、このような感覚なのでしょう。こんなの、もう我慢なんてできない。

 

『もう離れません……! 放しませんから!』

「また何か聞こえるのか!? それは幻聴だ、耳を貸すな!」

 

 何故、あなたが生きているのか。ウォルターも、私もここにいるのか。時間までもが巻き戻ったような、そんな非現実。

 でもそんな事はどうだっていい。そんな物、この幸せに比べれば濾過されたプーです、プー。

 

【ろ濾過されたぷプーがおんなのひひと何かいってこわわい】

「もういい休めっ! 休むんだ621! 野暮用は後にする!」

 

《強化人間C4-621 強制休眠モードに移行》

 

『レイヴン! ……レイヴン? ……ダメですよ、今日はもう寝かせませんから!』

「落ち着け621! 大丈夫だ俺はここにいるぞ!」

 

 

 

『レイヴン――!』

「621――!」

 

 

 

 

 

 

――――――――……

 

 

 

――――――……

 

 

 

――――……

 

 

 

――

 

 

 

 

 

 

『レイヴン、レイヴン』

『ウォルターは忙しいようですね、今日は何をしましょうか』

『ミッションに行きますか? アリーナにしますか? それとも、私とお話しましょうか?』

 

 

『レイヴン、あなたにはもっと知ってほしいのです』

『ルビコンのこと、コーラルのこと、そしてもちろん、私のことを』

『何でも聞いてください。私が、何でもお答えしますから』

 

 

『えぇ、コーラルは私の同胞です』

『コーラルは生きています。あなたや私と同じで、生きているのですよ』

『――同じ、だから。共生は、きっと難しいことですけれど』

 

 

『レイヴン、それでも私は』

『私は、ずっとあなたと共にありたい』

『それが、どのような形でも』

 

 

『その為なら、私は何でもやります』

『何でも、何だって出来る』

『そう、決めたのですから』

 

 

『人の言葉で、これは、そう』

 

 

『愛』

『愛していますよ……レイヴン』

『あなたも、そうだと、嬉しいです』

 

 

『“はい”ではなくて、“愛している”と、そう言ってください。言いなさい』

『……』

『あぁ……嬉しい……』

 

 

『まるで――夢のようですね、レイヴン』

 

 

 

 

 

 

――――――――……

 

 

 

――――――……

 

 

 

――――……

 

 

 

――

 

 

 

 

 

 

 がしゃり、がしゃり。

 ルビコンの白く冷えた大地を、鉄の脚が踏みしめる。散乱する瓦礫と残骸を踏み抜かないよう注意しながら機体を歩ませ、ゆっくりと屈ませた。

 それと同時に、彼女の声が響く。

 

『――遠方で熱源反応。戦闘のようです』

 

 大荷物を背負ったACを屈ませることは想像以上に難しい。悲鳴をあげるACSを宥めつつ、なんとか目的のジャンクを拾い上げることに成功した。立ち上がれば背中のコンテナが軋む。今日の成果は上々でも、すこし欲張り過ぎたかもしれない。

 

『あの程度なら、あなたが出るまでもないでしょう。逃げるが勝ちですね』

 

 頷いてから、機体の踵も返す。遠くの戦火に背を向けて、また機体を歩かせた。

 

 

 

 がしゃり、がしゃり。

 大荷物を担いだACが大地を歩く。一仕事おえた機体が休ませろとエラーを吐いて、もう少し頑張れとそれをキャンセルする。そんな事を何度か繰り返して。

 ……ルビコンの白い大地の中で、鉄の巨人が立往生した。

 

『……すこし、無理をさせすぎましたか』

 

 彼女のダメージコントロールも限界だったか、フレーム各所に紅い煌きが何度か走った後も機体はうんともすんとも言わない。徹底抗戦の構えだった。

 はあ、と。聞き慣れた溜息が聞こえる。機体を再起動することは諦め、救援を呼んでくれたらしい。救難信号がチカチカと頭部で光り出した。

 

『今から迎えに来てくれるそうです。それまでは待機ですね』

 

 レーダーとスキャナーだけを残して機体の動力を落とす。鮮明さを失くした視界の中で、紅い光だけが舞っていた。

 さて、こうなるともう何もする事がない。そして、こういった時は決まって……。

 

『では、それまで私とお話しましょうか!』

 

 ……まさか、これの為にわざと機体を止めているのでは? 最近そんな疑念が頭を過るのだが、さすがに考えすぎだろう。そう思いたい。

 ピカピカキラキラ。視界の全てで煌く彼女に苦笑したつもりで、聞く姿勢をとる。

 

『ではまず、』

《敵性ACの接近を確認》

『……』

 

 ざわり、と。周囲の温度が下がった気がする。完全に彼女の機嫌が損なわれた気配だった。ひどい話だ、機体も震えが止まらない。

 

『――さっさと終わらせましょう』

 

 平坦な声と共に機体が再起動し、背中のコンテナをパージ。コンテナ側面にマウントしていた武器を装備して戦闘準備に専念する。疑念が正しかったという事実から必死で目を逸らしたかったとも言う。

 げんなりした気分で敵を待ち、そして結局は彼女が話の続きを始めた。

 もう何度も聞き、そしてこれからも聞き続けるであろう、彼女の夢の話を。

 

 

 

『私には、夢があるのです』

『ずっと前に見た、あの夢の続き』

『それを見ることは、もうできなくても』

 

 

『それでも、私は諦めたくない』

 

 

『だから、戦います』

『欲しい物は手に入れます。邪魔する者は排除します』

『それが、きっとこの世界の摂理(ルール)で、そして』

『今の(エア)を形作る(コア)は、この夢だから』

 

 

『……』

『えぇ、そうですね、今は』

『いまは、戦いましょう』

 

 

『これからもずっと、ずっと』

『私が、あなたをサポート……いえ』

 

 

『私も、共に戦います――――レイヴン』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


ARMORED CORE Ⅵ

AYRE CORE DREAM


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『メインシステム、戦闘モード起動!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




これからもずっと(Day After Day)
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